ゲッカビジンとは
ゲッカビジンは熱帯ジャングルに自生しているサボテンの仲間です。 特徴はなんと言っても、夜に咲く大きく美しい花と一夜でしぼんでしまう儚(はかな)さでしょう。 美しさのため珍奇植物として扱われてきましたが、近年ではガーデニング人気からか、栽培する人も増えてきました。 現在でもその美しさは人気があり、開花の季節になるとニュースで話題になるほどです。
科名
サボテン科クジャクサボテン属
学名
Epiphyllum oxypetalum 「epi」は上、「phyllon」は葉を意味しています。 「oxypetalum」は鋭い花弁を意味します。
花名由来
ゲッカビジンの由来は「月下美人=月の下の美人」です。 台湾を訪れた昭和天皇(当時はまだ皇太子)がこの花の名前をお尋ねになられました。そのときの台湾駐在大使の田(でん)が「月下の美人です」と答えました。 この逸話がそのまま一般的になり広まったのです。
ゲッカビジン/花言葉・開花時期
ゲッカビジンの花言葉は花の特徴からつけられたものがほとんどです。 月の下に咲く神秘的な美しさと、一晩でしぼんでしまう様子はなんとも、詩心を掻きたてますよね。
花言葉「あでやかな美人」
ゲッカビジンの花言葉は「あでやかな美人」です。 他にも「はかない美」「はかない恋」といった美人薄命という語源になぞらえた花言葉や、「強い意志」「秘めた情熱」といった、まるで男性社会で強く生きる、キャリアウーマンのような言葉も持っています。
由来
直径20~25cmにもなる大きな花と、ジャスミンに似た強い芳香。そこからあでやかな美しい貴婦人を思わせる花言葉が生まれました。 華やかで女性らしい艶があり、さっそうと歩く都会の女性のようなイメージでしょうか。
開花時期
日本の栽培下では6~11月。 通常1年に1度しか咲かないと言われていますが、管理の仕方や株の体力が十分にあれば、2、3ヶ月後にもう一度咲くこともあります。
ゲッカビジン/育て方・栽培方法
難易度
ガーデニング初心者でも比較的簡単に育てられます。環境への適応力も高く成長も早く大株になりやすいです。 ポイントは冬の温度管理と、水やりです。熱帯ジャングルの植物ですので冬の寒さに弱く、気温の下がりすぎで枯れることもしばしばあります。水やりも多湿は嫌いますが、水を好みます。
時期
ゲッカビジン栽培の作業時期は以下の通りになります。 ・植え付け 植え替え:5~9月 ・肥料:4~10月 ・挿し木:5~9月
植え付け
ゲッカビジンは寒さにあまり強くなく、気温が7度を下回ると枯れてしまいます。そのため季節ごとに管理しやすいよう鉢植えにします。 土は水はけの良いものを好みます。 赤玉土5:鹿沼土2:腐葉土3の割合で配合したものを使います。市販のラン用土かシャコバサボテン用土でも大丈夫です。 ただし観葉植物用だと水持ちが良く根腐れを起こすので注意してください。 目安は素焼きの5号鉢に1株です。少し鉢が小さいかな?と感じるくらいで大丈夫です。
水やり
5月から10月は土の表面が乾いたらたっぷりと水を与えます。夏の暑い日は特に生育が旺盛なので、一般的な植物の水やりと同じようにあげてもいいでしょう。 11月から4月は乾かし気味に管理します。土の表面が乾いてもすぐに与えず、1日開けてあげるようにします。 ゲッカビジンは水を好みますが多湿には弱いです。花付きが悪くなったり、枯れてしまったりすることがあります。 水を与えすぎると茎葉にシワが寄りますので、その場合は植え替えるなどの対処をしましょう。 また鉢の受け皿に溜まった水は放置せず、小まめに捨てるようにしましょう。
肥料
チッ素分が多いと葉茎ばかり大きくなってしまうので、リン酸やカリを多く含んだ緩効性肥料を与えるようにします。 4月から9月は花付きを良くするためにリン酸分の多い肥料を、10月にはカリ分を多めに施すと根や茎を丈夫にし、耐寒性を高めてくれます。 挿し木をした苗はチッ素分を多めに与えて成長を促します。
場所
原産地がメキシコなどの熱帯雨林であるため、耐寒性はほとんどありません。そのため気温が7度を下回らないように季節ごとに置き場所を管理しましょう。 冬から春の間は暖かい屋内で管理しましょう。光合成を十分に行うことで株が充実し、花が付きやすくなります。 4月頃から外気に慣らし始め、最低気温が10度以上に安定し暖かくなってきた5月頃には外に出します。風通しの良い明るい日陰がいいでしょう。 梅雨の時期の長雨にさらすのは好ましくありません。雨の当たらない場所に移動させましょう。急な温度変化に気を付けてください。 梅雨明けから日差しが強くなってきた7月から8月は、葉焼け・黄ばみを防ぐため、日中の直射日光を避け半日陰で過ごします。 9月中旬頃になったらしっかりと日差しにあてましょう。寒さを感じるようになったら霜が降りる前に屋内へ取り込みます。
剪定・切り戻し
9~10月頃、切り戻しを行います。枯れた茎葉は落とし、大きく伸びたものも邪魔にならないように切ってしまいます。 ただしゲッカビジンは大株になるほど花が付きやすいので、深く切り戻すことはあまり好ましくありません。部屋に入れるときに邪魔にならない程度でよいでしょう。 株元からシュート(長く勢いのある若い枝)が伸びることがあります。シュートはほうっておくとどんどん大きくなるので、シュートが60cmくらいになったら先端を摘み取ってしまいます。 シュートを株元から切ってしまうと芽を出す力が衰えるので注意しましょう。
挿し木
ゲッカビジンは挿し木で増やせます。適期は5月から9月です。 消毒したカッターやハサミで15~30cmほどで水平に切ります。切り戻しした茎葉を用いても良いでしょう。 日陰で2、3日干して乾燥させ、赤玉土や鹿沼土などの肥料分が少なく水はけのよい用土に浅く挿します。 明るい日陰で管理し、1週間から10日ほど経って水やりを始めます。根が出るまで1ヶ月ほど要しますので気長に待ってくださいね。 根が出たら土に植え替えて、新芽が出たら肥料を与えます。
植え替え
植え替えは生育期の5月から9月に行います。 鉢から抜いて古い土と腐った根を取り除き、根を3分の1ほどに切り詰めます。株元は浅めに植えて、倒れないように支柱を立てるといいでしょう。アサガオによく利用するあんどん支柱が便利です。
病気と害虫
年間を通してカイガラムシの被害に遭うことがあります。カイガラムシは白い塊のような姿をしており、じっとしています。殺虫剤は効きにくいので歯ブラシでこすり落としましょう。 放置すると植物が弱りますし、カイガラムシの排泄物はすす病の発生原因にもなります。 また花のつぼみはアブラムシがつきやすいので、見付けたら早めに駆除しましょう。せっかくの花が台無しにされては困りますものね。
ゲッカビジン/特徴
昆布のような葉
葉は昆布のような扁平な形をしています。葉状茎(ヨウジョウケイ)といいます。葉にはトゲがなく、よく分岐しています。
大人の男性の手のひらほどもある花
丈が1~2メートルほどにもなるとつぼみを付け出します。 花は20~25㎝にもなり、大人の男性の手のひらより大きくなることも珍しくありません。 白く透き通ったかのような花色は名前の通り月に照らされた女性のようです。
開花をつげる強い芳香
ゲッカビジンは非常に強い芳香がすると有名です。 この芳香は10m先にでも漂ってきて「どこかでゲッカビジンが咲いているな」とわかってしまうほどです。 ベランダに置いておくとすぐに部屋中に香りがひろがるでしょう。 ゲッカビジンのジャスミンのような香りは「月来香(ゲツライコウ)」と呼ばれています。
夜に咲き一夜で萎れてしまう花
ゲッカビジンは夜に花を咲かせる性質があります。それも夜一晩だけ。受粉できなければそのまま萎れ散ってしまいます。 他のクジャクサボテンは昼間に2、3日間、花を咲かせることができるので、珍しい性質といえます。
ゲッカビジンに交配種はない
他のクジャクサボテンと違って、ゲッカビジンには交配種がありません。そのためクジャクサボテンとは違う進化をした品種であるとされています。 日本にあるゲッカビジンも原産地からやってきたそのままの原種です。 とはいえ現在では近縁種との人工交配によって10種類ほどの園芸品種が生まれています。
ゲッカビジン/品種・原種
ゲッカビジンはメキシコを中心とした熱帯雨林地帯を原産としています。 野生のゲッカビジンは朽ちた木や大木の表面に根を張っていることが多く、昆布のような葉は垂れ下がっています。 私たちが知っているものとずいぶんと様子が違っていて面白いですね。
原産地
メキシコ~中央アメリカ・南アメリカ、西インド諸島
分布域
メキシコの熱帯雨林地帯 ゲッカビジンはクジャクサボテンの仲間です。 元々は砂漠に生息する柱サボテンでした。それが砂漠からジャングルに入り込み、進化したのものだそうです。
食用ゲッカビジン
食用ゲッカビジンは「食用」とありますが特にそのものを食べるものではありません。結実した実を食べることができるから、「食用」と名がつきました。 実はこの食用ゲッカビジンは、品種改良されたもの、というわけではありません。日本にあった元々のゲッカビジンと同じものです。 少しややこしいのですが、これまでの日本のゲッカビジンは、たった一株のゲッカビジンから挿し木や株分けなどで増えたクローンでした。そのため受粉して結実することができなかったのです。 そこに別の個体がやってきたことで、ゲッカビジンも受粉して実をつけることができるようになったのです。
姫月下美人
姫月下美人はゲッカビジンよりも小ぶりでたくさんの花をつけます。香りはゲッカビジンより強く、愛好者から人気がある品種です。咲いた翌日も日中まで萎れずにいてくれるのも嬉しいところです。 姫月下美人はゲッカビジンの園芸種というワケではなく、また別のクジャクサボテン科の原種です。ゲッカビジンのいとこのような近縁種ですね。 学名も「Epiphyllum Pumilum」と言い、はっきりと区別されています。
満月美人
原種であるゲッカビジンと姫月下美人と掛け合わされてできたのが満月美人です。 たくさんの花をつける姫月下美人の特徴と、ゲッカビジンの華やかさを持った園芸品種です。 最近ではゲッカビジンとそれに近いクジャクサボテン科の品種が掛け合わされて、色々な種類を見かけるようになりました。 ゲッカビジンの園芸種はみな、「美人」とつくので(姫月下美人は除く)すぐに見分けることができます。
ゲッカビジンはなぜ夜に咲くのか
コウモリによって受粉を媒介してもらうため
ゲッカビジンはなぜ、夜に花を咲かせるのでしょうか? それは熱帯雨林の生息する、花粉や花の蜜を食べる小型のコウモリに合わせて進化したためだといいます。 白い花は夜の闇の中でも目立ち、月明かりがあれば浮きがるように見えるでしょう。強い芳香もコウモリの目印になるのです。 茎はがっしりとしていてコウモリが捕まっても折れないほどに頑丈です。花も上向きに咲き、真ん中には大きな雌しべ、周囲には雄しべがびっしりついています。 これらの特徴がコウモリの行動と適応しているのです。
ゲッカビジンを食べてみよう
日本でのゲッカビジンは奇異植物として見られることが多いです。そのためなじみがありませんが、実はゲッカビジンは食べられる植物なんです。 ここではゲッカビジンを味わい方を紹介していきます。
ゲッカビジンは漢方だった?
ゲッカビジンは薬用として利用されてきた歴史があります。 花や実には喘息や肺炎など呼吸器系の疾患、高血圧の予防に効果があるといわれてきました。台湾では古くからスープとして食されています。 日本ではあまりなじみがありませんが、東洋医学の先生方を中心に好んで食べられています。
ゲッカビジンを食べる①おひたし
ゲッカビジンのメジャーな食べ方はおひたしにすることです。 翌日しぼんだ花を使って食べてみましょう。 1.花の雄しべと雌しべをとる 2.茎を千切りにする(花はそのまま) 3.花と茎を1分ほど湯がく 4.軽く絞る 5.ポン酢、酢味噌などお好みのものを掛けていただく 食感はしゃりしゃりとして、味もクセがないそうです。
ゲッカビジンを食べる②食用ゲッカビジンの実
近年ではゲッカビジンの実を食べることができるようになりました。 もともと一つの株から分かれてで増えたものでしたが、別の株(食用ゲッカビジン)が持ち込まれた事によって実を楽しむことができたのです。 実をならせるためには2つの株の花を同じ夜に咲かせなければならない、という極めて難しいことをしなければなりません。 実の断面はトロピカルフルーツでおなじみのドラゴンフルーツのようです。味はキウイフルーツのようなほのかな甘みが感じられ、ジャムにしてもおいしそうですね。
ゲッカビジンを食べる③焼酎漬けにして花も楽しむ
ゲッカビジンの花を美しいまま閉じ込めてしまう方法が焼酎漬けです。もともと花は食べられるため、つけた焼酎はもちろん飲めます。 アルコール度数35度以上の焼酎に漬け込むだけです。やがて色が抜けていき透明になっていく様も観賞する楽しみもあります。 花果酒といって中国では盛んに作られているようです。
その他のゲッカビジンの利用方法
化粧水として利用する
化粧品メーカーの独自調査によると、ゲッカビジンには保湿効果の高い成分が含まれていることがわかりました。 そんなゲッカビジンのエキスを抽出する方法があります。 1.清潔な瓶に、花と花が浸るくらいの無水エタノールを入れます。 2.冷蔵庫で保管します。 3.一日一回程度、瓶を振ります。 4.一月後、ろ過して完成。 この方法はチンキと呼ばれ、アルコールで植物の薬効成分を抽出する方法です。海外では薬として処方されることもあることも。 作ったものは入浴剤として使ったり、精製水、グリセリンと混ぜて化粧水としても使えます。
香水の原材料に
ゲッカビジンは濃厚な甘い方向を放ちます。南フランスでは香水の原材料として栽培されています。 夜に花が開くと芳香が放たれることから、イギリスやフランスでは官能的な花言葉が伝わっています。「危険な快楽」「肉感」です。 日本とはまた違ったイメージなんでしょうね。
ゲッカビジンにまつわる迷信
夜に花を咲かせるゲッカビジンはその神秘性で様々な迷信を持つようになりました。
同じ株から分かれたので花が同じ日に咲く
日本にやって来たゲッカビジンは株分けされて増えていきました。そのため「クローンなんだから同じ日に咲くんでしょ?」という俗説が広がったとされています。 当たり前ですが育つ環境が違えば花が咲く時期も違ってきます。それはクローンであっても生き物なのですから当然です。
新月の夜にしか咲かない
ゲッカビジンは月の満ち欠けに合わせて咲くことはありません。 どうも受粉を助けるコウモリが月齢に合わせて活動するという迷信からきたようです。もちろんコウモリにそんな習性はありません。
1年に1度しか咲かない
手入れをすれば年に2回以上咲かせることができます。 ゲッカビジン自身の、花を咲かせる体力があるかどうか次第ですので、年に1度しか咲かないのは迷信です。
まとめ
昭和天皇も魅了されたゲッカビジンは、栽培しやすい植物です。寒さに弱い一面もありますが、大切に育てれば毎年、美しい花を咲かせてくれます。 ぜひ育ててみましょう!


