マンボウとは
はじめに
のっぺりとしたフォルムにのっぺりとした動きで、なんだか少しマヌケな印象を見る人に与えてしまう魚、マンボウ。今回は他の魚にないその不思議な魅力を皆さんにお伝えします。
マンボウはフグの仲間
マンボウは「マンボウ科」という独自の科を持つほどの特徴的な魚です。ただ、もっと大きな分類で区分されると、この魚は実は「フグ」の仲間となります。フグというと、皆さんはすぐにその特徴が頭に浮かぶことでしょう。怒らせるとプクーっと体を膨らませることで有名なあの魚ですね。
謎多き生物
この生物は生態に未解明な部分がまだまだ多く、世界中の魚類研究者がこぞって研究対象として鋭意調査中ですが、まだまだ全容の解明には至っていないという謎多き存在です。
日本でも見られるマンボウ
温帯から熱帯にかけての暖かい海域に広く生息している生物で、日本でも二種の野生マンボウが見られるダイビングスポットがあり、静岡県の大瀬崎と千葉県の波佐間となります。とても人気のある観光スポットなので、興味のある方はチェックしてみるとよいでしょう。
マンボウと骨格
摩訶不思議な骨格標本
マンボウの生態について触れる前に、この生物の骨格について見ていきましょう。上記した画像がこの生物の骨格となります。腹側と背中側を守る骨がないのがとても特徴的な骨格をしていて、はじめてこの骨格を見せられた方は必ず驚愕するとまで言われるほどの摩訶不思議な形状です。
魚と見抜けるかも怪しい
太古の動物の骨格から生前の形状を復元させるといった技法が存在します。よく恐竜などがイメージとして挙げられますが、この不思議な生物の場合は骨格からあの豊満な肉体を想像するのはまず不可能でしょう。そもそも魚と見抜くことすら困難なのではないでしょうか。
骨格の謎はマンボウの進化に秘密がある
このような骨格の謎の真相は、マンボウの進化のメカニズムと密接に関連します。それでは、この生物の生態について触れながら解説していきます。
マンボウと生態
クラゲが主食
まずこの生物は何を食べるのか。食性についてですが、主にゆったりと海中を漂うクラゲを捕食するのです。もっとも、この生物は泳ぐのが苦手なのですばやく動く他の魚や水生動物を捕獲して食べることが難しいのは何となく想像できるでしょう。マンボウの歯は噛むという動作に向かないのでほぼそのまま丸呑みにします。
俊敏なマンボウ
ただ、マンボウは侮れないことに、何と甲殻類、カニやエビなども捕食するという記録が存在し、そして他の小型の魚も胃から発見されます。「どうやって?」と疑問に思われる方も多いことでしょう。水族館でこの生物を管理している方に言わせれば「マンボウは意外と速い」のだそうです。必要に迫られれば猛烈なスピードで水中を動き回るとのこと。のっぺりとした印象が崩れてしまいますね。
泳ぎのメカニズム
「そもそもこの不思議な生物は、いったいどうやって泳ぐの?」との疑問は少し前に学者間でも話題となっていました。ただ、現在ではおおよそのメカニズムが解明しているのです。マンボウは、その体から上下に伸びている大きなヒレを動かすことで推進力を得て海中を進みます。そして、尾のヒレで方向をとるための舵とりをしているわけです。
マンボウの産卵
また、マンボウは産卵の際に魚類全体でみてもトップの数の卵を産むことでも有名です。マンボウの体長は1~3mと幅があるのですが、平均的な1.2m前後のサイズの個体でも3億個。間違いなく魚類ではナンバーワンです。
浮き袋をもたない
そして、他の特徴としては、浮き袋がないというのが挙げられます。通常、他の魚では水中で浮き沈みを行うために体内にある浮き袋を利用しているのですが、マンボウの場合は浮き袋ではなく体を覆っているゼラチン質のぷるぷるした部分で浮き沈みの調整を行います。
ゼラチン質が浮き袋の代わり
これは、この生物が水圧の変化に弱い性質を持っていることと関係があるそうですが詳しいことは未だに解明していません。マンボウは深海のクラゲなどを捕食するためにある程度まで潜水することで知られますが、このゼラチン質を利用して浮上するというわけです。
マンボウとフグの関係.1
祖先は同じ
「え?マンボウとフグって違う魚に見えるのだが…」と初見の方では思われることでしょう。この二種の魚、原型は同じなのですが、外敵から身を守るためにとった方法が違うのです。結果、これだけの差が生まれ人に知られる今の外見へと進化しました。
外敵から防御するために
マンボウの骨格の謎は進化に由来したものです。この生物はもともとの祖先をフグと同じくした存在です。外敵から身を守るという目的は、動物が進化する上でとても重要な要素となります。
フグの場合は
この二種の魚の祖先についてもそれは同じでした。「いかにして敵に食べられないようになるか」という課題に対して、フグがとった方法については、皆さんもご存知のとおり大まかに分けて二つ。体を膨らませることと、毒をもつことです。この二つの方法を編み出したことで、フグはあのような生態を持つに至ったのです。
マンボウの場合は
対して、マンボウの祖先はどのような方法を編み出したのか。答えは単純で「外敵の口に入らないような大きさになること」だったのです。
マンボウは賢い
他の魚の口に入りきらない、すなわち噛めないような大きさにまで成長すれば毒を持つ必要もありませんし、通常時からゼラチン質を纏って体を大きくしているので非常時だけ特別に体を膨らませるなんて方法をとる必要もありません。考えようによっては、マンボウはフグよりも賢かったと言えなくもないのかもしれませんね。
マンボウとフグの関係.2
骨は大きくなるには邪魔だった
マンボウとフグは祖先が同じで進化の方法が違っただけです。そのため、この二種の骨格には共通点が存在します。「体を大きくする」という方法は、この二種には共通しているのですが、体を大きくするのに邪魔なものは何でしょう。その答えは「骨」だったのです。
フグの場合は
フグはお腹をプクーっと膨らせますが、そのときにお腹に骨があったらどうなるでしょうか。当然、骨が邪魔をして内蔵を傷つけたり十分に体を膨らせられなかったりと、何かと悪影響が及ぶことでしょう。
マンボウの場合は
マンボウについても同様で、骨は体を大きくするためには不要な存在だったのです。「体を強く丈夫にする」という目的で体を大きくするのなら、骨は重要な要素なのですが、この二種は「とにかく体を大きくする」という目的で進化を遂げたので、ハリボテとして肥大化する背中とお腹の部分には骨は必要ではありませんでした。
摩訶不思議な骨格の真相
そのため、背中と腹部には骨がなく全体として見るといびつな形状をした骨格へと進化したのです。これが摩訶不思議な骨格をしている謎の真相となります。
マンボウとクジラの骨格
クジラもまた変わった骨格をしている
実はこのような骨格は、マンボウに限った話ではありません。メジャーなもので言えば「クジラ」がよく比較対象として挙げられます。皆さんはクジラの骨格を見たことがあるでしょうか?
クジラも頭頂部の骨がほとんどない
クジラの骨格は特に頭部の部分にほとんど骨がありません。これは、マンボウとはまた違った理由から来る進化の結果と言えますが、水生動物の進化にはこのような特徴を持っているものが多くいます。
クジラの外見からは想像できない骨格
例えば古代の王者ティラノサウルスはどのような姿をしていたとされるのか、皆さんはフィクション作品などを通して何となく外見を思い浮かべられることでしょう。あの姿もまた、発掘された骨格標本などをもとに復元されたわけですが、マンボウをはじめとした他の動物の骨格を見てみると、骨格からもたらされるイメージに左右されるのは誤解のもとになるのかもしれませんね。
マンボウと他の動物の骨格
クジラ以外の骨格
例えば、シャチの骨格標本はこのようになっております。水族館で芸をやって観客を楽しませているイメージからはかけ離れた、まるで怪獣のような印象を抱かせる骨格標本ですね。鋭利な歯は、シャチの本来もつ野生的な部分を如実に物語ります。
エイの特徴的な骨格
他の骨格標本ではエイなどが挙げられます。マンボウの骨格は、向きを90度傾けて横向きにして見るとまるで鳥のようだと比喩されますが、エイもまた同じく海中に生息する動物だと一見して想像できないような骨格です。この二種は水族館でも人気のある魚種ですが、水中をゆったりと動く種類の魚はこのような不思議な骨格のものが多いです。
サメの特徴的な骨格
最後にサメの骨格です。サメは軟骨動物なので、骨格として標本にされるとまさに奇妙奇天烈な印象を見た人に抱かせます。その骨格から、サメの姿や生態を想像できる人がどれほどいるでしょうか。獰猛な生態で鋭利な歯を生やしていることで有名ですが、骨だけを見せられると正直、貧弱なイメージすら感じてしまいますね。
マンボウと食用事情
食用としても活用される
皆さんのなかでマンボウを口に運んだ経験がある方はどれほどいるでしょうか?そもそも水族館くらいでしかこの生物を見たことがないという人がほとんどなのではないでしょうか。実は食用としても利用されているこの不思議な魚の味はどのようなものなのか。そして気になるお値段は?美味しいのでしょうか?それともクセのある味わいなのでしょうか?
新鮮なものが食用には最適
マンボウの値段はおそらく皆さんが思っているよりも高額です。鮮度のよい個体で一匹、おおよそ数万円程度は必要な高級魚となります。ただ、その身は水分が多く傷むのが早いのでなかなか鮮度のよいものが市場に出回ることはありません。水揚げされて少し傷んだものなら冗談のような安い価格で取引されることも。
古来より食用として愛される魚
この生物、実は古来より広く食用として愛されてきた美味しい魚なのです。とにかく食べられる部位が多くあり、身はもちろん内蔵である肝、そして皮も珍味として大変美味しく、お酒のアテとして人気ですよ。
ゼラチン質の淡白な味わい
マンボウはゼラチン質が多いということは先述したとおりです。ゼラチンはたんぱく質が主成分だとされており、そのため、この魚の身はほとんど脂肪がなくプルプルした淡白な味わいです。
外見に似合わず美容によい食材
最近では一般の市場に流通する量も増えてきたので、もしかしたら目にする機会があるかもしれませんが、一見して他の魚とも動物とも違うその肉は口に入れることを躊躇する外見をしております。ただその身はコラーゲンなので美容にはとてもよい食材です。
カワハギ以上の極上の一品
逆に肝は十分に脂がのっていて醤油や酢味噌であえるとカワハギ以上の芳醇な味わいを醸し出す極上の一品となります。もしも、市場で見かける機会があったなら、どうぞ怖がらずにお手にとってみてください。
マンボウと海鳥
マンボウにはまだまだ謎が
マンボウの生態にはまだまだ謎が残されます。その謎のなかでも特に有名なものは「マンボウの日向ぼっこ」です。この生物は海上に体を横向きにして集団でぷかぷか浮かんで漂うという何だかよく分からない行動をすることで知られます。
海鳥を有効活用
この行動の理由についてはいろいろな説があり、ただ単に弱っているだけであるとか、太陽光にて海中で冷えた体を温めているだとか、さまざまです。そんななかでも有力な説が、海鳥に寄生虫を除去してもらっているというもの。
寄生虫を食べてもらう
マンボウの体にはかなり多くの寄生虫が住んでいます。体の中はもちろん、その皮膚の上にも寄生虫が付着しているので、マンボウは何とかしてこの寄生虫を取り除けないかと考え、海鳥に食べてもらうことを考えついたのです。
マンボウは賢い生物
この生物は外敵から身を守るために考えに考え抜いて体を巨大に進化させた経緯があり、その何も考えていないような外見からは想像できないほど深く物事を熟慮している賢い生物です。
海鳥の生態を熟知したマンボウ
そのため、鳥を利用するこのような方法を編み出したとしても不思議ではありません。海鳥の生態をマンボウは知り尽くしているのではないかと有識者の間では考えられているのです。
まとめ
魚に寄生虫はつきもの
「鳥を使わなきゃいけないほど寄生虫がいるのか…」と分かるとこの生物を食用にすることをさらに躊躇う方も出てくるでしょう。ただ、これを言うと魚を食べること自体に疑問を感じさせてしまうかもしれませんが、そもそも魚には寄生虫がいるものなのです。
正しい知識と調理法で
食用として利用されている魚はみんな、寄生虫を持ちます。きちんとした知識と調理法さえ知っていれば全く問題なく美味しく食べられますのでご安心ください!
骨格標本から外見を想像してみよう
マンボウについてはいかがでしたでしょうか。この摩訶不思議な生物をはじめ、まだまだ謎多き生物が世界にはたくさん存在します。マンボウを切欠にしていろいろな動物の骨格標本を見てみるのも面白いでしょう。
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