コトブシ/分類
コトブシ、もといトコブシは軟体動物門腹足綱ミミガイ科に属し、アワビやミミガイの仲間の一種。よくアワビと似ているといわれるのも、そもそも同じ分類なのだから当たり前と言う訳です。 見た目からはちょっと想像がつきませんが巻貝の一種で、おもに藻を食べる藻食性の貝の仲間です。
コトブシ/外国名
Tokobushi
トコブシの外国名は非常にシンプルで、そのまま「Tokobushi」と書きます。もし外国の方に説明する際も、そのまま「トコブシ」と呼べば通じてしまいます。他にも、もう1つ「small abalone」という名がありますが、こちらは「小さなアワビ」という意味なので、アワビではなくトコブシを説明したいときは「Tokobushi」と呼ぶようにしましょう。
コトブシ/学名
Haliotis diversicolo
トコブシの学名は「Haliotis diversicolo」と書きます。「Haliotis」はアワビ属を意味しており、名前を分解してしまうと「アワビ属のdiversicolo」と読み解くことができます。 学名に「Haliotis」とつく貝はアワビの仲間、と覚えておくとよいでしょう。
コトブシ/由来(漢字)
床伏
トコブシは漢字で「床伏」と書き、ほかにも「常節」や「常伏」と書く場合もあります。床は浅い場所を、伏は小さいという意味合いを含み「浅い場所に住む小さなアワビ」という意味が込められています。また、それ以外にも「常に石などの窪みにひっそりと伏している」という由来も存在します。どの呼び名も見た目や性質の通り、というようなシンプルな名称となっているのが特徴です。
ほかの呼び名と、その由来
トコブシは地方により名称が変わり、志摩地方では「ゴケンジョ」と呼ばれています。 ゴケンジョは「後家の女」を意味し、平たい姿が二枚貝に似ているにも関わらず、1枚しかない姿を未亡人になぞらえ名づけられました。 「ゴケンジョ」の他にも、滑るように逃げ出す姿を「流れる」になぞらえ「ナガレコ」。殻に空いた穴から「アナゴ」等の別名が複数存在し、「小さなアワビ」だけでは片づけられない魅力を持っています。
コトブシ/生息地域・分布
トコブシは海水生で北海道南部から男鹿半島以南、九州までに幅広く分布し、台湾でもその姿を見ることができます。 日本固有の亜種ですが、種によってはインド洋や西太平洋全域にも分布し、沖縄諸島や奄美群島、八丈島にも生息しており、初めて発見された場所は長崎とされています。
コトブシ/生態・生育環境
トコブシは名の由来にもある通り浅い海域を好み、水深10mぐらいまでの岩礁部に生息し、特に海岸線の帯状部分に分布しています。おもに褐藻、テングサ等の海藻を食べ、9~10月が繁殖期とされています。 繁殖期になると雌雄が体外受精を行い、時化(しけ)や台風による波の刺激によって産卵し、波に乗せ受精卵を広く分散させます。
幼生からの成長
時化に乗せられた受精卵は約1日で孵化し「トロコフォア」と呼ばれる幼生に変化します。トロコフォアは担輪子とも呼ばれ、軟体生物の幼生に見られる型の一つで、あまり細長くなく楕円形で、中央部が幅広くなった、ちょっといびつな姿をしています。この「トロコフォア」はやがて「ベリジャー」と呼ばれる、ヒレか餃子の皮のように広がった部分をもった幼生に変化し、数日かけてようやく「殻」部分が作られ、貝らしい姿となっていきます。 稚貝に成長したところで着底し、最初は珪藻の分泌する粘液を食べ、やがて珪藻も食べるようになり、最終的に海藻を食べるようになっていきます。 赤ちゃんが乳離れしていくような感じ、と思えばよいでしょう。
コトブシ/特徴・形態
トコブシの特徴は何といってもアワビとよく似ていることですが、それ以外にも固有の特徴はいくつか存在します。大きさは成長しきったもので長さは7cm、幅は5㎝、高さは2㎝程度で、クロアワビやマダカアワビを始めとする、大型のアワビの子供とよく似ています。殻の表面は黒みを帯びた褐色で、個体によっては緑褐色の斑点があります。 内側部分は宛ら真珠のような美しい光沢を持っているため、食べ終えた後は殻を鑑賞、なんてこともできますよ。
アワビとの見分け方
アワビとの確実な見分け方として、殻の背面に並ぶ穴の状態を見るというのがあります。 この穴は呼吸を行ったり、排泄物や卵子や精子を放出するためのもので、アワビにも存在するのですが、アワビは4~5個なのに対しトコブシは6~8個と多め、またアワビは穴の周囲が盛り上がっているのに対し、トコブシは盛り上がりがありません。 穴は成長に伴い、古いものから塞がっていくため、多少の個体差はありますが必ず一定数を保っているため、穴が多く周囲が盛り上がっていなければトコブシ、と覚えるようにしましょう。
コトブシ/釣り情報
トコブシはその多くが岩に貼り付いているか、窪み部分に隠れているため、釣ると言うよりは「引き剥がす」と言う方が近い採り方を行います。アワビのように周囲に同化しておらず、岩をめくると隠れていることが多いため比較的見付けやすく、岩をひっくり返した反動でめくれて落ちてくることもあります。 アワビと同じく、採り損ねると岩に貼りつき、なかなか剥がれてくれなくなりますが、小ぶりなぶん貼りつく力も弱いため、見つけたと同時に手を出し、一気に引き剥がすようにすれば結構簡単に採ることができます。 動きは意外と素早く、すぐに捕まえないと滑るように逃げられてしまうため、扱いには気を付けましょう。
見つけたらまず漁港に連絡を!
トコブシを見つけたからと言っても、すぐに採ってはいけません。 採る前に必ず漁港に連絡し「採ってもいいか」聞くようにしましょう、連絡を行わず採取を行った場合は「密漁」と見なされ、犯罪扱いされ面倒なだけでなく、そこが漁港であれば立ち入り禁止などになる場合があります。 トコブシ以外でも、中身が入っていそうな貝は見つけてもすぐには採らず、漁港の許可を取ってから採取を行いましょう。
コトブシ/味・選び方
トコブシは見た目のみでなく味もアワビとよく似ており、普段から食べ比べを行ってもいない限り2種の味の違いを見分けることは難しいとされています。かつては磯で手軽に採れていましたが、今は激減し、アワビ同様の高級食材となっているため、食べ比べられる機会は中々訪れてくれないでしょう。 目利きのポイントはなんといっても新鮮なものを選ぶこと、触った際によく反応し、身が締まっているものを選ぶのがポイントです。 旬は春から初夏までで、特に6月~8月が美味とされています。
コトブシ/栄養・寄生虫
トコブシはアワビに比べると栄養部分がやや勝っており、豊富なタンパク質を含み、他にも人間の体を構成するのに欠かせない栄養素やビタミン類のみでなく「お肌にいい」ことで有名なコラーゲンも含んでいます。ほとんどの栄養はアワビと類似しており、うまみ成分なども類似しています。
含まれる栄養と期待できる効果
トコブシに含まれるタンパク質は皮膚や骨、筋肉や血液など身体を構成する元となる、なくてはならない成分の1つで、審決伝達物質を作る作用もあり、トコブシ以外にも、肉類や魚介類にふんだんに含まれれている栄養素です。 うまみの元であるグルタミン酸はリラックス成分を生成し脳を活性化させ、体に元々備わっている免疫力を高めてくれる効果があります。 他にも、年齢と共に減少していくアラキドン酸の補給や、血中コレステロールを下げ高血圧の予防につながるタウリン、疲労回復効果のあるビタミンB1、貧血を予防し集中力を高めてくれるビタミンB12など、美味しいのみでなく、体にも嬉しい食材となっています。
寄生虫と処理法
トコブシの中には基本的に「アニサキス」等の寄生虫は入っておらず、食あたりの心配をする必要はありません。なぜ海棲生物でありながらアニサキスの幼虫が寄生していないのかといいますと、基本的にアニサキスの親は魚類や哺乳類の体内で産卵を行い、食物連鎖をたどりつつ成長していくのですが、その経路の中に貝類は含まれていないからなのです。これはトコブシのみでなく、サザエやアワビにも当て嵌まり、基本的にトコブシで寄生虫の心配をする必要がありません。 といっても、これは飽くまで一部の貝類の話。ホッキ貝やホタテ貝等には潜んでいる場合があるため、貝は寄生虫が入っていないと鵜呑みにせず、種に合わせ適切な処理を行いましょう。
コトブシ/料理・調理方法
トコブシはアワビと比べると熱を通しても実が固くならない傾向があるため、煮付けやソテー、ムニエルなどが向いており、味はまだ交通が不便だったころからよく知られており、甲州ではトコブシを醤油で煮詰めたものを煮貝と称し、駿河から馬で移入させ食していました。小ぶりなため多くは丸ごと調理する形をとり、殻がついたまま1つ1つ洗い、空鍋で蒸し、自然と肉が離れるのを待つ形態をとります。
下処理と上手な剥き方
トコブシの剥き方はアワビとほぼ同じで、まずは塩を付け、タワシ等で表面の擦り、軽く水洗いし泥や汚れを落とします。表面を綺麗にした後は貝剥きを殻と身の間に差し入れ、身を持ち上げるようにして外していきます。この時縁を囲っている内臓を傷つけないようにし、丁寧に取り外していきましょう。 貝剥きがないという場合はナイフを用意するとよいでしょう。できればステーキナイフなどのギザギザした刃のほうが、扱いやすくおススメですよ。 刃を入れた後は身をつかんで一気に引き剥がし、周囲を取り囲んでいる内臓を取り外していきます。トコブシの身はどの部分も美味ですが、赤くなっている部分は食べられないので、Vの字に切り取って除去し、最後にヒモのように飛び出ている箇所を切り離すことで下処理は完了します。 途中、手で身に触る箇所があるため、処理の前にしっかり手を洗っておきましょう。
代表的な調理法
トコブシは酒としょうゆで煮詰め「煮貝」にするのは勿論、バターを垂らし炭火で焼いた「焼き貝」もおススメ。ワインともよく合い、特に魚醤と酒で作った汁にくぐらせる「しゃぶしゃぶ」は絶品です。 元々非常のおいしい貝のため、濃い味付けにするより、しょうゆや塩、白ワインなどのあっさりした味付けにするほうが美味しく頂くことができます。
コトブシ/まとめ
アワビとトコブシは素人目での判別は困難を極め、味もよく似ているため、判別法を知っていればちょっと物知り気分になれる貝です。アワビと比べて扱いが軽かったり、そっくりさん扱いされることが多い貝ですが、非常においしいので「アワビに似てる貝」と思わず、目を向けてあげてくださいね。