「雲海」とは?
眼下に広がる雲の海 「sea of clouds」
「雲海」とは、飛行機や高い山の上から見下ろした時に、眼下に見える雲や濃霧のことを言います。一面に広がる雲はまるで海、そして雲から突き出た山の稜線は、海からのぞく島々のようです。
ダイナミックに麓を覆う雲海や、隙間から山肌や麓の街並みがのぞく雲海。その一瞬にしか出会うことができない雄大な自然現象です。 雲海は英語で"sea of clouds" または"cloud sea"と呼ばれます。まさに「雲の海」ですね。
雲海が発生する仕組み 4ステップ
一般的によく見られる、晴れた日の早朝に眼下に広がる雄大な雲海は、次の4つのステップで生み出されます。
1.放射冷却で地表が冷える
地面からは、常に熱が宇宙空間へ放出されています(地球放射)。 日中は太陽からの熱が降り注ぐために空気が温められますが、遮る雲がない晴れた夜間は、熱エネルギーが宇宙空間へと放出されてしまい気温が低下します。 これを「放射冷却」と言います。
2.空気(水蒸気)が冷える
放射冷却により、水蒸気を含んだ空気が冷えます。 上空の乾燥して安定した空気の層よりも、地表付近の気温が下がり「逆転層」という現象が起こります。 (通常は上空へ行くほど気温が下がります。)
3.冷えた空気が溜まる
無風時もしくは風が弱い時に、山間部や盆地に冷えた空気が溜まります。 風がある日は、湿って冷えた空気が流れてしまいます。
4.霧(雲)ができる
水蒸気が飽和状態を通り越し、霧ができます。 霧(雲)の層の上から見ると、これが雲海の状態になります。
雲海のタイプ
空気が冷えて霧(雲)が出来るタイプ
●放射霧による雲海 放射冷却によって発生する霧です。主に内陸の盆地や山間部に、夜明けから早朝の時間帯に局地的に見られる、最もポピュラーな雲海です。
空気中の水蒸気が増えて霧(雲)が出来るタイプ
先に説明した雲海が出来る気象現象として、放射冷却により発生する雲海を説明しましたが、他にも季節や気象などの発生条件が異なる雲海があります。
●川霧・湖霧・蒸気霧による雲海 温かい水面の上に冷たい空気があることで発生する霧です。水温と気温の温度差が大きいほど、蒸気霧の発生する量は多くなります。広範囲で、時間帯は早朝に見られます。 (イメージは寒い季節の露天風呂!)
●雨上がりの雲海 前日に雨が降り空気や地面が湿っており、夜間に空気が冷えて(放射冷却など)発生する霧です。これも局地的に、早朝の時間帯に多く見られます。
●移流霧の雲海 温かく湿った空気が流れ込み、下層から冷やされて発生する霧です。
北日本の太平洋側で、季節は夏に多く発生します。 (北海道の太平洋側、オホーツク海側、東北太平洋側。) この後ご紹介する「雲海おすすめスポット」の中では「星野リゾートトマム」で見られる雲海がこのタイプです。
●滑昇霧の雲海 温かく湿った空気が山の斜面を這い上がり、高度が上がるにつれて冷やされ霧になります。山間部で年間を通して発生します。勢いが強い時には、雲海ではなく一瞬で霧に包まれてしまうことも。
●悪天候(雨天)時の雲海 降雨時の湿度の上昇に伴い低い高度に雲ができます。季節に関係なく、これが雲海として見えることが。 ただしこれは雲の動きが早いため、すぐに雲の中に入ってしまうことが多いです。
雲海が発生する条件とは?
「気候的条件」と「地理的条件」が大切
雲海が発生する仕組みは、霧が発生する仕組みとほぼ同じ。 それらをふまえて、雲海が発生する条件を「気候的条件」と「地理的条件」にまとめました。 条件さえ整えば、富士山や高山でなくとも、壮大に広がる雲海を眺めることができます!
気候的条件
雲海の気候的条件①「気象」
気象条件として夜間によく晴れて放射冷却が起こり、気温が下がることが大切です。 また、上空が高気圧に覆われている時、上空に安定した空気の層が出来て雲を押さえつけるので、雲海が発生しやすくなります。
前日に雨が降って湿度が高い時にも、放射冷却が起こると雲海の発生率が高まります。
雲海の気候的条件➁.「気温」
日中と夜間の気温差が大きい時に発生します。 寒暖差が10℃以上あれば十分。
雲海の気候的条件➂.「季節」
雲海が発生しやすい季節は、放射冷却が起こりやすく、大気が安定する秋から春先。
雲海の気候的条件➃.「時間帯」
雲海が発生する時間帯は、夜明け前から早朝にかけて。 日が昇り、山間部や盆地が温められると、雲海は消えてしまいます。
地理的条件
雲海の地理的条件➀.「場所」
発生した霧が溜まりやすい地形として、内陸の山間部や盆地に雲海が多くなります。 また蒸気霧が多く発生しやすい、川や海、湖などからの湿った空気が入りやすい地形でも、雲海の発生率は高まります。
雲海が見られる場所としては、雲海の天井となる層より上。つまり高山でなくとも盆地を見下ろすことのできる丘や低山でも雲海の観察は可能です。
日の出とともに空と雲海の色が変化する様子は、気象条件と地理的条件が整ったほんのわずかな時間の美しさ。 冷たい空気の中で見るからこそ、そして雨の中登ってきたからこそ、雲海の美しさが余計に心に残ります。
雲海の条件バッチリなおすすめスポット4選!
ここからは、雲海の発生条件が整いやすく、ハードな登山をしなくとも息をのむような雲海が見られる(確率が高い)、おすすめスポットを4選紹介します。
おすすめ➀「星野リゾートトマム・雲海テラス」(北海道) おすすめ➁「竹田城」(兵庫県) おすすめ➂「備中松山城」(岡山県) おすすめ➃「十和田町・星峠」(新潟県) 気象条件「湿った空気と安定した大気の層」が整う
、 ●「雨のち晴れ」 ●「風速3m未満」 の天気予報がでたら、日の出前に出かけましょう!
雲海スポット➀【星のリゾートトマム(雲海テラス)】・北海道
雲海を見下ろす「天国に一番近いカフェ」
【星野リゾートトマム】 住所/〒079-2204 北海道勇払郡占冠村中トマム 「天国に一番近いカフェ」と絶景ファンの間で呼ばれる、星野リゾートトマムの「雲海テラス」。
標高1088mに設置されたテラスからは、日高山脈を越えて太平洋側から流れ込んでくるダイナミックな雲海を見ることができます。 季節は5月中旬から10月初旬、時間帯は早朝に多く発生。その期間のみの営業になります。
また、雲海テラスでは、翌日に発生する確率やその雲海の種類について、「雲海予報」として発表しています。気象条件から導き出される雲海予報を参考に、北海道産の雲海を楽しんでみてください。
朝5時から(9月は4時半から)運行する「雲海ゴンドラ」に乗って、アクセスも楽々。クラウドウォークから見るダイナミックな雲海は圧巻です!
2017年9月には、新しく巨大なハンモック「クラウドプール」が誕生しました。雲海を見下ろしながら、本当に雲の上にいるかのような体験が楽しめます。
※トマム トマムは、北海道中南部に位置するトマム山(1239m)南麓一帯に作られた、スキー場・ゴルフ場などの施設やホテルなどで知られる山岳リゾートを指します。 勇払郡占冠村の東部に位置し、千歳空港と結ばれて冬季には専用の列車が運行されています。
雲海テラスの営業時間や雲海予報は、ホームページよりチェックして下さい。
雲海スポット➁.【竹田城跡】・兵庫県
「日本のマチュピチュ」竹田城跡と雲海
【竹田城跡】 住所/〒669-5252 兵庫県朝来市和田山町竹田字古城山169 「日本のマチュピチュ」とも呼ばれ、雲海に浮かぶ城跡はまるで天空の城。
標高353.7mの古城山山頂に築かれた城「竹田城跡」。山全体がトラが伏せているようにも見えることから、「虎臥城」とも呼ばれています。平成18年に「日本100名城」、平成24年には「恋人の聖地」として認定され、多くの人が訪れるようになりました。
竹田城跡を包む幻想的な雲海は、近くを流れる円山川から発生する蒸気霧による雲海です。雲海の発生する季節は9月から2月頃まで、明け方から8時頃の時間帯に多くなります。 上の写真は、雲海を竹田城跡から見下ろしたものです。すぐ間近に、息をのむほどの一面の雲海を見ることができます。
こちらは、竹田城跡の外から雲海を見た写真です。上空は見事な快晴!最高の雲海ですね。 外から竹田城跡と雲海を見るには、「立雲狭(りつうんきょう)」からがおすすめです。竹田城跡の向いの朝来山にある展望スポットです。
竹田城跡が見えるベストスポットとなる第一展望台へは、約40分程の山道を歩きます。暗い時間帯の山道になりますので、歩きやすい靴と服装、ヘッドライトが必要です。
朝来市の公式ホームページです。 竹田城跡・立雲狭へのアクセスや登城方法などは、こちらからチェックしてください。
雲海スポット➂.【備中松山城】・岡山県
「難攻不落の名城」と雲海
【備中松山城】 住所/〒716-0004 岡山県高梁市内山下1 標高430mの臥牛山山頂に建ち、姫路城や松本城など日本に12か所しかない現存天守としては、最も高い場所にある山城です。
雲海の中に浮かぶ備中松山城が見られる季節は9月下旬から4月上旬、時間は明け方から午前8時頃までです。 12月から2月末までは、雪が積もることもあり、運が良ければ雪の城と雲海が見られることも!
「雲海展望台」から望む備中松山城は、まさに名城。掛け軸のようです。 備中松山城へは、ふいご峠駐車場から山道を20分程歩くことになります。歩きやすい靴や服装がおすすめです。
秋は紅葉と雲海のコントラストが美しく、おすすめの季節です。
高梁市のホームページです。備中松山城・雲海展望台へのアクセスや、シャトルバスの運行表などをチェックできます。
雲海スポット➃.【十日町市 星峠の棚田】・新潟県
「にっぽんの里100選」に浮かぶ幻想的な雲海
【十日町市・星峠の棚田】 住所/新潟県十日町市峠729(集落センター) 大小約200枚の棚田が一面に広がり、「にっぽんの里100選」にも選ばれた十日町市の代表的な棚田です。
一面を覆うダイナミックな雲海もおすすめですが、ここ星峠の薄く儚い雲海もおすすめです。 雲海の間からのぞく棚田の美しさは、まさに日本のふるさと。
雲海が見頃の季節は6月下旬と9月、時間は早朝5時から8時頃のあいだです。 (冬期は除雪されないため、立ち入ることはできません。)
春(雪が消えてから6月まで)と、秋(10月・11月)の季節には田んぼに水が入り、「水鏡」が見られます。雲海からのぞくキラキラと光る水鏡の美しさは、ここでしか見ることができない絶景です。
十日町市の棚田は、観光地ではなく、そこに住む人々の暮らしに寄り添いながら支え守られている景観です。 農耕車が優先であり、田植えや稲刈りの季節は特に注意しましょう。 また、カメラの三脚を立てる場所にも注意しながら、マナーを守って見学するようにして下さい。
十日町市のホームページです。十日町へのアクセスや観光情報、棚田の最新情報なども配信されています。
雲海よりもレア「滝雲」
見れたらラッキーな「滝雲」
雲海も、様々な条件が整って初めて見ることができる貴重な現象。しかし更にレアな気象現象が、山の稜線を越えた雲が、山の斜面を山肌に沿って滝のように流れ落ち消えていく、「滝雲」と呼ばれる気象現象です。
滝雲が見られるスポットとして、新潟県の枝折峠が有名です。しかし、これも自然現象。保証はありません。
どんどん流れ落ちる雲は、迫力満点!
滝雲の3つの発生条件
滝雲が見られる条件は、 1.雲海が出ていること。 2.雲海を動かす強い風が吹いていること。 3.雲海の上にある安定した大気の層が、山頂よりも上にあること。 この3つの条件がそろえば、とても貴重な気象現象「滝雲」が見られるはず!
「登山」麓は霧でもあきらめないで!
雨や霧でも山頂は晴れ?
「盆地や山間部にできた層が雲海になる」ということは、早朝、「麓や山の中腹は厚い雲や霧に覆われて、山(山頂)が見えない」という状況です。霧雨になっている場合もあります。
しかし!雲海の天井よりも上は、ご紹介してきた写真のように晴れていることが多いのです。「山が雲で隠れてしまっている」と麓からの天気だけで登山をあきらめず、必ず気象情報をチェックした上で、雲より上の青空を見に行きましょう!
雲海を見に行く時の注意点
防寒対策と雨具・ヘッドライトを!
雲海が見頃の季節は秋から春先。そして放射冷却でよく冷えた明け方。ということは、寒さ対策を万全にしておくことが大切です。 また、夜間の運転や暗い山道を歩く際には十分注意し、歩きやすい靴とヘッドライトは忘れずに持って行くようにしましょう。
息をのむほどの雲海が見られる時と、すっぽりと霧や霧雨に包まれてしまう時は紙一重です。万が一、霧に包まれてしまった時のために、レインウエア(防寒対策にも)の着用や雨具の携帯をおすすめします。
まとめ
いかがでしたか? 気象条件と地理的条件が整えば、息をのむような絶景に出会うことができます。天気予報をチェックして、一期一会の気象現象「雲海」を見に行きませんか?
雲のない晴れた夜は、熱が逃げて気温が下がります。この気象現象が「放射冷却」。