差し金(さしがね)ってどんなもの?
差し金(さしがね)は金属でできた直角に曲がった「大工さんが使うものさし」です。見たことがある人ならその独特の形を覚えているのではないでしょうか。その形から「直角を引く道具なのかな」と思っている人がほとんどでしょう。しかし、差し金(さしがね)の持つポテンシャルはそんなに単純なものではありません。とても単純な形をした金属製のものさしに秘められたすごい能力をご紹介していきましょう。
2x4工法とはまた違った工法
最近はあらかじめ枠組みを作ってそれを組み合わせる2x4(ツーバイフォー)工法が、その建築スピードの早さなどにより使用されることが多くなっています。工場であらかじめパーツを作って組み合わせるだけなので材料のロスも出にくく、繁忙期と暇な時の差が大きかった建築業に関わる人(とくに大工さん)が安定した収入を得られることともなり多くの人にメリットの多い建築方法といえるでしょう。ツーバイフォーはそれはそれで素晴らしい工法なのですが、日本や中国などには古くからある木造建築の工法があります。神社仏閣などがその建築物の代表的なもので、それ以外でも長持ちするしっかりした日本家屋に住みたいという人はわざわざ古い工法による家を建てたりもします。それに使われる便利な道具が差し金(さしがね)です。
小物作りやDIYに便利
いきなり話が専門的な家を作る話になってしまいましたが、別に家を建てたいわけではなくもっと身近な小物やDIYをするのにも差し金は有効な道具です。例えば、ちょっとおしゃれな六角形の小物入れを作ってみたいと思ったとき、その角度の出し方や材木のカットの方法に悩むことでしょう。それが差し金を使えば面倒な計算を省いて「慣れ」だけで作業できるとしたら?とても便利ですよね。今日は、差し金を使った角度の出し方も後述でご紹介します。ぜひ、参考にされてください。
差し金(さしがね)と指金(さしがね)
本題に入る前にさしがねについての誤解についてお話させてください。さしがねと聞いて「誰かのさしがねだろう」などという使われ方をする指金(さしがね)と混同してしまう人も多いでしょう。誰かのさしがねというような使い方をされるのは、人形浄瑠璃で人形を操るのに使われる「指金(さしがね)」という道具です。人形をあやつる道具である指金(さしがね)にたとえて、誰かの意思で行動した人に対して「さしがね」という言葉を使っているのです。ちょっとややこしい話になってしまいましたが、大工道具である差し金(さしがね)とは違う意味なのでご注意を。(大工の棟梁が弟子に向かって差し金を使って差し示して指示をしたという説もありますが人形浄瑠璃説が有利となっています。)
差し金(さしがね)の構造
さて、閑話休題。大工道具である差し金(さしがね)の話に戻りますが、差し金はパッと見た目にただの直角にまがった金属のものさしにしか見えないでしょう。しかし、その長い辺と短い辺には数学的な工夫が凝らされています。ここでは、単なる直角の金属定規にどんな秘密が隠されているのかお話していきます。
長手と短手
差し金(さしがね)の長い方の辺のことを長手(ながて、または長腕ながうで)と呼び短い辺を短手(つまて、または短腕つまうで)と呼びます。この長さは長手が1尺5寸5分(約47cm)短手が7寸5分(約22.7cm)となっています。
表目と裏目
差し金(さしがね)の短い方を右側にして平面に置いて上にくる面を表目、その逆を裏目と呼びます。裏目、表目それぞれに目盛りがついていますが、よく見ると表目と裏目の数字は違っていることに気づくでしょう。そして裏目の数字にはまた違った名前がある二つの目があります。
角目と丸目
角目に書かれている数字は√2の値となっています。これがどういうことかというと、例えば1辺の長さが1の角材があるとします。この対角線の長さを角目で測るとなんと1という目盛りになっています。対角線を測ることでその辺の長さを知ることができるのが角目の目盛りというわけです。一方丸目は何の数字かというと、円周率(正しくは直径x3.14が刻まれている)です。丸太で例をあげると、まず丸太の円周をロープなどを使って計っておきましょう。それがたとえば10だとします。この数字を覚えておいてください。そこで差し金の登場です。差し金の丸目で丸太の直径を測ると、なんと先ほどの円周と同じ10という数字が出てくるのです。直径を測るだけで丸太の円周がわかるというスグレモノが丸目なのでした。
差し金(さしがね)で45度を測る方法
簡単に辺の長さや円周の長さが計れる差し金(さしがね)という工具。実は差し金(さしがね)の優れたところはそれだけではありません。あの直角に曲がったものさしだけで、90度だけではなく分度器を使用することなく45度を測ることも可能です。次に45度の出し方を具体的にご説明しましょう。
二等辺三角形
学生の頃、二等辺三角形の内角は45度45度90度であるということを教わったでしょう。この二等辺三角形を作るのに差し金(さしがね)を使えばとても簡単にできます。やり方は簡単。表目にして差し金を45度を作りたいものの上に置きます。基本となる辺に長手と短手の数字を同じにして置くことで、差し金の内側に出来た三角形は二等辺三角形になるのです。右側でも左側でもどちらでも45度の角度になっています。
差し金(さしがね)で30度を出す方法
同じように三角形を利用して差し金(さしがね)で30度(60度)の角を作ってみましょう。こちらも分度器などは必要ありません。必要なのは中学生で習った誰でもわかる三角形の内角の仕組みだけです。差し金(さしがね)にはすでに90度があるので、三角形の内角の和(180度)の残りは90度です。これを1/3と2/3に分けてあげればいいわけです。難しいことはいいからもっと具体的にという方は次のようにして30度を作りましょう。
2辺の長さが1:2の直角三角形
まず、どんな数字でもよいので基本となる辺を引きます。ここではわかりやすく1辺200としましょう(これが2の辺です)。200を計った両側の点が差し金に当たるようにして、一つの辺を100にして三角形を書きます(これが1の辺です)。これで簡単に一番長い辺が2一番短い辺が1となった直角三角形が書けました。差し金ってすごいですね。さて、肝心の角度ですが、基本の辺と長さ100の辺が作る角度が60度。180度(三角形の内角の和)-90度-60度=30度ということで、残った角は30度になるというわけです。
差し金(さしがね)と規矩術(きくじゅつ)
「差し金って面白いな」と興味を持たれた方はぜひ規矩術というものも調べてみてください。これは木造建築における加工技術で中国が発祥といわれています。
差し金は天からの授かりもの
差し金にはこのような中国の伝説があります。とある大工さんが天まで続く梯子を作りました。その梯子はとても他の誰にも作れないくらい素晴らしいもので、大工さんはその梯子を使って天へと登ります。大工さんの素晴らしい技術に関心した神さまが褒美にと与えてくれたのが「差し金と規矩術」だといわれています。
まとめ
今回は数学的な難しい話が多めになってしまいましたが、差し金はこんな難しいことを考えなくても、使い方さえわかれば誰でも簡単に、サイズが測れたり角度が作れる便利なものさしだと感じていただければ幸いです。DIYをする上で、1本持っていると直角以外の角度を使った作品が作りやすくなるでしょう。(それにはまた数学的な知識が必要になってくるのですが。)
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