タガメってどんな虫?
かつては田んぼや池で普通に見られたタガメですが、今やすっかり見かけなくなっています。「タガメを見たことないよ」という人も多いでしょう。最初にどんな昆虫なのかおさらいしておきましょう。
タガメは大きなカメムシ
タガメはカメムシ目コオイムシ科の昆虫です。体の形はカメムシと同様に縦長の五角形に近いですが、カメムシよりも遥かに大きく、体長は5cmから7cm弱にもなります。色は黒茶色で、黄色い縞模様が見られるものもいます。日本で最大の水棲昆虫であり、最大のカメムシでもあるのです。漢字でも「田鼈」と書きます。
鎌を持つ凶暴昆虫
タガメの最大の特徴といえば、鎌状になった大きな前肢。この鎌で獲物を捕食します。この風貌から水中の殺し屋、ギャングなどと呼ばれており、実際も攻撃性の強い生態です。前肢以外の四本の肢は、泳ぐためにオールのように使います。
タガメの分布
日本ではタガメは本州・四国・九州の水辺に生息しています。数が減っているといいますが、ペットで飼育されたり、アウトドアで採取したりできますし、外国では料理されたりもしています。ただし、生息地は局所的だといわれ、いる所といない所がはっきり分かれるようです。
お尻から空気を吸う
タガメの呼吸器はお尻にあります。ときどきお尻を水面に出して呼吸をするのです。この呼吸器の仕組みはシュノーケルと同じで、水中で逆さまになる生態はこれが理由です。この呼吸器が汚れると酸欠になるので、後肢でよく掃除している姿が観察できるでしょう。
タガメの寿命と繁殖
タガメの生態にも興味深いものがいくつかあります。最初に寿命と繁殖から見ていきましょう。
幼虫は脱皮で成長する
孵化したばかりの幼虫でも、タガメはいっぱしの捕食者です。幼虫は脱皮して大きくなり、1ヶ月半くらいの間に5令で成虫になります。寿命は1年といわれていますが、飼育下では2年~3年生きるb場合もあるといいます。
繁殖期は初夏
5月6月がタガメの繁殖期。この時期になると、オスが腹で水面を叩いて波を立て、メスを呼ぶ行動が見られます。交尾と産卵は夜に行われます。60~100個の卵を、水面から出た草などの茎に産みつけるのです。10日ほどで孵化した幼虫は水に落ち、すぐに小さな獲物を狙うようになります。繁殖後は死んでしまう個体も多いそうです。
タガメのオスはイクメン、メスは肉食!?
コオイムシ科のタガメは、「子負い」といわれるように強面なのに子育てする生態です。メスのほうがオスより大きく、行動も大胆です。
子育てはオスの仕事
水面上に産みつけられた卵は、水分がなくなると死んでしまいます。タガメのオスは卵を守り、ときどき水をかけてあげるなど、まめまめしく働きます。コオイムシは背中に卵を背負う生態なのですが、タガメではほとんど見られません。幼虫を保護するために背中に乗せることはあるようです。
メスは母親失格の浮気者
イクメンのオスに比べ、タガメのメスは奔放です。交尾し、産卵を終えると、別なオスを探しに行きます。他のメスが産んだ卵を破壊して、それを守るオスを奪うことも。それはしっかり育児するオスを見極めていると考えられています。メスは年に3回ほど産卵します。自然下ではそれで死ぬ場合が多いのですが、飼育しているタガメで翌年まで生きて、また産卵してくれますよ。
タガメの凶暴な食生活
水中では最強の捕食者であるタガメ。とにかく獰猛な生態で、自分より大きな獲物まで捕食するくらいです。タガメの食生活とはどんなものでしょうか。
タガメの捕食方法
タガメの捕食には、あの大きな鎌が欠かせません。UFOキャッチャーのクレーンのような左右の鎌で獲物を挟み込み、針状になった口吻を差し込みます。注入するのは麻酔毒と消化液です。殺す毒ではありません。幼虫も毒を持ち、同じ捕食法をします。
獲物を搾り取る
消化液によって獲物の体内の組織が破壊されドロドロになります。タガメの食事は肉を液状にして吸い込むというやり方な。これによって獲物は骨と皮を残して食いつくされてしまうのです。この捕食方法が吸血鬼じみていて、「残酷で不気味な虫」というレッテルを貼られているように思います。
タガメの獲物は幅広い
タガメは水中にいるものならなんでも麻酔毒で動きを止め捕食します。小魚、水生昆虫、オタマジャクシ、カエルやイモリなどの成長した両生類などが獲物です。時にはネズミやヘビ、カメなども襲うといいますから、その攻撃性は相当なようです。猛毒のマムシも襲った記録がある昆虫はタガメくらいでしょうね。
タガメは毒持ち?刺されたらどうなる?
怖いもの知らずのタガメは人間を刺すこともあるそうです。麻酔毒や消化液は人間にどんな影響があるのでしょうか。その対処についてまとめてみました。
毒は心配なし。でも腫れる
タガメの口吻は針状なので、「噛まれる」ではなく「刺される」になります。麻酔毒を注入されるのですが、この毒の心配はありません。しかし、大きく腫れあがることは覚悟したほうがいいですね。腫れただけなら軟膏でも塗り、絆創膏かなにかを貼っておくだけでも大丈夫だと思います。腫れや痛みは数日で治まるはずです。
消化液で壊死の可能性もある
問題なのはタガメの消化液です。獲物を体内から液状にする毒なので、重症になると刺された部分が壊死してしまうのだそうです。刺されたらすぐ毒抜きをしたほうがいいでしょう。傷口を指で絞ってやるだけでも被害を食い止められます。あとはばい菌が入るのを防げば、深刻な事態にはならないでしょう。
病院も行っておく
心配であれば病院に行くことをお勧めします。皮膚科で構いません。タガメに刺されることは稀ですが、対処法は蜂に刺された場合と変わらないのです。抗生物質の薬でも出してもらえば、治癒も早いですしね。
タガメにも天敵はいる!
なんとなく無敵のようなタガメにも天敵という嫌な相手がいます。それらの天敵はタガメ激減の理由にもなっているようです。
昔からの天敵サギ
タガメにとって、どうしても勝てない天敵はサギ類です。サギは水辺で水中の生き物を捕食しています。タガメも餌のひとつに過ぎません。長く、鋭い口ばしをピンセットのように使い、上手に挟まれてしまってはタガメも抵抗のしようがありません。丸飲みされてしまうのです。
新たな天敵アメリカザリガニ
水中に天敵がおらず、最強を誇っていたタガメですが、昭和になってアメリカザリガニが輸入され、日本で繁殖しだすと立場が危うくなりました。日本のザリガニよりも大きなアメリカザリガニが、タガメの天敵になってしまったのです。アメリカザリガニはタガメ以外の水生生物にとっても天敵で、最悪の特定外来種といわれているのです。
最凶の天敵は農薬だった
タガメの天敵といえば人間を外すことはできません。実際、農薬がタガメを激減させた一番の理由です。また、タガメの暮らす田んぼ、水辺の縮小もタガメにはつらいことです。アメリカザリガニを移入させたのも人間ですしね。最大の天敵といえます。おかげでタガメは住処を追われ、絶滅を危惧されるようにもなってしまったのです。
タガメが飛ぶって本当?
タガメには羽があり、飛ぶこともできます。水陸空とタガメはなかなか高性能です。あの見た目で飛ぶ姿はかなり衝撃的!
タガメはなぜ飛ぶ?
タガメが飛ぶのは餌を求める、繁殖のためなどと考えられています。飛ぶ前には水面から出て、体を乾かしてから飛ぶそうです。特に初夏の頃はタガメが飛ぶことは珍しくありません。長距離飛ぶことも可能で、地方では夜に蛾などと一緒に飛ぶ姿が目撃できるでしょう。
タガメは光が大好き
多くの昆虫と同様に、タガメも光に引きつけられる生態です。街路灯や誘蛾灯で飛ぶタガメが見やすいでしょう。これは正の走光性というもので、光に対して正の方向(近づく)に飛ぶ生態となります。タガメの採取には水のある場所へ行きますが、飛ぶタガメを灯火採取することもできるというわけです。
タガメとタイコウチ、似ている他人
日本の水辺にはタガメとよく似たタイコウチという昆虫もいます。見た目も生態も捕食法も天敵も生息地も丸カブリで、間違われやすいのですが、両者はかなり違いもあるのです。
最大の違い。尻尾で区別
ともに大きな鎌状の前肢を持つタガメとタイコウチ。見分ける部分はタイコウチは長い尻尾のような呼吸器を持っているということです。どちらもお尻にある呼吸器ですが、タガメのは短くほとんど見えません。タイコウチの呼吸器は体長と同じくらい長いので、これさえ知っていれば両者を見間違うことはないはずです。
細かな違いもある
細かく観察すると違いはまだまだあります。タガメはタイコウチよりも大きく、幅も太いです。また、タガメの鎌は太く、タイコウチの鎌は華奢です。これはタイコウチが太めのミズカマキリだからで、どちらもカメムシ目ですが、タガメはコオイムシ科でタイコウチはタイコウチ科になります。飼育や採取の仕方は同じで、どちらもペットにされています。
タガメの生息地が減っている
タガメの生息地は年々減っています。今やタガメは滅多に見られない昆虫になってしまいました。
タガメの生息地を探そう
飛ぶことで生息地を広げることもできるタガメですが、棲みやすい場所はどんどん減っているようです。現在は山間部の田んぼや池でやっと見られるだけです。水質が良く、餌となる生物が豊富な水場なら可能性がありそうです。
タガメ生息地での注意
タガメが棲み、幼虫も育ちやすい場所は、とても貴重な場所です。くれぐれも自然を破壊したり、天敵のザリガニを放流してはいけません。タガメが飛んで来てくれる可能性もありますから、そういう環境は大切にしたいものです。
タガメを採取しよう!
大物のタガメを採取するのは虫好きのロマンです。採取のやり方やコツを解説しましょう!
水辺の採取
タガメが掴まり、産卵もできる草や枝のある水場がタガメ採取のスポットです。網を水中に入れてガサガサ揺するとタガメが採取できます。幼虫が採取できることもあります。宝探しみたいで楽しいですよ。刺されないように注意しましょう。飼育しないのであれば、そのままリリースしてあげてください。
陸で採取
タガメが飛ぶ季節は、陸でも採取が可能です。採取は偶然となることが多いかもしれません。街路灯の近くで飛ぶタガメが見られる地域なら、陸での採取のほうが簡単だと思います。白い布に光を当ててカブトムシのようにおびき寄せて採取することもできます。
タガメの飼育環境
タガメは飼育しても面白い昆虫です。飼育自体は難しくありませんが、注意点もいくつかあります。
タガメ飼育に必要なもの
タガメを飼育するのに水槽と止まり木は欠かせません。水槽はプラスチック製やコンテナケースでもいいです。飼育する数にもよりますが、30cm~45cm幅があればじゅうぶんです。止まり木はタガメがとまる他、産卵のためにも必須です。水草でも構いません。木の枝なら剣山などで立てておきましょう。飛ぶ危険もありますから、蓋も絶対に用意してください。
飼育にはろ過機と砂もいい
砂やろ過機もあると飼育しやすいと思います。なくても問題ないですが、派手な捕食をするタガメの飼育では、水の汚れはどうしても起こります。ろ過機や砂のバクテリアが水質をきれいに保ってくれるでしょう。ただし、タガメは強い水流を嫌う生態ですから、水流を抑えられるろ過機がいいですね。
飼育する水温
タガメは寒ければ冬眠するので、ヒーターは要りません。30℃以上になるとタガメは弱るので、夏場の温度管理には気をつけましょう。幼虫は成虫よりデリケートですから、水温・水質の管理を心掛けたいものです。
タガメの育て方
環境が整ったらタガメを飼育してみましょう。成虫、幼虫どちらも飼育でき、繁殖もできます。
共食いに注意
凶暴なタガメは数匹飼育していると共食いする怖れがあります。仕切りなどを利用して、一匹ずつ飼うイメージです。産卵のためにペアリングする際は、満腹にさせてから行うと良いでしょう。産卵に成功しても安心はできません。産卵後のメスタガメは次の産卵のために食欲旺盛になっています。産卵後はオスに子育てを任せ、メスをすぐ分けないとなりません。
与える餌は?
タガメの餌は生餌になります。ペットショップで飼うのなら、金魚、メダカ、餌用のコオロギ、ゴキブリなどです。餌用にオタマジャクシやカエルを自分で採取するのも安上がりです。幼虫なら小さいコオロギがいいでしょう。
幼虫の飼育は?
卵が孵化すれば、数十匹の幼虫が誕生します。まとめていると、幼虫でも共食いします。ある程度は淘汰と思っていて構わないでしょう。大きくなったら隔離を考えます。小さいうちはプリンなどの容器で間に合います。
タガメの仲間たち
タガメの仲間は世界に20種類。どんな仲間がいるのでしょうか。
世界のタガメは大きい!
南米には10cmにもなるナンベイオオタガメがいます。逆にアメリカ南部のメキシコタガメはたった4cmしかありません。アメリカには他にアメリカタガメ、フロリダタガメがいますが、日本のタガメよりも丸みがあり、ゲンゴロウのようです。台湾やアフリカの一部にもいて、日本タガメよりも大きいのですが、腕っぷしが逞しいのは日本タガメなのだそうです。
タガメモドキというのもいる
西アフリカにはタガメモドキという昆虫もいます。姿や生態はタガメとそっくりなのですが、前肢の爪がハサミ状になっていて、タガメとは別種に分類されています。卵を背負うそうですから、コオイムシとタガメの中間という虫のようです。
タガメを食べてみよう!
あまり美味しそうには見えませんが、タガメは料理にも使用されます。東南アジアではタガメ料理は普通で、貴重なタンパク源となっています。
びっくりタガメ料理。味はフルーティー?
タガメ料理はタイなどで屋台で売られています。東南アジアは昆虫料理の宝庫で、タガメ料理も珍しくありません。唐揚げや、茹でて他の料理にトッピングします。食べた人によるとタガメは香りがよく、洋ナシの味に似ているのだそうです。昆虫料理は食料が乏しかった地域で発展し、いろいろな種類の料理になっているようです。
日本にもタガメ料理があった!
日本でも昔一部でタガメを佃煮にして食べていたといいます。今はさすがに見られませんが、アジアン料理店やゲテモノ料理店でタガメを提供していることがあります。チャレンジしたい人はネットなどで店を探して、味わってみてはいかがでしょうか。
タガメのまとめ
タガメは豊かな水の象徴
タガメが減っているということは、豊かな水場が失われているということでしょう。水の豊富な日本にとって由々しき事態といえそうです。タガメは日本では珍しい大型で獰猛な昆虫です。絶滅などしないように、自然保護の意識を持って釣りやアウトドアを楽しみましょう!