エベレスト登頂はどのくらい難しい?
エベレスト。世界で最も偉大な山のひとつエベレストは世界中の登山家たちが目指す、憧れの山です。 世界一の頂から見る景色に、登山家ではない私たちも思いを巡らせてしまいますよね。 実はエベレストは8000メートル級の山々のなかでも比較的登りやすい山と言われています。広く登山希望者を募る「公募隊」というものあり、半ば観光ツアーのような面もあります。 しかし本当に初心者が登れるものなのでしょうか? エベレスト登山が、一般社会人でも登れるようなものなのかご紹介します。
エベレストの基本情報
エベレストの場所と高さ
エベレストはネパールと中国の国境付近に連なるヒラヤマ山脈にあります。 標高は8848メートル。言わずと知れた世界一の山です。
エベレストの気温
エベレスト山頂の気温は観測が困難なため、定期的な気温測定結果はありません。しかし山頂に近い標高8500メートル付近では-25度から-35度にもなるようです。 ベースキャンプでは平均気温が-7度。 十分な防寒対策をしておかないとあっという間に凍り付きそうです。
エベレストの呼び名
エベレストは様々な国や地域で色々な呼び方をされています。 ネパールでは「サガルマータ(世界の頂上)」、チベットでは「チョモランマ(世界の母なる女神)」、中国では「聖母峰」と言います。 私たちがよく知っている「エベレスト」はウェールズ(今のイギリス)出身の地理学者ジョージ・エベレストから名付けられました。 この「エベレスト」という発音は現地の人にとって難しく、エベレストさん本人も反対していたそうです。 今でも山の名称に人名を用いるのは悪しき先例と考える人は多く、世界第2位の山「K2」の名称を決めるときも、かなり紆余曲折あったようです。
エベレスト発見と登頂の歴史
1717年 エベレストの存在が文献に初めて現れた
最初にエベレストの存在が明らかになったのは、1717年にイエスズ会のジャン・バティスト・レジスが中国地図を作成したときでした。 今のエベレストがある場所に「朱母郎馬阿林」(チュムランマアリン)と記されていました。
1852年 エベレストの標高が報告される
インド大三角測量の仕事についていたアンドリュー・スコット・ウォーはエベレストから測量局長官を引き継ぎました。 ヒマラヤ山脈の測量を続けていたウォーの元にピーク15と仮称されていた山がおそらく世界最高峰だという報告が入りました。 とはいえ当時、彼らが観測していたネパールは「禁断の王国」と呼ばれており、目視した場所から160km以上も離れていました。そのためウォーは、誤認の可能性もあると、公表はしなかったのです。
1856年 「エベレスト」と命名
エベレストと命名されたのは測量されて4年後でした。 測量結果と共に、ウォーは前任者であったジョージ・エベレストを讃えて献名することを提案しました。 存命だったジョージ・エベレストは反対の手紙を送りました。現地名を尊重することにこだわっていたためです。しかし皮肉なことに「エベレスト山」の名称は承認されました。
1921年 第一次エベレスト遠征隊が組織される
エベレストの登頂計画が具体化されたのは1920年にエベレスト委員会を組織したことからでした。 第一回目の遠征ではエベレスト周辺の地図を作成することです。遠征隊の隊長が心臓発作でなくなるというアクシデントがあったものの、成功して帰国しました。
1953年 エベレスト初登頂成功
エベレストの初登頂に成功したのは、挑戦開始して30年以上経った後でした。 エドモンド・ヒラリーとシェルパのテンジン・ノルゲイ。エリザベス2世戴冠の時期と同じくし、イギリス中は沸いたと言います。
エベレストの登山ルート①ネパール側
エベレストの登山ルートは主に二つあります。中国側から登るか、ネパール側から登るか、です。 ネパール側からのルートは通称ノーマルルートと呼ばれていて、安全性が高いため選ぶ人が多いルートです。
ネパール側の入山料
エベレストに入山するには入山料を支払わなければ登れない仕組みになっています。 季節や時期によって金額は変動し、2015年時点の登山シーズンでは入山料は日本円でおよそ120万円です。 この金額は登頂に成功するかどうかに関わらず支払わなければなりません。
ネパール側がよく選ばれているわけ
中国側から登るのと比較すると、ネパール側は交通の便もあまりよくありません。 しかしネパール側のほうが人気があるのは、登山のバックアップ体制が充実しているためです。 エベレストに限りませんが、標高が高い山に登るためには高地順応という作業を繰り返さなくてはなりません。 これには数日かかることもあるので、やはりサポート体制がある方が登山者も安心できるのです。
エベレストの登山ルート②中国側
エベレストのもう一つのルートが中国側から登ることです。
エベレスト登山ルートの最難関!
中国側は標高約6000メートルまで車で行くことができ、非常に交通の便がよいルートです。 しかし高地順応なしにいきなり6000メートル地点から登り始めるため、最も危険なルートとも言われています。
エベレスト登頂が難しいワケ①費用
入山料が高額
エベレストの登頂を難しくしている理由に、お金の問題があります。 意外に思われましたか? エベレストは登山するのに特にお金が掛かると言われています。 人気のあるネパール側から入山しようとすると、70万が最低ライン。季節によって入山料は変動するため、もっとも良い季候の時期にアタックしようとすると、120万ものお金が必要になります。
使用料や滞在費、食費などの費用
もちろんエベレスト登山に掛かる費用は入山料だけではありません。 エベレスト登山には安全なルートを使用するときに「使用料」が発生します。安全なルートを確保するためにシェルパが、はしごやロープを設置しているのです。この使用料はだいたい20万から30万です。 更にベースキャンプ使用料・滞在費として約40万(グループ使用で)、もちろん食糧は自分で用意しなければなりませんので、滞在するだけの食費も掛かります。
エベレスト登山前に掛かる準備費用
エベレスト登山は「行ってはい、終わり!」とはいきません。 綿密な準備もおろそかに出来ないものです。身の安全を守るための装備は自分で用意しなければなりません。 基本的なブーツは当然ですが、高所ならではのアイテムも必要です。 たとえば酸素ボンベ、極寒の気温に耐えられる寝袋や手袋など、全てが高クオリティのものになります。
エベレスト登頂が難しいワケ②デスゾーンの存在
デスゾーンとは
デスゾーンとは読んで字の通り、「死の領域」のことです。標高8,000メートル以上では空気は地上の三分の一しかありません。 気温も地上に比べてマイナス50度と過酷な世界です。天候が悪いと風速300kmを超える風が吹くこともあるため、まさに死に近い領域なのです。
低酸素状態だとどうなるか
低酸素状態では、そこにいるだけで呼吸は速くなり、消化機能は低下し、生命は消耗していきます。肺水腫、脳浮腫といった致命的な疾患になる可能性が飛躍的にあがり、もはやトレーニングや高地順応は気休めにしかなりません。 そのため酸素ボンベをつけることが通常なのですが、酸素の残量にも限りがあります。 過去には下山途中、酸素ボンベが空になって死亡した登山家もいます。極限状態で速やかに山頂に立ち、速やかに下山することが求められるのです。
高所ならではの厳しい自然環境
また高所による自然環境の厳しさは想像を絶するかもしれません。 冷たい風に触れれば、肌が少し露出しているだけで凍傷になるほどといいます。気温は通年低いため、雪は凍り付きスリップや滑落の危険性があります。
自分の命しか守れない
そしてこれが一番キツいのですが、誰もが自分の命を守ることだけで精一杯であり、仮に仲間が苦しくても手助けできないのです。 他人の救助をすると、自分の命が危うくなる。低気温の極地では判断力も鈍り、どんなに高度なトレーニングを積んだ人でも為す術はありません。 過去には「助けて」と言う人の横を素通りすることしか出来なかったという登山家グループもいます。
エベレスト登頂が難しいワケ③身体能力と精神的タフさ
高所順応できる体質かどうか
基本的な登山技術や道具の使い方などは、トレーニング次第で身に付けることができます。 しかし高所に順応できるかどうかは半ば、本人の体質によるところと言われています。 2000メートル以上になると酸素は薄くなり、エベレストのベースキャンプがある5000メートル地点では地上の半分の酸素しかありません。 高山病を予防する薬もありますが、症状を出にくくするだけとも言われており過信は禁物です。
ものごとを楽観視できる精神力
後述しますが、エベレストはかなりの長い時間を必要とします。 当然ですがその間はホテルのような快適な場所で過ごすことはできません。小さなテントで、ごつごつとした岩場で過ごすことになります。 高知順応や天候の回復を待つ間、目の前にはエベレストが悠然とそびえ立ち、「今から登るんだ」「いつ登れるんだろう」ときっとどきどきしながら過ごすはずです。 その精神的なプレッシャーをはね除けだけの精神的タフさも必要です。
エベレスト登頂が難しいワケ④数々の難所
エベレストには気温が低い土地ならではの難所が数々あります。凍り付いた山道を歩く技術に加えて、それらの難所をくぐり抜けるノウハウ、度胸も必要です。 恐怖に呑まれたら一瞬で命を落とします。
アイスフォール、クレバス・・・雪山特有の難所
アイスフォールは氷河に存在する大小様々な氷の塊が点在する箇所です。 エレベストの最初の難関がこのアイスフォールです。気温によってたやすく崩壊する危険性があるため、登山者は夜明け前にキャンプを出発するのが定石となっています。 そして垂直に口を開けている氷の割れ目、クレバス。 少し怖い事故の話をしますと、日本人登山家の方がクレバスへ落下した事故がありました。呼ぶ声は聞こえるのですが、救出することは困難で、登山家自身が生還を諦めざるを得なかった、というものです。 このように雪山特有の難所もエベレストにはあるのです。
ヒラリーステップ
ヒラリーステップは、エベレストを初めて登頂したエドモンド・ヒラリーの名前からつけられました。 およそ標高8750メートルにある、頂上に向かうためには乗り越えなければならない難所です。およそ12メートルほどしかない岩場ですが、最も有名な難所として知られています。 ロープを昇降機に取り付けて登れるように整備がなされ、最近では純粋な攻略の難しさよりも、ロープ待ちの渋滞で危険度が高くなっています。 2017年5月のBBCニュースによると、地震の影響でヒラリーステップが崩壊したと報じられています。
エベレスト登頂が難しいワケ⑤時間
最低30日は必要
エベレストの登山は最低でも30日は掛かります。 中国側ルートでは車でベースキャンプまで行けますが、ノーマルルートでは徒歩でしか向かえません。 まずベースキャンプへ行くまでに5日以上を要します。そこから高所に馴れるために10日以上を過ごします。これはエベレスト登頂を成功させるためのトレーニングの一つで、必要な日程だと言われています。 それから天候を待ちます。山の天気は予想しづらく、こればかりは運に左右されます。
エベレスト登山に必要な手続き
近年のエベレスト登山は高い技術力を持った登山家だけのものではなくなっています。 実際に登山ルートは現地のシェルパによって整備され、商業公募隊があるなどアマチュアでも登れるようになりました。 そこでエベレスト登山をするにはどんな手続きが必要なのかまとめました。
申込み
一般人がエベレストに登る最も最短な方法は、公募隊に参加することです。 公募隊は大小さまざま、各国で参加者を募っており、ネットで検索すればすぐに数件の会社を見付けることができるでしょう。 公募隊の参加に掛かる費用や、サービス、公募隊に参加できる条件は各会社で異なるので、よく詳細を確かめます。
公募隊の参加条件
公募隊に問い合わせると、参加する条件が提示されます。 商業用でアマチュアでも登れるようになったとはいえ、エベレストは世界最高峰であり、登山未経験者を登らせてくれるほど甘くはありません。 条件に据えられることが多いのは6000メートル級の山に登ったことがあるかどうか。 エベレストではほとんどの日数をベースキャンプのある5400メートル地点で過ごします。そのため高地順応できるか、十分な登山技術があるかどうかの指標になります。
費用
費用は参加する公募隊によって異なりますが、単独で申し込むよりも高額になる場合がほとんどのようです。 費用はだいたい300万円から1000万円。この中に現地シェルパの雇用、荷揚げのための動物たちの調達費などが含まれています。
公募隊ってなに?
ベテラン登山家による商業観光ツアー
公募隊とは登山者を募りエベレストなどの高い山を目指す登山隊のことです。日本ではアドベンチャーズガイド、RYOUSEKI EXPEDITIONSが有名です。 ベテラン登山家を筆頭に、彼らの経験によるノウハウで安全・確実に登れるように組まれた「ちょっとハードな観光ツアー」といえます。
もともとは登山家たちの互助会だった
もともと公募隊というのは様々な登山隊に所属している登山家達が、組織にとらわれず、個人レベルで登山料や資材運搬の頭割りをするためのものでした。 それが今では公募隊というと商業目的のものを指すようになっています。
公募隊に参加するメリット・デメリット
公募隊に参加するメリットは、登頂に必要な入山料、シェルパを雇う費用、準備や手配を一括して行ってくれることです。確保された安全なルートを登っていくだけなので、誰でも登れる可能性があります。 デメリットはいろいろな経歴の人が参加するため、登山の技量がまちまちであることです。やはり明らかに技量が劣る人がいると、行動時間を浪費したり、酸素が尽きてしまっったり、致命的なリスクが高まります。
エベレスト登山を助けてくれる存在「シェルパ」
シェルパって誰?
エベレスト登山を安全に進むために助けてくれるのがシェルパと呼ばれる人たちです。 シャルパは高い標高の地域に住むネパールの山岳民族「シェルパ」を指します。生まれ持った強い心肺能力は登山者を助け、登山者の大切なパートナーとなっています。
商業公募隊の台頭でシェルパの地位が低下
シェルパは登山技術を学び、本格的にガイドとして雇われるようになりました。当時は「ヒマラヤ登頂はシェルパなくして成立しない」とまで言われていた、重要な役目だったのです。 しかし商業公募隊が活発になるとシェルパの扱いは酷くなりました。心ない登山家たちはシェルパを消耗品のように扱うようになり、シェルパの地位向上が急がれています。
大勢のシェルパが亡くなったあの事故
2014年に世界の登山かたちを震撼した事故が起りました。ルート工作中に大きな雪崩が直撃し、シェルパ16人が死亡した事故です。 この事故をきっかけにシェルパはルート工作のボイコットをしました。 2014年に登山客がゼロになったのも、ひとえに登山家たちが「シェルパがルートを作ってくれるもの」と甘えてしまっているからです。
エベレスト登山の「今」
登山者達の遺体は回収されないまま
過酷な環境にあるエベレストには、生還することが叶わなかった多くの遺体が眠っています。 その数は200名以上。 酸素の薄さ、気温の低さ、猛烈な吹雪・・・過酷な環境から遺体を下山させることは難しく放置されています。 遺体のなかには次の登山客の目印にもなっているものも多く、とくに「グリーンブーツ」と呼ばれる遺体は有名です。
ゴミ問題
登山ルートには多くのゴミが放置されています。ベースキャンプまではネパールの役員たちが目を光らせていることもあり、清潔に保たれていますが、標高が高くなるにつれ、ゴミが目立つようになります。 ゴミの種類の多くは食料品のパッケージですが、空のガスボンベや燃料も放棄されています。 この問題を重く見たネパール政府は登山者一人につき8kgのゴミ収集を義務づけることにしました。
ルートの渋滞問題
商業公募隊の存在で一般人でも登ることが容易になったエベレストですが、そのために弊害もあります。 それがルートの渋滞です。 エベレストが最も賑わう春と秋には大規模な公募隊が集まることもあります。 8000メートルを超えた先にあるデスゾーンでは酸素ボンベの残量や高度に耐えられる限界など、時間との勝負であるため、ルート利用を待ちの列で命を落とすリスクが高まるといいます。
一般的な会社員がエレベスト登山をする方法
お金を貯める
まず何事にも先立つものがなくてはお話になりません。 入山料、ルート使用料金、シェルパを雇う人件費など、単にエベレストに登るためのお金はもちろん必要です。 それ以外にもネパールに行く旅行代金、気温の低さに耐えられる装備購入費、また特別なトレーニングをするための施設費なども掛かってくるでしょう。 それらを合計して、一般的に必要な費用はおおよそ700万から1000万。 ちなみに最高齢登頂者の三浦雄一郎さんは1億5000万円掛かったそうです。
トレーニングで体力をつける
山に登るためにはトレーニングも必要です。 単純に体力をつけるためでしたら、会社の階段を連続して上り下りするのもいいトレーニングになるでしょう。心肺機能を高めるのなら水泳が効果的です。 登山に必要な体力は日常生活で養うことができますので、トレーニングジムに通う必要はありません。 ただ標高の高い山は酸素が薄いため、それに順応するためのトレーニングは必要です。富士山に登って数日テントで過ごしたり、低酸素ルームなどの施設を利用するのも手です。 また登山教室が定期的に開かれているので、そこで実践的な登山技術を学ぶようにしましょう。
会社への理解
日本の会社員にとって、もしかしたら最も高い壁になるのが会社への理解かもしれません。 エベレスト登山に必要な日数は最短で30日。運の要素も絡んでくるため50日は休暇を取りたいところです。 仕事の引き継ぎ、上司の説得、万が一の時のこと、などです。
公募隊を利用する
公募隊を利用すると、安全の確保や費用の面で少し安くなることがあります。 日本の公募隊では相場は約700万円ですが、ネパールの公募隊を利用すると費用は300万で済むことがあります。その際は意思疎通ができるように語学力を身に付けることが大切です。
エレベスト登山はもはや叶う夢に!
ほんの少し前まではエベレスト登山は、一般人にはほど遠い選ばれた登山家たちだけのものでした。 今では登山のノウハウや安全なルート工作をしてくれるシェルパ、ベテランガイド付きの公募隊の存在によって、エベレスト登頂は夢でなくなりました。 しかしエベレストの危険性はそのままです。トレーニング不足の未熟な登山家はあっという間に足をすくわれて命を落とすことは変わりないのです。 もしあなたがエベレスト登山を目指すのであれば、計画的なトレーニングと準備、そして周囲の人の理解を得てチャレンジしてくださいね。