ムツってどんな魚?
一般的に「むつ」というと「本むつ」か「黒むつ」のことを指します。脂っこいの意味の「むつっこい」から来た命名ですが、漢字では「鯥」と書きます。これはもともと想像上の魚の怪物の名前です。翼と蛇の尻尾を持つ牛のような魚だと言われています。
成魚は水深200mから700mに生息している深海魚で、光を取り込むための大きな目が特徴的です。肉食性で甲殻類や小魚を捕食します。稚魚の内は親と離れ浅瀬に棲みますので、「オンシラズ」などと呼ばれたりもします。
「むつ」と呼ばれる魚の違い色々
代表的な種類は5つ
生物学上の「むつ」の仲間は世界に4種しかいませんが、実際には「むつ」と名の付く魚はとても多く、日本の食卓に上ることの多いものだけで5種の「むつ」が確認されています。本むつ、黒むつ、赤むつ、銀むつ、白むつなどです。
この中で「むつ属」のものは本むつと黒むつだけです。後は他の属なのですが、共通していることは「脂っこい」ことです。むつの語源が脂っこいを表す「むつっこい」からきていることから、脂っこい魚に多く「むつ」の名がつけられていますね。
その他の「むつ」
普段食卓には上りませんが、「むつ」と名の付く魚はまだまだたくさんいます。
例えば有明海の固有種「むつごろう」や販売禁止魚の「バラムツ(脂が特殊)」、この後の項目に出てくる赤むつとはまったく関係のない「ハチジョウ赤むつ(フエダイの仲間)」などの他に、淡水魚にも「かわむつ(画像)」や「ぬまむつ」などがいます。日本人にとって「むつ」はとても身近な魚なんです。
代表的な「むつ」の種類①
高級魚「本むつ」
昔深海の「キンメダイ」漁の外道として揚がっていた「本むつ」は、脂っこい料理の苦手な江戸っ子にはあまりウケがよくありませんでした。
しかし食べると美味い魚だと分かると値段はぐんぐん上がり、今では立派な高級魚の仲間入りをしています。どんな料理でも美味しくいただける「むつ」ですが、漁獲量自体が少ないためになかなかお目に掛かれません。
本むつの特徴
本むつと黒むつはとても良く似ています。実際に同じものだとされていた時代もあります。その頃は50cmくらいまでのものを本むつ、それ以上の大きさのものを黒むつとしていました。
しかし分類学上の違いが発見されて今では本むつと黒むつは別物であることが確定しています。しかし現在でも魚屋さんなどでは超高級魚の黒むつとして店頭に並ぶが多いようです。具体的な見分け方は「黒むつ」の項に詳しく記します。
代表的な「むつ」の種類②
超高級魚「黒むつ」
漁を終えて帰港してきた船から水揚げされた「むつ」を選り分けていると、あきらかに体色の濃いむつが混じることがあります。その色は「深紫色」で、こげ茶色のむつより少しシルエットが細い感じがします。それが「黒むつ」です。
昔は同じものの「個体差」であると考えられていましたが、実際に僅かですが「コク」が強くあり、調べてみると同科・同族の別種であることが判明しました。味の良さと希少性からこちらの方が値段も高く、高級魚とされています。
黒むつの特徴
味や見た目がほとんど同じ黒むつと本むつは、体色や歯の数で見分けます。体色の深紫色は本むつの個体によっては「黒褐色」になることもあるので見間違い易いですが、歯は数がきちんと決まっているので間違いようがありません。
黒むつの歯の特徴は、上顎の歯の数の少なさにあります。本むつが13~15本なのに比べ、黒むつの歯は9~12本しかありません。体側線上のウロコの数でも分かりますが、60枚前後あるウロコを数えるのは現実的ではありませんね。
代表的な「むつ」の種類③
超人気魚「赤むつ(のどぐろ)」
日本を代表するテニスプレーヤーが「実家に帰ったら必ず食べます」と言ったあたりから爆発的に人気が上がり、値段がどんと上がったのが「赤むつ」です。通称は「のどぐろ」。のどぐろの煮付けは有名ですよね。
もちろん脂の美味しい魚ですので、お刺身や炙り、塩焼きなどでも上品な甘みが楽しめる魚なのですが、のどぐろの食べ方で一番のおすすめはやはり煮付けです。手に入りましたらぜひお試しください。
赤むつ(のどぐろ)の特徴
のどぐろは赤むつとは呼ばれますが「スズキ目むつ科」の魚ではありません。「スズキ目ホタルジャコ科」の深海魚です。のどぐろの名前の由来であるノドの黒さがあまり大衆受けしなかったことから、旨い高級魚の「むつ」の名前を付けたと思われます。
ところが現在ではその立場は逆転してしまい、超高級魚といわれる黒むつが1kg6000円前後なのに対してのどぐろは1kg10000円を超すこともまれではありません。
代表的な「むつ」の種類④
大衆魚「銀むつ」
銀むつは煮物や西京焼きの材料として店頭によく並ぶ食材です。同じく脂の多い銀ダラと混同されることもありましたが、現在ではそれは無くなりました。
もともと「むつ」とは全く違う種類の「ノトテニア」という魚で、本名を「マジェラン・アイナメ」と言います。南極近くのマゼラン海峡周辺の深海に棲む大型肉食魚で、脂の乗りは良いのですが、本家のむつとは違い大衆魚の扱いになっています。
銀むつの特徴
明けましておめでとうございマジェランアイナメ pic.twitter.com/9xamEyGqi0
— ワッキー (@miyawaki1031) December 31, 2016
現在「銀むつ」の名前は使用できなくなっており、通名を「メロ」と言います。安いアイナメを高く売るために「銀むつ」と名付けられましたが、「むつ」だけでなく「銀ダラ」ともネーミングが似通っていて紛らわしいということで「メロ」に統一されました。
最大のものは238cm、130kgが記録されており、寿命は約50年ほどと考えられています。ちなみに「銀むつ」の名前が禁止されたのは2003年からですので、まだこの名前に愛着のある方もおられるでしょうね。
代表的な「むつ」の種類⑤
あまりお目に掛かれない「白むつ」
愛知県の三河地方で好んで食べられる「白むつ」は、中深場の大ぶりのものが美味しいのですが、関東ではほとんど見かけません。小ぶりのものは塩焼きや唐揚げでいけますが、大きい物は煮付けや刺身で食べて頂きたい魚です。
お値段もお手頃でどんな料理にも合うのですが、いかんせん漁獲量が少なく知名度の低さがお値段に影響しています。旬は冬場ですが、冬の寒風を利用した干物も絶品です。
白むつの特徴
こちらも「むつ」の名前が付いていますがいわゆる「むつ属」にはあたりません。のどぐろと同じく「ホタルジャコ」の仲間になります。大きな目が特徴で、本名を「オオメハタ」と言います。
旬の時期に網で漁獲され、干物に加工されるほか、産地の周辺では活魚として他のオオメハタの仲間(ワキヤハタやナガオオメ)と区別されずに店頭に並びます。皮目に旨味のある美味しい魚です。
むつの美味しい食べ方①
とろりと美味い「煮付け」
むつの食べ方については本来のむつである「本むつ」と「黒むつ」に限って紹介させて頂きますが、むつはとにかく「煮付け」が絶品です。
密な繊維がみっちりと詰まった甘くて脂の乗った身に、見た目より薄いゼラチン質たっぷりの皮。皮と身の間からあふれ出す透明で上品な脂。むつの煮付けは薄味で作ってはもったいないので、甘辛く濃いめの煮汁で炊きましょう。
むつの煮付けレシピ
下処理をしたむつをショウガの薄切り2~3枚を敷いた鍋に置きます。上から砂糖大さじ2、みりん大さじ2、醤油大さじ2をかけ、酒100ccと水100ccを混ぜたものを回しかけます。落し蓋をして中火で火を入れていきます。
タレがふつふつしてきたら火を弱め、時々スプーンでタレをかけながらタレにとろみがつくまで煮ていきます。漁師風レシピですが、これがうまい。
むつを美味しく煮るコツ
むつは身の柔らかい魚です。ウロコと内臓を取ったらよく水洗いします。熱湯にくぐらせるという人がおられますが、できれば水洗いだけで済ませましょう。熱湯で汚れ落としをするのは「カマ上」の頭部だけにしましょう。
タレを沸かして熱くなったタレで煮始めるというのも、むつの煮方としてはおすすめしません。冷たいタレから火を入れていきましょう。ふわとろの煮付けが食べられますよ。
むつの美味しい食べ方②
上品な甘み「刺身」
沿岸の浅瀬で釣れる小さなむつと深海で獲れる大きなむつとの一番の違いはお刺身での美味さです。大きなものですと1匹1万円もするむつですから当然なのですが、脂の乗ったむつのお刺身は得も言われぬ美味さです。大きなむつが手に入ったらぜひお刺身で食べてみて下さい。皮目のうまさも味わえるよう皮もいただきましょう。
むつの刺身レシピ
むつを三枚におろしお刺身にする時には「皮を曳いてそぎ切り」にしたお刺身と、「皮を曳かずに平切り」にしたものを楽しみましょう。皮を残した方は柵の時にバーナーで軽く炙り「霜皮造り」にします。
皮と身の間の旨い脂が口の中に広がりますよ。そぎ切りにした刺身はミリンと醤油にトウガラシを漬け込んだもので「ヅケ」を作ると、大島名物ベッコウ寿司のネタになります。振る舞い料理が1品増えますね。
むつの美味しい食べ方③
噛めば噛むほど美味い「塩焼き」
大きなむつの食べ方は煮付けや刺身でいいのですが、沿岸に寄ってくる小さなむつは料理に一手間かけましょう。唐揚げや天ぷら、フライなどでももちろん美味しくいただけますが、せっかくのむつ本来の味が少しぼやけてしまいます。
おすすめは塩焼きか、軽く干した一夜干しの焼き物です。焼いても身が硬くならないむつの塩焼きは、じっくりと時間をかけて焼き上げましょう。
むつの塩焼きレシピ
できれば「炭火」で焼きたいものです。これがむつの塩焼きの「一手間」です。ウロコを剥ぎ、エラと内臓を出したむつをよく洗い、軽く一塩して15分くらい置きます。キッチンペーパーで滲んできた水分と振った塩を拭います。
むつの大きさに合わせた切れ込みを2本ほど入れたらもう一度軽く塩を振ります。尻尾とヒレに化粧塩をしたら、炭火の「遠火の強火」でじっくりと焼き上げましょう。飲み込むのが惜しくなるほど美味い塩焼きができますよ。
むつの旬はいつ?
秋から冬が産卵期
どんな料理法でも美味しくいただけるむつですが、旬はいつごろなのでしょうか。秋から冬にかけて産卵をするために、その時期が旬だと言われています。確かに脂の乗りもいいのですが、市場に出回るものの中には沿岸で獲れた小さなものもあります。これは春が旬になります。
2月頃から梅雨入り前まで、沿岸に寄ってくるために数釣りも期待できます。料理は唐揚げか塩焼きが定番の食べ方になりますが、これはこれで美味しいですよ。
大型の魚なら旬は無い
深海に生息する大型のむつは、冬の産卵期を旬として「寒むつ」や「どろむつ」などと呼ばれますが、3kgを超えるような大きなものは深海500mほどの冷たい、水圧の高い所に暮らしているため常に脂はたっぷりと乗っています。
つまりいつでも美味しいんです。大きなむつは食べ方やレシピを選びません。いつでも旬であると考えて良いのです。ですから一般的に旬と言われている時期を外して購入しても違いはほとんどありません。お値段が安い分お得ですね。
「むつ」の扱いの気を付ける点
カミソリの刃のような「歯」
むつの歯はカミソリのような切れ味を持っています。レシピにもよりますが、料理の時は本当に気を付けて下さい。スッと触れただけで深く切れてしまいます。釣り上げた時にブラックバスなどのように口に指を入れたりしてはいけません。
水銀中毒に注意
こんなに美味しいむつにも弱点が一つあります。それが「水銀中毒」です。黒むつの体内にはほんの微量ですが水銀が含まれていて、2015年に「妊婦さんは週に160g以上食さないように」と厚生労働省から指導が出されています。普通の魚毒や細菌とは毒性が違います。料理の仕方や食べ方で水銀中毒は防げませんので最大摂取量は守りましょう。
むつは本当に美味い魚です!
むつについてのレシピなどを幾つか紹介して参りましたが、むつはお値段が張るうえになかなか魚屋さんにも並ばず、お目に掛かりづらい魚です。春から初夏にかけて沿岸に寄ってくる小むつがこれから旬をむかえます。
これから梅雨前あたりまでお値段のお買い得なむつが店頭に並ぶと思います。ぜひ美味しいむつを食べてファンになっていただきたいと思います。
むつの事がもっと気になる方はこちらもチェックして下さい!
今回いろいろなむつのいろいろな食べ方のご紹介をさせていただいて参りましたが、お値段の張る高級魚であるならば「自分で釣ってしまおう」とお考えになる方もおられると思います。「暮らし~の」のサイトの中にむつやのどぐろ釣りに特化した記事があります。こちらもぜひチェックしてみて下さい。
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