アジサイの育て方をご紹介
雨が多い日本だからこそ愛される
日本は雨の多い国です。 特に梅雨の時期は雨き、気分がどんよりしがちです。 そんなとき、青やピンクのアジサイが目に入ると、すっと落ち着いた気持ちになりますよね。 アジサイはもっとも雨に似合う花といえるでしょう。 人気も抜群で、日本各地にはアジサイの名所が存在します。
アジサイの育て方をご紹介
アジサイを自分の家で育てるのって、憧れませんか? この花があれば、雨の季節がもっと楽しくなりそうですよね。 「でも、難しそう……」「枯れるかも……」と心配している方も、大丈夫。 アジサイは特別育て方が難しい植物ではありません。肝心なのは、アジサイの好む環境を知ってあげること。育て方をおさえた上で、愛情をこめて面倒を見れば、あなたのお庭でも元気に育ってくれます! 最後の方では、移植のコツや、枯れるときに考えられる原因など、発展的な内容もご紹介しています。 さっそくアジサイについて知っていきましょう!
アジサイの基本データ
アジサイ科の植物
アジサイは以前、花の構造から「ユキノシタ科」に分類されていました。 しかし近年では、化学技術の進歩によりDNAの解析が進んだ結果、ユキノシタ科ではなく「アジサイ科」として独立した呼び方がされるようになりました。 古い本を読むと「ユキノシタ科の植物」と書かれているかもしれませんが、現在ではアジサイ科なのです。
その他の基本情報
・別名/ハイドランジア、シチヘンゲ ・園芸分類/落葉低木 ・用途/花壇、鉢植え、切り花 ・開花時期/5~7月 ・樹の高さ/100~200センチ ・花の直径/10~30センチ ・移植/可能 ・増やし方/挿し木(緑枝挿し、休眠枝挿し)
アジサイはどこの花?
東アジア、南北アメリカ
アジサイの原産地は、東アジアと南北アメリカです。 約40種類が分布しています。このうち、日本には約10数種が自生しています。
アジサイの歴史
日本では、江戸時代以前からアジサイが栽培されてきました。 江戸時代末期から明治時代にかけての間に、アジサイはヨーロッパに持ち込まれます。するとのちにベルギーやオランダで品種改良が行われ、たくさんの「西洋アジサイ(ハイドランジア)」とひとくくりに呼ばれる園芸品種が生み出されました。 現在、園芸店で買うことのできるアジサイというと、多くがこの西洋アジサイです。
アジサイの恋物語
オランダ人医師と日本女性の出会い
鎖国を行っていた江戸時代に、日本のアジサイをヨーロッパに紹介したのは、長崎の出島に来ていたオランダ人医師のシーボルト氏(Philipp Franz Balthasar von Siebold)でした。 彼はアジサイを「ハイドランジア オタクサ」と称して海外に紹介したのですが、実はこの「オタクサ」とは、日本で恋に落ちた女性「お滝さん」から取った名前なのです。
情熱的で切ない恋物語
お滝さんはもともと、「其扇(そのぎ)」という名前で遊女として働いていました(「お滝」は本名)。 オランダ商館に来ていたシーボルト氏はこのお滝さんと結婚し、お稲という子を授かるのですが、のちにスパイとして日本から疑われ、やむなくオランダに帰らなくてはならなくなります。 しかし、シーボルト氏がオランダに帰ったあと、お滝さんは別の人と再婚してしまいます。 「余儀なく義理にて」とお滝さんが書き残していることから、彼女も本当はシーボルト氏のことを想い続けていたかったけれど、親戚のすすめで仕方なく……という状況だったようです。 遊びではなく本気でお滝さんを生涯の妻にしたつもりだったシーボルト氏は、その後も彼女のことが忘れられなかったのでしょう。『日本植物誌』という本を執筆し、その中でアジサイを「Hydrangea otaksa」(ハイドランジア オタクサ)という名前で紹介します。
「オタクサ」への批判と受け継がれる呼び名
しかし、「オタクサ」という呼び方は現在あまり馴染みがありませんよね。 というのも、すでに「オタクサ」という名のついた品種が存在していたので、周囲の学者たちからお蔵入りとされてしまったからです。「恋人の名前をつけられるのは迷惑」という批判まで浴びてしまいました。 けれどシーボルト氏とお滝さんのいた長崎では、現在も「オタクサ」の呼び名が残っています。「長崎紫陽花まつり」の正式名称は「長崎おたくさ祭り」なのです。
アジサイ選びに役立つ言葉たち
育て方を知る前に、品種を選ぼう
アジサイを購入するとき、迷うのが品種です。 ひとくちにアジサイと言っても、品種によって形はさまざま。 よく吟味して、後悔のないように選ぶのが大切です。 でも、初心者さんには難しい「これって何のこと?」という言葉の多さが、アジサイ選びの少し大変なところ。 そこで、アジサイの種類を呼び分けるとき、よく使われる言葉をご紹介しておきます。
西洋アジサイ
西洋で品種改良が行われたアジサイの系統のこと。
てまり咲き
いわゆる「まんまるのてまり状に咲く、ふつうのアジサイの形」のこと。ガクアジサイの「がく咲き」と区別をつけるときによく使われます。
ガクアジサイ
中央のポツポツした部分を囲うように花びらがつく品種の総称。まんまるではなく、中央部分がスカスカした印象のアジサイはこれ。「○○ガクアジサイ」という名前の品種がたくさん存在します。たとえば「オオガクアジサイ」や「シロバナガクアジサイ」など。
おすすめの品種
アジサイは人気の高い花なので、今までに膨大な種類の品種が生み出されてきました。 その中からいくつかの品種をご紹介します。
てまりてまり
てまりてまりは西洋アジサイ系です。 加茂菖蒲園のオリジナル品種で、その名の通りてまり咲きです。 アジサイらしい見た目が大変可憐で、見ごたえがありおすすめです。 開花時期は6月下旬〜7月下旬。 色は青からピンクで、きれいに発色します。
万華鏡
新品種コンテスト「ジャパンフラワーセレクション」で最優秀賞を受賞した、島根県発の新しい品種です。 花びらの真ん中に、他の部分より濃い色で筋が入っているのが特徴。 この筋が、確かに万華鏡をのぞきこんだときのようすに似ています。
コンペイトウ
コンペイトウもテマリテマリと同じく、加茂菖蒲園のオリジナル品種です。 他のアジサイとは異なる、コンペイトウのような花の形をしています。 花房はがく咲きで、花の中心部が青く、外側にかけて白になっています。
霧島の恵
開花時期の長さが特徴的な、2011年登録の新しい品種です。 5~6月に開花し、なんと10月頃まで咲き続けます。長いものだと、冬になっても咲いていることも。寒くなってくるにつれ花が赤っぽくなり、いわゆる「秋色」に変化します。 青からピンクの花を咲かせます。花色は土に左右されるので、好みの花色を選んで咲かせることができます。ひと株にピンクと水色の両方の花がつくこともよくあります。
基本の育て方を5つのステップでご紹介!
いよいよ育て方をチェック
アジサイの育て方を5つのステップでご紹介します! この基本をおさえれば、植え付けや毎日のお世話をする分には問題ありません。 (覚えておくと栽培の幅の広がる、挿し木や植え替えについては、記事後半でご紹介しています)
品種によって異なる育て方
ただ、アジサイは品種によってふさわしい育て方の傾向が異なります。 ここではアジサイ全般に通じる育て方をご紹介していますが、より詳しいことを知りたい人は、自分の育てたい品種の産地を調べるとよいでしょう。どんな環境の植物かを押さえれば、どんな条件を揃えてあげれば良いのかもおのずと見えてきます。
育て方① 適地
日なた、もしくは半日陰
多少日陰でも育ちます。 しかし、日当たりのよい場所のほうが、花つき・花色ともに良くなります。 ただし西日と、強すぎる直射日光は苦手です。乾燥しすぎや、葉焼けの原因になります。 西洋アジサイ類は耐寒性に劣る傾向があるので、鉢植えで育て、冬は屋内に取り込めるようにしておくと安心です。
アジサイの土
アジサイが好むのは、水はけのよい土です。 しかし水はけがよすぎても乾燥するので、保水性も伴っているのが理想。 「アジサイの土」と銘打った園芸用土が販売されているので、初心者の方はこれを使うと安心です。 また、アジサイは土が酸性・アルカリ性のどちらに傾いているかによって、花色に影響する植物です。生きたリトマス紙のようでユニーク、しかし土壌の酸度を測るキットを持っていないと、あざやかに発色させるのがなかなか難しくもあります。花色を変えたいときは、新しい土を用意して植え替えましょう。
赤系の花を咲かせたい
白、もしくは赤系の花を咲かせるなら、赤玉土を主にして腐葉土を混ぜるとよく発色します。
青系の花を咲かせたい
青系の花を咲かせたいなら、鹿沼土をメインにしてピートモスを混ぜてみましょう。
育て方② 植え付け
適期
3月から梅雨の前までの間に、植え付けを行いましょう。 特に寒い地方では寒冷期を避けてください。
たっぷりと灌水して植え付ける
植え付けを行う前に、大きめの穴を掘ります。 完熟堆肥と有機肥料を充分に施しましょう。 この穴には植え付けの前と後に、たっぷりと灌水します。その後は支柱で固定するとなお良いです。
育て方③ 水やり
とにかく乾燥を避ける
アジサイが一番嫌うのは、乾燥です! 梅雨の花として知られるので、 水分が好きそうだというイメージがつきやすいかと思いますが、逆に水切れが極端に苦手なのです。 絶対に根を乾かさないようにしましょう。 特に鉢植えの場合、冬の時期にも3~4日に1回は灌水を行います。地面に植えた場合、日照りが続かなければ自然の雨だけで育ちます。 しかし、日当たりのよい場所に植えたのであれば、水やりをするか、わらで株元のマルチングを行って乾燥を防ぐか、どちらかの方法を取った方がよいでしょう。
ジメジメしすぎもNG
湿気の多すぎる場所、水はけの悪い場所も苦手とします。 雨の中に佇む姿が似合うからといって、粘土質な土壌や、苔の生えるような場所は選ばないようにしましょう。 完全な濃い日陰ではなく、半日陰くらいにとどめます。
育て方④ 肥料
鉢植えなら最初に肥料を与える
鉢植えで育てるなら、 元肥としてゆっくり効く肥料を与えましょう。 購入時には、緩効性肥料と書かれている商品を選んでください。 自然由来の成分からできている肥料はおだやかに効いていくので、継続的な効果が期待できます。 それに対して、液体肥料は「化成肥料」と呼ばれます。 すぐ効きますが、継続的に効果を出したいときには向きません。
花後と春に化成肥料を追加
花が終わったら、夏~初秋にかけての間に化成肥料を与えます。 こうすることで、新芽が大きく成長するのです。 越冬した株には、春にもまた肥料を与えましょう。
育て方⑤ 冬の管理
冬の前に休眠する
アジサイは冬に入る前、一ヶ月ほど休眠します。 5℃程度になる本格的な冬がやってくると目覚めます。
冬の間に枯れる?
アジサイは1度植えれば来年も咲く植物なので、一年で枯れてしまうことはありません。 冬に多少雪が降ったり、霜が降りたりしても大丈夫。
ただし、冬に花芽が痛む可能性あり
冬に枯れないとはいえ、花芽が痛むことがあります。 寒冷紗をかぶせておくか、鉢植えなら軒下に移動させると良いでしょう。
プラスして覚えておきたい育て方
続いては、 基本の育て方にプラスして覚えておくと便利なことをご紹介します。
剪定
株の形を整え、より美しく保ちたいときは、不要な枝を切る「剪定」を行ってみましょう。 大きさをひとまわり小さくしたいときにも有効です。 アジサイにとって剪定は、必ず必要というわけではありません。しかし、人目をひく植物だからこそ、形を整えてあげるといっそう見栄えがしますよ。
アジサイを「挿し木」で増やそう
挿し木の適期
アジサイは「挿し木」という方法で増やせます。 剪定を行ったときに出る、切り落とした枝で行ってみましょう。 アジサイの挿し木は比較的容易です。 時期は6月上旬頃がいいでしょう。
挿し木の手順
まず、鉢の中に鹿沼土と赤玉土を入れます。 挿し木に使いたい枝は、あらかじめ土に触れる部分の葉を取り除いておきましょう。枝全体の長さが15センチくらいあればOKです。 次に、節の部分(多くはここから発根します)がちょっとだけ土の中に入るようにして、枝を差し込みます。まっすぐ立てるようにするのではなく、少し斜めにしましょう。 挿し木が成功すると、20日ほど経ったときに根がひょろひょろと出てきます。
挿し木のポイント
挿し木を行うときは、 ・時期は6月上旬頃がよい ・水はけのよい、湿りにくく粒子の大きい土を使う ・半日陰で行う このポイントをおさえておきましょう。
アジサイの植え替えをしてみよう
鉢植えの場合、植え替えが必要
アジサイは鉢植えなら、玄関先のような小さなスペースでも育てられます。 しかし鉢植えの場合、1~2年に1度は植え替えの作業をしたいところです。
移植が必要な理由
「でも、植え替えって面倒……」 そう思う気持ちはとてもよく分かります。 移植作業はやや重労働ですよね。 ですが、元気に育てるなら、鉢植えの移植は必須なのです。 なぜなら、アジサイは根の生長が早く、放っておくと鉢植えの中で「根詰まり」と呼ばれる現象を起こしてしまいやすくなるから。 ちょっと面倒に思えるかもしれませんが、1~2年に1度を目安にひとまわり大きな鉢へ植え替えてあげましょう。
花色を変えたいなら、地植えでも植え替えてみよう
アジサイの多くの品種は、土が酸性か、アルカリ性かによって花色が変わります。 この性質を利用したいときは植え替えをして、べつの土の場所へとお引っ越しさせてあげましょう。 移植の時期は、株が休眠している冬の間がおすすめです。
植え替えのコツ
根を傷つけないように、そっと株元を掘り返します。 苗が詰まっていた場合は、ほぐしてから移植しましょう。
失敗しないために……枯れるときにチェックしたいポインド
枯れる原因① 鉢植えの根詰まり
根詰まりを起こしていませんか? 試しに掘り返して、根がギチギチになっていたら植え替えましょう。 通常、1~2年に1回は、大きな鉢植えに移植してあげたいところです。
枯れる原因② 日の当てすぎ
西日の当てすぎ、直射日光の当てすぎも、枯れる原因のひとつです。 移植しましょう。
枯れる原因③ 乾燥している
アジサイは乾燥が大嫌い。 土の表面が乾いていたら水をあげてみましょう。 日照りが強すぎるなら、日の当たりにくい場所に植え替えます。
枯れる原因④ 水はけが悪い
ジメジメした場所に植えていませんか? 完全に日陰でも、直射日光下でもない場所が理想です。 湿っぽいところに植えているなら、移植をおすすめします。
枯れる原因⑤ 病気かも?
病気かもしれません。 次の項目で詳しく解説しています。
アジサイの病気
アジサイのかかりやすい病気についてご紹介します。 病気も枯れる原因のひとつ。 あてはまらないか確認してみてください。
病気① 黒点病(黒星病)
黒の斑点がつく病気です。
病気② うどんこ病
白い粉っぽい斑点が葉に出る病気です。
病気③ たん素病
斑点の出る病気は他にもあります。 これは斑点のついた場所から、やがて穴になってしまう病気です。
病気予防をしよう
アジサイが枯れる原因になる、怖ろしい病気たち。 予防には、日頃からの観察が第一です。
合わない場所に植えてしまったら、早めに移植!
アジサイの好きな環境をおさえておくのも、簡単にできる病気予防のひとつ。 強すぎる日光を避けたやや日向の場所に置いてあげましょう。今の環境が合わない! と感じる場合、移植をするのも手です。枯れる前に早めの対策を!
アジサイがあれば、雨の日が楽しみになる!
雨の日を楽しみにさせてくれるアジサイ。 庭先に美しい花を咲かせて、雨の憂鬱さを消し飛ばしましょう!