西穂高岳とは
岳人なら、いつかは登る西穂高岳(標高2909m)、初心者なら憧れの山であり、上級者なら少し物足りないかもしれません。西穂山荘(2385m)から丸山(2452m)、西穂独標(2701m)まで初級レベル、但し初心者は経験者と同行。装備もおろそかにしない。西穂山荘からピラミッドピーク(7峰2750m)、西穂高岳までなら中級者向け、その先奥穂高岳(3190m)までは経験豊富な上級者向けです。経験と技術レベルの向上に合わせて、ステップアップしてやがては西穂山荘から奥穂高岳まで縦走できるようになりたいものです。
西穂高岳ー奥穂高間は第1級難度
西穂山荘から少し登ると丸山(2452m)という小さなピークがあります。ここから奥穂高岳までほぼ一直線で連なった屏風のような連峰を形成し、尾根の両側は切り立った断崖絶壁です。天候の変化が激しく、風雨にさらされたら、上記した難易度は全く成り立ちません。例え上級者であっても天気によっては撤退を余儀なくされる場合が頻発する峰でもあります。
ここは日本で最も遭難事故が多く、北穂高岳ー槍ヶ岳間の大キレットや剱岳の別山尾根、早月尾根のような第一級の難所と同等以上の難易度の高いルートです。縦走ができるのは天気の良い日だけです。従って登頂を行う日程は天気予報を慎重に判断して決定しなければなりません。尾根にある慰霊碑の住人には絶対なってはいけません。
西穂高岳の登山難易度「5D」
夏季と冬季、融雪期では全く異なる。厳冬期登山は技術的に特別な訓練を受けた人でしか登れない。難易度は体力、技術ともに最高位です。 無雪期で春夏秋の難易度について説明します。 長野県山岳総合センターの格付け、西穂高岳は「5D」です。「5」は10段階評価の真中で1泊以上の宿泊が必要となっています。「D」は技術難度です。AからEまでの5段階評価で、Dは上から2番目(上級者向け)でかなり難しい、ということです。但し天気によってはこのデータは成立しません。
ピラミッドピーク
西穂高岳を含むこの連峰は、西穂山荘先の丸山(標高2452m)から順に、ー西穂独標(2701m)ーピラミッドピーク(2750m)ー西穂高岳(2909m)ー間ノ岳(2907m)ー天狗のコル(2835m)ー天狗の頭(2909m)ージャンダルム(3163m)ー奥穂高岳(3190m)と続く巨大な壁となっています。ほぼすべての峰が岩稜地帯で登山に際してはヘルメット着用をおすすめします。常に滑落の危険があります。滑落したら助かりません。装備も完璧にします。 西穂独標から主峰西穂高岳まではいくつものピークがあり、独標から岩稜地帯の岩山を登ったり下ったりが連続します。
主峰西穂高岳が1峰です。11峰まであり、11峰が西穂独標です。4峰がチャンピオンピーク(2816m)、8峰がピラミッドピーク(2750m)です。11もの鋸状のピークがあり、これを超えていかなければ西穂高岳に到着できませんし、その先にも行けません。岩場の急登ばかりで、スリップによる滑落事故が多発しているところです。特に下る時に滑落し易いようです。天気が崩れるとさらに危険です。
新穂高ロープウエイ
1970年(昭和45年)に新穂高ロープウエイが開業しました。西穂高岳登山もこれを機に登山者が急激に増加しました。ロープウエイ終点駅西穂高口駅で、ここはすでに標高2156mです。ここまで麓の新穂高温泉駅から2本のロープウエイを乗り継いで25分で登ってこられます。料金は大人片道1,600円、往復2,900円です。
ここで覚えておかなければならないことは、始発時間と終発時間です。 第一ロープウエイ 新穂高温泉駅ー鍋平高原駅(鍋平高原駅ーしらかば平駅間は徒歩1分) 第二ロープウエイ しらかば平駅ー西穂高口駅 新穂高温泉駅始発は8:30分で、西穂高口駅着が8:55着です。 西穂高口駅発しらかば平行き最終は16:15、夏季は17:15です。
つまり、ロープウエイのその日最初の観光客が西穂高口に朝9時に到着します。1回に121名でその半分が登山客として一挙に登山道に入ってきます。静かな登山を楽しみたいなら上高地の登山口から早朝登り、午前9時には独標まで行っておけば問題ありません。但し下山は常に渋滞に巻き込まれます。 また、下山をロープウエイで考えている人は西穂高口駅の最終に間に合わないと大変です。特に日帰りの人はしっかりチェックしておきましょう。
西穂高岳・独標登山の装備
西穂高岳・西穂独標の登山装備 登山の本格的な標準装備以外に、ヘルメット、エマージェンシーシート、ファーストエイドキッド(緊急医療用品で捻挫、切り傷、打撲、その他に対応) 融雪期では、上記の他にスノーシュー、アイゼン、ピッケル、ツエルト、非常食、ロングスパッツ、ストック、ホーグル、サングラス、見出し帽、グローブ、冬用服装などの装備も必要です。
西穂高岳・西穂独標登山の服装
登山の服装は基本的にレイヤ(重ね着)です。暑くなったら上を脱ぐ、寒くなったら1枚着る。この繰り返しになります。しかし服装を考えるのは登山の楽しみです。派手な服装でも問題ありません。 基本的なレイヤは、ベースレイヤ(下着)+ミッドレイヤ+アウターです。 ベースレイヤ:吸水速乾性のある化学繊維のものがおすすめです。ウールは汗や水分を吸収すると発熱する性質がありますので冬季には効果が高いようです。綿のものはNGです。モンベルのジオラインがおすすめ。
ミッドレイヤ:ベースレイヤから発生する汗を発散させる役目と保温の役目があります。フリーズ、ダウン、ソフトシェルなどが適当で、アウターとしても使えます。ウインドシェルで防風に特化したものもあります。 アウター:風や雨から身体を守るため、内部から発生する汗の透湿性が必要です。防寒着、レインウエアーなど。 夏季には必要ない場合もあります。服装は天気の急変には常に対応できるようにしておきましょう。
【西穂高岳・西穂独標の登山ルート】
西穂高岳・西穂独標登山のルートをご紹介します。半分以上の登山者は新穂高ロープウエイを使ってに西穂高口駅登山口から西穂高岳を目指します。次は上高地から西穂山荘を経て西穂高岳へ、焼岳から縦走して西穂高岳に行く人もいますが、少数派です。外に奥穂高岳から西穂高岳へ、あるいは上高地、天狗沢、天狗のコルから西穂高岳へ行くルートがありますが、登山者はかなり少ないです。5本のルートを紹介します。
西穂高岳ルート:新穂高ロープウエイ西穂高口駅
ルート:ロープウエイ西穂高口駅(標高2156m)ー登山口(起点)-西穂山荘(2385m)ー丸山(2452m)ー西穂独標(2701m)ーピラミッドピーク(8峰2740m)ー西穂高岳(2909m) 歩行距離:4.7km 標高差:761m コースタイム:2時間50分
新穂高ロープウエイ西穂高口駅ー西穂独標ー西穂高岳ルート詳細
日帰りコースです。ロープウエイ駅4Fの出口から千石園地を通って登山口に行きます。ここから登山口の看板があります。登山届所もすぐ横にあります。登山道に入って木道を行き、まもなく避難小屋があり、さらに笹が生い茂る登山道を行き、一旦下って登り返すと西穂山荘到着です。
、西穂山荘から案内板に従って西穂独標を目指します。夏とは言いながら、稜線は寒い、防寒着をしっかり着込んで歩く。登山道はよく整備されており、危険な場所もなく歩きやすい。いきなり急登でハイマツの中を行きます。平坦な道を行きケルン帯を通って丸山到着です。丸山を過ぎると大きな独標が眼前に迫り急峻な岩稜地帯になります。13峰、12峰(11峰が独標)のピークを登り下りしますと独標山頂直下に到着、険しい岩稜地帯、両手両足を使って3点支持を守りながらよじ登る。頂上に着く。ここまで小屋から1時間30分です。360度の大展望を望む。感動が沸いてきます。 独標下山も大変、慎重に足場と手で掴むところを確認しながらゆっくりおります。滑落要注意です。
ここからが今回の核心部です。西穂山荘から独標までとは世界がまると変わり岩稜の連続です。西穂高岳のピークまで正に鋸の歯のようにピークが連なっています。さすがに難度5D、半端ではない。恐れをなして撤退する人も多いとか。11峰から8峰のピラミッドピーク、4峰のチャンピオンピークなどを踏破しながら1峰の西穂高岳主峰を目指します。超がつく危険地帯です。滑落事故が多いです。
岩を掴んで、足をかけて体を引き上げる、岩稜地帯の岩の肌は非常に冷たい。やがて手がかじかんできます。手袋を携帯しなかったことを悔やみます。岩に抱きつくように登り下りを何度も繰り返して、ようやく西穂高岳頂上到着です。天気が急変したら即撤退です。日帰りの人は早朝登山を心がけましょう。
西穂高岳ルート:上高地
上高地西穂高登山口(起点)-焼岳分岐ー西穂山荘ー丸山ー独標ーピラミッドピークー西穂高岳ー西穂山荘ー上高地登山口 歩行距離:10km 標高差:1614m コースタイム:7時間30分
上高地ー西穂高岳ルート詳細
日帰り登山です。上高地田代橋の先に西穂高登山口があります。登山届の提出ができます。 登山口からしばらくは樹林帯のなかを行くことになります。標高差900mの西穂山荘を目指します。ほとんど直登でひたすら登っていきます。登山道は登り易く、随所に標識がありますから迷う心配はありません。 やがて焼岳縦走ルートとの分岐点に到着、ここから20分ほどで西穂山荘に到着します。山荘から西穂高岳までは約2時間39分ほどかかります。西穂山荘から西穂高岳までの詳細は西穂高ロープウエイ登山ルートをご覧ください。日帰り登山の人は早朝スタートとしましょう。
西穂高岳ルート:焼岳縦走ルートー西穂山荘
上高地西穂高岳登山口(1499m)(起点)ー上高地焼岳登山口ー長いハシゴ(2000m)ー焼岳小屋ー焼岳北峰(2444.3m)ー焼岳小屋(2080m)ーきぬがさの池ー縦走ー焼岳上高地分岐ー西穂山荘ー丸山ー独標ーピラミッドピークー西穂高岳ー西穂山荘ー分岐ー上高地登山口 歩行距離:約20km 標高差:1614m コースタイム:約20時間 宿泊:西穂山荘
焼岳縦走ルートー西穂山荘ー西穂高岳ルート詳細
上高地梓川の田代橋を渡るとすぐに西穂高岳登山口があり、ここがスタートとなります。登山口を入ると焼岳登山口があり、こちらから焼岳に向かいます。樹林帯の中の道を行きますと長いハシゴ、鎖場があり、これを登ると焼岳小屋に到着します。山頂を目指して中尾峠分岐を通って登っていきますと焼岳北峰に到着、硫黄の臭いが充満し、蒸気が噴出して、活火山であることを実感します。焼岳の現在の噴火警戒レベルは1です。北峰は現在もなお入山禁止です。頂上で360度の大展望を楽しみましょう。
焼岳小屋から西穂山荘までの縦走は展望がありません。ひたすら歩くだけです。槍見台を通って、焼岳上高地分岐に到着、ここから20分ほどで西穂山荘です。この先西穂高岳までの詳細は上記ロープウエイ西穂高口駅ルートをご覧ください。下りは西穂山荘から分岐を経て上高地ルートをたどり、西穂高登山口に至ります。上高地から日帰り登山が可能ですが、健脚向けです。日帰りではなく西穂山荘で1泊をおすすめします。
西穂高岳に至る他のルート
2つの難度の高いコースを紹介しますが、日帰りは無理です。十分な余裕をもって挑戦してください。
奥穂高岳ー西穂高岳縦走ルート
西穂高岳だけを目標としてこのルートを行く人は少ないでしょうが、西穂高岳に至るルートとして上げておきます。 奥穂高岳ー西穂高岳間は、地図では破線で示されておりバリエーションルートです。国内最難関の危険なルートです。剱岳や北穂の大キレットの岩稜歩きが問題なく行える人、技術、体力、経験が十分ある人でないと踏破は難しいでしょう。天気が悪くなったら上級者でも無理です。滑落の危険があります。 ルート 奥穂高山荘ー奥穂高岳ージャンダルムー天狗のコルー西穂高岳 コースタイム:片道約7時間
天狗沢ルート
西穂高岳への登頂ルートとして確かにありますが、一般的な誰でも登れるルートではありません。上高地の岳沢から天狗沢を通って、奥穂高岳ー西穂高岳ルートの稜線上の天狗のコルに出る。そこから稜線を通って西穂高岳に至るルートです。天狗沢のルートは、奥穂高の数々の難所を踏破したベテランが選ぶ究極の難ルートで岳沢ー天狗沢ー天狗のコルージャンダルムー奥穂高岳、というルートをとります。
天狗沢は7月末ごろまで残雪があり、アイゼン、ピケルが必携です。8月始めは雪解けの直後のため浮石が多く、歩きにくく、滑落があり危険です。夏の終わりから秋口にかけてようやくルート上の石が安定する、という場所です。 ルート 上高地岳沢湿原登山口ー岳沢小屋ー天狗沢ー天狗のコルー間ノ岳ー西穂高岳 コースタイム:約7時間
まとめ
山登りを始めて経験しようとする人が、最初に独標、西穂高岳を選び、山の経験者に引っ張られるようにして登頂を成功した時、途端に山の魔力に魅了され、夢中となるでしょう。最初に西穂高岳を選んだところがミソで、その頂上に立った時、普段では絶対見られない大絶景に感動するでしょう。仲間と抱き合い、達成感が共有できるでしょう。ここには全く異なる別な世界があります。
それにしても穂高連峰は大変な岩稜地帯、いたるところ難所です。初心者の単独登山は自殺行為です。山岳救助隊のお世話にならないよう、十分な経験と技術を積んでから、これらのルートに挑戦しましょう。