コハダ/分類
コハダは「ニシン」の仲間で、ニシン上目ニシン目ニシン科コノシロ亜科コノシロ属に分類される魚です。属名からわかる通りコハダは専ら「コノシロ」という名称が用いられ、コハダと呼ばれることは殆どありません。実はコハダと言う名前は正式名称ではなく、多くが「コノシロ」に由来するものとなっており、コハダ以外にも別名を複数持つ魚となっています。なぜ名称が複数存在するのかについては、後述の特徴の項で詳しく解説していきます。
コハダ/外国名
コハダの外国名は「Gizzard shad」と呼ばれています。「Gizzard」は「砂嚢」を、「shad」は「ニシンダマシ」を意味しており。「砂嚢を持つニシンのような魚」と読み解くことができます。「砂嚢」とだけ書くと難しい単語に感じてしまいますが、「砂肝」と言い換えればピンとくる方も多いのではないでしょうか。
コハダ/学名
コハダの学名は「Konosirus punctatus」とかなりストレート、思い切り「コノシラス」と読める箇所があるのが一際目を引きます。「punctatus」は他の魚の学名にもみられる単語で、これ自体には独立した意味はなく「魚」を表す目印のようなもの、と思うとよいでしょう。それにしてもコノシロの学名が「コノシラス」というのは思い切ったというか、一度聞いたら忘れられない響きですね。
コハダ/由来(漢字)
コハダは漢字で書くと「小肌」。字の通り子供の肌のように柔らかく、光沢がある体表をしているという意味が込められています。ただ、コハダはあくまで「コノシロ」の形態のうちの1つであるため、ここでは正式名称である「コノシロ」の由来や、その漢字名である「鰶」の由来についても解説していきます。
コノシロの由来、なぜ魚に祭と書く?
「コノシロ」は「子代」とも書き、名の由来もそれに由来するものです。下野に住んだ長者のひとり娘が大層美しかったため、常陸の国司がこの娘を召すこととなりました。しかし娘は有馬王子(ありまのみこ)と忍び逢いをし、子供を身籠ってしまいました。このままでは娘を召すことができないと考えた親は「娘は病で死んだ」とウソの情報を伝え、魚を棺桶に入れ焼いてしまいました。その焼いた魚こそ「コノシロ」、つまり娘(子)の身代わり、という意味なのです。もう1つの漢字として「鰶」がありますが、これは字の通り「祭で食べる魚」という意味が込められており、今も兵庫県姫路市の例大祭ではコノシロ寿司が振る舞われています。
コノシロと武士の深い繋がり
江戸前寿司の定番ということから、何かと武士と縁の深いコノシロですが、かつては武士階級は食べることを禁じられていました。由来は違えど「この城」と読むことができるため「コノシロを焼く→この城を焼く」事に通じ、謀反を抱いていると考えられてしまったからです。言葉遊びが発展した江戸時代ならでは、と言えそうですが、その名に「この城が手に入る」と吉兆を見た武士もいました。その武士こそ江戸城を最初に開いた「大田道灌」その人。江戸幕府は「コノシロ」なしには開かなかった、と言う訳です。
コハダ/生息地域・分布
コハダは群れで生息する魚で、松島湾や福井県以南から東シナ海、インドからポリネシア方面まで広く分布しています。朝鮮半島や台湾でも確認されており、大規模な回遊は行わず、一生を通して生息域を大きく変えることはありません。その性質と大漁に獲れることから、「下魚」扱いされ「飯(こ)の代わり」にされる事もあったといわれており、これがコノシロの由来だとする説も存在します。
コハダ/生態・生育環境
コハダは主にプランクトンや小型の甲殻類、珪藻を食べ、産卵期は初春から初夏までとされ、直径1.5mm程度ほどの卵を産みます。産んだ卵は数日で孵化し新子(しんこ)と呼ばれる稚魚となり、成長するにつれ名称が変わっていきます。寿命は約3年と、魚としてはいたって平均的な数字と言えるでしょう。内湾の定着率が高く、春には汽水域近くで大型のコハダが群れている姿をよく見られます。
コハダ/特徴・形態
コハダの大きさは30センチ前後で左右に平たく、口先は丸く小さくなっており、背中側は青緑色で腹側は銀色となっています。背中側には黒い斑点が点線上に並んでおり、肩部分にひときわ大きな斑点があり、更に背びれのスジ部分は糸状に伸びています。ですが、なんといってもコハダの特徴は大きさによって名称が変わる「出世魚」であることでしょう。コノシロには大きく分けて4つの姿が存在しており、記事のタイトルにもなっている「コハダ」はそのうち2番目の姿となっています。
新子(しんこ)
4つの姿の中で、最も幼いものを新子(しんこ)と呼びます。新しい子と書く通り生後4ヶ月くらいで、大きさは5cmにも満たず、人間でいうなら「生まれたばかりの赤ん坊」という感じのあどけない姿をしています。その小ささと希少さ、さらに仕込みの難しさから夏場のごく限られた時期しか出回ることがなく、江戸前寿司では「幻のネタ」とも言われ、初物の値段はキロ数万円と極上マグロにも匹敵します。
コハダ
新子(しんこ)が成長し、8~10cmくらいに成長した姿を「コハダ」と呼びます、4つの中ではまだまだ若魚で「これからもっと大きくなる」という感じの姿をしています。地域によって若魚の呼称は変化し、関西地方では「ツナシ」佐賀県では「ハビロ」ほかにも「ドロクイ」や「ジャコ」などの名称が存在します。
ナカズミ
コハダがさらに成長し、13cm程度に成長した姿を「ナカズミ」と呼びます。漢字で書くと「中墨」となり、物事の真ん中や中心などの意味が込められています。新子(しんこ)から見ると十分なくらい大きくなったように感じますが、実際は「中くらい」の大きさ。まだまだ成長の余地はあり、これで成長が止まったわけではありません。
コノシロ
15cm以上に成長し、十分な大きさに成長しきってようやく「コノシロ」に名称が変化します。この姿になるとコハダや新子の時の幼さは完全に消え、見た目も味も成熟しきり、申し分がありません。江戸前寿司では主に新子とコハダを寿司にするのですが、九州ではコノシロも寿司ネタとして食べられており、背を開いたコノシロに酢飯を詰めた「姿寿司」が年間を通じて食されています。
コハダ/釣り情報
コハダは内湾を好むため、釣るときは防波堤や河口部、海釣り公園等で狙うのが一般的。釣るときは「サビキ釣り」と呼ばれる釣り方で行うのが主流で、この「サビキ釣り」は釣り初心者でも気軽に楽しめる釣り方なので、釣りは初めてという方にもオススメの魚です。大規模な回遊を行ったりもしないので年間を通して釣れやすく、初夏から夏にかけては新子~コハダが、秋から冬にかけてはナガズミ~コノシロがよく釣れます。大物を釣りたいという場合は冬に狙うとよいでしょう。
サビキ釣りとは?
サビキ釣りには「カゴ」と呼ばれる釣り道具が用いられ、この「カゴ」にエサを入れ水中で動かすことで魚をおびき寄せ、エサと間違って釣り針を食べてしまったところを吊り上げる、という感じです。エサを水中に撒くため、竿をしゃくり仕掛けを引くことを「さびく」と言うことから、サビキ釣りと呼ばれるようになりました。サビキ釣りの利点は簡単なことだけでなく、釣れる魚も豊富で、コハダのみでなくアジやイワシにサバ、さらにはタチウオやクロダイが釣れてしまうことだってあるのです。手軽ながら奥が深く、極めようと思えば何処までも極められる釣り方といえるでしょう。
コハダ/味・選び方
コハダは獲れやすいうえ味もよく、旬は成熟しきった秋から冬までとされていますが、4つそれぞれの姿に異なる味わいがあるため、夏の産卵後を除けばどの時期に食べても美味しい魚です。白身で味わいが強く、どんな食べ方をしても美味ですが、小骨が多いため、専ら「酢締め」にされています。締める際に用いる酢にも差があり、関西では甘酢を、寿司ネタとしては生酢を用います。
目利きのポイントは何といってもお腹を見ること、新鮮なコハダは腹部が銀色に輝いており、手に取った時に硬く、目が充血していないものを選ぶようにしましょう。選ぶ際はつい「大きいものほど美味」と思ってしまいがちですが、お寿司にする場合は小さいものを選ぶようにしましょう。ただ、新子サイズのものをさばくのはとても手間がかかるため、できる限りコハダサイズのものを選ぶようにしましょう。
コハダ/栄養・寄生虫
コハダの主な成分はタンパク質や脂質、ビタミンB群やナトリウム、マグネシウムなどもふんだんに含み、食べることで良質なタンパク質と適度な脂質を摂取することができます。コハダを食べることにより、体力の向上や疲労回復、代謝の促進や免疫力の向上などが期待でき、含まれる脂質をコレステロールを低下させるオレイン酸が主体となっているため、食べ過ぎでもしない限りはコレステロールの心配をする必要はありません。ビタミン類は特に多いものはありませんが、精神を安定させ、貧血を予防する効果がある等、ここでも嬉しい効果が期待できます。
アニサキスに注意、購入の際は確認を
コハダには「アニサキス」という寄生虫が潜んでいる場合があり、処理を行わず食べるとお腹を壊してしまう場合があります。この「アニサキス」は特に青魚によくいるとされる寄生虫で、過熱して食べる分には問題ありませんが、お刺身などで食べる場合は注意が必要です。スーパーで売っている魚に「生食用/加熱用」などと書いてあるのも、このアニサキス対策のため。お刺身やお寿司にして食べる場合は必ず「生食用」のものを選び、流水でしっかり洗うなどの処理を行ってください。
コハダ/料理・調理方法
コハダは小骨が多くやや臭いがきついため、調理の際は酢で締めるのが一般的。酢のみでなく昆布やレモンの香りもつけてるため魚特有の臭みも殆どなく、噛むほどに味が染みる独特の食感が癖になる魚です。お刺身のみでなく、オリーブオイルとの相性もよく、洋風の食べ方をしても美味しい魚です。
そんなコハダ料理の中で最も有名なのは、寿司ネタとしてのコハダでしょう。成長に伴って味が変化する性質と、年間を通して獲れることからコハダは「光り物」として大変に人気があり、江戸前寿司では欠かせない一品です。その利用はほぼ寿司種に限定され、寿司に適さない成魚は商品価値が低くなるというところにも、不動の需要を感じさせます。
コハダ/まとめ
コハダは出世魚、さらに本来の名は「コノシロ」であることから、どっちが正しいのか?と思ってしまうかもしれませんが、どれも正しく、地域によっては大型のものでもコハダと呼ぶため「絶対にこう呼ばないといけない」という決まりはありません。この記事で上げたもの以外にも、コハダの逸話には面白いものが多く、由来にも諸説あるため、気になる方はお寿司やお刺身として楽しむがてら、調べてみるのはいかがでしょうか?