幻のメガマウスザメ:概要
幻の巨大深海ザメのメガマウス。記事を読む前に簡単にイメージしておきましょう。
特徴が大口の希少サメ
巨大な口が名前の由来であるメガマウスザメ。インパクトある大口が怖いサメです。メディアでもよく取りあげられるので、ご存知の方も多いはずです。知名度が高いわりに、目撃や捕獲、死骸が浜に打ち上げられることは珍しく、ほとんど例がないことから幻といわれるのです。
最近見つかったサメだった!
日本では古くから「大口鮫」と呼ばれ、稀に目撃されていましたが、学術的に新種のサメと認定されたのは最近で1976年。ハワイで作業していたアメリカの調査船のアンカーに引っかかっていたことで発見され、口が大きいことからメガマウスと名付けられたのです。日本では1989年、静岡県に打ち上げられた個体が最初でした。
幻のメガマウスザメ:生態
メガマウスザメの生態は研究途中ですが、巨大で怖い印象は、実は誤解のようですよ。
深海に棲む原始的な姿
メガマウスザメはネズミザメ目に属し、原始的な特徴を残しています。熱帯域の水深100~200mの深海に生息しており、夜になると10mほどの浅い場所に浮上してきます。尖った背びれ、尾びれ、胸びれはサメらしいですが、巨大な頭部と口がとにかく目につきます。大物のメガマウスザメなら口の中で人間が正座できる大きさでしょう。
最大は7mを超える大きさ!
メガマウスザメの大きさは4~6mで、これまで見つかったものでは7m9cmが最大。体重は1tを超えます。ワンボックスから小型バス並みの大きさですね。体はブヨブヨとしていて、硬くありません。泳ぐのは非常に遅く、人間が一緒に泳ぐこともできます。
補足
2017年5月に、東京海洋大学名誉博士のタレントさかなクンが千葉県館山で一緒に泳ぎ、ニュースになりました。
プランクトン食の温和なサメ
巨大な体や口の大きさから「怖い」と思われがちなメガマウスザメですが、主食はプランクトンです。そのため刃物のように鋭いサメ特有の歯は持っておらず、ヤスリ状の小さな歯が並んでいるだけです。もちろん攻撃性も低く、人を襲うことはありません。見た目から怖いと尻込みせず、メガマウスに親しんでください。
幻のメガマウスザメ:日本に多い?
なかなか見られないから幻のメガマウスザメ。でも、日本近海にはよく現れます。
日本での目撃が世界一
メガマウスザメは世界中の熱帯・亜熱帯の海にいるのですが、目撃や打ち上げの事例がほとんどありません。世界でも120例前後なようです。そんなメガマウスザメがもっともたくさん確認されているのは、なんと我が日本。近海に深海域が多く、日本だけで20例を超えています。
南海トラフが住処なのか?
メガマウスザメは日本海にもいますが、よく見られるのは千葉県、静岡県、三重県などの外洋です。水深4,000mの南海トラフ(静岡に近い場所は駿河トラフとも呼ばれる)の海に集中しており、その海域にメガマウスが多く生息していることがわかります。
日本は深海ザメの楽園
日本近海で見られるのはメガマウスザメだけではありません。ラブカやミツクリザメ(ゴブリンシャーク)といった「幻の」と頭につく、世界的にも非常に珍しい深海ザメが頻繁に見られるのです。これは深海が都市部に近いことで汚水などに含まれる栄養が深い場所にまで行き届くからで、日本は深海ザメにとって天国なのです。
幻のメガマウスザメ:見れる?食べられる?
意外におとなしく、面白いメガマウスザメですが、私たちでも出会うことができるのでしょうか。
メガマウスのいる水族館
メガマウスザメは時々生きたまま捕獲されますが、数日で死んでしまうため、長期間飼育に成功した例はひとつもありません。もちろん、メガマウスの見られる水族館も世界にはなく、生態の研究なども進んでいません。
メガマウスは食べられるのか?
では食べられないのかといえば、それも難しいです。食べた経験のある専門家の話によると、メガマウスザメの肉は「味も臭いもなく、水っぽくて噛み応えもない」のだとか。あの大きさなら身もたくさんでしょうが、残念ながら食卓にあがる期待はしないほうがよさそうですね。
幻のメガマウスザメ:生態の謎
実は生態がほとんどわかっていないメガマウスザメ。謎の生態がまだあるかもしれません。
口の中が光るらしい
メガマウスザメの口の中に光を当てると、銀色に輝くことがわかっています。他のサメに見られない特徴なのですが、その光で獲物のプランクトンをおびき寄せて捕食するのではないかと考えられています。しかし、現時点では確認されておらず、さらに生態について詳しい研究が待たれているのです。
地震を予知するという都市伝説
「メガマウスザメが捕まると地震が起こる」という話を聞いたことがあるでしょうか?地震との関連は後述しますが、この話はほぼ都市伝説化されていて、メガマウス捕獲のニュースがあると、ネット上には「地震が怖い」といったコメントが多く書き込まれるのは事実です。次項で検証してみましょう。
幻のメガマウスザメ:地震予知の噂は本当?
予知の話はネットで持ちきり
メガマウスザメが地震を予知するとまことしやかに囁かれるようになったのがいつからなのか、はっきりしたことはわかりません。2017年に三重県でメガマウスザメが水揚げされたときも、ネットでは「南海トラフで地震が起きる前兆では」とちょっとした騒動になり、予知の噂は広く流布していることがわかります。
噂の成り立ち
幻とされるメガマウスザメの目撃、捕獲、打ち上げは稀です。変わったことがあると悪いことが起こるというのは日本古来からの考え方であり、生物が地震などの自然災害を予知する可能性も示唆されています。大きさも地震を起こす大ナマズを彷彿とさせますしね。メガマウス地震予知の噂は、このような事実が重なってできたものでしょう。
ただの噂と思えない一致性
しかし、メガマウスザメの地震予知がただの噂と捨ててもいいのでしょうか?過去のデータを見ると、1995年の阪神淡路の地震、2011年に東北・関東を襲った大地震、2016年の熊本地震などの前後に、メガマウスザメが実際に出現しているのです。メガマウスと地震がどれほどシンクロしているかは次項の通りです。
幻のメガマウスザメ:出現と地震の日付まとめ
メガマウス出現と直後の地震
メガマウスザメが目撃、捕獲、打ち上げられた日付と、地震が起こった日付をまとめてみました。
1989年1月23日、静岡県浜松市
同年2月19日、茨城県南部地震(M5.6)
1989年6月12日、静岡県駿河湾
同年7月9日、伊豆半島東方沖地震(M5.5)。7月13日、伊豆で海底火山が噴火
1994年11月29日、福岡県博多湾
翌年1月17日、阪神淡路大震災(M7.3)
1997年5月1日、三重県鳥羽市沖
同年5月13日、鹿児島県北西部地震(M6.4)
1998年4月23日、三重県鳥阿田和
同年5月4日、石垣島南方沖地震(M7.7)
2003年8月7日、静岡県御前崎沖。9月3日、神奈川県真鶴町
同年9月26日、十勝沖地震(M8.0)。10月26日、静岡県沖地震(M7.1)
2004年4月4日、東京都東京湾
同年4月4日(同日)、茨城県沖地震(M5.8)
2004年4月23日、静岡県網代沖
同年10月23日、新潟県中越地震(M6.8)
2005年1月23日、三重県沖
同年2005年3月20日、福岡県西方沖地震(M7.0)
2006年5月2日、神奈川県相模湾
同年2006年6月12日、大分県中部地震(M6.2)
2007年7月9日、茨城県東沖
同年7月16日、 新潟県中越沖地震(M6.8)。8月18日、千葉県東方沖地震(M4.8)
2011年1月14日、三重県尾鷲市沖
同年3月11日、東日本大震災(M9.0)
2014年4月14日 静岡県由比漁港
同年5月5日、伊豆大島近海地震(M6.0)
2016年4月18日、三重県尾鷲漁港
同年4月14日、熊本地震(M6.5)
2017年5月22日、千葉県館山市沖合。5月26日三重県尾鷲市沖
同年6月20日、大分豊後水道地震(M5.0)。6月25日長野県南部地震(M5.7)
驚愕のシンクロ率
いかがでしょうか?たしかにメガマウスザメの捕獲や打ち上げがあってから数日、あるいは2ヶ月ほどの間を開けて大きな地震が起こっているではありませんか!このシンクロ率であれば、「メガマウスザメが地震を予知する」「怖い!地震が起こる」となるのも不思議はありませんね。
幻のメガマウスザメ:深海魚と地震
地震を予知するのはメガマウスザメだけと思ったら、そうではなかったんです!
地震を告げる深海魚たち
メガマウスザメが幻なのは、それが深海魚で、滅多に見られたり打ち上げられたりしないからです。実は深海魚が地震を予知するというのは、メガマウスに限りません。他にもリュウグウノツカイ、サケガシラ、ラブカなどの深海魚が打ち上げられても、以前から地震が起こるといわれており、メガマウスもそこに加わっただけと考えられます。
イルカやクジラもおかしくなる
地震予知は深海魚の専売特許ではありません。イルカの群れやクジラが陸に打ち上げられるのも、地震を予知して起こったこととされているのです。さらに地震の前には「犬が変な吠え方をする」「熱帯魚が暴れる」など、生物の異常な行動が確認されることも多い。動物の地震予知は決して荒唐無稽な説と言いきれません。
幻のメガマウスザメ:地震予知のメカニズム
では、どうやってメガマウスザメなどの生物は地震を察知できるのでしょう?生態でしょうか?こんな仮説があります。
深海魚が地磁気を感知
地震が起きる原因が、プレートの移動であることは誰でも知っていますね。下のプレートが沈み、上のプレートが反動で動くことで地震が起こります。プレートの移動で海底から電気が発生し、メガマウスら深海魚が異常を感じて浮上してくる説です。また発生した音が、深海の生物を驚かせているのかもしれません。
地磁気の異常が海洋生物に影響
深海魚と同じ理由で、イルカやクジラの打ち上げも説明できます。イルカなどはソナーのように音の反響で周囲の状況を判断するエコロケーションで行動する生態。地磁気の異常で判断が狂い、打ち上げられてしまう可能性もあるのです。ちなみにメガマウスザメにも電流を感じるロレンチーニ器官があり、同じ理由で深海から浮上してくるのでしょう。
イルカ・クジラの打ち上げと地震の事例
2011年ニュージーランドで起こった地震の2日前、近くで107頭のクジラが陸に打ち上げられていますし、2014年にペルーで400頭ものイルカが打ち上げられ、3ヶ月後にM8.2の地震が起こっています。
偶然であることも否定できず
深海魚や他の動物が地磁気の異常を感知して、異常行動をとることは半ば事実ではありますが、地震との関連性ははっきりわかっていません。日本では地震は頻繁に起こり、メガマウスザメがいつ打ち上げられようと、近日中に地震が起こる確率が高いのです。怖いとパニックになる必要まではないといえそうですね。
幻のメガマウスザメ:南海トラフ地震も予知するか?
現在、怖いといわれているのが南海トラフ超巨大地震です。メガマウスザメは南海トラフのときも浮上する可能性があります。
メガマウスが未確認の地震
2018年の2月9日に、三重県南部で無感地震がありました。地震のマグニチュードは5.4もあったのに、揺れは震度1という不思議な地震で、発生源が深かったのが理由とされています。この地震を南海トラフの大地震の予兆と考える人もいますが、気象庁はなにも言っておらず、メガマウスザメなどの深海魚も確認されていません。
気にしすぎないのが大事
地震大国の日本は、地震に過敏に反応するきらいがあります。メガマウスザメの地震予知や、なんでも南海トラフに結びつける風潮は、怖いことを事前に知っておきたい心理の表れです。メガマウスザメなど当てにせず、普段から備えを心掛けておけばじゅうぶんです。
幻のメガマウスザメ:まとめ
メガマウスの海を守りたい
メガマウスザメの生態や、地震予知の噂について書いてきました。メガマウスザメの怖いイメージがいくらか薄れたと思います。生物学的にも大変貴重なサメですから、それが泳ぐ日本近海がいつまでも穏やかで、大きな被害の出る災害に見舞われないことを祈りたいものですね。