ワルナスビ。見た目はミニトマトなのに「ワル」
ワルナスビをご存知でしょうか? 「ワル」が付く名前が、あまりにも強烈な印象の植物です。 写真で花の姿を見る限りは、どこが悪いのかはわからないですね。
白っぽい星型の小さな花に、黄色い大きなおしべ。 花の形は、ミニトマトに似ています。 枝の先にいくつもの花を付けるところもミニトマトに似ています。 葉の形は、少し違うようですね。 このワルナスビの、どのあたりが一体「ワル」なのでしょうか。
ワルナスビの悪さ1 葉や茎にトゲ
ワルナスビはナス科の植物です。 同じナス科のミニトマトやナスの葉や茎にも、細かい毛やトゲが生えています。 例えば新鮮なナスのへたを触ると、かなりちくちくすることがありますね。
こちらは、ナスの葉に生えたトゲです。 触れるとかなり痛そうですね。
こちらはナスのへたです。 新鮮なナスのへたに生えているトゲも、かなりの鋭さですね。 このように、ナス科の植物にはトゲの生えているものが少なくありません。 ですが、こちらをご覧下さい↓
ワルナスビのトゲが悪すぎる!
これがワルナスビのトゲです! 葉にも茎にもするどいトゲがびっしりと生えています。 バラもまっさおのトゲですね。 一体何から身を守っているのでしょう。
葉の裏側にもこのようにたくさんのトゲが生えています。 容易に触れることもできませんね。
同じナス科でも茄子のトゲは悪くない
こちらは普通のナスの葉・花・茎です。 トゲの量が全然違うのがおわかりいただけたでしょうか。
ワルナスビの悪さ2 草にも実にも毒を持つ
ワルナスビは秋になると、ミニトマトに似た実をつけます。 ですが、この実は決して食べてはいけない実なのです。
毒があり食べられない!ワルナスビの実
一見おいしそうなこの実を食べてはいけません。 ソラニンという毒を含んでいます。 食べると家畜が中毒死することも! ちなみにソラニンはジャガイモの新芽に含まれる毒と同じです。 人間はよほどの量を食べない限り死には至らないそうです。 ワルナスビは実だけではなく、全草に毒を持っています。
ワルナスビの悪さ3 繁殖力がすごい
トゲや毒だけでも十分悪いワルナスビですが、最も性質が悪いのが、この「繁殖力」です。 ワルナスビに近づかなければ大丈夫と思ったら大間違いです。 ワルナスビはものすごく強い繁殖力を持っていて、勝手にどんどん増えていきます!
こちらは河川敷で勝手に増殖しているワルナスビです。 他の雑草も茂っていますがお構いなしで咲き誇っています。 お気づきかもしれませんが、ワルナスビは「雑草」なのです。
ツツジを覆い隠すワルナスビの繁殖力
こちらはツツジの生垣を覆い隠してしまったワルナスビです。 このような光景に見覚えがある方も多いのではないでしょうか?
ワルナスビの繁殖力。日本全国どこでも増える
次の動画を見てください。 ワルナスビが草むらに他の植物と混ざり合って生えています。 クローバーやイネ科の草も生える、ごく普通の草むらの中にワルナスビが混ざっています。 まばらな生え方も、いかにも雑草ですね。 決して野菜の育ち方ではありません。
ですがワルナスビが生えている草むらは、のどかな草むらではありません! 草の中を歩こうものならトゲが刺さって痛い思いをしてしまいます。 このようにまばらに生えていて、しかもトゲが多いのでは、駆除するのも大変な作業です。 一体、ワルナスビはどこから来てなぜこんなに増えてしまったのでしょうか。
ワルナスビは外来種の雑草
ワルナスビはいつ日本に来たのか
ワルナスビが日本で初めて発見されたのは、今から100年ほど前のことです。 著名な植物博士の牧野富太郎氏が、千葉県成田市の御用牧場で発見したのが一番古い記録とされています。 家畜の糞などに種が含まれており、不作為に日本に持ち込まれてしまった植物です。
植物学者・牧野富太郎が命名した「ワルナスビ」
牧野先生はワルナスビを自宅の庭に持って帰り調べましたが、増えすぎて手に負えなくなってしまったのだとか。 「ワルナスビ(悪茄子)」という名も牧野先生によるものです。
ワルナスビの別名
悪茄子以外にもいくつかの呼び名があります。 「鬼茄子」 「荒地なすび」 「野原なすび」 原産地での呼び名はもっとひどいです。 「devil's tomato」(悪魔のトマト) 「apple of sodom」(ソドムのりんご)
ワルナスビは北アメリカ原産、ナス科の雑草
ワルナスビの原産地は、北米キャロライナ地方です。 ワルナスビの学名「Sonalum carolinense」は「北米キャロライナ地方のナス属」という意味を表しています。 英語の名前は「horsenettle」と言います。 「nettle」はいらくさなので、直訳すると「うまいらくさ」ですね。 トゲが多いという共通点があります。
いらくさのトゲは葉の上に生えます
ワルナスビといらくさが似ているかは微妙なところですね。 ワルナスビが日本で問題視され始めたのは1980年代ですが、北米ではそれ以前から駆除するのが大変な「難防除雑草」として認識されていました。
外来雑草で「難防除」なワルナスビ
日本では飼料畑にワルナスビが蔓延したことから問題雑草として認識されるようになりました。 北米でも、特にオーガニックな作物を育てている人たちから厄介者扱いされています。 種でも、根でも増えるため、一度に駆除することが困難だからです。
ワルナスビが増える場所
ワルナスビは、育つ場所をあまり選びません。 土をあまり掘り返さないような場所でどんどん増殖します。 牧草地、飼料畑、非農耕地、草地、河川敷、畦道、路傍、公園などは絶好の繁殖場所になります。 北海道から沖縄まで、日本全国でワルナスビの生態が確認されています。
ワルナスビは要注意外来生物だった
ワルナスビは以前、環境省が定める「要注意外来生物」の中にリストアップされていました。 つまり、日本の生態系に被害をもたらす可能性のある植物、ということです。 (2015年の改定で、「生態系被害防止外来種」に変更されましたが、この際にワルナスビはリストから外れています。)
他の要注意外来生物
「要注意外来生物」にはよく知られている身近な雑草がリストアップされています。 ・セイヨウタンポポ ・ムラサキカタバミ ・セイタカアワダチソウ ・ブタクサ ・アメリカオニアザミ etc.
ワルナスビはナス科ナス属の外来植物
「ワルナスビ」は名前の通り、ナスの仲間の植物です。 ナス科ナス属の植物には、ナス・トマト・ジャガイモなど、私たちの食卓に身近なものが多いですね。
ナスやジャガイモなどの他にどのようなナス科ナス属の植物があるのか見てみましょう。 ツリートマトの別名を持つ南米産のタマリロ、やはり南米産でメロンのような味と香りのペピーノもナス属です。
ナス科ナス属の仲間タマリロ。実にしまもよう
「ツリートマト」とも呼ばれるタマリロは、4mほどの大きな木立に育つ植物です。 「ツリー」とはいうもののつる性で、実はキウイのような味がします。 こちらの写真は完熟する前のタマリロです。しまもようが見えますね。 ワルナスビの実も、熟して黄色くなる前は小さなすいかのようなしまもようがあります。
ナス科ナス属の仲間ペピーノ。アンデス原産
ペピーノの実にはメロンのような甘みがあります。 食べられる実が多いですね。 ですが、ナス科ナス属の中にもワルナスビの他に食べられない実を付けるものがあります。 食べられないほおずきのイヌホオズキ(別名バカナス)をご紹介します。こちらもナス属です。
ナス科ナス属の仲間、イヌホオズキ
いぬほおずきも可憐な花をつけますが、ワルナスビ同様、全草毒を持つ雑草です。
ワルナスビとイヌホオズキの花言葉
ワルナスビの花言葉=「悪戯(いたずら)」 イヌホオズキの花言葉=「嘘つき」 少し親近感がありますね。
ワルナスビの花とナスの花、ジャガイモの花比較
ナス科ナス属の他の植物と花を見比べてみましょう。 花だけを見たときに、ワルナスビの悪さは感じられるのでしょうか。
ワルナスビの花
ナスの花
ジャガイモの花
花だけならばワルナスビも見劣りしないことがわかりました。 毒のある花には見えませんね。 ワルナスビの花は、白あるいは薄紫色をしています。 白いものは「シロバナワルナスビ」と呼ばれています。
ワルナスビの葉。トゲに注意!
続いては、ワルナスビの葉について見てみましょう。 ワルナスビの葉は、長さが8~15cmと大き目です。先のとがった長い楕円形をしていますが、葉のふちはのこぎりの歯のようにぎざぎざしています。
葉の表と裏には細かい毛がびっしり。 この毛は、「星状毛」と呼ばれています。 また、中心の葉脈に沿って大きなとげが生えています。
ワルナスビの実
続いてはワルナスビの実を見てみましょう。 未熟な実は、緑色でスイカのような柄があります。
小さなスイカがミニトマトのようになっていてかわいいですね。 次の動画では葉や茎の様子、未熟な実の様子がよくわかります。
葉の裏のトゲが、未熟な実の大きさとあまり変わらないのが驚きです。
秋になると、葉が枯れて、実が黄色からオレンジ色に熟します。
ワルナスビの種
ワルナスビはひとつの実に、多いときは60個もの種をつけます。 しかもこの種は、100年後に植えても発芽するとか! おそろしいほどの生命力ですね。
ワルナスビはどうやって繁殖するのか
ワルナスビは実からも根からも繁殖します。 地上の草の部分を刈っても刈っても、根が土の中に残っている限りそこからまた生えてきます。 これが駆除の難しい理由です。
ワルナスビの繁殖力。種からも地下茎からも増える
ワルナスビは春から夏にかけて地下の根をどんどん伸ばします。 その根は水平方向にひろく広がって、さらに垂直方向に根を下ろします。 冬になれば地上部は枯れますが、ワルナスビの根は一年中生きています。 外気温が15℃程度に達すると、根から新しいシュートが次々に芽吹いてきます。
牧野先生もお手上げのワルナスビの繁殖力
自宅の庭にワルナスビを持ち帰った牧野先生。 刈り込んでもどんどん増え、さらには土を掘り返して根を切断しても、春になると切断された根から新しい芽が出てくるので、困り果ててしまったそうです。
ワルナスビを好んで食べる虫とは
ワルナスビは有毒草で、あまり虫も付かないのですが、例外の虫がいます。 ナス科の作物全般に被害をもたらす「ニジュウヤホシテントウ」です。 よく知られているナナホシテントウはアブラムシを食べてくれる益虫ですが、このニジュウヤホシテントウは草食性の昆虫で、ナス科の農作物につく害虫です。
ワルナスビが群生している場所は、ニジュウヤホシテントウの絶好の繁殖地となります。 畑で作物を育てている人にとっては、大変迷惑な話ですね。
ワルナスビを駆除する方法
ワルナスビを駆除するにはどうすればいいのでしょうか。 文字通り「根絶やし」にすることはできるのでしょうか?
ワルナスビを駆除するには
ワルナスビは根に栄養を溜め込んでいるため、根を取り除かない限り完全な駆除とはいきません。 ですが、ワルナスビの根は1年目、2年目、3年目と放置すればするほど四方八方に広がっていきます。 しかも、切断された根からも発芽します。 除草剤が効きにくいという点もあります。 まさに最強最悪雑草です。
除草剤効かない。 根っこ切ってもまた生える。 種が落ちてももちろん生える。 抜こうと思ったらとげが刺さる。 でもあきらめてはいけません。 ワルナスビは放置されることが大好きだからです。
ワルナスビを駆除しよう!1
とにかく放置しないことが大切です! 見つけたら抜く、実がなる前に刈り取る。 地上部に出ている部分を減らして、生育させないようにしましょう。
ワルナスビを駆除しよう!2
広い範囲に生えているワルナスビについては、時間をかけて減らしていくことが大切です。 すぐにいなくなると思ったら大間違いです。 地上部は夏の間に除草し、刈り取り、刈り取ったものを土に混ぜ込まないようにします。 そして、秋になったら土を掘り返し、なるべく根を除去します。 放置された株はどんどん大きく強く育ちますから、放置しないことが一番大切です。
あきらめてはダメ!ワルナスビの駆除
牧野先生はあきらめてしまったようですが、それでは他の場所に被害が及びます。 ワルナスビの駆除をあきらめてはいけません。 種と、根を広げないように気をつけましょう。 広い場所では適切な時期に適切な農薬を使用するのが効果的です。
ワルナスビに気をつけよう
ワルナスビの悪さについてご理解いただけたでしょうか。 ここまで悪いとどうしようもないですね。 自宅の庭には絶対に持ち込まないようにしましょう。