しめ鯖の大敵、アニサキスとは?
しめ鯖を始めとする魚の生食をするとき、必ずと言っていいほど耳にするのが「アニサキス」という寄生虫。あたるとは知っていてもどんな姿で、どんな風に処理すればいいかわからなければ意味がありませんよね。
「アニサキス」は主に生魚に寄生している寄生虫の一種で、しめ鯖でお馴染みのサバに限らず、多くの魚介類の内臓に寄生しています。日にちが経った魚を食べるとあたるのも、このアニサキスが関係しているといわれています。
しめ鯖の敵!アニサキスってどんな寄生虫?
食あたりの原因「アニサキス」は回虫目アニサキス科アニサキス属に分類される、「線虫」と呼ばれる生物の仲間で、2センチメートルから3センチメートルくらいの、白く半透明なミミズのような姿をしているのが特徴です。
取り出した時などに渦巻き状になっていることが多く、「シスト」と呼ばれる半透明粘膜の袋に入っていることもあります。
アニサキスの仲間として、検査を行うことで有名な「ギョウチュウ」がおり、かつては「ハリガネムシ」も仲間とされていましたが、現在は別種と扱うのが一般的となっています。
アニサキスの生態
アニサキスはクジラを代表とする海洋ほ乳類を宿主とし、体内で成虫となり産卵を行って、排せつと共に海水中に卵をばら撒きます。ばら撒かれた卵はオキアミに食べられ、そのオキアミを魚が食べることで内臓に寄生します。
といっても、アニサキスは魚の中では成体になれないため、内臓部分にとどまり、その魚がクジラやイルカに食べられるのをじっと待っています。
主に内蔵部分に留まり、移動することはありませんが、一部のアニサキスは筋肉部分にも移動し、さらに水揚げされてから時間が経てば経つほど、寄生の範囲を広げていきます。
人間に寄生するのか?
ここまで説明し、もし人間に寄生した場合はどうなってしまうのか…と不安になった方もいるでしょう。
アニサキスは「宿主」と呼ばれる分類の中で成長するため、人間の中では成虫になれず、また成長も見込めないため、摂取してしまった場合も数日で死亡するか、体外に排せつされます。
ですが、稀に人の胃や腸の中に侵入しようとし、激しい腹痛を起こす場合があります。もしも寄生された場合はアニサキスを内視鏡等で取り除くか、死滅させるまで痛みが続くこととなります。これが食あたりの正体、アニサキス症と呼ばれる状態です。
寄生虫仲間、シュードテラノーパとの見分け方
アニサキスと同じくらい恐れられている寄生虫が「シュードテラノーパ」。シュードテラノーパはアニサキスよりやや大きめで、3~4㎝で茶褐色の姿をしており、アニサキスよりやや太めで、ミミズというより細身のナメクジと言うような姿をしています。
シュードテラノーパは主にアンコウやタラ、オヒョウやイカ、メヌケやホッケ、さらにマンボウ等に寄生し、アニサキスがイルカやクジラの体内で成虫になるのに対し、アザラシやトドを宿主としています。
それ以外の基本的な生態や、寄生の流れはアニサキスとほぼ同じで、原因となる食品や症状もよく似ており、どちらも警戒すべき寄生虫です。
特にタラやイカはアニサキスも、このシュードテラノーパも寄生している可能性があるため、生食あるいは生に近い食べ方をする際は、必ず適切な処理を行いましょう。
アニサキスによって起きる症状
アニサキスの寄生によって起きる食中毒は「アニサキス症」と呼ばれ、魚介類を原因とする食中毒の中で最も多発しやすく、とくに有名な食中毒の一種です。
この食中毒を発症すると、食後から2時間~8時間後に激しい腹痛や嘔吐の症状が起きるようになり、10時間後には症状が更に激しくなり、腹痛のみでなく腹膜炎も誘発され、周期的に腹部を絞り上げるような痛みに襲われるのが特徴です。
嘔吐の仕方にも特徴があり、通常の食中毒の症状は下痢を伴うことが多いですが、アニサキス症は胃液を吐き出すのが主で、下痢を起こすことはほとんどありません。
寄生虫とアレルギー
食べる前に対策を行い、取り除くのが一番なアニサキスですが、実は体内に入ってしまっても九割の人は症状がほとんど出ないか、出ても軽い腹痛程度で済み、必ず上で紹介したような重い食あたりが出るわけではありません。
アニサキス症は「アレルギー」と密接な繋がりがあり、激しい腹痛や嘔吐は寄生虫が体内で暴れる影響で起きているのではなく、寄生虫を駆除しようとする体が過剰な防衛を行うことによって発生するのです。
人によって様々な食物アレルギーがあるように、寄生虫にもアレルギーが存在するのです。
重度のアレルギーでしめ鯖が食べられなくなる?
アニサキスアレルギーは他の食物アレルギーのように軽度なものと重度なものが存在し、生きたアニサキスに限らず、処理を行って対策をしていても発生する場合があります。
重度の場合はしめ鯖は勿論、魚がほとんど食べられなくなってしまう…という場合もあり、時に死亡事故すら引き起こす場合があります。 恐ろしい寄生虫アニサキス、その症状はアレルギーと密接な繋がりがあるのです。
要注意!アニサキスが寄生しやすい魚
アニサキスは宿主からオキアミを通し寄生するため、特定の魚にのみ寄生しているということはなく、オキアミを餌とする魚なら魚種は限られたものではありません。
年間を通し寄生しているという報告もあり、特定の時期を避ければいいと言うわけでもありません。ここでは、特にアニサキスが寄生していることが多い魚介類達を紹介していきます。
しめ鯖と寄生虫
しめ鯖にすると美味しいことで有名なサバは、同時に食あたりの報告も多い魚で、酢しめ等の処理を行ってもあたるという報告をよく聞きます。
アニサキスの元となるオキアミを食べるのはもちろんのこと、サバは「サバを読む」という言葉があるほど傷みやすいため、ほかの魚より速くアニサキスが移動しやすく、冷凍したり、しめ鯖にしてもあたる、という訳です。
購入する際は新鮮なものを、釣り上げた場合はすぐに冷凍し、しめ鯖にする際は必ず対策を行うようにしましょう。せっかくのしめ鯖も食あたりを起こしてしまったら台無しですよ。
イカと寄生虫
刺身や塩辛にすると美味しいイカですが、そんなイカにもアニサキスは潜んでいる場合があり、さらに寄生虫仲間ののシュードテラノーパが潜んでいることも。
アニサキスの半透明な体色とイカの体色が同化し、目視で取り除くのが難しいため、気づかないまま食べてしまってあたる…と言うことも多い、要注意魚介類です。
食あたり対策として、生食の前はしっかり冷凍し、加熱調理の際は細かく切れ込みを入れるようにしましょう。切れ込みを入れることで対策になるのみでなく、味が染み、より美味しく頂くことができます。
タラと寄生虫
タラはアニサキスのみでなくシュードテラノーパが潜んでいる場合も多く、寄生虫を完全に取り除く手段はないため、目視で取り除くか、適切な処理を行うほかありません。
特定の時期や種類に寄生しているというわけではなく、生タラに寄生虫が潜んでいるのはごく当たり前なこと。 食あたり対策として購入後すぐに生食を行うのは避け、処理を行ってから食べるか、しっかり冷凍をしましょう。
サンマと寄生虫
塩焼きのみでなくお刺身にしても美味しいサンマですが、その中はアニサキスのみでなく様々な寄生虫の住みかとなっています。
時々サンマのお腹部分にヒジキのようなものがついていることがありますが、これは「サンマヒジキムシ」という寄生虫で、食べてしまってもあたることはありませんが、確認次第取り除きましょう。
ほかにも、内臓に寄生する紅しょうがのような寄生虫「ラジノリンクス」やお馴染み「アニサキス」も、アニサキス以外の2つは食あたりの心配はありませんが、見た目が悪くなるので気を付けましょう。
しめ鯖を食べるときは注意!
アニサキスは赤身魚より白身魚に寄生していることが多く、特に青魚に多く寄生しているのが特徴です。しめ鯖等の青魚の生食を行う際はくれぐれも気を付けるようにしましょう。
寄生虫と聞くと、特定の種に潜んでいるようなイメージを抱いてしまいますが、アニサキスは魚介類であれば魚種を問わず、幅広く寄生している場合があります。
寄生虫の心配がない魚とは
「養殖された魚はアニサキスが寄生していない」と言われていますが、これは半分本当で半分はウソです。
養殖の利点は、天然では生食に適さない魚でも食べられるようになる…ということですが、完全養殖を行っても寄生虫の可能性をゼロにできるわけではありません。
養殖の際に生餌を使用した場合、それを通してアニサキスが寄生するという場合があり、養殖だから必ず安心というわけではありません。天然ものに比べるとあたるリスクは大幅に減りますが、だからといって気を抜かず、対策を行ってから食べるようにしましょう。
しめ鯖にするときのアニサキスの処理方法
アニサキスの特徴や寄生しやすい魚介類がわかったところで、いよいよ対策を紹介していきます。最も有効なのはなんといっても内臓部分を切り開き取り出してしまうことですが、日にちが経ったものは目視だけでは対策しきれない場合もあります。
しめ鯖等にしたいという場合はマイナス20℃で24時間以上冷凍することで寄生虫を死滅させることができます、購入した日には食べず、まず冷蔵庫に入れ次の日以降にしめる、と言う風にすれば大丈夫ですよ。
もっとも安全な処理方法は加熱を行うことで、60℃以上のお湯で1分加熱すればアニサキスが死滅するのみでなく、ほかの食中毒であたる事も防ぐことができます。 下処理の際、寄生虫と思わしきものが見えたら加熱調理に切り替える、というのもアリでしょう。
ワサビや酢は効果なし!寄生虫には適切な処理を
アニサキス対策として間違っているのが、ワサビやニンニクを始めとする薬味でしめる方法や、よく噛んで食べるなどの方法。
アニサキスはとても強靭なため噛み殺すのは難しく、アニサキスを意識しながらかなり念入りに嚙む必要があり、薬味で殺虫する手段も食用に適した量では効果が期待できず、アニサキスを殺すためには、それこそ「魚の味が全くしない」レベルになるまで使用しないといけません。
どちらも対策として期待できないのに加え、料理を楽しむことも難しくなるとオススメできない手段です。 他にも非常に薄く切るという対策もありますが、それなら目視で取り除くか、冷凍してから切るほうが効率的なため、こちらも余りオススメできません。
しめ鯖にするなら「生食用」を選びましょう
スーパーでよく見かけるのが「生食用」と「加熱用」に分けられた魚の姿、冷凍モノのように見た目に大きな違いがあるわけでもなく、混同してしまいがちですが、分けられる理由には鮮度や生食向きかも関係しており、何よりアニサキス等であたる事がないよう分けられています。
サバのようにすぐ傷んでしまう魚もあれば、わりと長期的に刺身として食べられるものもあるため「生食用」のほうが美味しいかというと、そうでもありません。
作りたい料理に合わせて選び、しめ鯖にするなら生食用、焼き魚にするなら加熱用と分けるようにしましょう。 勿論、あたるのを避けるため、冷凍などの対策を行うことが大切です。
アニサキス以外の寄生虫、貝類にも要注意
アニサキスやシュードテラノーパ以外にも、魚介類には多くの寄生虫が寄生しており、種によっては貝類にも潜んでいる場合があります。
特に有名なのがホッキ貝に潜む「ヒモビル」やホタテ貝に潜む「カサネカンザシ」など、これら自体は害がなく、食あたりを起こすこともありませんが、見た目がなんとも気持ち悪いので、見つけ次第除去するようにしましょう。
基本的な処理方法はアニサキスと変わらず、冷凍を行うか、加熱を行うことで死滅するので、食べる前には必ず対策を行っておきましょう。
アニサキス対策をしてしめ鯖をいただきましょう!
魚の生食、特にしめ鯖でよく聞くアニサキス、酢でしめれば大丈夫と思い、あたる人も少なくありません。この記事を通しアニサキスの正しい処理法や対策をしっかり覚えるようにしましょう。 食あたりの心配なく食べられるようになれば、しめ鯖ももっと美味しく食べられるようになりますよ。