尾根ってどんな意味?
山の「尾根」という言葉は、登山の雑誌や地形図などで一度は聞いたことがある方も多いと思いますが、そもそも尾根とはどういう意味かご存知でしょうか?
尾根とは、山頂と山頂をつなぐ道筋という意味があり、また谷と谷に挟まれた山地の一番高い部分の連なりという意味をもっています。
地形図では等高線の突出として示されており、地図読みのさいには、尾根と谷をしっかり区別して地図を読んでいくことが必要です。また、尾根は山稜や稜線ともよばれています。
尾根歩きの意味とは?
尾根歩きは登山をする人にとってひとつの醍醐味という方も多いことでしょう。そもそも尾根歩きとは文字通り尾根に沿った登山道をたどりながら山から山へと移動する登山スタイルであり、登山の歩き方において一般的な歩き方ともいえます。
しかし縦走ともよばれるこの尾根歩きは尾根伝いに歩くということから、危険な点や注意すべき点も多くあるため、登山初心者の人にとっては一見ハードルが高いようにもみえます。
しかし山域によってはお手軽に尾根歩きを楽しめるところもあるので、最初はそういった場所からチャレンジしてみましょう。
尾根歩きの魅力とは
尾根歩きは尾根伝いに歩くということから、谷沿いに登る登山道とは異なり、視界がひらけており眺望がよいことが特徴的です。特に、標高が2500mを超える山の場合、森林限界によって背の高い木々は育たず、視界がとても開けていることが多いです。
またあまり標高が高くはない低山においても山域によっては尾根沿いは笹原などの平原が広がり、眺望がよいことも多くあります。そのため、尾根歩きだからこそ感じることができる魅力もたくさん発見できます。
360°の絶景はまるで空中散歩
尾根歩きの魅力はまずなんといっても、360°見渡すことができる絶景にあります。いくつにも連なる山々の稜線の美しさや、遠くに見える山脈の数々、ふもとにみえる小さな町並みなど、歩く山域によって楽しめる景色は違います。
また、尾根歩きは山小屋やテントを利用した泊りでの登山をすることで、ご来光をみることができたり、朝日に染まる山肌や尾根伝いに山頂まで続く登山道などみることができたりと、日帰り登山では見ることができない絶景に出会えることもあります。
振り返って見る自分の歩いた道のりに達成感
尾根歩きする際は、ぜひ何度か立ち止まって後ろを振り返ってみてください。尾根歩きの魅力は、自分の足でこんなにも歩いたのかと自分自身の目で見て実感し、達成感を感じることができることにあります。
広大な山々が連なる稜線を自分の力で歩いたのだと考えるだけで、なんともいえない感動に包まれます。自分の歩いた形跡を自分の目の前で実感できるのはまさに尾根伝いに歩くからこその体験です。
見渡す限りの雲海に心を奪われる
尾根歩きで必ずしも見られるわけではありませんが、気象条件によっては雲海に出会えることがあります。雲海が広がる景色の中で尾根歩きを楽しむなんて、とても贅沢ですし、なにより一生のうち何度も経験できるものではありません。
まさに尾根歩きだからこそ出会えるかもしれない絶景です。また、雲海のほかにも山の尾根をこえて風下側から流れた雲が山に沿って滝のように落下していく滝雲など、様々な雲の動きを見られることもあります。
ブロッケン現象に出会えることも
ブロッケン現象という言葉を聞いたことはありますか?
ブロッケン現象とは、太陽などの光が背後から差し込み、影のそばにある雲の粒や霧の粒によって光が散乱されるため、見る人の影の周りに虹に似た光の環っかが現れる大気の現象で、まさに自然が生み出すアートでとても幻想的です。
特に尾根の上というのは谷側から雲がわきやすく、また自分が立つ反対側に太陽があることでブロッケン現象が起きやすい条件になります。
ブロッケン現象がみられる確率はそう高くはありませんが、ぜひ尾根歩きの際は太陽の位置や谷側からわく雲や霧にも目を向けてみてください。もしかしたら、幻想的なブロッケン現象に出会えることがあるかもしれません。
尾根の歩き方で注意すべきこと
尾根歩きの魅力を知れば知るほど、尾根歩きを今すぐにでも始めたくなると思いますが、尾根歩きにはたくさんのリスクや危険も潜んでいます。
特に尾根伝いに歩くということは、尾根の両側は谷となるため、尾根にあがったら基本的に逃げ場はなく、尾根伝いに歩いてきた道のりを引き返すか、先にある頂上を目指すかのどちらかしか移動手段はありません。
そのため、尾根歩きの注意点をしっかり理解したうえで尾根の歩き方を考えていく必要があります。
注意点①急な天候の変化に注意
尾根歩きで最も注意しなければならないことは、急な天候の変化です。特に山の天気は変わりやすく、突然雷雨に襲われることもあります。尾根歩きを始める前は必ずふもとや山小屋などで最新の天気予報をチェックし、急な天候不良が予想されるような天気の場合は無理をせず控えるなど歩き方に注意が必要です。
雷の音が聞こえたら即座に避難を
尾根歩きの際は雷に注意が必要です。なぜなら山の中でも尾根や山頂といった周りより高くなっている地形の場所は雷が落ちやすい場所であり、尾根を歩く登山者にも落雷の危険がとても高くなるからです。
そのため、もっとも大切なことは、尾根歩きをする際は雷の危険がない天候を選んで歩くことだといえます。とくに、夏の山は午後から積乱雲がわきやすくなるため、尾根歩きの際はできるだけ午前中の早い時間帯に通過するなど注意が必要です。
また、万が一、尾根の上で雷に出くわしてしまったら、山小屋が近くにある場合は即座に避難したり、窪んだ場所やハイマツ帯の中など少しでも隠れることができる場所に逃げ込み、できるだけ姿勢を低くして雷が遠ざかるのを待ちましょう。
突然の雨や風をしのげる服装を用意すること
尾根歩きでは突然の雨や強い風に注意が必要です。とくに尾根伝いに歩く稜線上は風の通り道となり、風を遮る場所がないため強風にみまわれることがあります。
そして、雨ににより衣服や体を濡らしてしまうと、真夏でも気温の低い高山では低体温症になり最悪命の危険にさらされてしまいます。
天候の悪いときには無理をして登山をしないことが一番ですが、急な雨や風に備えて、どんなときにも必ずレインウェアやウィンドブレーカーなどの防寒対策を用意しておきましょう。
注意点②エスケープルートや避難場所の確認
尾根歩きの中でもとくに山から山へ稜線伝いに歩き、縦走するような歩き方の場合、1日の行動時間はとても長い場合が多いです。
しかし、山にはリスクもつきものであり、長時間の行動時間の中で突然のケガや体調不良、急な天候の悪化などに見舞われてしまうこともないとはいえません。
しかし尾根という地形は左右が急峻なが谷で挟まれていることからもわかるように、すぐに下山が必要となった場合でも基本的には逃げ場はなく、歩いてきた道のりを戻るか、そのまま歩き続けて前に進むかのどちらかしかありません。
緊急時の計画を考えておくのが重要
そのため、必ず尾根歩きの計画を立てる際は、緊急時はどうするか考えておく必要があります。そのためには近くの山小屋までの距離はどれくらいあるのか、またエスケープルートと呼ばれる緊急時に下山に使えそうな登山道はあるのかなどしっかりと事前に調べて計画を立てておく必要があります。
注意点③痩せ尾根に注意
痩せ尾根という言葉を聞いたことはありますか?
実は尾根には痩せ尾根とよばれる尾根の両側が鋭く切れ落ちており、登山者一人が通れるか通れないかくらいの幅しかない場所があり、滑落の危険があります。そのため痩せ尾根を通過する際は十分に注意が必要です。
登山初心者の場合は痩せ尾根を通過する必要がある場合、必ず経験者の人と一緒に通過するなど初心者同士や単独での通過は避けましょう。
また、痩せ尾根は他の登山者とのすれ違いも困難となるため、通過する際は対向して歩いてくる登山者がいないかどうか確認してから痩せ尾根を慎重に通過する歩き方をしましょう。
注意点④飲み水の確保は十分に
尾根上は基本的に水場はないことが多く、尾根歩きの途中で湧き水や沢の水を確保することは困難です。そのため、縦走などの長時間の行動時間になる場合は十分な飲み水を持った上で尾根歩きをする必要があります。登山計画をたてる段階で、水場の場所や、山小屋で飲み水を購入できるのかどうかなど事前に確認しておきましょう。
注意点⑤道迷いに注意
稜線伝いに歩く尾根歩きの場合、道迷いはしないと思っていませんか?実はその考え方はとても危険です。尾根歩きをする山域によっては複数の尾根が複雑になっており、本来進むべき稜線の尾根に行くはずが違う尾根に入ってしまうなど道迷いの危険もあります。
また、悪天候で霧がでるなど視界が悪い場合にも、間違った稜線の尾根に入ってしますこともあります。そのため、必ず尾根歩きの際は地図やコンパス、GPSなどを使用して自分が今どこを歩いているのか確認するようにしてください。
また、分岐に迷ったり、おかしいなと思った際も必ず立ち止まり、地図やGPSで確認しましょう。
注意点⑥余裕をもったコースタイムの設定を
山から山へ稜線沿いに歩く場合、山の起伏に沿って歩くことになるため、思った以上にアップダウンの連続が続くこともあります。また、長時間の行動時間となるため、体力の消耗も激しくなります。
そのため、登山計画をたてる際は時間に余裕をもって計画をたてましょう。また、宿泊場所である山小屋やテント場、下山の登山口までは午後3時までには到着できるように計画を立てましょう。
手軽に尾根歩きを楽しめる山①木曽駒ケ岳(中央アルプス)
木曽駒ケ岳は長野県にある標高2956mの山です。日本百名山、花の百名山に選定されている山であり標高2612mの千畳敷カールまではロープウェイでアクセスできます。
千畳敷カールから木曽駒ケ岳頂上までは往復4時間ほどで行くことができるため日帰り登山も可能です。千畳敷から50分ほどかけて急坂の八丁坂を登り切り、乗越浄土まであがると、尾根にあがるため視界が一気に開けます。
目の前には宝剣岳や近くの山々まで見渡すことができ、木曽駒ケ岳頂上まで気持ちの良い尾根歩きができます。
手軽に尾根歩きを楽しめる山②大菩薩嶺(奥秩父山塊)
大菩薩嶺は山梨県にある標高2057mの山であり、日本百名山に選定されています。山頂自体は開けていないため眺望はないですが、雷岩から大菩薩峠は尾根道となり、富士山も見えるなど眺望は抜群です。
登山道自体もとても整備されており、週末は駐車場が満車になるほど人気の山です。とくに初心者の方におすすめなコースは上日川峠から唐松尾根分岐を経由し雷石から大菩薩峠にいくコースであり、コースタイムは往復で4時間ほどとなり日帰り登山が可能です。
手軽に尾根歩きを楽しめる山③竜ヶ岳(鈴鹿山系)
竜ヶ岳は三重県いなべ市と滋賀県東近江市の県境に位置する標高1099mの山です。鈴鹿山脈中部に位置しており、鈴鹿セブンマウンテンのひとつです。
春にはシオヤシロの白い花が山頂一帯のあちこちに咲き乱れており、稜線から見えるその景色は「竜ヶ岳の羊の群れ」とも表現されるほど美しく、この時期になると多くの登山者がこの景色を見に足を運ぶほどです。
特に遠足尾根から山頂を目指すコースはここ最近整備されて歩きやすくなっており、眺望もよいため低山ながらも尾根歩きを満喫できます。
まとめ
登山の醍醐味ともいえる尾根歩きは時に絶景とも出会え、山の魅力をもっとも感じられる山の歩き方のひとつです。しかし、尾根歩きには天候の悪化や痩せ尾根などの地形などさまざまな危険やリスクも潜んでいます。
注意点をしっかりと理解した上で、登山が初心者の方もぜひ手軽に尾根歩きができる場所から楽しんでみてはいかがでしょうか?