ガーデニングの天敵・アブラムシ
ガーデニングを趣味としている方にとって非常に悩ましい害虫の代表・アブラムシ。どんなに対策をほどこしてもアブラムシは旺盛な繁殖力で、気づいたら大量発生してしまいます。
たった一匹をほうっておいただけなのに、どうして急に増えてしまうのでしょうか。 実はアブラムシには生物学的にも面白い特徴があり、その特徴のおかげで大量に増えることができるのです。 アブラムシの対策するために、まずはアブラムシについて学びましょう。
アブラムシは爆発的繁殖力を持つ
アブラムシはカメムシ目アブラムシ上科に属している昆虫です。非常に種類が多く、日本だけでも700種類以上存在しています。 ほとんど動かず、植物の表面で植物の体液を吸っています。
ガーデニング愛好者にとって、アブラムシのもっとも厄介なところはその繁殖力でしょう。 アブラムシはメスだけで子孫を残すことができる単為生殖を行い、自分と全く同じクローン体を30体ほど産みます。
しかも産んだ子どもの胎内には既に孫が宿っている状態です。そのため春から晩夏にかけて爆発的に増殖します。 アブラムシは一週間ほどで子どもを産むことができます。
つまり1匹のアブラムシを1週間、対策をせずにほったらかしにしてしまうと、単純に30×30=900匹ものアブラムシが瞬く間に広がってしまうのです。
アブラムシはどこからやってくるの?
アブラムシは一年中植物に寄生している虫です。 春に孵化したアブラムシには羽が生えており、植物から植物へと移動します。 移動した先で繁殖しますが、このとき産まれるアブラムシには羽が生えていません。
その場所で密集するほどに繁殖したら、やがて羽の生えた個体が産まれ、また次の宿主を探しに飛んでいくのです。
アブラムシが植物に与える被害
【植物の奇形】アブラムシは集団で植物の柔らかい新芽に群がり、養分を吸い取っていきます。そのため養分を吸われた植物は発育不良、コブ、葉の縮小などを引き起こします。
【病気の媒介】 アブラムシは病気を媒介することも知られています。病原菌を持った植物の汁を吸った後、健全な植物に移動し、汁を吸うことで感染が広がっていくのです。
【アリをひきつける】アブラムシは甘露(糖分の多い排泄物)を出します。この甘露はすす病を引き起こす菌の温床になるほか、アリを引き寄せます。
【すす病】葉に黒い斑点がある場合、すす病の疑いがあります。すす病はカビが葉の表面で繁殖したもので、広がると光合成を妨げ発育に影響を及ぼします。 すす病の疑いがある場合はその部分を取り除き、広がりを止めることが重要です。
無農薬でアブラムシ対策ができる?
最近ではアブラムシ対策に化学殺虫剤を使わない人が増えています。農薬による健康被害の情報が手に入りやすくなり、オーガニックや有機栽培への取り組みが注目されているからです。
やはり野菜や果物など口に入るものはもちろんのこと、小さいお子さんがいる家庭でも「体に悪いんじゃないの?」と不安に思うものは使いたくないですよね。 またアブラムシは殺虫剤に耐性を持つことが多いので、複数の殺虫剤を使うことに不安を覚える人も少なくありません。
ポピュラーな殺虫剤・オルトランは本当に安全なのか
一般的に効果があり、人気のある殺虫剤オルトランはどんな殺虫剤でしょうか? オルトランは浸透移行性の殺虫剤です。浸透移行性とは植物が有効成分を吸い上げて、体中に行き渡らせることができる、ということです。
だからオルトランはアブラムシなどの植物の汁を吸うもの、葉を食い散らかす虫に絶大な効果があります。
オルトランの安全基準
オルトランは安全に使用できる基準が厳密に決められています。 たとえばカブでしたら、収穫の21日前以降の使用は禁止と決められています。持続性も高いですが、残留性も高い殺虫剤がオルトランなのです。
使用方法を厳守すれば安心して使えるオルトランですが、有効原料であるアセトフェートが加水分解するとメタミドホスという神経毒が発生することが分かっています。
このメタミドホスは2008年の冷凍中国ギョーザ事件で注目されたものです。そのためできるだけ無農薬で、と考える人も増えているのです。
農薬を使わないアブラムシ駆除の方法4選
オルトランを始めとする農薬には厳しい安全基準が定められています。しかし危険性を知ってしまうと、できるだけ農薬に頼りたくないと思いますよね。 ここから無農薬でのアブラムシを駆除する方法を順に紹介していきます。
農薬を使わないのですから、できるだけ早期に対策することがポイントです。アブラムシが大量発生に発生してしまうと、無農薬では駆除が難しくなってしまいます。 日ごろの手入れに葉の裏、新芽の付近までアブラムシをチェックする習慣をつけましょう。
①木酢液を使った駆除の仕方
木酢液は木炭を作る時に出る煙や水蒸気を冷やして液体にしたものを指します。園芸店で気軽に手に入りやすく、ガーデニングにも嬉しい効果がたくさんありますのでご紹介します。
木酢液の使い方
使い方は非常に簡単です。 木酢液を水で200~1000倍に薄めて散布します。目安は1Lの水にティースプーン一杯ほどです。水がしたたり落ちるくらいたっぷりとかけると良いでしょう。
木酢液の嬉しい効果
木酢液は鼻が曲がるような強烈なニオイがします。アブラムシ対策にはこの強烈なニオイを利用しています。 実はこの木酢液のニオイを嫌う生物が多く、その他に猫避けや虫除けにも期待できるのです。
そのためバークチップ(お庭のマルチング材)にあらかじめまいておく、という使い方をすることもあります。 また木酢液は有機分を多く含むので、化学肥料を使わないオーガニックガーデンに親しまれています。
品質の良い木酢液を選ぶために
木酢液は主に200種類以上の成分でできています。原料となる木材によって含まれる成分や量が異なっており、中には有害な成分もあります。 私たちの手元に届く前に木酢液中の有害な成分は取り除かれているのですが、中には粗悪品も含まれています。
粗悪品を避けるために見分けるポイントは二つです。 ・原材料名がきちんと記載されているか ・(見た目で)透明感がある黄色、または褐色 安いから悪い、というものではありません。 購入の時はきちんと確認して、良い品質の木酢液を選びたいものですね。
②牛乳を使った駆除の仕方
牛乳を使った駆除の方法は、最もお手軽で安全性の高い方法です。 アブラムシを牛乳の膜で包み込み、呼吸器を塞いで駆除する方法です。
牛乳での対策の仕方
牛乳での対策手順は3ステップです。 ①牛乳をそのままか少し薄める ②霧吹きでアブラムシに吹きかける ③乾いたら洗い流す 早く乾く晴れた日を選ぶとよいでしょう。
牛乳を使用したらよく流すこと
吹きかけたあとの牛乳は丁寧に洗い流しましょう。 洗い流すのを忘れてしまうと、悪臭、腐敗、雑菌の繁殖にもつながり、植物にも悪い影響を与えます。 また敏感な人は牛乳の臭いが気になるかもしれません。
またこの方法は大発生したアブラムシ駆除には向きません。また牛乳の大量の散布はかえって植物の生育を阻害してしまうので注意が必要です。
③石けん水を使った駆除の仕方
石けん水を使った方法も良く知られています。 作り方は、500mLほどの水に油と中性洗剤を、2、3滴加えてよく混ぜます。うっすらと白濁した液になればOKです。 これを霧吹きでアブラムシに吹きかけます。
原理は牛乳の場合とおなじです。 アブラムシの呼吸器を石けんの膜で覆い、窒息死させて駆除します。 こちらの場合も、乾いたらよく水で洗い流しましょう。
④重曹を使った駆除の仕方
重曹を使ったアブラムシの駆除法を紹介します。 重曹はうどんこ病の予防にも期待できるといわれています。それはうどんこ病の予防と殺菌に使用されているアルカリという性質が同じだからです。
うどんこ病は、うどんの粉がまぶされたかのような白い斑点が特徴です。これもすす病と同じく、カビの一種で広がると光合成を阻害し、落葉の原因となってしまいます。重曹は安価に手に入りやすいので、ぜひ試してみたいものですね。
重曹スプレーの作り方
重曹スプレーの作り方は原液をつくり、それを希釈して使用する方法が一般的です。 ①次の材料をよく混ぜ合わせ、原液を作る。 ・重曹小さじ1 ・油1/3カップ ②原液を小さじ2を水1カップで薄める。 ③分離を防ぐために中性洗剤を1、2滴加えて混合する。
重曹スプレーを大量に使う前にテストを
重曹スプレーの使い方は、牛乳や石鹸水同じです。使用後はしっかりと洗い流しましょう。 ひとつだけ注意していただきたいことがあります。重曹スプレーはかけ過ぎると葉の変色を引き起こすことが分かっています。 重曹スプレーを全体にかける前に、部分的にテストして使用するのがオススメです。
アブラムシの対策方法5選
①酢を使った対策方法
酢にトウガラシ、ニンニクをひと月以上つけ込み、それを300倍ほどに希釈して吹きかける方法です。酢も重曹と同じくうどんこ病の予防に期待できます。
トウガラシ酢スプレーの作り方
以下の3つの容器に入れ、一月以上漬け込みます。 ・トウガラシ5~10本 ・ニンニク1、2欠 ・酢500mL トウガラシの量は目安です。容器に入るだけ詰め込むのが良いとされています。
②コーヒーを使った対策方法
土作りの段階で、コーヒーの残りかすを混ぜ込んでおく方法です。土壌改良としても効果や猫よけに期待できます。 アブラムシが発生する前に、予防としての効果が期待できます。 ただし土に混ぜ込んでおかないと、カビの発生源にもなります。
必ず土に混ぜ込むか、離れたところにまくなどして下さい。 また、コーヒーを直接スプレーする方法もあります。その場合、特に実のなる植物の場合、花に掛からないように注意が必要です。実の発育を阻害するおそれがあるためです。
③ハーブを使った対策方法
アブラムシ対策には、ハーブを一緒に植える、という方法があります。ハーブには薬効成分があり、また病害虫が苦手とする香りを出すものも多数あります。 このように一緒に植えることで虫除けや、作物の成長を助け、味を良くする効果がある植物をコンパニオン・プランツといいます。
しかしコンパニオン・プランツはほとんどが経験則によるものなので、「絶対に効く」というものではありません。
ハーブを使ったアブラムシ対策の効果には主に3種類あります。「忌避する」「天敵を呼ぶ」「おとりにする」。ここでアブラムシ対策に効くハーブを紹介します。
セージ
セージのさわやかな香りには沈静効果があるとされ、この香りをアブラムシはや多くの昆虫は嫌います。 セージは種類が多く、花の色、葉の形に個性があるので花壇に植えても良く映えるでしょう。
特にチェリーセージは観賞用としても人気があります。 またうがい薬としても利用できるので、濃いめに出したティーを冷やして、風邪予防に利用するのも良いでしょう。
バジル
アブラムシの忌避のほか、特にトマトと相性が良いハーブです。 トマトと一緒に植え付けておくだけでトマトの甘みを引き出す効果があります。初夏に苗が多く出回るのでトマトと一緒に育てて、イタリアンで楽しむのも良いでしょう。 ただしバジル自体には虫が付いてしまうことがあります。
カモミール
アブラムシの天敵となるテントウムシを引きつける効果があります。直接アブラムシを忌避する、というものではありません。 アブラナ科(キャベツ、ハクサイ、ブロッコリーなど)の植物と相性が良く、発育を助け、風味を良くする効果があります。
「森のお医者さん」の名前で知られるように、弱った植物の根元に植えておくと良いとされています。ドイツでは子どもの民間療法にもよく利用されていて、万能のハーブでもあります。
ミント
ミント類の中でもペパーミントは殺菌効果が高いので病気の抑制にも期待が出来ます。 育てやすく植え付けも、真夏・真冬を避ければ年中できます。苗も安価に手に入りやすいです。ハーブの中でも強靱な植物で、他の植物を駆逐してしまうほど生育が旺盛です。
そのため鉢植えにすることがオススメです。 注意点は一部のネギ類と、キュウリと一緒に植えないこと。その成長を阻害してしまいます。
マリーゴールド
葉に防虫効果があるのでアブラムシも含めた、多くの虫の駆除効果が期待できるハーブです。 特にセンチュウという農家さんが最も嫌う虫をさける効果に注目が集まっています。アブラムシとセンチュウの両方の対策にも利用できそうです。
ただし効能があるのはフレンチ・アフリカンマリーゴールドのほうです。購入の際はご注意下さい。
チャイブ
アブラムシが好むハーブがチャイブです。直接駆除をすることはできませんが、チャイブをおとりにして他の植物を守る、という方法で使用されます。そのため離れた場所に植えておくことがポイントです。 オムレツやスープ、サラダなど、料理に使いやすいハーブです。
④無農薬殺虫剤をつかった対策方法
アブラムシには薬に耐性をもつ、という特徴があり、そのために複数の殺虫剤を使用することが推奨されてきました。 それならば初めから薬の成分がない殺虫剤を使えばいいのではないか。安心して使える殺虫剤はないのだろうか。
そんなガーデニング愛好家の声で生まれたのが、水あめやデンプンを使った無農薬の殺虫剤です。
ベニカマイルドスプレー
水あめで出来た殺虫剤で、そのまま植物に吹きかけることができます。収穫の直前まで使えるのも嬉しいですね。 しかし一度使用すれば終わりではなく、一週間に一度程度、特にアブラムシが活発な時期は吹きかける必要があります。
粘着くん
食用のデンプンを使用しているので非常に安全性が高いです。使い方は100倍ほどに希釈して、直接アブラムシに吹きかけます。 デンプンが乾いた頃にペリペリとはがすことでアブラムシを一網打尽に出来ます。
⑤アブラムシが来る前に出来る対策
アブラムシは一度大繁殖を許してしまうと、無農薬での駆除が難しくなります。 そこで大繁殖を防ぐためにあらかじめできる対策をいくつか紹介します。
対策①密集させない
あまり混み合わないように植物の植え付け間隔に注意します。 アブラムシは一匹を放っておくと瞬く間に大繁殖していきます。密集しているとアブラムシの発見が遅れてしまうばかりか、他の植物への広がりを抑えることが難しくなるからです。
またアブラムシは病気を媒介します。 それらを防ぐためにも適度な間隔での植え付け、定期的な剪定を行いましょう。
対策②肥料のやり過ぎに注意
アブラムシは窒素分の多い土を好む性質があります。過剰にならないように注意が必要です。
対策③シルバーのマルチカバーやテープを利用する
太陽光を反射するキラキラとしたものを嫌う性質があります。その性質を利用して銀色のテープを垂らしたり、根元をマルチカバーで覆ってあげるとよいでしょう。
アブラムシの特徴を知って上手に無農薬で対策をしよう
無農薬でのアブラムシの対策は、人間と虫との知恵比べです。 オルトランを始めとする効果の高い殺虫剤はたくさんありますが、できるだけ人体へ害の少ない方法でアブラムシ対策をしていきたいものです。
あらかじめ土壌改良しておいたり、ハーブと一緒に植えてみたり、無農薬でのアブラムシ駆除には様々な工夫が必要です。 今回ご紹介しましたこれらの方法を見て、アブラムシの対策をしていきましょう。