イボタノキとは
山野に生える樹木
あまり聞き慣れないイボタノキ、これは全国の山野に自生するモクセイ科の植物を示す名前です。生息の範囲は北海道から本州、九州に至るまでどこでも普通に見られ、中国東部や朝鮮半島のほうにもイボタノキは生えています。近くの山に分け入ってみれば、意外と出会える確率は高めです。
様々な用途が知られる
他の植物を上回り、色んな用途が出てくるのがイボタノキです。この樹木自体を利用する方法もあれば、イボタノキだけに付く特殊な虫を利用する方法も存在しています。イボタノキのことを知ることは、昔ながらの色んな智恵を獲得できることを意味しているのです。
イボタノキの特徴
生育環境
広い生息範囲が示すとおり、国内の環境なら割とどこでも適応しやすいのがイボタノキです。この樹木の生育環境でもっとも重要なのは、日光が当たること。陽の光さえあれば定着しやすい種類であり、そのため山の道路の道端、灌木の多い明るい斜面などで良く見かけられます。
全体の見た目
成長しても1.5~2m程度の大きさで留まるイボタノキは、人の目線で発見や鑑賞がしやすい植物です。陽の光が当たる場所を好んでいるのも、この小ぶりな大きさが影響しています。春から夏にかけては旺盛に葉っぱを付けますが、落葉樹なので秋には紅葉し、冬には葉を落とした姿が見られます。
小枝は分岐せず葉っぱは丸みを帯びる
その葉っぱ1枚を見れば先端が丸みを帯びた楕円形で、大きさはそれぞれが2~5cmほど。イボタノキの葉っぱは、小枝に左右対象に付いている傾向があります。幹から出る小枝はほとんど分岐せず、葉っぱのついた小枝はまっすぐに伸び、幾つもが並ぶようなスタイルです。
イボタノキの紅葉
他の植物と同じく、秋を迎えれば紅葉に様変わりするのがイボタノキ。初秋の色づき始めは、葉っぱ全体が黄色に染まっています。日数が経過すると、イボタノキの葉っぱは徐々にピンクや赤色の割合を濃くして行きます。大きさがないので迫力は足りませんが、群生したイボタノキの紅葉は見応えがあります。
イボタノキの花と果実
白い花
ちょうど梅雨に入る前の6月の初夏の頃、葉っぱの群れの中にイボタノキの花が見られます。先端を垂らした筒状の白い花は銀木犀のような香りを放ち、小枝の先端に密集して咲いています。綺麗な花を付けることが、イボタノキが観葉植物として好まれてきた理由でもありました。
楕円形の黒紫の実
花が咲いた後のイボタノキには、楕円形をした小さい果実が付いています。当初緑色をしていた果実は、秋になれば紫となり、晩秋の紅葉の頃には黒紫に熟しています。普段は野鳥が食べることもある果実で、口にしてみれば甘みと渋みが合わさったような、なんとも言えばい味わいです。
イボタノキの名前の意味
イボタノキの別名
当初は誰もが意味不明に思ってしまうイボタノキとは和名で、学名をLigustrum obtusifoliumと言います。イボタと略されることも頻繁ですが、イボタノキを漢字で書けば疣取木という奇妙な名前。また別名が水蝋樹なのでどちらの漢字のほうも不思議な印象ですが、その意味が気になるところです。
疣取木
こっちの疣取木のほうが、和名のイボタノキの正式な漢字でした。イボタノキのイボとは疣の意味であり、イボタというのはイボ取のことです。これは昔からイボタノキから、体の疣を取る蝋の薬が作られたことに由来していました。その製法や用法は、後に紹介することにします。
水蝋樹
一方でこちらの水蝋樹は明らかに当て字であり、イボタノキと読むことはかなり難しく感じます。実はこの水蝋樹の別名は、中国での呼称、遼東水蝋樹が語源です。中国の遼東半島でも一般的な樹木であり、疣取木から取れる蝋のことを、中国では水蝋と呼ぶことにちなんでいます。
イボタノキの品種
イボタノキ属の品種
見分けは素人でもできやすいのがイボタノキですが、同じ系統の品種は全部で7種類が存在しています。一度は聞いたことがある、有名な品種はネズミモチです。その他にイボタノキに似ているオオバイボタ、ミヤマイボタなどがありますが、ネズミモチ以外の紹介した品種は、見かける機会が少なめです。
ネズミモチ
よく公園にも植えられがちなネズミモチは、イボタノキ属の品種とは言え特徴はまるで異なります。名の由来は果実がネズミのフンのようで、モチノキのような形の葉っぱを茂らせるところ。大きさは数mになり、初夏に咲く真っ白い花が、遠目からでもよく目立つ品種です。
イボタノキの育て方
挿し木での繁殖
苗木を大量に用意しなくても、枝1本あれば増やせるのがイボタノキの魅力です。それはイボタノキの手頃な大きさの枝を土に埋める、挿し木での育て方ができるから。15cmほどに切断した枝の下部を、湿った土に埋めます。挿し木の育て方は成功率が高く、やがて地中に根がもじゃもじゃと伸びてきます。
取り木での繁殖
もう1方のの増やし方が、イボタノキの取り木をする方法です。こちらはイボタノキの幹や枝にビニールなどでくるんだ湿った培養土を取り付け、根っこを生じさせて切り取って移植するという育て方です。取り木のやり方は難しいですが、根っこが一度出てしまえば素人でも移植後の育て方は簡単です。
日当たりが育て方に直結
何より日陰で覆われないことが、イボタノキの育て方では基本です。日当たりの良い場所を好む特徴があるためで、日陰では健全な育て方ができません。観葉植物とする時は鉢植えにしますが、その場合にも室内では陽向に置き、日中は屋外に出して日光を当てる育て方をします。
イボタ蝋を生み出すイボタロウムシ
イボタロウムシとは
このイボタノキに喜んで寄生する、特殊な虫がいます。それがイボタの名を冠するイボタロウムシです。幼虫の大きさは1~2mm、成虫も3mm程度ですが、幼虫が体表からチューブ状の蝋を出し、群生して巣を作る特徴があります。白蝋とも呼ばれるイボタ蝋は、昔から工業用や薬用として採取されていました。
✗疣太郎虫 ◯疣取蝋虫
今日はイボタロウムシの蝋質を剥いで遊んでました。 pic.twitter.com/DvVjpg9zUD
— あらねあ (@DaemonAranea) July 6, 2018
ところでイボタロウムシと聞けば、日本的な発想からは疣太郎虫なのだろうかと考えてしまいがち。疣太郎と呼ばれていても、不釣り合いな感じはしません。しかしイボタロウムシの名前の由来は、実は疣取(イボタ)蝋虫(ロウムシ)が正解です。疣取木に付く蝋虫という意味があります。
イボタ蝋(白蝋)の作り方
採取できたイボタロウムシの蝋は、容器に入れて熱で溶かすところから始めます。溶けた蝋は布でこして、イボタノキの樹皮や虫などの不純物を取り除くのも重要な作業です。石鹸よりも小柄な大きさの四角い形にまとめ、冷まして固形化します。四角だけでなく、粉末状の種類のイボタ蝋もあります。
イボタロウムシと花言葉
イボタノキの花言葉「良い友を持つ」
ちょっと由来をじっと考えてしまう、図鑑にも載ってない花言葉がイボタノキにはありました。それは「良い友を持つ」というもの。イボタノキの良い友といえば、一番手に思い浮かぶのは蝋を出すあの虫でした。イボタノキが薬を出す相棒の虫と一緒にいることから、この花言葉が選ばれたとされています。
もう1つの花言葉「禁制」
さらに不思議な花言葉がもう1つ、イボタノキには備わっていました。それは禁制。ある行為を禁止する意味ですが、どうしてイボタノキにこの花言葉が付いたのかは謎です。しかしイボタノキの蝋の薬としての使い方が、熱する危険を伴うことで禁制と表現されたなら、納得いくところがあります。
イボタ蝋の薬としての活用①疣取り
名の由来になった疣取りの民間療法
昔から重視されていた効能の種類の第一が、疣取りなのは言うまでもないことです。イボタノキのイボタロウムシが生み出したイボタ蝋は、昔には疣取り薬としての需要がかなりあったと記録にあります。その疣取り薬としての効能が認められて人気が高かった頃は、イボタロウムシが養殖されるほどでした。
用法:イボタ蝋を溶かして疣に塗る
首筋や顔などあちこちにできる疣に、イボタノキから取れた白蝋を塗ることで効能を得ていました。塗る場合には固形のイボタ蝋の一部を熱で溶かし、アツアツなまま患部に塗る(垂らす)という用法が取られました。蝋で疣が固まって一緒に剥がれ落ちるという効能が期待されてのことです。
イボタ蝋の薬としての活用②咳止め
長野の山間部の民間療法
さらに気がかりとなる、イボタノキの白蝋を使用する民間療法の種類も記録がありました。それはイボタ蝋を咳止めとして使う用法で、今も長野県の阿智村や喬木(たかぎ)村といった山間部に残されています。昔は風邪薬もなかった中で、この土地の人々がイボタ蝋に効能を見いたしたようです。
用法:イボタ蝋を飲む
咳止めとしてのイボタノキの蝋の使い方は、単純にただ飲むだけ。これは固形というより、粉末状のイボタ蝋や湯に溶かしたものを飲むという形です。イボタ蝋はイボタノキで育つ無毒なイボタロウムシが出す物質なので、飲んでも人体には悪影響はあまりないと考えられます。
イボタ蝋の道具としての活用
すべり向上や艶出し
さらにこのイボタ蝋は、薬以外でも用法があるという万能性を持っていました。それは建具のすべり向上や、家具のつや出しの役割です。この利用法はイボタノキの蝋が持っている、濡ればすべる、つやが出るという効能を活かしています。すべり専用の種類のイボタ蝋も入手できます。
日本刀の手入れ
その優れるつや出しの効能は、いつしかイボタノキの白蝋を日本刀の相棒にするまでに至らせました。昔から多くの日本刀の所有者が、刀を磨く時に愛用していたとか。その習慣はいま日本刀を所有している人々も採用し、日々愛刀の光り輝く姿を手に入れています。
イボタノキの観賞用の活用
観葉植物
枝を挿し木の形から育てられ、大きさも程よいイボタノキは、部屋を飾る観葉植物として人気です。日光によく当てる育て方さえ守れば、生育に手のかからない観葉植物となります。盆栽で自分だけのミニチュア世界を作り上げ、インスタで披露する人も珍しくありません。
垣根
葉っぱが周囲の空間を適度に覆うので、目隠しにできる特徴を持つのがイボタノキ。だから観葉植物のほかに、垣根としての利用もおすすめできます。イボタノキの垣根は大きさを維持しやすく、手入れのしやすさもあります。イボタノキ1本さえあれば、挿し木だけで自宅の垣根全体を作ることもできます。
ライラックの台木
まったく品種は異なるとは言え近縁な種類であることから、イボタノキをライラックの台木にするという活用法も一般的です。ライラックはモクセイ科で、桃色や薄色の総状の花が綺麗な観葉植物です。ただライラックの台木にした場合、イボタノキのほうが優先的に育っているという失敗もありがちです。
イボタノキを楽しもう
育てたり特徴的な活用法を試したり
こんな風にイボタノキは、気になる色々な特徴を併せ持った面白い樹木でした。真っ白なイボタ蝋が不思議な花言葉の意味を生み出し、蝋は薬になって、挿し木で増やせるなどなど。その薬の効能をちょっと試したり、盆栽や垣根にしてみたりと、イボタノキを活用して過ごしてみてはいかがですか。
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