クロマグロ/分類
スズキ目サバ亜目サバ科マグロ属
マグロ属は世界に分布し8種おり、日本近海のクロマグロはタイヘイヨウクロマグロと呼ばれます。
クロマグロ以外にも7種類
他のマグロ属では 「タイセイヨウクロマグロ」 「ミナミマグロ」 「メバチマグロ」 「ビンナガマグロ」 「キハダマグロ」 「コシナガマグロ」 「タイセイヨウマグロ」 上記の7種です。タイセイヨウクロマグロをクロマグロを同種として呼ぶ考えと、亜種と呼ぶ考えがありますが、生息分布の混同も無く、大きさにも差がありますので、この場では「クロマグロ」=「タイヘイヨウクロマグロ」で記載します。
クロマグロ/外国名
Pacific bluefin tuna
【クロマグロ】はPacific blue fin tunaで直訳すると、太平洋の青いヒレのマグロと呼ばれ、亜種の【タイセイヨウマグロ】 Blackfin tunaと呼ばれ黒いヒレのマグロです。
クロマグロ/学名
Thunnus orientalis
クロマグロは「Thunnus orientalis」タイセイヨウクロマグロは「Thunnus orientalis」と呼ばれ、英語名、学名ともタイヘイヨウマグロ、タイセイヨウマグロ共に別名称があります。
クロマグロ/由来
「鮪」和名、漢字名
鮪の事を現在の日本ではクロマグロを指します。その他のマグロはキハダ、ビンナガなどの別称で多くは呼ばれます。 その上でマグロの「鮪」の名前の由来は目が大きく真っ(目黒→マグロ)に由来する説があります。 また、過去保存する事が困難で常温状態ですぐに真っ黒になってしまうという事で、真っ黒→マグロという説も存在します。 鮪の漢字の「有」は「外側を囲む」という意味で、 鮪の回遊が外側を囲むように回遊から来た語源より由来しました。
クロマグロ/生息地域・分布
クロマグロの分布
クロマグロは産卵場所の台湾や南西諸島近海、日本海から太平洋北海道、オホーツク海、ベーリング海峡、を回遊し北米大陸西岸の沿岸を回遊し、日本近海に戻る広い海域を回遊する分布となっています。 タイセイヨウクロマグロはその名の通り、大西洋の南は赤道付近から、地中海、カナダ沿岸のバフィン湾、ノルウエー沿岸域を回遊し、広い海域に分布します。
クロマグロの/生態
クロマグロの形態
クロマグロは日本ではお馴染みの「ホンマグロ」と「タイセイヨウクロマグロ」の2種をクロマグロと指すのは上述の通りですが形態は差があるのでしょうか。 クロマグロの成魚は体長3m・体重400kgを超え、日本近海のマグロとしては最大のものです。 対してタイセイヨウクロマグロは、マグロの中で最大種で、4.5m・体重680kgに達し魚の中でも超大型種となります。大きさ以外に外見の差異は無く区別がつかない程です。 この2種はマグロの王様、海の黒ダイヤと言われ高級マグロの代表として取扱われ、天然物は1匹100万円以上で取引されます。
クロマグロの食性
クロマグロの幼魚は日本近海を回遊し、カツオ等と共にオキアミやイワシ等の小魚を捕食します。何れも肉食性で、成体はイワシ、ボラ、サバ、アジ、トビウオなど小~中型の魚を捕食します。また、成長と共にイカ類への依存度が高くなり、夜間にイカを捕食する事が多くなります。
クロマグロ/生育環境
クロマグロの産卵
クロマグロの産卵は稚魚の捕獲調査から、八重山諸島沿岸、沖縄本島沿岸、に多く、トカラ列島から台湾東海岸域の 広い海岸域で産卵を行います。また、南西諸島とは別の個体群で、日本海の壱岐諸島から能登半島沿岸でも産卵しています。 南西諸島では4~5月、日本海では7~8月に産卵します。どちらの個体群も水温は25℃前後、水深50m以内の浅瀬で行います。
クロマグロの回遊
産卵したクロマグロの卵は、たったの1日で孵化し、生まれた仔魚は黒潮、対馬海流に乗って北上します。1年間位、日本の沿岸で回遊をしながら捕食活動を行い力を蓄え1歳頃、北上又は北海道沖で東進して太平洋を横断し、アメリカ大陸西岸で数年過ごし、成熟し、産卵の為日本に戻るグループと、日本沿岸を季節的な南北回遊するグループに分かれます。
クロマグロ/特徴・特性
クロマグロのエラ呼吸
マグロは一生泳ぐことは知られていますが、これはエラ呼吸の特性です。普通の魚はエラから水を取り入れ水の中の 酸素を取り込み呼吸しますが、マグロは口から海水を取り込み絶えず泳ぐことによってエラに海水を取り込みます。 これはサバ科の魚の特徴でカツオやブリ、カジキなども同様で高速で泳ぐ魚の特性でもあります。 逆にいうと、泳がないと呼吸ができない訳ですので、一生泳ぎ続けるという事です。
クロマグロの寿命
クロマグロの寿命は20年以上で、30年生きたマグロの漁獲もあります。何故30年生きたと断定できるのかというと、マグロは死ぬまで成長するとするといわれ、20年で体長2.4m・体重300kgに達します。クロマグロの漁獲は400kgを超える物が水揚げされます。この大きさから年齢を断定が可能で、またこの事が生涯成長する事の所以です。
クロマグロの遊泳力
マグロが高速で回遊するのは有名ですが、一説には時速160㎞で泳ぐことも出来ると言われています。抵抗の無い流線型の形態で、ヒレなども織り込んで抵抗を防ぐことも出来、無駄の無い回遊が可能となっています。 特筆すべきはとてつもない推進力で、一般的な魚は全身をくねらせて泳ぐのに対し、マグロは尾ヒレを高速で左右に振る事のみで推進力を得ます。巨体を高速回遊させる筋力を尾の振動で発し、実現するのには更に驚きの仕組みがあります。
クロマグロの恒温性能
マグロは魚類では珍しく【恒温動物】で、尾の筋肉内の血管は動脈、静脈が近接した「奇網」と呼ばれる組織が筋肉を発達させる仕組みとなっております。この組織のおかげで静動脈の熱が動脈に伝わり、筋肉温度を高く保つ事が出来、運動能力を促進し強い促進力が得られています。 更に肝臓組織にもこの「奇網」があり内臓を温め、酵素やホルモンが、活発に働く温度を保っています。この為、高速の回遊も可能になり、亜寒帯から熱帯の海域分布が可能になっています。
クロマグロの生息状況
クロマグロが絶滅危惧種に指定
上述のタイトルの通りに広い太平洋を横断回遊し、成魚は生態系の頂点の捕食者のクロマグロですが、大幅な個体の減少が原因によって2014年に国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに加えられました。
国際自然保護連合(IUCN)
国際自然保護連合(IUCN)とは、1948年に世界的な協力関係のもと設立された、国家、政府機関、非政府機関で構成される国際的な自然保護ネットワークです。自然保護に関する世界最大のネットワークの調査のもと、クロマグロは絶滅危惧種Ⅱ類に指定されました。 IUCNの構成は世界160カ国10,000人を超える専門家と調査団で組織される、大規模で正確な調査かつ、厳格な調査基準で照らし合わせ公式に発表する組織です。
東部太平洋のマグロ資源の管理について話し合う国際会合IATTC(全米熱帯マグロ類委員会)の第90回年次会合が、2016年6月27日、アメリカのカリフォルニア州ラホヤで始まります。この会合では特に、すでに96%の資源量が失われた太平洋クロマグロ(本まぐろ)の長期的な資源回復計画をめぐり、各国がどのような合意を交わすのかが注目されます。2015年の会合で果たせなかった回復計画の合意は実現するのか。危機にある太平洋クロマグロの未来が、ラホヤでの会合の結末に委ねられています。WWFはこの会合に各国からスタッフを送り、マグロ類の保全と回復につながる提言を行なう予定です。
タイセイヨウクロマグロの前例
クロマグロの絶滅危惧種の指定にさかのぼる事、3年前の2011年、国際自然保護連合(IUCN)はタイセイヨウクロマグロの個体数減少を調査し、絶滅危惧Ⅰ種類に指定しました。 つまりこの様な前例があり、さらに現地で漁に携わり、主要な輸入元であったのにもかかわらず、日本の省庁は対岸の火事として捉え乱獲して、結果、クロマグロ絶滅の縁にを追い込んだ訳です。
絶滅危惧種とは
現在生存している個体数が減少しており、絶滅の恐れが極めて高い野生生物の種。国際自然保護連合(IUCN)より「レッドデーターブック」が発行され、「絶滅危惧種」を指定しています。危機の程度によって4段階にカテゴリーが設定されています。クロマグロはこのカテゴリーの「絶滅危惧Ⅱ種類」に指定されました。 「絶滅危惧Ⅱ種類」の定義の基本概念には「現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用する場合、近い将来(絶滅危惧Ⅰ種)のランクに移行する事が確実と考える物」とされています。 「絶滅危惧Ⅰ」とは近い将来野生での絶滅の危険性が高い種となっていて、クロマグロの現状は正に瀬戸際といえます。ちなみに「絶滅危惧Ⅰ」にはイリオモテヤマネコやヤンバルクイナがいます。
クロマグロの個体数
クロマグロの個体数の増減は資源量と、漁獲量で推定されます。2014年の親魚の水底資源量は1.7万トンで、ピーク時の1960年代の何と10分の1に低下しています。日本の水産庁は2034年までに13万トンまでにクロマグロを増やす長期目標を掲げ、現在漁獲規制をして達成に向け遂行中です。それでも元々の生息数の30%位という事ですが。
クロマグロの激減の理由
クロマグロの驚くほどの激減数
個体数の章では日本の水産庁の計算した数値で、1960年代より90%減という表現でしたが、もっとシビアな見方があり、その一例をを記載します。「国際環境NGOグリーンピース」では2013年の時点で「未開発時の96%が既に海から姿を消した」と主張します。若干の差がありますが、何れにせよ、90%以上を取りつくしてしまったのは、否定出来ない事実で、さらに統計上、50余年という短期間です。 他にもインドマグロ、タイセイヨウクロマグロも枯渇させ、その80%以上を日本だけで消費していまっているとも主張します。では、何故ここまでクロマグロは激減してしまったのでしょうか?
クロマグロの巻き網漁
クロマグロの激減の理由は日本以外の国が食べるようになった事や、環境の変化で生息環境の悪化など色々と言われていますが、間違いなく言える最大の理由が乱獲です。 その乱獲漁の顕著な問題が魚探での産卵前のマグロの「巻き網」での大量捕獲です。2004年から当時最新鋭の魚群探知機を使用し始め、夏場に産卵する海面近くにいるマグロの魚群を1000m以上の網を広げ、種類や大きさに関わらず、大きな魚群を一網打尽にする漁法です。 これが全ての原因では無いでしょうが、本来産卵する個体が漁獲され、2004年には2万5千トンだった漁獲が2006年には1万トンに減り、2014年には5000トン以下にまで激減しています。
クロマグロの幼魚の漁獲
クロマグロの幼魚(重さ30kg未満)をメジマグロと呼び、漁獲を盛んに行っています。驚く事に日本の水産庁によると「0歳魚が67.1%、1歳魚25.5%、2歳魚5%、3歳魚1.2%、4歳魚以上の成魚はわずか1.2%。」と報告していて、卵を産む成魚では無く子供のマグロが98%という事です。50㎝位の子供をこぞって漁獲しているのです!この中で養殖に回される(養畜)回されるケースもありますが、こちらも少し大きくして食べるだけです。その他は言うまでも無くすぐさま市場に回されます。本来卵を産み、子孫を増やす為に産まれて来た子供を取ってしまっては、激減するのは当然といえます。
タイセイヨウクロマグロの稚魚漁獲
タイセイヨウクロマグロが先に絶滅危惧種に定められたのは前述の通りです。この激減には日本が大きく関与していて、地中海沿岸の貧しい地域で畜養の為、稚魚を捕獲し大きくし、日本に高く売るという漁業に火が付き、激しく乱獲が行われました。さらに有効的に捕獲するために巻き網漁も同時に行われた結果、マグロは半分以下に短期間で激減しました。更に養殖の餌の確保の為に、サバなどの小魚も大幅に減ったと報告されています。また、日本は地中海沿岸に巻き網をもって捕獲にも参加しています。
クロマグロ・壱岐の悲劇
壱岐の勝本漁港では2005年度に150kg超のマグロが延縄・1本釣りで358トン揚っていましたが、2014年には23トンになっています。1/15の漁獲になっています。実に危機的状況で、売上高もそのまま急減しています。そんな苦しい中、勝本漁港ではマグロの産卵期の2か月の禁漁を決め実行しています。本当に危機を味わった人間の苦渋の決断です。しかし皮肉な事に、近い海域で産卵で戻って来るマグロを、上述の巻き網漁で「1日で50tものマグロ」を取ってしまっています。この漁師さんたちは、美味しいマグロを多くの方に安価で提供出来るとの使命感があるのも事実ですが、資源の枯渇につながっているのも事実です。食卓で食べている私達も熟考する必要がある事は確かです。
クロマグロの回復
クロマグロ回復の現況(2016年)
日本のクロマグロは回復とは言い難い状況で2016年の北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)の最新の報告では、すでに初期資源(漁業が開始される以前の推定資源量)と比べ、2.6%まで資源が減少している「枯渇状態」にあり、かつ「過剰な漁獲が続いている」と指摘されています。とうい状況で頭が痛い状況です。漁獲が制限された後も減っている状況で、世界からあざけ笑われています。もはや漁獲の停止を考えた方が良いのでは?と思いますが、いかがなものでしょうか。
タイセイヨウクロマグロの回復
タイセイヨウマグロも日本と同様に2004年から巻き網漁が急増しました。その結果2005年には20万トンにまでマグロの資源量がが落ち込み、その後厳しい漁獲規制を行い、2011年には漁獲を1.29万tまで規制しました。さらに産卵場での漁獲を禁漁にした結果、2010年からは急激にクロマグロの資源量は回復し、現在では倍の資源量にまで回復しているという報告があります。最近では日本への販売枠も2014年より増え始め2017年の漁獲量は3.6万tと規制時の3倍の漁獲となって順調に回復しています。日本も見習って欲しいものです、というより、産卵前の禁漁と子供の禁漁を徹底するだけで回復しそうですが、どうお感じになられますか?
クロマグロの養殖
クロマグロの畜養
畜養とはクロマグロの稚魚を捕獲して、畜養して販売する目的で行われています。日本でも、世界の各所でも盛んに行われ、その販売の客先も70%以上が日本と言われています。この畜養と言われる養殖は、ウナギの養殖と一緒で、結局は資源の枯渇に拍車がかかるので、マグロが絶滅に瀕している日本近海では望ましくありません。少なくとも、マグロを増やしていく事につながっていないのは確かで、やり方を考えるべきです。例えば、生まれたばかりの稚魚を捕獲し半分は畜養し、半分は保護放流するなどです。現状の畜養で、唯一良いといえるのは、卵を持った個体を漁獲する事よりは良いと言えます。
クロマグロの完全養殖
世界に先んじて完全養殖(産卵したマグロを育てまた産卵させる養殖)2002年に「水産庁と近畿大学」が32年掛け成功しました。受精、産卵、稚魚飼育までで32年の月日を費やし、苦難の道のりでした。成功してからの15年、今では人工飼料の開発で安定した成長が報告され、不安定な海上飼育から、安定した陸上飼育で成功率は日を追う毎に高まり、2020年までに年間30万尾の稚魚の生産を目的とする計画を発表しています。民間では「マルハチニチロ」1987年から研究をはじめ、2010年に成功!2016年に最初の完全養殖のマグロを出荷いています。2020年には年間4000尾を出荷したいとの目標を掲げて研鑽しています。
完全養殖から稚魚放流
近畿大学は2012年に世界で初めて完全養殖マグロの稚魚が自然環境下でも生きられることを確認したと発表しました。同年の10月に和歌山県で25㎝前後の生後3か月の稚魚1862尾を放流し、2か月後確認の為に放流した個体の回収をしたところ8匹の個体と成長を確認しました。これによって「人間の手でクロマグロの稚魚放流」が初めて完成しました。 自然界から漁獲しないだけでなく、厳しい自然環境の淘汰(生存率1%ともいわれる)から保護し、放流するという事業は非常に有益で、これを守る為にも過剰な漁獲を厳しく制限する必要があり、努力を無にする事を止めたいものです。
その他のマグロの状況
その他のマグロも危機的状況
クロマグロだけでなく、ミナミマグロ(インドマグロ)は絶滅危惧IA類の「絶滅寸前種」として指定されています。その結果現在では非常に厳しい漁獲制限が行われ、回復を待っている状態です。このミナミマグロを圧倒的に(95%)輸入していたのは日本です。メバチマグロもインドマグロと共に絶滅危惧II類に指定されています。この種も主要輸入国は日本なのです。他の種はレッドデーターには指定されていませんが、タイセイヨウクロマグロ、クロマグロ、インドマグロ、メバチマグロの絶滅危惧種指定、漁獲制限が掛かっているので代替え品として乱獲されないかと心配の声があがっています。
クロマグロの未来
私達に出来る事
クロマグロは上述のように危機に瀕しています。またその他のマグロ、カツオ、サバも同様に激減しています。この様な事実はニュースではあまり発表されず、「知らない内に事態が取り返しがつかない事になっています。」出来る事は先ず正確な事実を知り、伝えていく事と思います。絶滅の縁をあえいでいる生き物を酒の肴にしたり、あまつさえ残す様な事をする人は居ないはずです! マグロを絶滅させてしまった民族と汚名を着せられる前に、私達自身が自体の深刻さ、危急さを知る事が大事だと思います。その側面には「世界初の完全養殖など」の、明るく誇らしい事実もありますので!