不思議な生き物 クリオネの正体
皆さんも水族館などで見たことがあると思いますが、その姿はまさにエンジェル!英語では本当に「Sea Angel」と呼ばれています。 全体的に透明で、大きな頭、円錐形のボディ、そして羽をゆったりと羽ばたかせてスイスイッと泳ぐ様子は神秘的でもあります。しかし実は、とっても怖い一面があるのです。
「流氷の天使」 クリオネの正体は〝貝〟
北極海など冷たい海にすむクリオネ。体調およそ1センチから3センチで、流氷とともに北海道まで流れてきて、2月ごろの知床で見られることもあります。 生息している水深は非常に幅広く、水面下スレスレの浅い海から、水深600mという深海にもいて、いわゆる深海生物ともいえます。では、この不思議な生き物、クリオネの正体とはなんなのでしょうか。
学術的な日本名「ハダカカメガイ」という貝の仲間なのです。そしてクリオネの正式な名前は『クリオネ・リマキナ』といいます。ラテン語で海の女神を意味する「クレイオ」、そして「リマキナ」はナメクジとかナメクジの形という意味で、ナメクジのような海の女神という意味です。
クリオネの貝殻はどこ?
クリオネは貝といっても貝殻が見当たりません。 クリオネは巻貝の仲間で、砂浜に打ち上げられているこういった巻貝です。
生まれたばかりのクリオネには貝殻がありますが、成長するとともに貝殻は退化して消滅します。つまり、貝殻のない貝です。貝の「身」の部分だけで生きているのです。だから「ハダカカメガイ」という和名がついたのです。漢字にすると一目瞭然です。「裸亀貝」。
クリオネの衝撃的な捕食シーン
「流氷の天使」と呼ばれるクリオネ、しかし、その捕食シーンはとっても衝撃的。「天使」から「悪魔」に変身します。思わず息がとまるほどのギャップ、餌を食べる、その怖い姿をご紹介します。
知られざるクリオネの捕食1
クリオネの餌は「ミジンウキマイマイ」という、これも巻貝の仲間でクリオネと同じく、フワフワと浮いて生活する浮遊性の貝です。この餌が近づくと、それまで天使の姿でホヨ~ホヨ~っと漂っていたクリオネの頭が突然、大きくパッカリと割れ、そこからニュルニュルっと6本もの触手が飛び出します。 そして餌をガツっと捕獲。
ジタバタするのも構わず、ゆっくりと餌の養分を吸収して食べるのです。6本の触手を伸ばして食事をする様子はまるでアニメの「殺せんせい」。はっきり言って怖いの一言です。
知られざるクリオネの捕食2
割れた頭から出てくる、この6本の触手は「バッカルコーン」と呼ばれています。その発音は、この姿を妙に表現しているような気がします。 バッカルコーンは体長の半分以上という長さで、非常に素早い動きをします。さらに、バッカルコーンの内側には、かぎ状のフックがあります。それも一つではなく、2つ、多い個体だと3つのフックがあります。
クリオネは、頭から出した6本ものバッカルコーンを使って餌を押さえつけ、貝殻から中身を複数のフックでえぐり出し、養分を吸い出す。捕まえたら絶対に離さない、これがクリオネの衝撃的な食事の全貌です。
なぜクリオネの捕食は怖いのか
頭を割って6本のバッカルコーンを伸ばし、餌を食べる。 クリオネがこんな衝撃的な食事をするようになってしまったのには理由があります。そのキーワードは「小食」です。
クリオネは一生に一回しか食事をしない?
クリオネ、実は、食べる量が非常に少ないのです。 何も食べなくても半年から1年ほど生きることができるといわれています。一度捕食すると、ほとんどを体内で消化、栄養にしてしまい、フンは確認できないほど少ないです。とても飢餓に強い生き物といえますね。
さて、クリオネがなぜ小食なのか、クリオネの餌となる「ミジンウキマイマイ」の数そのものが少ない、または、頭を割らずに海中のバクテリアを取り込んでいるので、捕食を確認しにくいなど諸説がありますが、実際のところ、流氷の海にすむ自然の状態のクリオネの調査、研究することが非常に難しく、生態がまだ解明されていないのが大きな要因の一つです。
解っているのは、少ない餌を発見したら、6本のバカルコーンとフックを使って確実に捕食しなければならない環境にいること。それが「天使」から「悪魔」に変身させてしまうことです。
水族館でのクリオネの餌のやり方
ところで、水族館で飼育されているクリオネにはどうやって餌をあたえているのでしょうか。 福島にある「アクアマリンふくしま」によりますと、餌になる「ミジンウキマイマイ」を生きた状態で採取すること自体が困難といいます。そのため施設にいる300匹ほどのクリオネに行き渡らないとのことです。 しかし、冷凍の餌でも食事をすることが分かっていて餌やりの実演を来園者に見せています。
クリオネの捕食シーンを見るならぜひ、訪ねてください。 1つアドバイスですが、飼育員によりますと、実演で餌を与えても、クリオネたちが無反応で捕食シーンがなかなか見られない場合も。自然環境以外で餌を与える、つまり生きた状態でフワフワと泳いでいるものとは違う冷凍物を食べてもらうことは難しいそうです。運が良ければ、ということでしょうか。
クリオネを飼育してみる?
とは言え「クリオネを飼いたい」 「自宅でバッカルコーンを見たい」と思われる方もいるでしょう。では自宅で飼育することは出来るのでしょうか。
クリオネ、こうやって飼育しています プロの声
クリオネを飼育するプロの方はどうしているのでしょうか。 「アクアマリンふくしま」でクリオネを飼育する際、最も注意していること、それはきれいな海水と水温だです。水温は摂氏1度をきっちりキープし、それ以上にも以下にもならないよう温度管理を徹底しています。
もう一つが、水流と密度。クリオネは泳ぐ力が非常に弱く、水流に任せてフワフワと浮いて生活しています。そのため、自然界では、海流が比較的弱く波もない流氷の下にいることが多いのです。
また、クリオネの「天使の羽」である足翼は、非常にもろいのでお互いがぶつかると傷ができやすく、その後、溶けるように腐敗することがあります。こういった細心の気遣いと徹底した管理の中で飼育しているのです。
実はスーパーで売っている
クリオネについて調べていると衝撃の事実。 なんと近所のスーパーに生きているクリオネの瓶詰が鮮魚売り場に置いてあったのです。それはあくまでお客への展示用でした。しかし、大阪のスーパーでは、同じ「瓶詰クリオネ」を販売して「かわいそうだ」などネット上で炎上したことがあります。
自宅でクリオネを飼育しちゃう?
自宅で飼育する場合について、専門ショップに聞くとやはりプロと同じ、きれいな海水、水温、水流だそうです。 海水と水流については、それらを可能にするグッズが専門ショップで販売しています。アドバイスを頂くことも考えてネットではなく、対面販売・専門ショップに足を運んでみましょう。
クリオネを自宅で飼育する際に、一番、厄介なのが水温です。 これは「水槽を冷蔵庫の中に入れる」しか解決策はありません。まずは、自宅の冷蔵庫のサイズを計った上でその中で飼育する覚悟があるかを再確認しましょう。
飼いたい!でもちょっと考えてみよう
「流氷の天使」を自宅でじっくりと観察したい。 それは難しいけれどもできないことではありません。しかし、専門家によると水族館でプロの方たちが飼育するほうが、健康状態がよく長生きするといいます。
不思議な生態のクリオネのことを考えると、冷蔵庫の中よりもふわふわと流氷の下で漂っているほうが幸せなのか、徹底した温度、水質管理、そして餌にも困らない人の手厚い環境のもとで人の目を楽しませているほうがいいのか。人それぞれ考えは違うと思いますが、無理な飼育などは控えてあげましょう!
まとめ
クリオネが衝撃的な捕食をする理由は生きていく環境が非常に過酷であることが要因の一つです。 そのため捕食方法が頭を割って6本ものバッカルコーン、それもフックを装着し、一度、餌を捉えたら二度と離さない。しかも、過酷な環境のため、一生に一回とも言われる極端に小食になっています。クリオネの天使のような可愛さの裏には厳しい自然環境があったのです。