登山中の遭難事故について
遭難事故の原因
遭難事故の原因ですが、一番多いのが道迷いです。登山道から外れてしまったのに気づかずどんどん降ってしまってから道迷いに初めて気づき、その時には登り返す体力もなくなり、どうしようもなくなってしまうパターンが多いです。山菜やきのこ取りで現在地がわからなくなってしまうパターンもあります。そのほかは、登山中の持病の悪化や転倒しての骨折など、急病や怪我になってしまって、自力では下山できなくなってしまうパターンがあります。どのパターンも基本的には確認不足や不注意で発生しており、事前の準備である程度遭難する事は予防することができます。
遭難事故の傾向
高齢者の登山ブームの影響か、遭難事故の発生件数は全国的に増加傾向にあります。特に高齢者と若者で増加傾向があります。仕事を引退してから登山を始めた高齢者の方は奥さんと2人での登山や同じ境遇で集まった初心者グループが多く、ベテラン登山者がいない傾向があります。そのため小さなトラブルに対応できず、ズルズルと遭難してしまう場合があります。逆に若者の遭難の傾向はソロ登山(単独)での遭難が多い傾向があり、経験不足や装備不足、無茶なスケジュールによって遭難してしまう事があります。
遭難してしまったら
道迷いで遭難してしまったら基本的には元来た道を登り返すのが最善です。下ると必ず沢にぶつかります。さらに沢を下ると滝にぶつかりますので、そこで身動きが取れなくなってしまいます。対処法としてはとにかく頂上を目指す事。無理であればその場を動かずツェルト等で1泊するなど体力の温存に努めましょう。朝になってよく見たら登山道の近くだった!なんてことはよくあります。まずは冷静になって自分が置かれた状況を確認しましょう。急病や怪我の場合はどうしようもありませんが、自分の現在地をしっかり把握しておくと救助隊から発見されやすくなります。
ソロ登山は危険か安全か?
遭難を議論する時、単独行は危険である。という声が必ずあります。単独行は助けを求める仲間がいないので危険と思われがちですが、大勢のパーティで登山した場合、リーダーが明確に決まっていなければ「声が大きい人」や「偉そうな人」がなんとなくリーダー的な役割になってしまい烏合の衆となる危険があります。ソロ登山であれば頼るのは自分のみ!と覚悟ができるのでソロならではのメリットもあります。そもそもメジャーな登山道では必ずと言っていいほど前と後ろに登山者がいますので1時間も待てば助けを求められます。(もちろん自己完結がベストです)
山岳救助隊の活動
山岳遭難における「救助」を担当
山岳救助隊は山岳遭難における救助「のみ」を担当します。救助というのは急病人やケガ人の救護になります。警察で組織される山岳警備隊と違って登山道の整備や安全啓蒙活動などは基本的に業務外になります。遭難者からの通報により出動し、遭難者を発見、救助して場合によっては町の病院まで搬送するのが活動になります。なので消防署としては山岳救助も自宅の2階から下ろすのも意味合いは同じ救助となります。
隊員は地元の消防職員
山岳救助隊の隊員は地元の消防本部で勤務している消防官になります。さらにその中で選抜された、レスキュー隊や救急救命士などのスペシャリストが山岳救助隊の隊員となります。普段は通常の救助や救急の業務を行い、山岳遭難が発生した際には山岳救助隊を編成して救助に当たります。大きな山岳地帯を持つ長野や富山の消防署では訓練や実際の活動が頻繁になされていますが、山のない地域では活動をあまり行わない消防署もあるようです。
山岳救助隊の仕事内容
要救助者の救助が主な仕事
山岳救助隊の仕事内容な上で書いた通り、遭難者の救助が基本的な仕事になります。遭難者やその家族から通報があればすぐに大きな消防署へ集合し準備を整えて山へ向かいます。救助中は常に大声で呼びかけて遭難者を探します。遭難者のいる場所によっては岸壁のクライミングを行わなければいけませんし、冬であれば冬季登攀の技術が必要とされますので大変危険な活動を行う場合もあります。また、地上からだけではなく、防災ヘリコプターを使用して空からの遭難者の発見救助を目指す場合もあります。遭難事案が発生すれば大勢の消防官を危険に晒すことになりますので、十分に注意しましょう。
山岳救助隊の歴史
山岳救助の歴史は救急・救助から始まった
山岳救助の歴史ですが、そもそも山岳救助は消防の仕事ではありませんでした。なぜなら消防は基本的に火災に対応するために組織されており、救助・救急活動は消防の任務ではありませんでした。しかし時代の流れとともに一部の自治体が自発的に救急業務を行う様になってきました。それを受けて1963年に救急業務が法令化されて消防署は、救急業務の一部として山岳救助を行う事となりました。山岳救助の歴史は救急・救助の歴史とともに始まりました。
山岳警備隊の歴史
地域の安全を守る
警察官で構成される山岳警備隊の歴史ですが、時期は消防の山岳救助隊の歴史と同じ様な経緯を辿っています。1960年頃に、群馬県警・岐阜県警・長野県警・富山県警で自発的な業務として開始されました。警察官は病人やケガ人等の救護を求めている人を保護する義務があります。その解釈によって場所は違えど、山岳での遭難者も街と同じように保護するように扱われることになりました。
山岳救助隊になるには
まずは消防官になる
山岳救助隊の隊員は消防官となります。まずは消防官になるには公務員試験に合格して消防官にならなくていけません。地方公務員試験に合格して消防官になってもいきなり山岳救助隊になることはありません。まずは消火業務や救急業務をこなし、一定の技量の身に着けたうえでレスキュー隊になります。さらに山岳救助隊になるにはレスキュー隊の中で山岳に関する知識や技術を身に着けて晴れて救助隊になる事が出来ます。
必要とされる要件
山岳救助に必要な資質ですが、まずは遭難者のいる場所まで歩いて行きますので体力が必要です。遭難者は普通の登山道にいるとは限りませんので、強靭な体力が必要です。山岳救助隊は数名~十数名の隊員で構成されますのでチームワークも大事な要件になってきます。さらには山に関する知識が必要です。その山での遭難者の動きの傾向や危険個所など、覚えなくてはならない事はたくさんあります。山岳救助隊に必要とされる要件は強靭な体力、深い知識、チームワークが必要とされます。
必要とされる資格
必要とされる資格は特にありませんが、遭難者を発見した際に、ケガや病気になっていた場合には手当てが必要になりますので、救急救命士や看護師の資格を取得していますと治療行為のスタートを早めることができますので重宝されます。救急救命士や看護師になるには看護学校等を卒業しなくてはなりませんのでかなりの努力が必要です。また、登山ガイドや登攀の経験があれば即戦力として期待されます。
代表的な山岳救助隊
東京消防庁山岳救助隊
東京消防庁は雲取山などの東京都西部にある山岳地域を管轄しています。奥多摩には北アルプスの様な高山帯はありませんが、都心からアクセスしやすいため登山者が非常に多い山域です。登山者の人数が多い分、遭難事故も多く、平成29年には44件の山岳遭難事故が発生しており、全国的に見ても非常に多い件数となっています。東京消防庁では八王子消防署、秋川消防署、奥多摩消防署、青梅消防署の4消防署に山岳救助隊を配置しています。隊員は基本的にレスキュー隊を兼任しています。
長野県消防防災航空隊
長野県消防防災航空隊は山岳救助隊ではありませんが、北アルプスの山岳救助を行うヘリコプターの部隊になります。長野県消防防災航空隊(通称:アルプス)は残念ですが平成29年3月5日に墜落事故を起こし、9名の隊員が亡くなる大惨事となりました。その後長野県では防災ヘリコプターがない状況ではありましたが、平成30年5月に山岳救助以外の活動を再開し、同年9月より山岳救助についても活動が再開されました。
山岳警備隊との違い
山岳警備隊はどんな人
山岳救助隊は消防官が隊員でしたが、山岳警備隊は地元の警察官で構成されます。ですので山岳警備隊になるには警察官にならなくてはいけません。山岳警備隊の隊員は大きな警察署では機動隊、小さな警察署であれば地域課の警察官が山岳警備隊の隊員となります。
山岳警備隊は山のお巡りさん
山岳警備隊は上で説明した様に警察官が隊員です。山岳救助隊が遭難者の救助に特化した組織に対して、山岳警備隊は登山届の受付、山の治安維持や高山植物の違法採取の取り締まりまで山に関する様々な事を業務として活動しています。代表的な山岳警備隊は北アルプス南部を管轄する長野県警山岳遭難救助隊、立山周辺を管轄する富山県警山岳警備隊が有名です。どちらの隊も日本有数の山岳地帯を抱えており、その隊員になるには通常の警察業務に加えロッククライミング等の登山技術が必要になってきます。
レスキュー隊との違い
レスキュー隊は街の救助隊
レスキュー隊(特別救助隊)は各消防署で選抜された救助のスペシャリストです、主な仕事は交通事故での救助や高所での救助活動になります。山岳救助隊との違いですが、基本的にはレスキュー隊は「町」での活動となります。ですが地方の消防署では人員の関係からレスキュー隊と山岳救助隊を兼任している消防官が多くいます。さらに地方では山岳急所隊は人員0人として、救助が必要になった際に編成する消防署もあります。
民間の山岳救助隊とは
地元の山岳会
日本には各地域で山岳会という登山が好きな人が集まった民間組織があります。通常は登山を楽しむ集まりですが、消防や警察からの要請を受けて、山岳救助隊や山岳警備隊を事故が発生している場所まで案内することがあります。民間の組織ですので直接的に救助に関わることは少ないのですが、山岳救助隊のサポートや場所によっては山岳救助隊より地理がわかる場合もあります。山岳会の隊員になるには地域の山岳会に入会して、活発に活動を行った会員が民間の救助隊として委託を受けるケースが多いです。
地元の消防団員
消防団の隊員は平常時は民間企業に勤めている方ですが、火災や遭難に対して活動を行うことがあります。特に多くの人数が必要な大規模の捜索では消防や警察では人手が足りず、地元の消防団に協力を要請する場合があります。消防団員は通常民間企業に勤めていますので、捜索活動を行えば会社を休む事になりますので日当がが発生します。消防と違って遭難者に対して救助費用を請求することが出来るのが民間の救助隊の特徴となります。
山岳救助隊まとめ
山岳救助隊は山岳遭難救助のスペシャリストとして活動します。隊員になるには消防官となり高度な登山の技術を身につけなければなりません。遭難事故が発生した際には消防の山岳救助隊、警察の山岳警備隊、民間の山岳会や消防団が一丸となって遭難者を助けます。登山に行くときは、この事をしっかり頭に置いて楽しく安全な山旅にしましょう。
山岳遭難の原因や対策について気になる人はこちらをチェック!
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