ロングトレイルとは?
旅人の道「ロングトレイル」
登山やトレッキングの人気と共に、「歩く旅」も注目されるようになってきました。「トレイル」とは、森林や原野、里山などにある「歩くための道」のこと。そして「ロングトレイル」とは、つながった一本の長いトレイル。日本ロングトレイル協会は、「ロングトレイル」を以下のように定義しています。
ロングトレイルとは、「歩く旅」を楽しむために造られた道のことです。登頂を目的とする登山とは異なり、登山道やハイキング道、自然散策路、里山のあぜ道、ときには車道などを歩きながら、その地域の自然や歴史、文化に触れることができるのがロングトレイルです。
ロングトレイルの魅力
出会い・発見を楽しむ
深い森や里山の中にあるトレイルでは、野生動物の姿や足跡を見つけたり、その土地土地の植物や自然を発見することができます。また、街道や村の中にあるトレイルでは、地元の人々との触れ合いや、トレイルで出会うトレッカー同士の情報交換や交流も「ロングトレイル」そして「歩く旅」の魅力と言えます。観光地のガイドブックに載っていないような旅を楽しめるのが「ロングトレイル」なのです。
気軽・身軽に楽しむ
登山で、長期の縦走を楽しむためには、登山靴をはじめとする登山装備に加えて飲料や食料、着替え、時にはテント装備が必要になります。広大で深い自然の中を歩くロングトレイルでは、もちろんそういった装備は必要です。しかし、自然と街をつなぐトレイルでは特別な装備の必要もなく、その時に見つけた定食屋さんを利用したり地元の食材を楽しむこともできます。民宿を利用することもできますし、天気や予定に合わせて数回に分けて歩く楽しみもあります。ハイキングシューズで気軽に、そして身軽に楽しむことができるのも、ロングトレイルの魅力です。
海外のロングトレイル
アメリカ3大トレイル
ロングトレイル発祥の地・アメリカには、3000㎞を超えるロングトレイルがあり世界各国から多くの人々が歩く旅を楽しむために訪れています。国立公園に制定されているエリアをつないでいることが多く、自然本来の美しさが残っているのが魅力です。それぞれが自由な日程で自然や山を歩き、夜はテントを張ったり山小屋を利用したり、時には、トレイルエンジェルと呼ばれるボランティアの方が食事や宿の提供をしてくれる場合もあります。
1.「アパラチアン・トレイル」
全長3500㎞。アパラチア山脈の嶺に沿ったトレイルです。ジョージア州からメイン州にかけての14州をつなぎます。
2.「パシフィック・クレスト・トレイル」
全長4000㎞以上。アメリカ西海岸を南北にメキシコ国境からカナダ国境までをつなぐトレイルです。世界中のハイカーの憧れ「ジョン・ミューア・トレイル」。アメリカにおける「自然保護の父」と呼ばれるナチュラリスト、ジョン・ミューアにちなみ、この名前が付けられました。トレイルの北限はヨセミテ渓谷(ヨセミテ国立公園)、南限はマウント・ホイットニーの計340㎞のロングトレイルです。大部分がこの「パシフィック・クレスト・トレイル」の一部になっています。
3.「コンチネンタル・ディバイド・トレイル」
全長5000㎞以上。ロッキー山脈に沿ったトレイルで南北に5州をまたぐロングトレイルです。ルートの7割ほどしかトレイルがなく、カナダ側の積雪状況も考慮しなければならないため、南北に縦断するスルーハイカーは上の2つに比べ少ないトレイル。
1000年以上続く整地への道
「サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路」はフランス・スペインの巡礼の道で、その距離2526㎞。様々なコースがありますが、どれもゴールのサンティアゴ・デ・コンポステーラに続いています。今では、信仰の為だけではなく、歩く旅としての楽しみや、目標達成のために歩くトレッカーも多い人気のロングトレイルです。
巡礼のシンボルとなっているヨーロッパホタテガイ。巡礼者は、巡礼の証としてぶら下げて歩きます。ひょうたんは水筒の代わりに。
山岳地帯のロングトレイル
「グレート・ヒマラヤン・トレイル」は、ネパールの山岳地帯を結ぶコースでその距離1700㎞。ハイルートでは標高6000mを超える高所もあり、ゆっくりと歩いて旅をすることで高度順応にもつながります。有名な「ツール・ド・モンブラン」は、モンブラン山群を周遊しながらフランス・スイス・イタリアの国境越えができる150㎞のロングトレイル。アップダウンの続く険しいトレイルですが、ヨーロッパアルプスの絶景が広がるコースです。
このほかにも海外には大自然を生かしたトレイルが多く、ガイドブックも販売されています。コースの整備状況も様々で、時にはルートが変わっていたり、不明瞭な場所も多く存在します。管理事務所への届け出が必要なコースもありますので、海外のロングトレイルに挑戦する場合は、下調べを入念に行ってからスタートするようにしましょう。
日本のロングトレイル
海外だけでなく、日本にも自然や歴史を感じることができるロングトレイルがあります。険しい山岳地帯を通るコースから、温かさを感じる里山や海辺を通るコースまで、バリエーションが豊富です。しかしその多くは、山頂を目指す登山とは異なり、時にはゆったりと道草を楽しみ、歩き旅初心者でも自分だけの旅を作り上げることができるようなコースになっています。
歴史を感じるロングトレイル
日本でも古くから、「熊野古道」や「四国八十八ヵ所 遍路路」など旅人のための道としてロングトレイルは存在していました。険しい縦走路ではなく、里山や古道を縫いながら進み、自然の中に人の気配や歴史を感じるコースが多くなっています。昔はわらじで歩かれていたトレイルを、ハイキングシューズで踏みしめながら歴史をつなげていきたいですね。
全国から熊野三山へと向かう、熊野詣の道「熊野古道」。「伊勢路」・「中辺路」・「小辺路」・「大辺路」・「紀伊路」とあり、初心者でも道標を見ながら歩くことができます。
ご当地ロングトレイル
近年では、地域観光の一環として地元に密着したトレイルの整備が進んでいます。ルートマップや標識なども充実しているコースが多く、初心者でも安心。歩くからこそ見える景色やふれあいに、今まで知らなかった日本を体験することができます。
日本ロングトレイル協会が認定しているロングトレイルには「北根室ランチウェイ」(71.4㎞)、「十勝ロングトレイル」(100㎞)、「奥津軽トレイル」(117㎞)、「信越トレイル」(80㎞)、「浅間・八ヶ岳パノラマトレイル」(63㎞)、「八ヶ岳山麓スーパートレイル」(200㎞)、「塩の道トレイル」(120㎞)、「霧ヶ峰・美ヶ原中央分水嶺トレイル」(38㎞)、「金沢トレイル」(70㎞)、「高島トレイル」(80㎞)、「山陰海岸ジオパークトレイル」(40.7㎞)、「広島湾岸トレイル」(289.1㎞)、「国東半島峯道ロングトレイル」(124㎞)などがあります。この他に整備中・計画中のトレイルもあり、日本各地の自然や文化を感じることの出来るコースばかりです。
おすすめ「みちのく潮風トレイル」
整備の進む日本のロングトレイル。管理や整備が地元の有志やボランティアの方たちに支えられているところも多く、何度も足を運びたくなるような温かいコースが沢山あります。今回は、環境省が主体となって整備を進めている「みちのく潮風トレイル」についてご紹介します。
全長700㎞を超える「みちのく潮風トレイル」は、青森県八戸市から福島県相馬市まで、東日本大震災の被災地を一本のトレイルで結びます。太平洋沿岸をつなぐこのトレイルは、リアス式海岸特有の自然や、世界三大漁場の一つ「三陸」など、随所にダイナミックな海を肌で感じながら歩けるコースが多くなっています。また、東日本大震災の爪痕が残る場所や、震災遺構公園などがあり、自然の美しさと同時に恐ろしさ・厳しさも体感できます。
海だけでなく、東北の文化やご当地グルメを楽しめる市街地、村を結ぶ交易道路としての峠道など、コースのバリエーションが豊富なところも魅力。マップや道標も整備されているので、初心者でも歩きやすいコースです。
地元の方々とのふれあいも歩く旅の魅力。ゆっくりとお話を聞いたり、温かい応援を受けたり。触れ合うことで、さらに温かな東北を肌で感じることができます。東北の復興の歩みを学び、元気をもらい、そして地元活性に貢献できる。みちのく潮風トレイルは、そんな素晴らしいトレイルなのです。
まとめ
いかがでしたか?道草や寄り道をしながら、自分のペースでロングトレイルを歩く。出会いや気づき、発見に満ちた素敵な旅になること間違いなしです。地図を用意したら、ハイキングシューズを履いて、自分にしかできない旅を楽しんでみませんか?