1.「もやい結び」とは?
「もやい」を漢字で書くと「舫い」です。舟へんからも想像がつくように、『船同士を繋ぐ』、『杭やポールなどに船を繋ぎとめる』という意味があります。そこから派生して、『労働力や物資を出し合い、共同作業を行う』という意味にも繋がっています。
もやい結びは、ロープワークを学ぶ上で、基礎となる結び方の一つです。その利点としては、「手早く簡単に結べる」「結んだ後、作った輪は縮まらない」「片手で結べる」「一定方向の負荷に強く、結玉が緩み難い」「きつく結んでも解きやすい」などが挙げられます。そのため船の係留、キャンプやアウトドア、セイリング、クライミング、木の伐採、レスキューなど、用途は様々です。 ただし、裁縫糸のような細すぎる紐をきつく結ぶ、あるいはとんでもない負荷を長時間掛けて結玉を詰まらせる、などの行為は、「解きやすい」という利点を失わせるでしょう。また結玉に対して多方向から負荷がかかると、結玉が緩み、危険な事もあります。
2.「もやい結び」の結び方(通常)
それでは、標準的な「もやい結び」を手順1~6でご紹介します。覚え方も簡単です。自分の体にロープを巻き付け、手元で作った輪へロープを通して結ぶ時などに役立ちます。
2-1.手順1
写真のように、ロープを用意します。
2-2.手順2
輪の重なる部分(写真:赤い点)に気を付けて、ロープを整えます。
2-3.手順3
黄緑色フックの短い方を、輪の下(写真:赤い点)から上(写真:青い点)へくぐらせます。
2-4.手順4
長い元ロープの下(写真:赤い点)へ黄緑色フック側の紐先を入れます。
2-5.手順5
長い元ロープへ黄緑色フック側を巻き付かせ、小さい輪へ差し込みます。赤い点では黄緑色フック側ロープが、輪の下になっています。
2-6.手順6
赤い矢印方向に、両方のロープを引いて完成です!覚え方は「(輪の)下(からくぐり)、(長い元ロープの)下(を通って)、(輪の)中(へ)」。結び目になる小さい輪は縮まりますが、大きい輪はそのままです。 結ぶ前は難しそうに感じるかもしれませが、実は意外に簡単です。
3.「もやい結び」の結び方(逆もやい)
海外では「Eskimo Bowline(エスキモーもやい)」、「Anti-Bowline(逆もやい)」などといわれています。巻き付ける対象の向こう側へロープをまわし、手元で輪を作って結う場合などに便利です。
3-1.手順1
ロープを山なりにして長さを調整します。
3-2.手順2
2-2.手順2と同様、写真の赤い点を意識してロープを重ね、輪を作ります。
3-3.手順3
黄緑色フック側ロープを、輪の下(写真:赤い点)から通し、上へ抜けさせます。
3-4.手順4
2-4.手順4と同様、写真の赤い点を意識して黄緑色フック側ロープを通します。
3-5.手順5
2-5.手順5同様、そのまま長い元ロープを巻き込み(写真:赤い点)、小さい輪の中へ黄緑色フック側ロープを差し入れます。
3-6.手順6
通常のもやい結びと同じく、赤い矢印方向へロープの両端を引いて完成です。こちらの覚え方も「下、下、中」ですね。ロープの重ね方と輪の通し方さえ覚えれば、どちらのもやい結びも簡単にできます。
4.「もやい結び」のはずし方
青い点の結い目には荷重がかかるので、ここをずらすには力が要ります。しかし赤い点の結い目を持ち、あちこち引っ張ると、結い目が緩んで簡単にはずせます。
もやい結びのデメリットとして、多方向からの荷重に対し、結び目が緩んでしまうという点があります。それはこの赤や青い点のズレ・緩みに関係しているのです。結び目をはずしたい時は良いのですが、例えば命綱として使用している場合、緩んではずれてしまっては大変です。そのため登山やクライミングの命綱としては、強化された変形もやい結びや八の字結び(Figure-eight loop)などが推奨されています。
5.「片手もやい結び」の簡単な覚え方
片手もやい結びができれば、よりスピーディーなロープワークが行えます。覚え方は簡単!「上ぐるん、下ぐるん、ぎゅっ」です。 まずは構え。利き手にロープの短い方を持ちましょう。
5-1.手順1
その利き手を長い元ロープの外側(上側)から「ぐるん」と巻き付け、手首を返します。
5-2.手順2
返した手にあるロープ先端を、離さないよううまく指先へ移動させます。手首の輪が外れないよう注意し、指先だけで逆手の元ロープ下から「ぐるん」と絡ませます。
5-3.手順3
絡ませたロープ先端(写真:赤い点部分)を手首の輪にくぐらせ、写真の赤矢印方向へ「ぎゅっ」と引きます。手首の輪をうまく滑らせ、ずらす事が秘訣です。元ロープを持つ逆手は、しっかり固定させてください。
6.「二重もやい結び」の結び方
海外での二重もやい結び(Double Bowline)、またはラウンドターンもやい結び(Round Turn Bowline)も、キャンプやクライミングなどで使われています。しかし日本の消防・救助の現場で呼ばれている二重もやい結び(海外ではBowline on a Bight)とは、異なります。
6-1.手順1
通常のもやい結びで作る最初の輪を二重にするだけなので、結び方・覚え方は簡単です。写真の赤い点に留意してロープを成形します。
6-2.手順2
黄緑色フック側ロープを、二重になった輪の下(写真:青い点)からくぐらせ、二つの輪の上(写真:赤い点二つ)へ出します。
6-3.手順3
長い元ロープの下(写真:黄色い点)から、黄緑色フック側ロープの先端を巻き付かせ(写真:赤い点)、二重の輪へ差し込みます(写真:青い点)。これも覚え方は「下、下、中」です。
6-4.手順4
ロープの両端を引き、できあがりです。
7.「ヨセミテ・ブーリン」の結び方
ヨセミテ・ブーリン、ヨセミテ・フィニッシュ(Yosemite Bowline、Yosemite finish)は、通常もやい結びのロープ末端処理を強化したものです。より安全性が増すとされています。
7-1.手順1
通常もやい結びが完成したところ(写真:赤矢印)から始めます。ロープの末端を再度結び、多方向からの荷重よる結い目の緩みをカバーするのです。
7-2.手順2
ロープ末端を輪の上側(写真:赤い点)から中へ入れます。
7-3.手順3
長い元ロープに巻き付いた結び目の輪に、下(写真:青矢印)から黄緑色フックのロープ末端を通し、結び目の上(写真:青い点)へ出します。写真の赤い点は、手順2で説明した部分です。
7-4.手順4
写真の左側、元ロープは赤矢印方向へ固定し、右側のロープ末端を同じく赤矢印方向へ引いて完了です。通常のもやい結びは、元ロープと反対方向へロープの末端(黄緑色フック部分)を引きますが、これは同方向になります。
8.「スペインもやい結び」
スペインもやい結び(Spanish Bowline)は、人体や長い梯子など、長い棒状のものを吊り下げるため、海外では長らく使われてきました。二つの輪が特徴で、そこに片足ずつ通す、もしくは両脇と膝をそれぞれの輪に通す、または梯子の両端を各輪に掛けて使用します。
9.「ポルトガルもやい結び・フランスもやい結び」
ポルトガルもやい結び(Portguese Bowline)、別名フランスもやい結び(French Bowline)も輪が二つありますが、スペインもやい結びと結び方は異なります。赤い矢印の指す、二つの輪の大きさは調整可能です。
10.「もやい結び」を使ってみよう
10-1.キャンプ・アウトドアで
キャンプやアウトドアでテントを張る時、木々の間にハンモックを掛ける時、バケツやカゴを吊り下げておく時など、簡単なロープワークでできるこの結び方は、とても便利です。
10-2.船・ヨットで
船を岸に係留させる時、船に様々な装備を艤装する時、ヨットのジブシートを結び留める時などに活躍します。
10-3.災害・救助で
レスキューや消防など救助の現場でも使用されます。ただし、より命に直結する場合は、通常のもやい結びではなく、安全性を高めた変形もやい結びや、八の字結びなどが用いられています。
他にも「八の字結び(Figure Eight)」「ダブル・フィッシャーマンズ・ノット(Double Fisherman's bend)」「ウォーター・ノット(Water knot)」「クローブ・ヒッチ(インク・ノット)(Clove Hitch)」などがあります。
10-4.クライミングで
キャンプやアウトドアよりも危険度の高いクライミングでは、レスキュー・救助の場合と同じく、より安全とされる「変形もやい結び」や「八の字結び」が多用されています。
ロープワークを行う際の注意点
ロープワークには様々な種類があります。その覚え方も多数存在します。最も大切な事は、それらを正しく理解し、何度も練習し、正確に覚えるという事です。またそのロープワークを適切な用途に使い、その場その時に合わせた負荷の掛け方、ロープの長さ、ロープの種類を選択する事も必要です。
まとめ
ロープワークの基本「もやい結び」は、いかがだったでしょうか? 基本というだけあって、簡単に結びはずしができ、そこから派生した豊富なバリエーションも存在します。キャンプやアウトドアだけでなく、近年は子どもの運動会を見る時などにもテントを張ったりするので、この結び方・覚え方を是非試してみてくださいね。