品種豊富な花、アイリス
5月の植物
アイリスは品種がとても豊富な、おもに5月に開花する多年草です。 「アヤメ(文目)」、「ショウブ(菖蒲)」、「ハナショウブ(花菖蒲)」、「カキツバタ(杜若)」、「シャガ(射干)」という呼び名で知られるアヤメ科の植物たちも、ひとくくりに「アイリスの仲間」とされます。さらに「宿根アイリス」、「球根アイリス」という呼び分けも存在し、ちょっとややこしくもあります。 その紛らわしさから、「何れ菖蒲か杜若(いずれあやめかかきつばた)」という言葉まであるほど。似ているもの同士区別しにくいところから、「どれも優れていて、選択に迷う」というときに使います。 しかし、これは良い意味の言葉。 それだけ愛されている植物なのです。 アイリスにもっと詳しくなれば、栽培や観賞の楽しみも倍増! それぞれの違いや、おすすめの品種など、13の基本情報をご紹介します!
1.宿根アイリスと球根アイリスの違い
まず、球根アイリスと宿根アイリスの違いについてご紹介します。 簡単に言うと、根茎(こんけい)を持つものが宿根草に分類される「宿根アイリス」です。対して鱗茎(りんけい)を持つものは「球根アイリス」です。
球根といってもさまざま
しかし、「根茎」「鱗茎」の違いが分からなければ、宿根アイリスと球根アイリスの違いもまた理解しづらいでしょう。 これらは球根のタイプをさす言葉です。 ひとくくりに「球根」といっても、実はそれがさらに細かく分類されていることをご存じですか? 宿根アイリスの球根は「根茎」と呼ばれます。水平方向に伸びた地面の下の茎が肥大化して、球根になったもののことをいいます。 球根アイリスの球根は「鱗茎」と呼ばれるタイプのもので、休眠中は根がないのが特徴です。
2.球根アイリスの魅力
栽培がとても簡単なのが魅力。園芸店やホームセンターでも、気軽に球根を購入できます。花もよく咲き、白、黄色、紫など、カラーバリエーション豊富です。 ヨーロッパでは、なんと紀元前からすでに栽培されていたといわれるほど古い歴史を持っています。 その長い歴史の間で品種はどんどん増え、現在は世界中にさまざまな球根アイリスが存在します。
3.球根アイリスの代表的な品種
ダッチ・アイリス
代表的な球根アイリスは、ダッチ・アイリスと呼ばれるホーランディガ系品種です。紫や黄色、白が混ざり合った複色系の品種も多く、切り花向けの栽培もさかんに行われています。
イングリッシュ・アイリス
ダッチ・アイリスによく似た高性種に、イングリッシュ・アイリスがあります。原産はピレネー山脈で、耐寒性に優れているので寒い地域での栽培にもおすすめです。開花は6月で、多くが5月には花開くアイリスとしてはやや遅めの部類です。しかし、大輪の花は豪華で見ごたえがあります。
スパニッシュ・アイリス(クシフィウム)
芳香性の品種にはスパニッシュ・アイリス(クシフィウム)があります。南フランスや北アフリカの花なので、寒さにはあまり強くありません。花も素朴ではありますが、その香りは魅力的です。
レティキュラタ
葉が展開する前に花が咲くレティキュラタは、早咲きの品種です。遅咲きのイングリッシュ・アイリスのような品種と組み合わせて花壇にぎっしり植えれば、3月~6月の長期間にわたって、何かしらのアイリスが庭に咲いている状態を作ることができます。開花時期の違いを利用して、上手に花を楽しみましょう。
4.宿根アイリス
世界中のさまざまな野生種から複雑に交配が行われ、現在では豊富な宿根アイリスの種類が存在しています。 日本の野生種であるアヤメ、カキツバタ、ハナショウブも、この宿根アイリスに分類されます。 洋風の庭に似合う種類も豊富です。
5.宿根アイリスの代表的な品種
アヤメ
日本のほかにも、朝鮮半島やシベリア、中国東北部に自生しています。 日本のものは高さ50センチほどで、10センチくらいの紫の花を咲かせます。3寸アヤメ、5寸アヤメと呼ばれる草丈10~20センチほどの種類もあります。乾いた土を好みますが、1日に5時間ほどのあいだ日光が当たれば、場所を選ばず丈夫に育ちます。 和風庭園によくなじむ植物です。アイリスの仲間の中でも控えめな印象があるので、華美になりません。
カキツバタ
アヤメより背が高いのがカキツバタです。 植え場所は湿地を好みます。「羅生門」のような品種が存在します。
ハナショウブ
ハナショウブは日本で古くから育てられてきた植物です。 もともと「ノハナショウブ」と呼ばれる野生の品種でしたが、江戸時代に栽培が奨励され、それぞれの地方で「江戸系」や「肥後系」、「伊勢系」などの希少品種が誕生しました。 江戸系ハナショウブには「群山の雪」と呼ばれる白いものや、「黒雲」、「沖の波」、「七小町」などの品種があります。肥後系ハナショウブは「渓水」「東雲」「愛知の輝」、伊勢系ハナショウブは「舞子」や「美吉野」といった品種で知られています。 紫や白、黄色など、さまざまな花の色が揃い、絞りやぼかし、斑入りのものなど、模様もバラエティーに富んでいます。
ジャーマンアイリス
ジャーマンアイリスは、アイリスの中でも非常に普及している種類です。地中海沿岸や西アジア、西インド諸島などの野生種を交配して作られました。第二次世界大戦後は、アメリカを中心に改良が進められています。 アヤメやハナショウブなどの日本的な種類との違いは、花自体が大きく、花びらがひらひらしており、ゴージャスなところです。「キャバレーロイヤル」や「クリエイティブステッチリー」、「アンナベルバブソン」、「メリープリンス」などの品種が存在します。 濃い紫と薄い紫が混じり合ったようなもの、バラのような優しいピンク、縞模様が部分的に入っているもの等、洋風の庭に似合う花が豊富に揃います。 また、ジャーマンアイリスとは日本独自の呼び方です。欧米では「ベアーデッドアイリス(ヒゲアヤメ)」と呼ばれます。花びらの付け根にブラシのような毛がついているので、この名前が付きました。
6.アイリスの花言葉
ジャーマンアイリスの花言葉
アイリスは種類が豊富なだけに、花言葉もさまざまです。 なかでも人気のジャーマンアイリスの花言葉は、『燃える思い』『情熱』。 誰かへの愛を伝えるときに活躍しそうです。
ダッチアイリスの花言葉
『和解』『吉報』『私はあなたにすべてを賭ける』がダッチアイリスの花言葉です。 よい知らせをイメージさせる言葉たちです。
アヤメの花言葉
アヤメの花言葉は『気まぐれ』です。 神秘的な深い紫色の花によく合った言葉です。
ハナショウブの花言葉
『優雅』『優しい心』『うれしい知らせ』がハナショウブの花言葉です。 ポジティブな言葉が揃っています。
カキツバタの花言葉
カキツバタの花言葉は『幸せは必ず来る』です。 これからの幸せを願いたいときに思いだして欲しい花言葉です。
7.アイリスの名前の由来
「虹」を意味する植物
ギリシャ神話には、「イーリス」という女神が登場します。 彼女の名前を英語読みすると、「アイリス (Iris)」となります。 彼女は虹の女神で、花の「アイリス」の名前もここから取られたとされています。とくにジャーマンアイリスは品種によって、一輪の花でもそれぞれの花びらで色が違い、レインボーフラワーと呼ばれることもあります。
8.一般に「アイリス」とは、どの花をさす?
このように、ひとくくりに「アイリス」といっても、実に多くの種類が存在するのです。 では、ただ「アイリス」と言うとき、一般にどの種類のことを指すのでしょうか。
ジャーマンアイリスが代表的な花
日本的な「アヤメ」や「ハナショウブ」とは区別して、洋風なジャーマンアイリス、ダッチアイリスだけを「アイリス」と呼ぶ場面も多いようです。 ドイツアヤメとも呼ばれるジャーマンアイリスは、アイリスの中で最も華やか。ボリュームのある花と豪華な見た目が人気で、海外では特に高い人気を誇ります。 次いでダッチアイリスがポピュラーだといえるでしょう。
9.ガーデニングでの使いどころ
5月がおもな開花時期
アイリスは品種によって開花時期が若干ばらつきますが、多くは5月前後に花を咲かせます。 夏に近づくにつれ、庭は木々の葉が茂り、緑色が主張しがちです。 この初夏の庭を華やかに彩りたいときに、アイリスは活躍します。 ジャーマンアイリスなら花びら1枚1枚が大きく、色のバリエーションも豊富なので、カラフルさと優雅さを演出することができます。 また、品種ごとに開花時期が違う点を利用して植えれば、5月だけでなくより長い間アイリスの花を楽しめますよ。横ではなく縦に伸びる花なので、株と株の幅を空けすぎると寂しい印象になりがち。密集して植えると豪華になります。
10.球根アイリスの育て方
育て方のコツ① 適地
日が当たり、水はけのよい土を好みます。 植え付けの時期は10月下旬が適切です。大きめの穴を掘り、根がよく伸びるようにしてあげるのがポイント。肥料の多い環境が好きな植物なので、元肥を多めに施しましょう。 水はけが悪い場所では、あらかじめ土をよく耕しておく必要があります。砂やパーライトを加え、土壌改善を行いましょう。
育て方のコツ② 水やり
土の表面が乾いてきたら与えるのが基本です。 温かい時期からは根が腐りやすくなるので、水やりを控えます。 植え付け直後から冬にかけての時期は、水が切れると根がよく伸びなくなってしまいます。乾燥のしすぎに気をつけましょう。 寒い地域では、枯れ葉やピートモスで防寒してあげるのがベストです。
育て方のコツ③ 肥料
多肥を好む植物です。元肥として、ゆっくり効いていく堆肥を充分にすき込んでおきましょう。 5月頃、花の咲く時期には液体肥料を与えるとよく育ちます。
育て方のコツ④ ウイルス
ウイルスに侵されることがまれにあります。 花や葉が変な形になってきた場合は、他の株に伝染しないよう、発見次第捨ててください。そのときは株元の土ごと処分します。
11.宿根アイリスの育て方
育て方のコツ① 適地
日当たりのよい場所で育てます。 ただし、1日に4~5時間程度日が当たれば育つものも多いので、一日中日光に当てる必要はありません。 5月以降の、開花時期が過ぎたころに植えるのがおすすめです。
育て方のコツ② 水やり
水やりのコツは種類ごとに異なります。 多湿を嫌うのは、アヤメやジャーマンアイリスです。土の表面が乾いたら水やりを行うのが基本ですが、やや乾燥ぎみにすることを意識しましょう。植え付けるときも、水はけのよい土を用意します。水やりをしすぎると根腐れしてしまうので、注意してください。 水を好むのはハナショウブです。ハナショウブは水耕栽培を行うこともできます。特に、芽が出てから開花までの時期は、水を切らさないように育ててください。
育て方のコツ③ 肥料
宿根アイリスは球根アイリスと違って、あまり肥料を必要としません。 植え付けのときは、完熟堆肥とゆっくり効く肥料を与えます。 この作業をしっかり行っておけば、追肥はとくに必要ありません。開花時期になっても花つきが悪いときや、元気のないときに、様子を見て液体肥料を与えれば良いでしょう。 このとき、窒素の多い肥料を与えると、葉ばかりが茂って花の数は増えにくくなるので注意してください。 植物の生長には、三要素とよばれる成分が大切で、「窒素、リン、カリウム」がそれにあたります。 このうち、窒素は葉を茂らせる成分です。リンは花や実を増やし、カリウムは根や茎を丈夫にする効果があります。そのため、開花時期におすすめなのはリンの多い肥料ということになります。
育て方のコツ④ 病害虫
コガネムシ、アブラムシがつくことがあります。 見つけ次第取り除きましょう。 アヤメであれば、ほとんど病害虫がつく心配はありません。
12.アイリスは育てやすい花
ゴージャスだけど簡単に育つ植物
ジャーマンアイリスは特に見た目が華やかで、そのぶん育てるのは難しいのではないかと思われがちです。 しかし、アイリスの育て方は難しくありません。 いずれも栽培難易度が低く、簡単に開花させられる花なのです。 種類ごとに少しずつ合った育て方は違いますが、似た環境を好むもの同士を近くに植えれば楽です。ガーデニング初心者の方、庭を作り始めたばかりの方でも、挑戦しやすい植物ですよ。シャガやイチハツ、キショウブなども、いずれも丈夫です。種類が豊富なので、毎年さまざまな種類に挑戦したくなります。
13.暑さ・寒さに丈夫な花
多くの植物は、暑さに強ければ寒さに弱く、寒さに強ければ暑さに弱くなりがちです。 しかし、アイリスは寒さにも暑さにも耐性があります。多年草なので、5月の開花時期が過ぎても、また来年に楽しむことができるのです。ガーデニングでは非常に扱いやすく、嬉しい花といえるでしょう。
華やかに5月の庭を彩るアイリス
いかがでしたか? 日本的なお庭を作りたい方はアヤメやカキツバタ、洋風のお庭に憧れる人はジャーマンアイリスやダッチアイリスがおすすめです。 アイリスはとてもカラフルで、品の良さ、豪華さのある花。切り花でも活躍します。主要なカラーである紫と、黄色や白、黄色、薄紫、ピンクとの組み合わせも抜群に相性が良いので、いろいろな品種をぎっしり寄せて植えると簡単に綺麗な庭が作れます。アイリスで5月を華やかに彩りましょう。