Black Diamond(ブラックダイヤモンド) ATC
PETZL(ペツル) D14B グリグリ 2
まず、ビレイについて
「ビレイ(belay)」、一般の人はまず聞いたことがない言葉でしょう。登山をする人でも知らない人が比較的多いようです。クライミング(岩登り)をする人が使う言葉なのです。クライミングをする人が墜落した場合に備えてロープを使って「安全確保」することを意味します。クライミングする人がクライマーでこのクライマーの安全確保をする人をビレイヤーといいます。
クライミングにはビレイが必要
登山クライミングの上級者の中には一人でビレイしながら登る人もいますが初心者には難しく、一般的にはクライミングは2人以上のグループで行います。実際にクライミングする時はクライマーと、ロープを操作して安全確保するビレイヤーとがパートナーとなります。クライマーは万一クライミング中に墜落しても、ビレイヤーが安全確保して事故を防いでくれますので安心してクライミングに専念できるのです。
ビレイを行わないクライミング「ボルダリング」
最近は山で天然の岸壁を登攀するクライミングの他に 屋内の人工壁を登るスポーツクライミングが盛んになっています。人口壁でロープによる安全確保を行わず、シューズを履く以外は自分の体だけを使って3~5mの壁を登るスポーツがボルダリングです。墜落時の安全のためにクラッシュパッドというマットを地上に敷き事故を防ぎます。
ビレイのやり方
ビレイはクライマーとビレイヤーが壁の確保支点を経てロープで繋がれた状態で行われます。ビレイヤーはクライマーの登攀動作に応じてロープを繰り出したり手繰り寄せたりしてロープがたるまない様に保ち、クライマーが墜落した場合はロープをしっかりと保持しクライマーの落下を防ぎます。グローブをはめて自分の体につながれたビレイデバイスを介してロープを握り、クライマーを注視します(上の動画参照)。
ビレイには2通りのやり方があります。それについてこれから紹介していきます。
ビレイのやり方(1)トップロープビレイ
トップロープビレイとは、これから登攀する壁の最上部に設けた確保支点(天然壁では通常ハーケンとカラビナ)に確保用のロープを通して、そのロープの両端が地上に垂れている状態から開始するビレイのやり方です。ロープの片方の端はクライマーが結び、別の端はビレイデバイスを介してビレイヤーが持ちます。トップロープの場合はいつも確保支点が上方にあって、ビレイヤーはクライマーが登った分だけロープを引っ張ればクライマーが墜落してもそのままの高さで確保できます。
壁上部の確保支点について
壁上部の確保支点は室内の人工壁の場合は適位置に設置済です。登山で天然壁を登る場合は別ルートで壁の上部に行ける時はロ-プを担いで行って構築出来ますが、別ルートがない場合はリードビレイで登攀した第1登攀者が第2登攀者以降の人のためにセッティングすることになります。
壁上部から下降する「ロワーダウン」
屋内で人口壁を登り切ったクライマーが地上に降りる場合は、ビレイヤーにロープを引っ張ってもらい、クライマーがロープに体重を掛けても静止していることを確認してから、ビレイヤーにゆっくりとロープを送り出してもらいます。クライマーはロープをつかみながら地面まで降ります。この下降のやり方をロワーダウンと言います。登山の天然壁でロワーダウンを行う場合も屋内人工壁でロワーダウンする要領と同じです。
ビレイのやり方(2)リードビレイ
リードとはクライマー自身が登攀途中の数か所の確保支点に自分につながれたロープを引っ掛け(クリップする)ながら登攀するやり方のことです。このクライマーをビレイすることをリードビレイといいます。ビレイヤーはクライマーが登った分だけのロープを送り出し、クライマーが墜落したらロープを引いて落下を止めます。この点ではトップロープの場合と同じことです。
リードビレイの場合は落下距離が大きい
トップロープの場合は常に確保支点は上にあり、墜落した場合の落下距離はゼロに近いですが、リードの場合は、クライマーが最後にクリップした確保支点がクライマーより下方の位置にあることが多く、クライマーが墜落した場合の落下距離はトップロープの場合に比較してより大きくなります。そのため確保支点やロープにかかるショックは大きくなり、ビレイヤーとしてはより高度の注意力と技術力が必要とされるのです。
リードクライミングでの確保支点について
室内の人工壁の場合はあらかじめ設置されていますが、登山での天然壁の場合は、先人のクライマーが残していった確保支点が残っていれば、ゆるみなどがないか確認の上で利用出来ますが、残っていない場合はクライマー自身が岩の割れ目にハーケンなどを打ち込んで作成する必要があります。クライマーにとっては、たとえ確保支点が利用できたとしても支点にロープをクリップしなければならない分作業が多くトップロープに比較してより難度が高いといえます。
ロワーダウン
リードクライミングの場合も壁上部に達した後は「ロワーダウン」の方法で下降しますが、天然壁でのリードクライミングの場合は途中の支持支点に残したカラビナなどの器具を回収しながら下降することになります。
ビレイデバイスについて
ビレイデバイスとは、クライミングの時にクライマーの墜落を止めたり、降ろしたりするのに必要な器具でロープの制動器のことです。ビレイヤーが体につけて使います。ビレイデバイスの使い方は難しくはありませんが、正しい使い方で注意深く使わなければなりません。ビレイヤーはクライマーの命をあずかっているのですから。現在では多種類のビレイデバイスが発表されていて初心者は選ぶのに困るほどですが、大きく分けるとチューブ型ATCと自動制御付きの2種類になります。
ビレイデバイスのパイオニアATC
ビレイディバイスは、アメリカの有名な登山家(クライマー)が創業したブラックダイヤモンド社が発売したATC(エアートラフィックコントローラー)が初めてのデバイスであると言われています。そのためか多くのビレイディバイスはATCの名前を使っています。現在ではほかの種類も出てきていますが依然としてATCが主流です。
ビレイデバイスの種類
ビレイデバイスはチューブ型ATCと自動制御付きに分けられると前に述べましがチューブ型ATCは使い方が単純で初心者向きといえます。自動制御付きはクライマーが墜落したとき、何らかの理由でビレイヤーがロープから手を放してしまってもロープが自動的にロックされ、転落を防いでくれます。安全で便利な自動制動型ですが、チューブ型ATCに比較して使い方が複雑で初心者には向いていません。
ビレイデバイスの種類(1)チューブ型ATC
チューブ型ATCはビレイデバイスの定番品です。チューブ型ATCと呼ばれるデバイスは沢山ありますがその基本構造は全く同じです。構造が簡単でロープのセット方法はどちら向きにセットしても機能に変わりなく扱い易い。また、太めのロープでも使えて初心者のクライミングにはほとんどの状況に対応でき、軽量で安価です。他のタイプに比較して墜落したクライマーを止める力がやや低いことと、ATCの縁でロープが急角度でこすられるためロープが傷みやすいという欠点はあります。
代表的なATCの紹介
チューブ型ATCを代表する製品といえば、やはりブラックダイアモンド(BD)社のATCになります。最近ではATC-XP、ATCガイドなど新タイプも発表されていますが、新タイプに比較して複雑な機能がなく使い方が容易な原型タイプ「ATC」が軽量で価格も安く初心者にはお勧めです。
Black Diamond(ブラックダイヤモンド) ATC
ビレイデバイスの種類(2)自動制御付き(自動ロック)
ビレイの経験をつんでチューブ型ATCの使い方に馴れた段階では自動制御付きのデバイスも使ってみることをお勧めします。自動制御付きということは、自動でクライマーの墜落を止める補助機能がついているということです。登山中にクライマーが墜落し、ショックでビレイヤーの体が飛ばされてロープから手が離れたような場合でもロープが自動的にロックされ止まります。但し構造が複雑で正しい使い方を守らないと制御機能が働かず、かえって危険になります。
代表的な自動制御つきの紹介
自動制御付きデバイスの中で登山家に比較的多く使われているのがPETZL(ペツル)社のグリグリと呼ばれるものです。グリグリはこれまでに「GRIGRI」、「GRIGRI2」、「GRIGRI+」の3種類が発表されいます。グリグリはロープの取付け方を逆にすると自動制御機能が働きませんし、使用するロープの太さにも制約があります。使い方には十分に注意する必要があります。
PETZL(ペツル) D14B グリグリ 2
クライミングとビレイで使う器具や道具
ビレイデバイス以外にクライミングとビレイで使う器具や用具について概略を説明します。まずロープ、次いでビレイヤーが身に着けるハーネス、ハーネスとデバイスをつなぐカラビナがまず必要です。あとクライミングシューズも必須です。グローブもあった方がよいでしょう。壁登攀後のロワーダウンをビレイする場合にはグローブなしでは摩擦で火傷する恐れがあります。
天然壁をのぼる場合
屋外の自然壁を登る場合は、確保支点を作るためのハーケン、ハンマー、スリングといった器具や紐も必要な場合がありますし、落石の恐れがある場所ではヘルメットも必需品になります。
ビレイ中に事故に合わないための注意点
ビレイヤーは自分の不注意やミスからクライマーに重大な事故が発生しない様に努めることを最優先すべきですが、それと同時にビレイヤー自身が事故に遭わない様に注意する必要もあります。ビレイ中には事故につながるような危険がいろいろとありますので、これらに対する注意点について解説していきます。
最初のクリップまでは特別体制で(リードビレイ)
リードビレイの場合はクライマーが登り始めてから最初の確保支点にロープをクリップするまでの間は、安全確保は出来ません。この間にクライマーが墜落した場合はクライマーが頭や背中を地面に打ちつけない様に体を支えます。そのため、この間はクライマーを支えられる体制で身構えつつクライマーの動きを注視し続けます。この間に漫然としていると、墜落によりクライマーだけでなくビレイヤーも大怪我をすることになります。最初のクリップができたら、素早くロープを張ってビレイを開始します。
クライマーの真下の位置には入らない
クライマーの直下の位置は避けてビレイしましょう。クライマーの真下にはクライマーの登攀器具や、岩のかけらなどが落下してくる可能性があります。クライマーの動きを常に注視しながら、落下物の危険を避けて真下の位置を避けましょう。
壁から大きく離れない
クライマーの真下の位置は避けながらも、登攀壁からは比較的近い位置を取ってください。壁から大きく離れて位置取りをするとクライマーが墜落した場合にそのショックでビレイヤーが引っ張られて、壁に激突する恐れがあるからです。ビレイヤーが怪我するだけでなく、そのショックでロープから手を放してしまうかもしれません。そうすればクライマーは地面まで墜落して死亡事故になる可能性もあるのです。
体重の重いクライマーにはビレイヤーもセルフビレイ
体重の重いクライマーをビレイする場合は、クライマーが墜落した時にビレイヤーが空中に引っ張り上げられたり壁に激突することもありえます。クライマーもビレイされずに落下距離が大きくなり、危険性が増します。そのため、体重差のあるクライマーをビレイする場合はビレイヤー自身も何らかのセルフビレイをして事故を防止する必要があります。
おわりに
ここまでお読みいただきありがとうございます。 如何でしたか?
オリンピックでスポーツクライミングが採用されることもあって屋内でクライミングができる「クライミングジム」が増えています。クライミングジムでビレイを体験するにはボルダリングだけでなくリード(クライミング)ができるところへ行きましょう。そこにはビレイの器具や用品が準備されていますので、シューズとグローブがあればOKです。ただし、クライマーの安全を守るのがビレイヤーですから、この記事で学んだことを参考にして正しくて安全なビレイを心掛けてください。
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