ツェルトとは?
ツェルトとは、登山用で使う、小型で軽量コンパクトな、簡易テントのことをいいます。 宿泊を伴った登山で使う、一般的な登山用テントと違い、ツェルトは登山中に病気やけが、遭難などの緊急事態が発生してビバークを強いられる場面で、風や雨から自分の身を守るために使います。 ツェルトは、一般的なテントよりも居住性や快適性が劣る一方で、すぐ設営できるよう、コンパクトかつ軽量で、持ち運びのしやすさを重視した作りになっています。 山ではいつ何時、緊急事態に陥るか分かりません。そんなときすぐに対処できるよう、ツェルトが必要な場面や、張り方や設営方法を理解しておきましょう。
ビバークとは?2種類のビバーク
ツェルトを使う必要があるのは、主にビバークをするときです。 ビバークとは、山の中で野宿をすることをいいます。ツェルトを持っていれば、風雨を避けて体温低下を防ぐことができますが、持っていなければ、着の身着のままのため、つらいビバークとなるでしょう。 ビバークには、フォーカストビバーク(予定ビバーク)と、フォーストビバーク(緊急露営)の2種類の方法があります。
フォーカストビバーク(予定ビバーク)とは?
あらかじめビバークすることを計画して山の中に入り、ツェルトを設営するなどして、ビバークすることをいいます。 訓練として行うことが多く、フォーストビバーク(緊急露営)をしなくてはならない状況が実際に発生したときに、冷静に対処するための練習になります。このような練習をしておくと、いざというときに素早く対処できるようになるので、是非とも実践してみることをおすすめします。
フォーストビバーク(緊急露営)とは?
道迷い、怪我や病気、天候の急変などの思わぬ事態の発生により、やむをえず山の中で野宿することをフォーストビバークといいます。 ビバークといえば、通常こちらの意味で使うことが多いです。
ビバークで使うツェルト、それはどんな状況?4つの例を紹介
では、具体的にどんな場面でフォーストビバークして、ツェルトが必要となるでしょうか?ツェルトが必要な状況について、例として4つの場面を紹介します。
1.道に迷って日が暮れたとき
登山中の遭難で最も多い原因は、道迷いによる遭難です。 登山道の脇道に何気に間違えて入ってしまい、おかしいなと、気づいたときにはすでに薄暗くなっている、という状況です。元のルートに戻ろうにも、暗くて道が分からないでしょう。 そんなときは、パニックに陥って暗い中歩こうとせず、夜が明けるまで、一晩山の中でビバークして過ごす必要があります。 こんなときにツェルトを持参していると、体温低下を防ぎつつ、体力を温存できるでしょう。夜が明けて、また元のルートを探せばいいのです。
2.予定より時間がかかって日が暮れたとき
道に迷わないとしても、予定したルートの登山に対して、想定以上に時間がかかって、日が暮れる前に下山するのが難しくなる、という状況もあるでしょう。 暗くなってもあと少しで下山できそうなら、ヘッドライトを使って、なんとか進むことはできるでしょう。しかし、下山口までかなり距離があるなら、迷わずビバークしましょう。そんなときも、ツェルトを持っておくと、ビバークでなんとか一晩やり過ごすことができます。
3.けがや病気で動けなくなったとき
登山中に持病が発症したり、足の捻挫など、けがをして動けなくなったとき、救助要請をして、救助を待つ必要があります。その間は、ツェルトを設営して、体温低下を防ぎ、体力を温存しましょう。
4.風雨を一時的に避けるとき
稜線で強い風にあおられたり、急に強い雨が降られた場合などに、一時的に退避するのにツェルトを使います。風雨が強い状況では、体温を奪われやすいので、ツェルトにくるまって、体を冷やさないようにしましょう。
ツェルトはビバーク以外でも使える
ツェルトは、ビバークのとき以外でも、一般的な登山用テントとして使うこともできます。 ただし、防水性や結露、強風に弱く、快適さは一般的なテントほどありません。使うときは、ツェルトの弱点を理解し、フライシートやシュラフカバーを活用するなどして、できるだけ快適に過ごせるよう工夫しましょう。
ツェルトの使い方とは?4つの使い方を紹介
ツェルトは張り方や設営方法の工夫次第で、いろんな使い方ができます。 ツェルトの使い方を、以下に4つ紹介します。
使い方① 立てて使う
ツェルトの最も一般的な設営方法で、一般的なテントと同じように、立てて使います。ペグでツェルトを固定し、ポールまたは周囲の木々でツェルトを支えます。 一般的な登山テントより、狭くて、風雨にも弱く、結露しやすいなど、快適さは劣りますが、緊急時に夜を明かすには、十分な居住性があります。
この方法であれば、他の一般的なテントに混じって、山のテント場で張ってもよいでしょう。ツェルトは一般的なテントよりも軽量なので、宿泊用に積極的に使うと、荷物の軽量化を図れるでしょう。
使い方② くるまって使う
ツェルトは持っているが、支えるためのポールや張り網を持っていない場合、すぐにビバークが必要な状況では、くるまって使います。体温を低下させないよう、体全体をツェルトで覆い、頭だけ出して使いましょう。
使い方③ タープとして使う
ツェルトは、雨を避けるタープとして使うこともできます。一般的なテントと一緒に設営したり、暑い夏の時期はタープの下で夜を明かしたりすることもできます。 タープとして使う場合の張り方は、ツェルトについている紐をほどいた状態で大きく広げ、張り網とペグで生地を固定します。
使い方④ 雪洞の入り口を覆う
雪山で、雪洞を掘ってビバークする場合に、雪が入り込まないように、蓋としてツェルトを使うこともできます。
ツェルトとテントの比較
ツェルトは、登山用の一般的なテントと、どのように違うのでしょうか? ツェルトは緊急時にビバークをする目的で使います。それに対して、テントは快適に宿泊する目的で使います。そのため作りが異なっており、それぞれメリットデメリットがあります。以下に、いくつかのポイントについて、どちらがよいか比較し、〇か△で示します。 ■通気性 テント:〇、ツェルト:△ ■広さ テント:〇、ツェルト:△ ■防水性 テント:〇、ツェルト:△ ■軽量性 テント:△、ツェルト:〇 ■コンパクト テント:△、ツェルト:〇 このように、テントは快適さや居住性を重視して作られていますが、一方で、ツェルトは居住性は少し劣りますが、軽量でコンパクトであることを重視して作られています。 軽量コンパクトであるからこそ、いざというときにいつでもザックにしのばせて、持ち運びしやすくなっています。
ツェルトとテントの使い方の違いは?
先ほどツェルトとテントの違いを挙げましたが、どのような使い方の違いがあるでしょうか?
テントを使う場合
テントで泊まるのが前提で登山する場合は、テントを持っていきましょう。この場合、緊急時はテントを張ればいいので、ツェルトを持っていく必要ありません。
ツェルトを使う場合
一方、日帰り登山や山小屋泊の場合は、登山中の緊急時に対応できるよう、ツェルトを持っていきましょう。軽量でコンパクトなので、持ち歩くのはあまり苦にならないでしょう。
ツェルトの張り方手順は?
ツェルトの使い方がいろいろあることを説明しましたが、最も一般的な、立てて使う場合の張り方を、4つの手順に分けて紹介します。 ツェルトの張り方は、慣れれば難しくありませんが、いつでも設営できるように練習しておきましょう。
ツェルトの張り方 手順① 事前の準備
ツェルトを張るには、ツェルト以外に、張り網と、支えるためのポールが必要になります。ポールは、ツェルトメーカーが販売している専用の商品がありますが、トレッキングポールでも代替できます。
まずは、ツェルトの床となる部分を用意するため、ツェルトに付いている紐を結びます。
ツェルトの張り方 手順② 張り網取付
次に、ポールを通すストラップに、張り網を両サイドに2本ずつ取り付けます。 緊急時に素早く設営できるようにするため、張り網はつけたままにしておくとよいでしょう。
ツェルトの張り方 手順③ ペグ打ち
ツェルトを固定するため、4隅にペグを打ち込みます。ペグを打ち込むには、周辺に落ちている、大きな石などを使うといいでしょう。また、打ち込んだときに、ツェルトの4辺がまっすぐになるよう意識しましょう。 ペグを持っていない場合や打ち込めない場合は、重い石などでツェルトを固定していも構いません。
ツェルトの張り方 手順④ ポールを立てる
片側のポールを立てて、張り網をペグや石で固定します。
片側が固定出来たら、もう片方も同様にポールを立て、張り網を固定します。
なお、ポールを立てる代わりに、ツェルトにロープを通して、両端を木に結び付けてツェルトを立てることもできます。この場合、ちょうどいい間隔で丈夫な木が立っている必要があり、張れる場所が限られるので注意が必要です。
以上が、ツェルトの張り方の手順になります。 ツェルトの設営は、慣れると5分以内にできるようになるでしょう。ただ、いざというときに、張り方が分からず右往左往しないよう、事前に設営の練習をしっかりやっておきましょう。
ツェルト設営のポイントは?
どこで張るか?
ツェルトを張る場所は、できるだけ平坦で、風を遮るために木陰や岩陰が望ましいです。沢の傍は、雨で増水したら流されてしまうので避けましょう。 ビバークを決めたときに暗くなっていると、ツェルトを張る場所を探すのが難しくなります。ビバークは、暗くなる前に決断して、早めに適地を探すようにしましょう。
地面の冷気対策
ツェルトを張った地面はかなり冷えるため、ビバークのときは、地面からの冷気を対策する必要があります。テント泊のときのように、エアマットや銀マットがあればよいのですが、緊急時にはそんな便利なアイテムは持っていないでしょう。 地面からの冷気対策としては、体の下に荷物やザックを置く、落ち葉や小枝を敷くなどして、なんとか乗り切るようにしましょう。
風雨や結露の対策
ツェルトの防水性は、一般的なテントほど高くなく、通気性もあまりよくないので結露しやすく、生地が濡れた状態になりやすいです。その生地に体が接触した状態で寝泊りすると、体温が低下してしまいます。 ツェルトを立てた状態で使う場合は、中で傘をさしたり、同行者で両サイドの生地をおさえるなどして、できるだけ空間を広く保てるように工夫しましょう。
ツェルトの選び方は?
ツェルトは、緊急時に使うもので、テントを持参しない場合は、いつでも登山に持っていく必要があります。そのため、軽量、コンパクトであることが重要になってきます。 ツェルトを選ぶ際は、自分が山に行くときの人数から、ツェルトの収容可能人数を決め、できるだけ軽量、コンパクトなものを選びましょう。
居住性を重視したモデルもある
ツェルトは、ビバークで使う以外に、一般的なテントのように使うこともできます。その使い方をする場合は、より居住性が高い機能を有したモデルを選ぶ必要があります。そのようなモデルは、ツェルトの弱点である、防水性を高めた生地やゴアテックス生地を用いたものがあります。 さらに、フライシートも合わせて使うと、風雨に対して防水性を高めることができるでしょう。 一方で、居住性を重視するあまり、軽量性やコンパクトさが失われたり、他のアイテムで荷物がかさばったりしては、ツェルトの意味がなくなるので、どのようにツェルトを使うのかよく検討しましょう。
ツェルト本体と別売りの設営用アイテム
ツェルトは本体のみで販売されているため、ツェルトだけ買うと、支えるためのポールや、固定するためのペグは付属していません。そのため、必要に応じて、それらを用意しましょう。 ただ、本体のみで使い物にならないかというと、そんなことはなく、くるまって使うことはできます。その場合、立てて使うことはできませんが、ペグやポールを持たないため、荷物が軽量でコンパクトになるというメリットがあります。ツェルトをどのように使いたいか、よく考えて設営用アイテムを用意しましょう。
張り網
張り網は、ツェルトを安定して設営するために使います。ツェルトメーカーが用意しているオプション品を買ってもよいし、クライミングロープでも代用することができます。
ペグ
ペグはツェルトを固定するのに使います。ツェルトメーカーがオプションとして販売しています。テント用のものを持っていればそれで代用可能です。
ポール
ポールはツェルトを立てるための支柱として使います。ツェルトメーカーがオプションとして販売していますが、トレッキングポールでも代用可能です。
フライシート
フライシートは、ツェルトを風雨から守るのに使います。また、結露を発生しにくくさせるので、フライシートがあると、より快適に過ごすことができます。 フライシートもツェルトメーカーがオプションで販売しており、ツェルトに快適さを求める場合は、用意するとよいでしょう。
ツェルトの持ち運び方は?
ツェルトは非常に軽量でコンパクトなので、簡単に持ち運ぶことができます。頻繁に使うものではないので、ザックの底にしのばせて持ち歩きましょう。なお、日帰りや山小屋泊の登山へ行くときは、面倒でも毎回持っていくようにしましょう。
いざというとき、すぐに設営できるよう、事前にツェルトに張り網を取り付けておくとよいでしょう。
まとめ
ビバークで使うツェルトについて、使う場面、使い方、張り方や設営の仕方を解説しました。 ツェルトを使ってビバークするような、差し迫った状況は頻繁に訪れるものではありませんが、いざというときのために、設営の練習をしておくようにしましょう。 そして、日帰りや山小屋泊登山などのように、テントを持たないで登山する場合は、忘れずに軽量コンパクトなツェルトを持っていくようにしましょう。
左が登山用のテントで、右がツェルトのスタッフバッグです。ツェルトの方が軽量でコンパクトにパッキングできます。