アブラチャンとは
灰褐色をした樹皮に覆われた落葉の低木〜亜高木で、6mほどまで樹高が伸びる場合もあります。 楕円の形をした葉っぱは、互い違いに生えます。 秋には綺麗に黄葉しますよ。 冬に落葉しますが、中には枝に残ったままになる葉っぱも。 クスノキ科ならではの芳香があるものの、油の混じったような香りがします。
科名
クスノキ科クロモジ属です。
学名
『Lindera praecox』 「Lindera」は、クロモジ属を指し、 植物学者「Johann Linder(ヨハン・リンデル)」への献名にあたります。 「praecox」の意味は「早咲きの〜」になります。
花名由来
アブラチャンというちょっと可愛い名前について。 アブラはそのまま「油」です。 チャンは「瀝青(れきせい)」を意味しています。 この聞き慣れない瀝青というのは、コールタール、アスファルトなどのことです。 合わせて「油瀝青」になりますね。 名前から分かる通り、アブラチャンは油分をたくさん持つ植物なんです。 他にも、ムラダチ(群立ち)、ヂシャ、ゴロハラなどの呼び名があります。
アブラチャン/花言葉・開花時期
アブラチャンにも花言葉があります。 花よりも油を連想した花言葉を思い浮かべてしまいそうですが、 黄色くて小さなかわいい花をたくさんつけるんですよ。 花が3〜5個ほど集まった、散形花序という状態で咲きます。
花言葉
「はかない恋」 切ない花言葉ですね。
由来
かわいらしい花を見つけても春はすぐに過ぎ去る、という花にまつわる由来があります。 アブラチャンの花は春に咲きます。 油に関しては、火を灯してもすぐに油が切れて儚く火が消える、といった由来になります。
開花時期
3月〜4月頃の早春に開花します。 小さい花ながらもたくさん咲くので、よく鑑賞することができます。 一見、ダンコウバイの花と見間違うこともありますが、 アブラチャンの花には花柄がついているので見分けられますよ。 違いがはっきりしてるのは、冬芽です。
アブラチャン/品種・原種
一つの株からいくつもの幹が生えている状態の株立ち。 この姿からは自然味を感じられることや、 樹高を抑えられるといった実用的な面も兼ね備えているため、園芸でよく好まれます。 アブラチャンは株立ちの状態になりやすく、その雅やかな姿が美しいのでファンが多くいます。 葉裏に開出毛がある「ケアブラチャン」は、日本海側に自生しています。
原産地
日本固有種です。 日本原産の日本だけに生育する樹木で、親近感が湧いてきます。 大切に守っていかなければなりませんね。
分布域
本州〜四国〜九州に分布しています。 山の中腹や、ふもとなどによく自生しています。 なので珍しい樹木ではありません。 アブラチャンという呼び名を初めて聞いたことがある人でも、 近くに山がある環境なら見たことがあると思います。
アブラチャン/育て方・栽培方法
難易度
中級者向きの樹木です。 鉢植えには向かず、地植えで育てます。 そのため、ある程度のスペースを確保する必要があります。 植え付ける庭があまり広くなくても、株立ちであれば威圧感は薄まりますよ。
場所
アブラチャンは山の中の湿地に自生しています。 育てる場合にも、同じような半日陰で湿度のある場所を選んであげましょう。 乾燥には弱いので、陽の当たる場所は適していません。
植え付け
植え付けは、落葉後にあたる2月〜3月頃に行います。 乾燥を避けた肥沃な土にするため、腐葉土とバーク堆肥を庭土に混ぜます。 量は多めにしてください。 土に石が入っているようなら取り除きましょう。 その方が根付きやすくなりますよ。
水やり
地植えをして根付けば、特に水やりの必要はありません。 乾燥しやすい場所だったり、 雨の降らない日がずっと続いて干上がってしまう時には、その都度水やりしてください。 ですが、水の与えすぎには注意しましょう。
肥料
肥料はなくてもOKです。 年に1回2月頃に、寒肥代わりで腐葉土と堆肥を株元へまくと安心です。
剪定
株立ちの姿や枝の曲がり具合など、自然の樹形に趣があって綺麗に見えます。 せっかくそのままの姿が素敵なので、あまり剪定はしない方がいいですね。 混み合ってどうしても見栄えが悪い枝や、枯れた枝を落葉期に取る程度にしておきましょう。 別名ムラダチというように、枝が増えてきます。 数年おきに古い枝を上手に無くすと、より綺麗になりますよ。
増やし方
種から増やすことができます。 秋に収穫した実から種を取ります。 時期的にすぐにまいても問題ありません。 または保存しておいて、翌年の春3月頃にまいてください。 保存の際に気を付けることは、種を乾燥させないことです。 乾燥すると発芽率が下がるので注意しましょう。
病害虫による被害
病気や害虫を寄せ付けない樹木です。 これらの被害は心配しなくても大丈夫ですよ。
アブラチャン/特徴
アブラチャンは、綺麗な株立ちの樹形や、油を多く含んでいるなど、色々な特徴があります。
雌雄異株
雄花が咲くオス木と、雌花が咲くメス木に分かれている「雌雄異株(しゆういしゅ)」です。 なので、オス木、メス木のどちらかだけだと結実しません。 受粉したメス木が実をつけることができます。 花にも若干の違いがあって、メス木は黄色に緑が混じったような色になります。 構造も少し異なってるんですよ。
実について
果実は球状で、1.5cmほどの大きさです。 茶色が混じったような淡い緑色の実になります。 実の中に種子が1つあり、特にこれが多くの油分を持っています。 初夏に緑色の実をつけ、若い時期はゼリー状になっています。 熟すのは10月〜11月頃の秋で、裂けて種子が出てきます。
芳香がある
同属のクロモジと同じように、芳香を放つアブラチャン。 クロモジは高級爪楊枝の素材にされますが、 アブラチャンの匂いは油気が感じられるため向きません。 この芳香は好き嫌いが分かれると思います。
アブラチャンの油にまつわる話
アブラチャンは、実だけでなく木の全身にたくさんの油分が含まれています。 そして油は採取することができて実際に使われていました。 アブラチャンと油はどのように利用されていたのでしょうか。 実用性のある木として活用されていた内容をご紹介します。
種子の油
種子は、白い粉をまいたように見える茶色い球状をしています。 油分が特に多いのは種子で、昔は油が採取されていました。 油といっても料理用としてではなく、灯油や鬢付け油に用いられていたようです。 薬としての効果は公表されていませんが、 マムシなどに噛まれた際、実を使う地域があります。
幹や葉の油
幹や葉にも油があります。 たいまつや、焚き火の薪にもってこいの性質でよく燃えます。 生木のままでも、雨が降っていても、火がつきます! それだけ燃えやすい油がたっぷり含まれているんですね。 マタギは上手に火を起こせます。 その秘密のひとつに、アブラチャンなど油分を多く含む木材を使うことが挙げられます。
カンジキに使われる
カンジキとは、草鞋や靴の下に装着し積雪など足場の悪い所でも歩けるようにするための道具です。 アブラチャンはこのカンジキや、縄、杖の材料に適しています。 木に含まれる油分によって、材質にしなりが出て、ねじれにくくなることが理由です。
まとめ
名前の響きがユーモラスなアブラチャン。 その名の通り油分を多く持った植物と、覚えやすいですよね。 ワイルドな株立ちの趣ある樹形と、黄色くて可愛い花、 秋になると黄葉する葉など、園芸的に魅力のある樹木です。 庭植えでスペースが必要なことと、生育環境も限られていることから、 育てるにはちょっと難しい部分もありますが、チャレンジする価値はありますよ!