シュロとは
どうです?この姿、南の青い空が本当に似合いますよね。 まるで南国生まれな気もしてくるこのシュロ。でも実は原産地はアジア圏。 古くは弘法大師の時代にまで遡り、中国から種子を持ち帰った大師が寺院の庭先にまいたのが始まりという説があります。無駄にするところが無いと言われるシュロは、今日まで日本の生活の色々な場面に深くかかわってきました。 そう聞くとどことなくエキゾチックな雰囲気があるようにも見えてきませんか?身近なようで意外と知らないシュロの基本とその魅力に触れてみましょう!
シュロの基本情報
科名
シュロが仲間とするのは皆さんご想像の通り、ヤシ目ヤシ科です。シュロ属は「ワジュロ」と「トウジュロ」に区別されており、一般的にシュロ、というとワジュロを指しています。 ワジュロは暖地に自生する常緑高木です。トウジュロは日本では自生するものはありません。庭園・公園樹として植えられている常緑小高木です。市街地等で自生しているものの中にはワジュロとトウジュロの雑種と推定されるものも存在するようです。
学名・由来
シュロは学名を「Trachycarpus(トラキカルプス)」言います。「トラキ(でこぼこ)」と「カルポス(果実)」からなり、その実の形を語源としています。 ワジュロは「T.fortunei」といい、種形容語の「fortunei」は東アジアの植物採集家R.フォーチュンを記念したものです。 トウジュロは「T.wagnerianus」といい、種形容語の「wagnerianus」はドイツの園芸家A.ワグナーが初めて発見したことから「ワグナーさんの」という意味でつけられました。 どちらも人の名前だったんですね。
シュロ/品種・原種
ワジュロ、トウジュロと名前の通り、原産地が違います。しかし、繁殖力が強く交雑も経ながら現在に至っている為、その分布も似ています。ちなみに人が意図的に植えたわけでもないのに芽をだし成長しているシュロのことを俗にノラジュロと言います。 ここでは原産や分布から見るシュロの歴史的背景にも触れていきたいと思います。
原産地
ワジュロは日本の九州南部を原産としていますが、現在は栽培品がほとんどで野生はみることはないようです。中国中部、ミャンマー北部原産との説もあります。 トウジュロの原産地は中国南部とされています。しかし起源は日本との説もあり、A.ワグナーがトウジュロを初めて発見したのも日本だと言われています。
分布域
ワジュロ、トウジュロ共に東北南部以南の本州、四国、九州、沖縄と日本のほとんどの地域に分布していることが分かります。 世界的にはヨーロッパ中・南部でも広く栽培されています。ヨーロッパへは1830年頃、ドイツ人の医師フィリップ・フランツ・フォン・シーボルトにより持ち込まれたとされています。
シュロ/花言葉・開花時期
シュロの花です。かなりダイナミックですね。よく見ると小さな花が無数に集まっています。 一見すると花というより実のようですよね。しかしちゃんと花言葉があります。
花言葉
シュロには「勝利」、「不変の友情」、「祝賀」、「戦勝」、「優勝」という花言葉があります。 花言葉というとロマンチックなイメージがありますが、随分と勇ましい。 そうなるとその由来がなんなのかとても気になりませんか?早速見てみましょう!
花言葉由来
シュロの花言葉の由来には諸説あります。 遠い昔、聖地巡礼をした人々が土産として持ち帰ったのがこのシュロであることからシュロを持つ人を「巡礼者」であると意味するようになったと言われています。またユダヤ人は必ず祭礼の時にはこの木を持ち歩くなど、理由は定かではありませんが、宗教的に見ても力の宿った木とされていたのでしょうか。 またシュロが大変弾性に富んだ木で、抑えても反発することから「勝利」の象徴となったとも言われます。 古代オリンピック競技では優勝者にはこの木の1枝を授与したそうです。 日本でも、室町時代「太平記」で名を知られる富士氏、佐々氏、米津氏が棕櫚紋の旗印で大活躍したとの記述があります。 「勝利」や「戦勝」の由来はこの辺も関係がありそうですね。
開花時期
開花の時期は関東以南で5~6月とされています。また花は雌雄異花です。 雄花はクリーム色の無数の小花が垂れ下がった状態のまま開花します。3枚の花弁と6本のおしべからなります。 雌花は垂れ下がった状態から上に伸び、更に枝分かれしていきます。シュロの雌花には雌花と両性花があります。花の色は淡い緑色でめしべは3本です。
シュロ/特徴
前にも触れましたが、シュロは無駄にするところが無いと言われるほど人間の生活に活用されてきました。 ここではその特徴や私たちの生活とのかかわりを、また知っておきたいその扱い方などについてご紹介していきたいと思います。
シュロの特徴①:皮
シュロの特徴的な部分といえはやはり皮です。幹を覆う葉鞘である繊維(いわゆるシュロ毛です)は分解しにくく、水につけても腐りにくい性質があります。その為、シュロ縄として加工され庭木の手入れ用や建築用ロープなどに利用されます。 繊維を束ねてシュロたわしやシュロ箒のように古くから現在のスポンジや掃除機のように常に身近に使われてきました。 たわしにも色々な種類があってシュロが使われているものもありますし、仲間であるココヤシの実の皮からとれるコイアファイバーが使われているものもあります。現在はそのココヤシが原料のパームたわしが主流のようですね。
特徴②:葉
画像でも特徴的な葉だとわかるとは思いますが、はじめに説明したワジュロとトウジュロでは葉の形が違っています。 ではどうやって判別するのかというと、どちらも柄が長く、扇状円形をして葉先は深く切れ込んでいるところは同じなのですが、葉先が2つに裂け、折れて垂れさがるものがワジュロです。 ヤシ科の中でも最も耐寒性があると言われ、土壌を選ばず適応性があること、また昨今の温暖化と鳥などがその種を多く運ぶことが各地に野生化する理由と言われています。
特徴③:シュロの実
実の色は青黒色で平たい球形をしています。少しブルーベリーに似ているでしょうか。特徴的な実をつけます。 一見おいしそうに見えますが、食用にはならないようです。 シュロを口にすることが出来るのは乾燥させたり、焼いたり、煎じたりしてからとなります。そう、漢方薬です。 「棕櫚葉(しゅろよう)」、「棕櫚実(しゅろじつ)」、「棕櫚花(しゅろか)」は脳卒中の予防や高血圧の治療に茶剤として民間で用いられています。 「棕櫚皮(しゅろひ)」、「棕櫚根(しゅろこん)」は止血薬として用い、鼻血の場合黒焼きしたものを直接鼻に詰めると効果があるそうですよ。
特徴③:幹
幹は非常に硬くまっすぐに伸び、主に暗褐色をしています。昔から寺院の梵鐘の撞木(鐘を突く棒のことです)として利用されています。 シュロは先にお話ししたように弘法大師が植えたともされることからもお寺との関係が深いようですね。 中国では寺院に多く植えられています。一説では古来シュロやソテツを眺めていると色情を失うと言われていたそうでその為寺院に多く植えられたのだとあります。 またシュロは耐火性があるので火事から守る為の意味もあったかもしれません。
シュロの育て方
シュロは繁殖力が強く、鳥などに運ばれて自生するものも多いです。 シュロをこれから育てるには繁殖は実生によります。秋に種をとり、4月にまいて5月の実生苗を生育させていきます。
植え替え
植え替えの際には根を傷つけないよう気を付け、少し大きめの鉢に植えます。土は庭土でも大丈夫なようですが、腐葉土などを好むようです。
鉢植え
鉢植えにするとあまり大きくならないので、先程のように地植えにして巨木になってしまうことを考えるとそのほうがいいかもしれません。ただ生長はそう早くはありません。
※育ちすぎたシュロを伐採する際の注意
シュロは丈夫なゆえにその幹の伐採などには苦労も多いようです。電動のこぎりなどをそのまま使うとその毛があっという間に絡みつき動かなくなります。その為、切る前に電動のこぎりをあてる部分の皮をナタや斧などで切り取っておく必要があります。 またその重さも要注意。水分を多く含み非常に重い為そのままでは人力で運ぶことは容易ではありません。特に頭の方が重く、いくつかに裁断して運ばなくてはならないためかなり手間がかかります。その為業者に頼む方も多いようです。
シュロの楽しみ方
シュロの葉を使った楽しみ方
特徴的な葉の活用法として、割いたり、織ったり細工をしてバッタやカマキリなどを作ることができます。 色々な作り方があるようですが、適度な固さや長さがあり加工しやすいためかなりのクオリティのものができます。
インテリアとして飾る
写真のような正月飾りも素敵ですね。 日本の生活にこんなにもしっくりとなじむシュロ、最近は箒など昔ながらの道具も見直されており、私たちの生活によりおしゃれに取り入れられるようにもなってきています。 そんなところから入るのもありかもしれませんね
ちなみに「パーム油」はシュロのこと?
余談ですが「棕櫚油」と検索すると「パーム油」が出てきます。しかしこれはシュロではなくアブラヤシからとれる油でお菓子やファストフード、カップめんなどによく使われています。その表示は「植物油脂」とかかれています。 加工しやすく、酸化しにくいなど使いやすさやその価格が多く使われる理由です。 しかし近年世界中でパーム油を消費する為、驚異的なスピードで伐採が進み森林が消え続けています。 それに伴って山火事が増えたり、もともとそこに住む人間や動物が追い出されるといった問題も起こっています。
まとめ
いかがでしたでしょうか?知れば知るほどシュロの魅力が見えてきませんか? 最初のイメージは変わったでしょうか? もっともっと掘り下げていくことで歴史的、生物学的謎に触れることができそうです。 興味を持った方はシュロ探し散歩してみませんか。今まで気が付かなかっただけで実はそこにも生えているかもしれません。 これはシュロ?それともトウジュロ?なんて考えながらみる景色はいつもよりもっと楽しく映るはずです。 特別なことではなくても自然を身近に気軽に楽しんでみてはいかがでしょうか。