ばねとは
物体には弾性と呼ばれる、力が加わって変形して元に戻ろうとする性質があります。ばねとは「力を加えて変形させ、それがもとの形に戻ろうとする力を利用した機能を持つ要素」といえます。また、ばねは材質や形状、性質もさまざまで、私たちの身の回りのあらゆるところに使われています。そんなばねですが、ばねには大きく3つの特性が求められます。
復元力
ばねには、力を加えると変形し、力を取り除くと元の形に戻るという性質を持っています。この元に戻ろうとする力が復元力です。加えられた荷重に対する変形をたわみといいます。荷重とたわみには比例関係を持っています。
エネルギーの吸収・蓄積
ばねが変形するとき、弾性エネルギーという形でエネルギーがばねに蓄えられます。蓄えられたエネルギーを放出させると、ばねは機械的な仕事をします。身近なところでは、ぜんまい時計や弓を思い浮かべるといいでしょう。
固有の振動数
ばねは力を受けている状態から元に戻るとき、一定の振動数で振動します。これをを固有振動数と呼びます。一般に、ばねが硬いと固有振動数が大きくなり、柔らかいほど小さくなります。この固有振動数は、ばねの質量やばね定数といわれる値によって決まります。
ばねの分類
ばねを用途から分類すると日用品、車両、電気機器、構造物と多岐にわたります。そしてばねに加わる荷重が静的なのか動的なのかも考慮します。使用環境により金属、非金属のどちらかも大事ですね。取付場所によって大きさ、形状も変わってきます。ばねはその守備範囲の広いことから、分類にきまりがなく状況により使い分ける必要があります。具体例とともに見てみましょう。
板バネの用途による選び方
板バネは取り付け方法が簡単でエネルギーの吸収能力が大きく、製造加工も比較的容易であるといわれています。また、立体的に成形できる自由度が高いのも特徴です。そんなシンプルで多彩な板バネは、私たちの身の回りのどんなところで使わているのでしょうか。
板バネの用途1 緩衝用
まずはじめに振動や衝撃を吸収してやわらげる「緩衝用」として用います。真っ先に思い浮かぶのが、車両の懸架装置(サスペンション)ではないでしょうか。貨物自動車やトラック、バスなどに採用されています。ひと頃のオフロード車などもこの板バネが基本でした。他には、スキー板などはまさしく板バネです。
板バネの用途2 復帰用
つぎに、復元力を動力源とする動力発生用や位置の「復帰用」として用います。ここで思い浮かぶのは何よりも弓道の弓ではないでしょうか。水泳の飛び込みもそうですね。オルゴールにも使用されています。身近な例として、ステープラーの針を押し出す薄板、あれも板バネです。
板バネの用途3 締結用
そして、物をはさみ締めつける「締結用」として用います。ここでは何が思い浮かびますか。ピンセットやトング、シャープペンシルのクリップなどがそうですね。書類を挟むときに使うハンドルのついたクリップもまさしく板バネです。
板バネの材質による選び方
弾性を持った材料はすべてばねとなりえますが、材質で分類すると、金属と非金属の2種類になります。簡単に分類してみます。 ・金属ばね 鉄鋼ばね:炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼など 非鉄金属ばね:銅金属、ニッケル合金、チタン合金など ・非金属ばね 高分子材ばね:天然ゴム、プラスチック、繊維強化材など 無機材ばね:セラミックス 流体ばね:空気、不活性ガスなど
金属
広く使われているのが金属ばねです。コストが安いだけでなく、大きな荷重を受け持つことができたり、大きなたわみ量を確保できたりするのがメリットです。 炭素鋼は、ばね鋼鋼材として、広く一般的に使われています。炭素を主な添加元素とし、他成分の含有量によりさらに分類されています。 合金鋼は、炭素以外の成分を加えて鋼の性質を改善したものです。 ステンレス鋼は、錆や熱に強いといった特性があります。 非鉄金属では、 銅合金は、電気伝導性が良いので、コネクタや電気機器などに使われています。ただし鋼材と比べるとコストが高くなります。 ニッケル合金は、耐食性、耐熱性および耐寒性に優れた特性をもっていて、400℃以上の高温下で使用されているようです。 チタン合金は、鋼と比較して弾性率と比重が小さいので、ばねを軽くしたい場面で利用されています。ただしコストが高いです。
非金属
金属では実現できない特性が欲しいときは非金属材を使います。 天然ゴムは、汎用性が高く、金属と比べるとばね定数を自由に調整できる、ゴムの内部摩擦によって変形時に減衰力が発生する利点があります。しかし、ゴムばねの挙動は明確に計算できないことが難点です。 プラスチックは、金属と比べて軽い、錆びない、加工が容易であることが利点です。ただし、強度が低いことが難点です。これを克服するために、繊維強化プラスチック(FRP)、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などがあります。 セラミックスは、脆性材料なので、壊れやすく、強度のばらつきもあるため、これまでは使われてきませんでした。技術の進歩により、耐熱性を活かした700~1000℃の高温下で使われています。
板バネの形状による選び方
板バネはその名の示すとおり、板形状をしたものはすべて板バネに分類されます。それゆえに形状による種類は実に豊富ですが、大別すると、「重ね板ばね」と「薄板ばね」の2種類になります。多く場合、板の曲げ変形の特性を活かした場面に用いられます。
重ね板ばね
複数の板材を重ねた板バネです。中央部分が厚くなるように板を重ねることで、ばねに生じる曲げの力を均等にできます。車両のサスペンションがまさにこれです。板材同士が接触して摩擦することで振動を減衰させています。
薄板ばね
薄い板材を用いたばねになります。形状に決まったものがなく、あらゆるところに使われています。一般的には、2mm程度までの板厚のものを薄板ばねと呼ばれています。このように小形であることから、電池の接点やスイッチ、抜け止め金具などで用いられています。
板バネの計算について
どんな部材もそうですが、適切に使用しないと大変危険です。板バネも同じです。板バネの計算の基本は材料力学で示されている式が使えます。荷重が加わった時にばねに生じる最大応力とその位置、そこから求められるたわみやひずみ、それらは形状や材質から決まる各種定数などが多くかかわってきます。ここでは押さえておくべき用語について説明します。
応力
ばねに外力(荷重)を加えると、材料の内部には外力に抵抗する力が発生します。材料に発生する応力が大きくなると破損します。もうお分かりですね。応力とは、材料に発生する単位面積当たりの抵抗する力のことです。 応力 = 力 / 断面積 であらわされます。応力には、引張り応力、曲げ応力、ねじり応力があります。通常1種類の応力だけが生じることは少なく、複数の応力が生じます。
ひずみ
ばねに荷重を加えると変形します。このとき変形前の形に対する変形の割合をひずみといいます。荷重方向のひずみを縦ひずみといい、直角方向のひずみを横ひずみといいます。 ばねのような弾性体では荷重と伸び、応力とひずみは比例関係にあります。ばねを選ぶ際にはこの応力とひずみの関係を計算で確認してください。
ばね定数
ばねに荷重を加えると変形します。このときの加えた力をF、変形量をxとしたときに、kを定数とした関係が成り立ちます。 F = k × x このkをばね定数と呼びます。 ばね定数が大きいほど硬いばねといえます。
板バネの加工について
板バネを加工するときに気を付けたいのが、その材質や形状に適した加工方法があるということです。加工方法については大別すると、「熱間成形」と「冷間成形」の2種類になります。一般的には、大型のばねや特殊な加工には熱間成形を、小型のばねには冷間成形にて行います。
熱間成形
主に900~1200℃という高温下で加工する方法で、金属の再結晶温度以上の高温となり、加工がしやすいのが特徴です。加工後すぐに急冷してあげます。これを焼入れといいます。こうすることで硬い鋼ができます。しかしこのままだともろく、不安定な状態なので、所定の温度に再度加熱してあげます。これを焼戻しといいます。この処理を行うことで、ばねとしての特性が現れます。難点として、精度の高い加工は苦手です。薄板に対しても加工が難しくなります。
冷間成形
主に720℃いかで加工する方法で、鋼の持つ金属組織が緻密になる特性を持ちます。金属に過度の温度をかけないため、精度の良い加工が可能となります。これにより金属は加工硬化が促進され、材料自体が硬くなります。難点として、大きな力で加工しなければならないことや、加工が過度になると内部歪を生じ、残留応力の蓄積や、粘り強さが減少することがあるそうです。残留応力の解決策として、低温焼きなましを行います。
ばねの歴史について
私たち人類がばねの特性を利用した最初の例として、動物捕獲のための罠だといわれています。ネアンデルタール人の時代です。もちろん、材質は木です。次に使われるようになったのは弓です。弾力のある木の枝に弦を張り、狩猟に使うようになりました。旧石器時代後期だそうです。金属でばねの特性を利用した鋏が使われるようになりました。手芸用でよく見る、U字形のあのハサミです。 ところで、ばねの語源をご存知ですか。諸説あるようですが、国語辞典『大言海』では、「跳ねること」が訛って濁って「ばね」になったと記しています。「跳ね(はね、ハネ)」と書いてみますと、なるほど納得ですね。
ばねがばねでなくなるとき
ばねがへたった、と言ったことはありませんか。ばねの機能が低下した、ばねがばねでなくなた状態ですね。ばねは荷重を加え、取り除くとひずみがなくなり元に戻ります。これは弾性変形ですね。ところが、元に戻らなくなった場合、これを塑性変形といいます。これをへたりといい、ばねとしての機能を失くしてしないます。こうならない範囲でばねを使用することが重要です。そのためにもしっかりと計算をし、永くばねを使ってください。