北海道の冬はやっぱり寒い。だったら楽しもう!
ここ数年暖冬と叫ばれて久しい。二酸化炭素の排出が主な原因だが、アウトドアズマンとしては心苦しいばかりだ。
暖冬とは言っても北海道の冬はやっぱり寒い。10月にもなれば最高気温は一桁だし、1月~2月は最高気温が連日マイナスになる。3月いっぱい雪があるので約半年の間我慢の季節がつづく。
だったら家の中で黙っているか?
いや、人はそんなに弱くない。
寒いなら、寒さを楽しもう。雪が降るなら、雪で思い切り遊んでやろうではないか!
北海道と言えばウィンタースポーツ。けどお金がかかる
寒さを楽しむ、雪で遊ぶと言えばスキーやスノーボードだ。
実際僕が小学生の頃はスキー授業があった。
近く(と言っても車で2時間くらい)のところには良質なパウダースノーが楽しめることで有名なニセコがある。実際に独身でお金のある頃は足しげく通った。
けれど兵どもが夢のあと。一日で諭吉が数人飛んで行く遊びを所帯持ちがおいそれとできるものではない。子どもと雪合戦をするのが関の山である。
子どもの頃は雪かきが娯楽だった
小学生の頃は学校でスキー授業があった。
とは言っても当時スキーを持っているのなんて金持ちの息子だけ。学年に数人だ。僕たち貧乏人(学年の大半)はプラスチック製のソリを持ってスキー場に行く。
そんな時代だから当然ファミコンなんて存在しない。あってもこれまた金持ちのボンボンしか持っていない。
夏はいいが冬は大変だ。狭苦しい六畳一間にやかましいのがいると、父親は途端に不機嫌になり「外行ってろ!」と怒鳴られる。
仕方なしに雪降る中、アノラック(防寒着のこと)を着て外に出る。
ドアを出る時に「雪かきしてこい」と言われるのでするのだが、これが楽しい。
今でも雪かきはするが、いくら考えても当時の楽しさを思い出せない。
イヤイヤ出て行ったはずなのに、「もう帰っておいで」と母親に呼ばれても「もうちょっと!」と夢中になる始末。さらに雪かきをして集めた雪でできた山でソリ滑りをするから「いい加減にしなさい!」と、いいことをしたはずなのに結局怒られてしまう。
年々少なくなる雪
子どものころあれほど遊んだ雪も、最近ではめっきり少なくなった。
ホワイトクリスマスどころか1月でも雪のないシーズンがある。ソリ遊びする子どもも少なくなった。
青年期を過ぎ中年になったいま、雪かきの回数が減るのは嬉しいが、スキー場で雪不足だというニュースを見るとやはり暖冬なのだと思ってしまう。
何よりソリ滑りのスリルや爽快感を小学生のうちに体験できないのはかわいそうだ。
そしてヨチヨチ歩きの小さな子どもが、親の引くそりで声を上げて笑う光景は、辛い冬の癒しでもある。
大人になったら本気で遊ぼう!道民の本気かまくら作り
雪が少なくなった。くわえて元々雪の少ない地域に住む僕の家の周りでも、年に数回ドカ雪が降る。もちろんテンションは上がらない。
それでも今回なかなかの降り方をしたので、十数年振りにかまくらを作ってみようと思い立った。
作り方は簡単だ。
雪山を作って、穴を掘る。以上。
ブロックを積み重ねて作るイグルーとは違う。あくまでも寒さを楽しんで、雪で思い切り遊ぶのが目的だ。
はじめは雪山づくりから
かまくらを作るには雪山を作らなくてはいけない。
だいたい背丈くらい。ナチュラルにできれば楽なのだが、道南の太平洋側でそれができる地域は少ない。
山を作る過程でだいたい円錐になる。奥行は山ができたなりでいい。作りこんではつまらないのだ。
叩いて固めてもあまり意味はない。雪かきのついでに作った山を2日ほど放置すると雪の重さで締まってくれる。
よっしゃ掘るぞ
山ができたらいよいよ掘る。
だいたいの位置にスコップで記しを付ける。大きさは四つん這いになってやっと通れるくらい。
広いと作業しやすいが、出来上がったとき、風が入って来てあまり暖かくない。
かまくら作りでこの行程が一番しんどい。窮屈な格好で上や横を掘らなくてはいけないからだ。
ご想像通り天井を掘るときは盛大に雪をかぶる。はじめは避けながら掘るが、次第に「うぉ~」とか言いながらやけくそ気味に掘り進める。
そでから雪が入り、顔にかかり最終的に口に入る。そでから入った雪は適時取る。じゃないとすぐに"痛く”なる。
口に入った雪は仕方ないので食べてしまう。汗はかくのだが外に飲み物を置いておくと凍ってしまうので、雪は貴重な水分だ。
雪国の子どもはみんな一度は雪を食べて「汚い!」と怒られたことがある。大人になると誰の目を気にすることなくそれができるのだ。
ん?もちろんかみさんには黙ってますが?
だんだん形になってきた
雪を食べながら掘り進むと、だんだん身体を入れるスペースが出来てくる。
ここからが本番だ。
小さなスコップに持ち替えて、穴の壁を削っては雪をかき出す、削ってはかき出すを繰り返す。
するとだんだんと横幅が広がり、天井が高くなり、しゃがめるようになる。
しゃがめるようになると一応は完成なのだが、ここからが大人のこだわりだ。
壁をギリギリまで広げる。この攻防が面白い。
いつも「うわ!」という声と共に天井に穴が開いて終了となる。
穴は「ん?煙突さ」とそれっぽい装飾をしたりする。あくまで遊びなのでクヨクヨしてはいけない。
できた!
息子や妻の「すごい広いね」が聞きたくて、ギリギリまで内部を広げる。
すでに外からは想像もできないほど中は広い。
なので、外から見てあとどれだけ広げられるか想像するのは難しい。
まさにチキンレースだ。男気見しちゃる!
謎の気合と共に雪を掘り進めるとうっすら外の光が見えた。穴は開いていない。
終了。
「ふ、今回は俺の勝ちのようだな」
制作者の特権、一番初めにかまくらの中で外を眺め、勝利の煙草に火を点ける。
だからなにというわけでもない
疲れた~
前回かまくらを作ったのは息子が2歳くらいだと思う。いまから20年近く前だ。
つまり僕もそれだけ歳をとったということ。すでに背中が痛い。
当時はみんなで作った記憶がある。
しかし、月日の流れは恐ろしい。妻は「買い物行ってくるね」と素通りするし、息子に写真を添えてLINEしても返事がない。
恐らく「ひざが濡れる」とか言って中にも入ってくれないだろう。
もちろんかまくらの中でお餅を食べることもない。
だがそれでいい。
もしかしたら喜んでくれるかも?くらいの気持ちの方が変にガッカリしないで済む。
もしかしたら数年後、孫ができて「じいちゃんかまくらつくって」と言われるかもしれない。その時のために感覚を忘れないでおこう。
かまくらを作ったからと言って、どうという訳でもない。
そこから見える景色と、積み重ねた時間を想いながら吸う煙草が旨いだけだ。
撮影:ライター