コブシの花
和名のコブシは漢字で「辛夷」と書きます。「辛夷」という言葉は中国ではモクレンのことを言い、漢方薬にも配合されています。“コブシ”はモクレン科モクレン属の種類に属した落葉広葉樹で、学名は「マグノリア・コブス」です。和名の“コブシ”が、そのまま学名になったものです。高さは18mくらいの高さがあり、3月~5月の春の季節に、枝先に純白の花を咲かせます。6枚の花びらにはレモンのような柑橘系の良い香りがあり、良い香りがするのは花だけでなく枝や葉を燃やしても同じく香りがします。果実は5~10㎝位の大きさがあり、袋果に入った集合果で、握りこぶしのようなゴロッとした感じがあります。この果実の形状がコブシの名前の由来です。秋にこの袋果が熟すと自然に裂けて、中から赤い種が白い糸を引きながら垂れ下がります。コブシは、里山に春の季節の到来を告げる代表的な花木です。
コブシの用途
庭木はもちろんですが、街路樹、樹皮を付けたままのコブシの木を建材として、侘び寂を取り入れる茶室などの柱に用いたりします。花の蕾は鼻炎や鼻づまりの効果がありますので、「辛夷」(シンイ)という漢方薬に配合されており、花は香水の原料にもなります。また、コブシの花が咲く開花時期に合わせて、農作業を始める指標としている所もあります。 コブシは、俳句や連歌などにおいて春の季節の季語にも使われます。つまり春の季節を表す言葉です。
コブシの種類
シデコブシはヒメコブシとも呼ばれ、名前の通り樹の高さがコブシより低く品種も沢山ありますので、庭木として人気がたかく、その人気はコブシを上回ります。花は、モクレンに比べると細く繊細な花びらが、可憐な印象で、6~11㎝の大きさの花を咲かせ、花びら数は9~30枚と色々です。花の色は白が基本ですが、薄くピンク色に染まったものもあります。“シデコブシ”という名前は、花の咲いた姿がひらひらとする、しめ縄などに付ける四手(シデ)というお飾りに似ており、花もコブシの花ととても似ていることからその名前がつきました。
シデコブシ
キタコブシ
キタコブシも、同じく“モクレン科モクレン属”の花木ですが、コブシの北方の種類です。コブシに比べて、花や葉が大きいのが特徴です。北海道や東北地方に分布し、早春の花とし、北国の人々に春の季節の訪れを告げます。花の開花時期ですがコブシは早春の3月ですが、キタコブシは5月です。花も木もとても良い早春の香りがします。
コブシの花の開花時期や特徴は?
春3月~4月にコブシの花は開花時期を迎えます。分技した枝の先の部分に、6~11㎝位の花を咲かせ、花の中心には多数の雄しべがあり、その雄しべの中心に雌しべがある両性花です。雌しべは中心に柱のように立ち、雄しべは渦を巻いて取り囲むように雌しべを取り囲んでいます。コブシの花は、柑橘系のとても良い香りがし、香料の原料に使用されます。葉が大きく木陰を作る街路樹として植えられることもあります。遠目で見ると桜のように見えるところから、おもに北海道や松前地方が中心ですが、シキザクラやヒキザクラなどとも呼ばれています。
瓜二つのモクレンとの違いもご紹介!
モクレン
モクレン(マグノリア)は漢字で書くと「木蓮」と書きます。同じ落葉樹である“モクレン”と“コブシ”ですが、モクレンは木の高さはコブシよりも低い3~5mの低木です。蓮の花のような花が咲くので、木に咲く蓮の花という所からモクレン(木蓮)という名前が付けられました。シモクレン(紫木蓮)の別名を持つモクレンは、花の色が紫色をしているからです。もあります。花が蘭に似ていることもあり、木蘭と呼ばれていたこともあります。原産地は中国南西部の地方です。コブシもモクレンも同じモクレン属という種類に属しますが、モクレンは花の色が濃くて綺麗な紅紫色をしていますので、コブシと区別しにくいのは、ハクモクレンのほうです。
ハクモクレン
モクレンと同じモクレン科モクレン属の落葉の花木であるハクモクレン(白木蓮)。ハクモクレンとモクレンは、色は白と紅紫で全く違います、しかし、とてもよく似ているので、ハクモクレンをモクレンだとお思いの方が多いかもしれませんが、正しくはモクレンとは異なります。ハクモクレンは、春に新芽が出てくる前に、厚みのある純白の花を上向きにたくさん咲かせます。
サラサモクレン
モクレンとハクモクレンをかけ合わせたものがサラサモクレンですが、その花の色は、ちょうどモクレンとハクモクレンの中間のような淡いピンク色をした花が咲きます。“サラサモクレン”の花が咲く時期は、モクレンよりも少し早く咲きます。満開になるととても強い良い香りをあたり一面に放ちます。
コブシと木蓮の特徴の違い
原産地
《コブシ》:日本・済州島です 《モクレン:中国南西部です
開花時期
《コブシ》:
3月後半くらいから上向き、横向きなど色々な向きの花を咲かせ始めます
モクレンの開花とに比べると10日くらい遅くなります。 《モクレン:3月中旬くらいから上向きに花を咲かせます
木の高さ
《コブシ》 :18m 《モクレン》:3~5m
花の特徴
《コブシ》 :花の大きさ・4~5㎝くらいです 花びらの数・6枚 花びらの厚み・モクレンよりも薄めでひらひらとした感じです
《モクレン》:花の大きさ・8~10㎝ 花びらの数・9枚ですが内3枚は「がく」です 花びらの厚み・厚みがありコブシよりも厚ぼったいです
花の咲き方の向きの特徴
《コブシ》 :斜め上または横向きです 《モクレン》:上向きまたは斜め上向きです
葉の大きさの違い
《コブシ》 :4~5㎝ 《モクレン》:8~10㎝
◎コブシの葉
葉の色の特徴
《コブシ》 :濃い緑色 花の開花中は花の下に1枚の葉を付けます
《モクレン》:コブシの葉よりやや薄く綺麗な緑色です 花の開花中は葉を付けません
◎モクレンの葉 コブシの葉より一回り大きいです
実の付き方の特徴
《コブシ》 :実は垂れ下がった状態で付きます 《モクレン》:花と同じように上向きに付きます
花言葉
コブシの花言葉
コブシの花言葉は、友情・愛らしさ・友愛です。 ”愛らしさ"の花言葉の由来は、子供の握りこぶしのような可愛いつぼみの形にちなみます。“友情”や”友愛“という花言葉は、純白で汚れのない花の姿に由来しています。
モクレンの花言葉
木蓮の花言葉は、自然への愛・崇高・持続性です。 春は花が咲き誇る季節ですが、その春の光をいっぱいに浴び、枝先に大きな紅紫色の花を凛と上向きに咲かせている姿にちなみ"自然への愛"という花言葉がついています。 モクレンの“持続性”という花言葉は、モクレンが、遥か昔から既に存在しており、その頃から変わらず美しい花を咲かせていることによると思われます。
コブシのある風景
早春に白い花を沢山咲かせ遠目には桜のように見えるコブシの花、かつては里人たちのシンボルツリーとして、農作業を始める目安ともされていました。今では、街路樹や公園樹として春先の花の少ない時期に花を咲かせてくれています。
空に向かって咲くモクレン
モクレンはあまり手間をかけなくても大きく育ち初心者にはお薦めの樹木です。開花時期になると、青空に紅紫の花が鮮やかに咲き、とても華やかで上品な花の香りが春風と共に漂ってきます。
コブシの実
コブシの花の時期が終ると袋果という袋に入った実がつきます。この実がゴツゴツとした握りこぶしのように見えるので、その見た目からコブシという名前がつけられました。コブシは袋果の集合果で、初夏に緑だった袋果が初秋の季節には黄色からやがて赤みを帯びた実になって来ます。この袋の中には赤くなった実が入っており、完熟し袋が乾いた状態で褐色になると果皮が裂けて中から真っ赤な実が出てきます。種子は袋に入ったまま地上に落下することが多いですが、稀に白い糸を引いて種子がぶら下がります。この種子にぶら下がっている白い糸のようなものは、「珠柄」または「種糸」と呼ばれています。
種を植える
種は市販されていませんので、木で熟した実を採取して植えて下さい。袋果が秋に熟すと袋が裂けて、赤い種が白い糸を引きながら鞘にぶら下がります。鞘が裂けて赤い実が出てくる前に熟してきた袋果を採取します。その袋果を陰干しし、さらに、鞘が乾いて来て裂け、種が出てきたら採取して下さい。果実を取りだしたら、果肉を取り除き水洗いして、乾いてしまうと発芽率が下がりますので、乾かないうちに直ぐに蒔いて下さい。 赤玉土(小粒)を入れた鉢に種をまきます。土は種が軽く隠れる程度にかけ、水は切らさないように日陰で管理して下さい。春の季節に発芽し本葉が3,4枚くらいになってきたら生長に合わせて鉢を大きくしていって下さい。苗が十分に育ったら、鉢植えや地植えにして下さい。コブシは成木になると10m以上の高さになりますので地植えがおすすめです。
秋9~10月くらいに袋果が熟すと袋が裂けて赤い種子が顔を出しますが、赤い皮の下に白い油脂層があり、鳥たちが好んで食べます。この赤い実の種子の中身は黒く可愛いハート形をしています。
モクレンの実
モクレンの実は少し膨らんでくると、実が熟す前にドサッと地面に落ちてしまうことが多いようです。コブシの場合は、一つの袋果に実が少なくとも10個ぐらいは入っていますが、モクレンは大半が1個だけで多くても2,3個です。膨らむ袋果の位置は根元や真ん中や先端など色々です。
まとめ
どこか懐かしい里山を思い起こさせるような、春の訪れを感じさせてくれるコブシですが、遠目ではなかなかモクレンとの違いが解らないかと思います。しかし、じっくり見比べてみるとその違いは解ることと思います。どちらも春を告げるさわやかで美しい花なので、今年の春こそは、モクレンとコブシの違いを見比べてみるのも楽しいかもしれません。