冬の代表花 椿
椿のイメージとして、冬から春の季節に花が咲き、厚みがあり艶やかな濃緑色の葉、円筒形に束になった黄色い雄しべ、それをを囲むようにお椀型に付く白や赤の花びら。そして樹の下には形を保ったままぽとりと落ちた花。というイメージが一般的でしょうか。
椿は多くの品種を持つ
このイメージに当てはまるものは、椿の中でも日本原産の”ヤブツバキ”だと思いますが、椿は新しい品種を作りやすい花木であり、椿ほど花の色や形が多彩で、大・中・小さまざまな花を持つ花木は他にないでしょう。
花だけではなくその木材や種の油など、古くから日本人に親しまれてきた椿の種類と特徴、開花時期についてご紹介いたします。
椿の種類
椿はツバキ科ツバキ属の常緑樹で、英語ではカメリア (Camellia)。日本原産の原種であるヤブツバキ(学名:カメリア・ジャポニカ)がその代表で、別名はヤマツバキ(山椿)です。
このほかの種類として、同じく日本原産の原種であるユキツバキ(学名:カメリア・ルスチカーナ)、または交配などで作り出された数々の園芸品種がありその種類は何千にも上りますが、その80%ほどがヤブツバキの系統になります。
花の色は赤や白が代表的ですがピンク色や2色の花びらのものもあり、また花びらが個々に散るのではなく、花ごと落ちる特徴があります。
”椿”と”山茶花”
椿とよく似た花に山茶花(さざんか)があります。ともにツバキ科ツバキ属の花木、で日本原産の原種としてサザンカ(学名:カメリア・サザンクワ)、ヒメサザンカ(学名:カメリア・ルチュンシス)があります。
ヒメサザンカは日本の椿のなかで最も香りが強い特徴があります。
なお、記事中の「椿」「山茶花」の漢字表記につきましては、一般的な椿をあらわす際に用い、「ヤブツバキ」「サザンカ」のカタカナ表記につきましては椿のなかの特定の種類をあらわす際に用いておりますのでご了承ください。
椿と山茶花の違いについて
椿と山茶花、同じツバキ科ツバキ属の花木でよく似ていますが、その特徴に違いもあります。園芸品種につきましては多様性に富んでおりますので区別は難しいのですが、原種の区別の仕方についてご紹介いたします。
葉による区別
ヤブツバキ、ユキツバキともに葉が比較的大型で、多くの場合長さ8cm以上、幅4cm以上あり、表面には強い光沢があります。 これに対してサザンカの葉は小型で、長さ6~7cm、幅3cm程度で葉の表面の光沢は比較的鈍いので、慣れれば葉だけでも区別することができます。
開花の習性による区別
開花の習性にも違いがあり、ツバキの花は原則的に寒い季節、厳寒期以降の気温の上昇に反応して咲き始めるため、開花前線は暖地から次第に北上していきます。 これに対してサザンカの花は秋以降の季節に気温の低下に反応して開花するため、寒冷地や内陸部から咲き始めて、開花前線は南下するのが通常です。
花の散り方による区別
ヤブツバキは雄しべの下部が互いに癒着したいわゆる筒芯となり、筒の下部と花弁の基部も癒着するため、花が散るときは雄しべと花弁がくっついたまま落下します。
ユキツバキの雄しべは筒状にはならず基部のみが互いに癒着しますが、落下時には雄しべと花弁がくっついたまま落下します。 これに対してサザンカは雄しべは基部だけで軽く癒着し、雄しべと花弁は癒着していないため、花が散るときは雄しべや花弁がそれぞれ分離して落下します。
そのほかの違い
このほか、花の香りにつきましてサザンカに比べてツバキは香りがなく、またサザンカの花の雌しべの付け根付近(子房)には毛がありますが、ツバキの子房には毛はありませんので、この特徴の違いで区別できます。
椿の自生地の分布
日本に自生する原産の原種であるヤブツバキ、ユキツバキ、サザンカおよびヒメサザンカの4種の分布につきましてご紹介いたします。
ヤブツバキの自生地
ヤブツバキは南は九州から北は青森までの広い地域に分布しており、南部は自生密度が濃く海岸から内陸部の山地まで自生していますが北部は太平洋側・日本海側ともに海岸の暖地に局部的にしか自生していません。青森県の椿山で自然分布は終わり、北海道には自生していません。
ユキツバキの自生地
ユキツバキは南は滋賀県の北部から北陸地方、東北地方の日本海側に自生し、富山県、新潟県には多く自生します。秋田県の田沢湖付近が北限で、山地多雪地帯にのみ自生する積雪順応型の特徴を持つ椿です。
サザンカの自生地
サザンカは四国・九州から西表島などの海岸から山地一帯に散在しています。
ヒメサザンカの自生地
ヒメサザンカは琉球列島の固有種で、奄美大島の山林地帯から沖縄本島、石垣島、西表島まで分布し森林中に自生しています。
日本以外には、中国南部、ベトナム、ミャンマー、ネパール東部、フィリピン、ボルネオ、インドネシア、スマトラなどの地域に自生しています。すべての野生種はアジア東南部に自生しており、日本はその分布の北限に当たります。
椿の開花時期
椿の花はその品種によって開花時期が異なり、秋から春まで楽しむことができます。 原種の椿の開花時期は、ヤブツバキ、ユキツバキは2月から5月ごろまでが花の時期となり、サザンカは10月から12月ごろになります。沖縄など温暖な地域に自生するヒメサザンカの花の時期は12月から2月頃までです。
椿の季語
冬から春にかけての季節に白や赤の花が咲く椿。その椿の季語ですが、「寒椿」「冬椿」は冬の季語、「花椿」は春の季語です。また花ごと落ちる様をあらわす「落椿」も春の季語です。
椿の花言葉
日本に自生し昔から日本人を魅了してきた椿はやがて欧米へ輸出され、外国でも栽培されるようになりました。この椿の花言葉につきまして、日本および西洋での花言葉それぞれご紹介いたします。
日本での椿の花言葉
椿の花言葉は、「控えめな優しさ」 「誇り」。凛とした花の印象と、香りが控えめなところが由来のようです。 赤やピンクの花言葉は控えめなものの、対して白い椿は特別な花という印象です。また品種による花言葉もあります。侘助という品種の花言葉は「控えめ」 「簡素」 「静かなおもむき」 「慰めてあげます」です。
椿の花の色ごとの花言葉
赤い椿の花言葉:「控えめな素晴らしさ」 「気取らない優美さ」 「謙虚な美徳」 ピンク色の椿の花言葉:「控えめな美」 「控えめな愛」 「慎み深い」 白い椿の花言葉:「完全なる美しさ」 「申し分のない魅力」 「至上の愛らしさ」
西洋での椿の花言葉
西洋での椿の花言葉はadmiration(感嘆、敬愛、憧れ、称賛の的)。日本の花言葉とは違って、白い椿はやや控えめな印象でしょうか。
西洋での椿の花の色ごとの花言葉
・赤い椿の花言葉 You're a flame in my heart(あなたは私の心に灯る炎) ・ピンクの椿の花言葉 longing(憧れ、思慕、熱望) ・白い椿の花言葉 loveliness(かわいらしい、いじらしい)、adoration(崇拝、崇敬、愛慕)
「罪を犯す女」?なにやら怖い花言葉が…
西洋ではもうひとつ椿の花言葉があり、それは「罪を犯す女」です。 これまでご紹介してきた椿の花言葉とは真逆の、怖い花言葉ですが、これは1848年に発表されその後オペラや映画などが上映された小説、フランスの作家 アレクサンドル・デュマ・フィスの「椿姫」が由来になっています。
高級娼婦と純朴な青年との物語
「椿姫」(原題は”椿の花の貴婦人”)は、白や赤の椿の花を身に着けた高級娼婦と純朴な青年との物語です。なおこの小説をもとにジュゼッペ・ヴェルディが1853年に発表したオペラ「椿姫」は、原題は”堕落した女”というタイトルがつけられ、主人公の娼婦や青年の名前も変更されています。
椿と日本人のかかわり
北海道を除く日本の山野に数多く自生し、寒い季節に白や赤の花を咲かせる椿は昔から日本人を魅了していたようで、「古事記」や「日本書紀」、「万葉集」などに登場しています。
またその木材や種子の油など大事な資源として古代から日本人の生活に密接な、重要な植物でありました。 自然の中にあった椿を鑑賞したり資源として利用するため、次第に庭に植えて栽培するようになったのです。
椿の栽培の歴史
椿は自家受粉を嫌いますので、結実した種子は他の木との交配で生まれたもので親の椿と全く同じ花は咲きません。
こうして他の木との交配を続けるなかで親を凌ぐほどの美しい花であったり、花の形や色の変化、花だけではなく葉の変化など多くの品種が生まれてきたのです。
やがて種から人の手で育てていく技術が発達して椿の園芸品種の栽培がさかんになっていきました。やがて椿は茶道や華道に用いられ、いけばなの花材や茶室に飾るために新しい品種が求められ、作られていきました。
江戸時代には二代将軍徳川秀忠が椿をことさら好み、様々な品種を集めて栽培したこともあり椿の栽培は大流行しました。 明治時代に入ると外国の花木が輸入されるようになったため椿の鑑賞や栽培の人気は薄れていきましたが、逆に日本の椿は欧米へ輸出されて外国でも優秀な品種が作り出されるようになりました。
椿の新種を作る
たくさんの種類の園芸品種が生み出されてきた椿ですが、新しい品種を生み出すことはそれほど難しい作業ではないようです。(もっとも、偶然生み出されるものや、望んだ通りの花にならないなどはあるでしょうが)
種をひろって育てる
新しい品種を生み出す方法としては、一つに”種をひろって育てる”方法があります。椿は自家受粉を嫌いますので二種類以上の椿の木が近くに栽培されていれば、結実した種は自然交配による新種として親木とは違った特徴を持つことでしょう。思いがけないような形の花や変わった葉をつけた椿が誕生するかもしれません。
枝変わり
また椿は同じ木の中に、”枝変わり”といって花や葉に突然変異が発生することがありますので、椿を栽培されている方は花の時期になりましたら”枝変わり”がないか確認して見ると良いかもしれません。
人工交配
積極的に新種を作る方法としては、”人工交配”があります。開花直後の花からピンセットなどで雄しべを採取し、別の種類の花の雌しべに押し付けて交配する方法です。この時受粉を受ける側の花は開花直前の蕾を選んで交配を行えば、意図していない花粉で結実することを防げます。
椿をふやす方法
椿は自家受粉を嫌うため、結実した種を育てても同じ花は咲きません。このため親木と同じ品種を増やす方法として「さし木」が用いられます。
さし木は木の枝の先端に伸びてきた新しい梢を採取して用土に挿して育てる方法で、その作業に適した季節は6月下旬から8月下旬頃までです。
10月を過ぎてからですと、根が十分に伸びる前に冬になってしまいます。また春にさし木を行うと根を生やすことよりも新芽を伸ばすことにエネルギーを使ってしまうようです。
椿の管理
椿は葉も花も肉厚で樹液が多く栄養豊富なため、病気や害虫の被害を受けやすくなっています。病原菌が椿の木の中に入り病気がかなり進んでから出ないと気が付きにくいので、病気にかかってしまうとその治療は困難なものとなります。
そのため密植栽培は避け、枝葉の込みすぎないようにして風通しを良くし、病気の予防を図ることが第一です。
まとめ
秋から春まで、寒い季節に楽しむことができる「椿」。そのご紹介をしてまいりましたが、いかがでしたか? 椿には花ごと落ちてしまうことから「死」や「落ちる」などのマイナスのイメージもあり、贈り物とする際には注意が必要です。
しかしながら花や葉の美しさや多様性、育てる楽しみなど非常に魅力的な花木であることは間違いないでしょう。 皆様もこの季節、椿の花を見に出かけてみてはいかがでしょうか。