「アジ」は, 時期や時間帯に敏感な魚
マアジに代表される「アジ」は、サビキ釣り、ウキ釣り、ビシ釣り、ルアーフィッシングなどの好敵手として広く知られており、日本全国に生息しているポピュラーな魚です。
アジは、自然界の食物連鎖ピラミッドにおいて下位に存在する被食者であるため、比較的生息している個体数が多く、一見簡単に釣れるように思えます。 しかしながら、アジは時期や時間帯に敏感な一面を持っており、時期や時間帯がベストな状態でないと、好釣果を期待することは不可能です。
ただし、最適な時期と時間帯とは、一概に説明できるものではなく、対象となる地域、アジの群れの種類、近年の地球温暖化の影響、釣り場の状況、アジの大きさなど、様々な要素が関連していることが、アジ釣りの奥深さであり、多くの釣り人の闘志に火を付けているのです。
ここでは、アジ釣りの釣果を左右する「時期」と「時間帯」との、2つの要素それぞれに関する基礎的な知識について、とことん解説していきます。
アジ釣りの時期や時間帯 1/2【時期のポイント3つ】
アジ釣りで好釣果を目指すのであれば、アジ釣りに最適な時期に関する知識を深めておくのが賢明でしょう。 ここでは、アジ釣りの“時期”に関する重要なポイント3つについて取り上げていきます。
アジ釣りの時期 1/3《地域差がある》
アジは, 高水温を好む魚
アジの主食は、動物プランクトンです。 その動物プランクトンのエサとなる“植物プランクトン”は、陸上に生えている草木と同様、光合成によってエネルギーを生み出しています。 冬から春に掛けて、日差しが日に日に強くなっていく時期になると、植物プランクトンは日当たりの良い水面直下まで上昇し、活発に光合成を行います。
その結果、植物プランクトンをエサとする動物プランクトンも活性化し、アジを含む“魚全体の活性”も高まっていきます。 つまり、植物プランクトンや動物プランクトンの動きが活発になる“高水温期”が、アジ釣りにはベストなのです。
水温の上昇時期には, 地域差がある
一般的には、暖流の影響を強く受ける地域から順に、水温は上昇していく傾向があります。 九州地方、四国地方、中国地方などでは、4月中旬頃から水温の顕著な上昇が始まるため、日本全国の中で最も早くアジ釣りを楽しむことができます。
東北地方や北海道などは、7月上旬にならないと水温の顕著な上昇が始まらないため、夏休みの時期から本格的なアジ釣りが始まります。
18℃以上の水温を終日保っていれば、アジは沿岸部の岩礁帯で産卵を行います。
産卵の時期は、ちょうど高水温期と重なるため、水温が22℃前後に維持されている間は、ふ化から間もない豆アジの数釣りが佳境となり、水温が18℃を下回る時間帯が長くなる季節 (九州地方、四国地方、中国地方では11月上旬、東北地方や北海道では9月中旬)になると、アジの産卵は終了し、秋の訪れと共に大型のアジが釣れるようになっていくサイクルです。
アジ釣りの時期 2/3《群れの種類による差もある》
アジの群れは, 2種類に大別される
釣りの対象となるアジの群れは、体色が青黒い「クロアジ」と、体色が黄緑色の「キアジ」との、2種類に大別されます。 クロアジは回遊性が強く、豊富な動物プランクトンを追い求めて、東シナ海から北上を続ける個体です。 海水の色に近い体色は、水中を泳ぎまわっている際の、天敵からの発見率を低下させる効果があります。
一方のキアジは、岩礁帯付近に身を潜め、エサを活発に捕食する時間帯にのみ、ごく狭い範囲の水域をゆっくり回遊する性質があります。 海藻の色に近い体色は、海藻が繁茂する岩礁帯に息を潜める際に適しており、一般的にはキアジの方が食味が良いとされています。
群れの種類の違いは, アジ釣りの末期を左右する
前述したように、水温が18℃を下回る時間帯が長くなる季節になると、アジの産卵は終了します。 成長したクロアジは、高水温が常時保たれている東シナ海への南下を始める一方、成長したキアジは、沿岸部にとどまります (水深の深い沿岸部に移動する)。 そのため、キアジはクロアジよりも長期にわたって釣れ続く傾向があります。
静岡県以南の地域や房総半島などに位置する、水深が10m前後ある釣り場であれば、ほぼ1年中キアジが釣れることもあります。
この特性は翌年の産卵にも影響し、クロアジが北上を始めるころには、高水温の沿岸部でキアジが産卵を開始するため、クロアジの大規模な群れが到達し切っていない“5月上旬”の、近畿地方、中部地方、北陸地方においては、クロアジよりも早く、キアジの釣果が聞かれるようになるのです。
アジ釣りの時期 3/3《温暖化の影響が否定できない》
下の画像は、日本近海における, 2016年までのおよそ100年間にわたる海域平均海面水温上昇率を示しています。 地球温暖化による影響で、日本近海の平均水温は年々上昇を続けており、漁業に暗い影を落としています。 もちろん、アジ釣りにおいても例外ではありません。
アジをはじめとする回遊魚は、季節周期による水中環境の変化に敏感な特徴を持っています。 地球温暖化による水中環境の変化は、アジなどの被食者の産卵や回遊の周期を崩し、結果的に、被食者を捕食する大型肉食魚などの生態系全体に悪影響を及ぼしており、ここ最近における様々な魚の釣果は、悪化する一方となっています。
アジ釣りの時期や時間帯 2/2【時間帯のポイント3つ】
アジ釣りで釣果アップを目指すのであれば、ベストな時間帯についての知識を深めたうえで、時間帯に合った釣り方で釣りを展開することも不可欠です。 ここでは、アジ釣りの“時間帯”に関する重要なポイント3つについて解説します。
アジ釣りの時間帯 1/3《よく釣れる時間帯は, 3つある》
アジの好釣果が大いに期待できる時間帯は、1日のうちに3つあります。 とはいえ、各時間帯によって狙い目となるポイントが異なるため、それらのパターンを確実につかまなければ、釣果は思うように伸びないでしょう。 ここでは、アジが良く釣れるようになる時間帯3つを取り上げ、それぞれの狙い目となるポイントについて見ていきます。
釣れる時間帯 1/3【早朝】
5:00 - 6:00の“早朝の時間帯”は「朝マズメ」と呼ばれ、アジを含む多くの魚たちのお食事タイムです。
早朝の日の出と共に、視覚によってエサを探す魚たちの活性が高まることで、水中環境が急激に変化するため、様々な魚たちが活発に捕食活動を行うようになります。早朝に狙いを定めて釣行すれば、好釣果に祝福される確率は高まるでしょう。
朝マズメや夕マズメ (詳細については後述する)は、アジが回遊するタナが非常に浅くなる傾向があるため、水面に近いタナが狙い目となります。
アジの活性が高まっている時間帯は、基本的にどのようなポイントにおいても釣果が伸びるのですが、そういった時間帯は、アジを捕食する大型の肉食魚の活性も高まっているため、障害物に近いポイントに狙いを定めておけば、大型魚によってアジの群れを散らされる心配も無く、安定した釣果が得られるでしょう。
釣れる時間帯 2/3【夕方】
「夕マズメ」と呼ばれる、17:00 - 18:00の“夕方の時間帯”も、早朝の“朝マズメ”と同様、多くの魚釣りにおいて狙い目となる時間帯です。
植物プランクトンは日中、多くの日光を受けて光合成を行うため、豊富なエネルギーが体内にたまっており、夕方の時間帯になると動物プランクトンたちが、たっぷりと養分を含んだ植物プランクトンを求めて活性化します。 その結果、動物プランクトンを捕食する“アジ”などの小魚や、その小魚を捕食する大型の肉食魚も活気付くのです。
夕マズメも朝マズメ同様、アジが釣れるタナは浅くなりますので、潮汐や天候なども好条件に恵まれている場合は、思い切って水面直下を狙ってみるのもおもしろいでしょう。
ただし、夕方の時間帯の終盤は、アジ釣りにおける狙い目の1つである、夜の時間帯を控えているため、必ずしも朝マズメの場合のように、いきなりパタッと釣れなくなるとは限らないので、慎重に状況を見極める必要があるかもしれませんね。
釣れる時間帯 3/3【夜】
夕マズメから翌日の朝マズメに掛けての夜の時間帯は、多くの魚の活性が下がる時間帯であるため、シーバスやタチウオなどを除く大型の肉食魚も、活動が鈍ります。 つまり、アジなどの被食者にとっては、天敵に襲われる心配なく捕食活動を行える貴重な時間帯となります。
動物プランクトンは夕方から深夜の時間帯に掛けて、昼間豊富にエネルギーを蓄えた植物プランクトンを捕食するため、動物プランクトンもたっぷりと養分を体に取り込んでいるので、アジにとって夜の時間帯は、最高のディナータイムなのです。
夜の時間帯に狙い目となるポイントは、何と言っても常夜灯周辺でしょう。 常夜灯の周辺は、夜であっても植物プランクトンが光合成を行うことができますので、当然動物プランクトンたちも集まりやすく、アジにとってこの上ない好環境が形成されています。
シーバスやタチウオなどが、アジの群れを散らしてしまう場合もありますし、潮汐や天候があまり思わしくない場合もあるため、必ずアジがバンバン釣れるという保証はできませんが、常夜灯周辺のポイントは、必ず一度は仕掛けを入れてみたいものですね。
アジ釣りの時間帯 2/3《釣り場の状況によっても異なる》
アジに限らず、どの魚についても言えることですが、潮通し、障害物、水深、混雑度、立地条件などの諸条件が良好な釣り場ほど、釣果はアップします。 時間帯はアジ釣りにとって、確かに重要な点ではありますが、アジの釣果にどれほどの影響を及ぼすのかは、釣り場の状況によって異なってきます。
例えば水深が浅い釣り場では、時間の経過による釣果の変化がより顕著に表れることもありますし、キアジが身を潜めやすい障害物の周辺は、終日一定の釣果が維持されていることもあります。
また、全く同様の状況下であっても、釣り場が少し離れるだけで、釣果に大きな差が生まれた経験を筆者も持っていますし、地球温暖化の影響による生態の変化などもあるため、ベストな時間帯に釣りをしたからと言って、必ず釣果がアップするという単純なものではないのです。
アジ釣りの時間帯 3/3《アジの大きさも考慮したい》
毎年アジ釣りを楽しんでいる“筆者”は、アジの大きさによって、最適な時間帯が若干異なっているように感じています。
もちろん、釣り場の状況によって違いはあるのですが、20cm以上の大型のアジは、朝マズメの少し前の時間帯 (日の出時刻の1時間前)や、動物プランクトンの活性が上がり切っていない“9:00 - 10:00”の時間帯など、一般的にゴールデンタイムとされていない時間帯に釣果が伸びるケースも少なくないようです。
自分の釣行記録を十分に研究することも、釣果アップを目指すうえで大切なのではないでしょうか。
アジ釣りでは, 潮汐の影響も無視できない
プランクトンは時間帯だけではなく、潮汐の状況によっても活性度は異なってきます。 潮汐による水面の変化は、潮流を生み出すため、必然的にプランクトンの集まりやすいポイントが形成され、そこにアジなどの魚が多く集まっていくのです。
ただし、潮汐の釣果への影響は、時期や時間帯の釣果への影響よりもやや小さいため、どちらか一方の要素しか優先することができない場合は、ベストな時期や時間帯で釣りをするように努めれば、ある程度の釣果は期待できるでしょう。
アジ釣りで重要なのは, 時期と時間帯だけではない
いかがでしたか。 アジ釣りは、時期や時間帯だけではなく、潮汐、時間帯、釣り場、年周期など、あらゆる要素が最適な状態となった時、はじめて最高の釣果を得ることができます。
ただし前述の通り、近年の地球温暖化は深刻であるため、今後のアジの釣果は、いっそう伸び悩むことが予想されますので、基礎的な知識を身に付けたうえで、現代の自然環境に適応した釣りを組み立てていく必要が生じてくるのかもしれませんね。
この記事における「時間帯」とは、1日のうちの、ある時刻からある時刻までの範囲内の時間のことであり、潮汐を考慮していません。