ザイルとは
ザイル(seil)はもともとはドイツ語で、登山用のロープのことを言います。英語ではクライミング・ロープ(climbing rope)と表現します。 登山やアウトドアに精通している方は、ザイルはすぐわかりますがそれ以外の方には何のことやら。 アウトドアショップを散策しているとカラフルなロープを見かけたことありませんか? 赤、黄、青、緑など、あのロープがザイルと呼ばれるものです。 中には、ザイルに似たロープもありますね。
ここでは、「ザイル」と「ロープ」の使い分けを次のように定義して説明してまいります。 ザイル:クライミング含むアウトドア全般で使用するロープ ロープ:一般に使用するロープ
ザイルとロープの違い
ザイルとロープの違いについてまとめてみました。 概略の違いとなります。大事な点が抜けていましたら、何卒ご容赦くださいませ。
ザイル
ロープ
ロープは、ザイルのように編み込んで作られていません。よってあるだけで、ある程度の耐荷重があってもザイルのように伸びませんので突然切れることがあります。
ザイルは簡単に切れることはありませんが、クライミングなど岩角が鋭い場所で衝撃を受けたときは切断の可能性もあります。 一見、ザイルのように見えて実はロープだったということもありますので、これからザイルの購入をお考えの方は注意しましょう。
ザイルの使い方
続いてザイルの使い方です。 ザイルの主な使用はクライミングです。そして、そのクライミングの中で登山者が岩壁などを登る際、安全確保のために登山者同士でザイルを身体に結ぶ「アンザイレン」でもザイルを使います。
「アンザイレン」は登山技術の中でも非常に難しく、相当の訓練が必要とされています。理由は、ザイルの使い方や結び方が曖昧だと安全の確保ができず事故に繋がり、命の危険性を晒すことになるからなのです。 使用するザイルは直径8~11mmと言われています。 しかし、最近の山岳登山ではライト&ファストと言われるように、ザイルの強度を保ったまま、径の細いものが求められているようですね。
その他の使用法としては、山でのトラブル対処や災害時の防災用具としても使用します。 そしてザイルを使うときは、皮手袋をするようにしましょう。 なぜならば、ザイルの素材はナイロン製が主流となっているため、滑りにくくすることと、摩擦による火傷から手を保護するためです。
ザイル端末の処置
新たにザイルを購入するなどをしたら、端末処置を行いましょう。 理由は、切ったままの状態の端末にしておくと使用するたびに端末がほつれ、使用に支障をきたすようになります。 新たにザイルを手にしたら、ライターなど利用して端末を処置しておきましょう。 電気工事用の熱収縮チューブを2cmないし3cmに切って使うのがよいです。 切ったチューブをザイルの端末にはめ込み、ライターで軽く炙るとチューブが収縮して端末のほつれを防いでくれます。
ザイルの選び方
まず、ザイルはどこで手に入るのでしょうか。 大きく2つの方法があります。一つはアウトドアショップで購入する方法と、もう一つはネット通販で購入する方法です。
アウトドアショップでは写真のようにドラムに巻いてあるザイルを必要な長さだけ切ってもらうカット販売と、下の写真のように20m、30mといったm(メーター)販売があります。(下写真のザイルは60m)
次は、ザイルの選び方としての着眼を挙げてみました。
選び方1 ザイルの種類
選び方1として、まず使用するザイルの種類を明確にして、目的・用途に合ったザイルを選びましょう。 ザイルにはシングル、ダブル、ツインの3種類のロープがあり、端末にはそれぞれこれらの数字などが示してあります。
シングルは、1本でフォールを支えるため径が太くなっています。(おおよそ直径9~11mm)
ダブルは、2本1セットで使うものです。仮に1本が切れてしまっても、残りの1本でフォールを支えられることや、長い懸垂下降に使える利点があります。(おおよそ直径8.5~10mm) ツインは、2本セットにして同じカラビナにかけて使用します。(おおよそ直径8~9mm)
選び方2 UIAA耐墜落回数
選び方2は、使いたいザイルのUIAA耐墜落回数です。 UIAAとは、国際山岳連盟の略称であり、その国際山岳連盟が実施した墜落テストの回数です。 回数が多いほど耐久性に優れているという証になります。 径によってザイルの強度も変化しますので注意が必要です。比較検討する場合は同じ径のザイルで実施しましょう。 同種類のザイルで決めかねる場合は、この耐墜落回数の多さで判断してみるのもありです。
選び方3 最大衝撃荷重
選び方3は、最大衝撃荷重です。 最大衝撃荷重は、UIAAが実施する衝撃荷重テストです。 数値が小さいほどクライマーが落下した場合に体にかかる衝撃荷重が少なくなります。 数値はKNで表しています。 参考までに、シングルロープで約2700Kgの衝撃荷重があります。 よって、最大衝撃荷重の数値が小さいザイルは性能がよいということになりますね。
選び方4 UIAA安全規格の確認
選び方4は、UIAA安全規格です。 UIAAが、登山用品やクライミング用品の耐久性などを定めた安全規格です。この安全規格は国際規格となっていて、規格に適合することにより用具の安全が証明されていることになります。
選び方5 防水加工
選び方5は、防水加工です。 ザイルは、やはり屋外で使用することが多いことを考えると防水加工してあるものがいいでしょう。 シース(表皮)、コア(内芯)の両方に防水加工してあればいいですね。
選び方6 ザイルのしなやかさ
選び方6は、ザイルのしなやかさです。 結びやすい、扱いやすさもザイルを選ぶうえでは大切な要素です。 しなやかなザイルを選びましょう。 ビレー器具を使う場合などは、まさにザイルのしなやかさは必須になりますね。
選び方7 PSCマークの確認
選び方7は、PSCマークの確認です。 独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)の製品試験を受け合格し、経済産業省からPSCマーク(Product Safety of Consumer products)を取得しなければ国内では販売することができません。
ザイルについているタグの一例
参考までに、ザイルについているタグの一例です。 このザイルはシングルロープで 直径:11〔mm〕 重量:78〔g/m〕 耐墜落回数:16-17〔回〕 衝撃荷重:8.4〔KN〕 といった具合にザイルの特性などがわかります。
ザイルの結び方
ザイルを手に入れたら、いよいよザイルの結び方を覚えましょう。 特にクライミングでは必須のスキルになります。クライミングにおいては結び方を覚えていないと安全を確保できないどころか、事故に直結することもあります。 トレッキング、ハイキング、キャンプでは必ずしも知らなければならないことはなく、知っていればアウトドアの幅が数段広がります。 そして、災害時やサバイバルの時にアウトドアの知識があれば何かと役に立ちます。結び方もその一つで、スキルがあれば決して損をすることはないでしょう。 なお、ここ「ザイルの結び方」においてはザイルのことをあえて「ロープ」と称して紹介していきます。 そして、結び方は代表的なものを挙げてみました。 結び方には3種類の結び方があります。 「~ノット」、「~ベント」、「~ヒッチ」の3種類です。
結び方の名称で、どのような感じになるか容易に想像できますよね。 しかし、種類がたくさんあり覚えきれませんが、ロープの結び方は、反復演練しかありません。繰り返し演練して覚えていきましょう。
ザイルの結び方1 オーバーハンドノット(止め結び)
基本中の基本の結び方です。 ロープにこぶを作る時に使います。 しかし、これだけでは通常使い道がありませんので、変形させたり組み込んだりして使います。
ザイルの結び方2 リーフノット(本結び)
ロープの端同士を結ぶときに用いる結び方です。 簡単に結べて、強度も強い便利な結び方です。 イギリス英語では「リーフ・ノット」、アメリカ英語では「スクウェア・ノット」と言います。
ザイルの結び方3 フィギュア・エイトノット(8の字結び)
ロープにこぶを作る時の結び方です。 止め結びよりも大きなこぶを作れます。 小さなリングなどに通して、ロープが抜けないようにするためにも使います。
ザイルの結び方4 ダブル・フィギュア・エイトノット(2重8の字結び)
いろんな方向に荷重をかけても解けにくいです。 丈夫で安全性もあり、命綱としても使える結び方ですので、登山での使用頻度が高いです。
ザイルの結び方5 インライン・フィギュア・エイトノット
ロープの途中にループを作る時、メインロープにカラビナをかけたりする時に使う結び方です。 途中のループを大きくすると、足(つま先)を入れることができ、登降用としても使うことができます。
ザイルの結び方6 スリップ・ノット(引き解け結び)
この結び方は、ロープの端を引っ張ると簡単にほどけます。 便利で簡単な結び方なので、日常生活でもよく使われています。
ザイルの結び方7 ダブル・フィッシャーマンズ・ノット(テグス結び)
2本のロープを繋いで、岩場や崖を下降する時に使われる結び方です。 巻き付けが多いので、結び目も大きくなり信頼性も高いです。
ザイルの結び方8 ボウライン・ノット(もやい結び)
輪を作る結び方の中では基本中の基本と言われる結び方です。 「結びの王様」(King of knot)と呼ばれています。 ロープの太さに関わらず結びやすいことが特徴です。 重量物を引っ掛けて引っ張りたい時に便利な結び方です。
ザイルの結び方9 バタフライ・ノット(ちょう結び)
どの方向からの荷重があっても、ループが移動したり小さくならない結び方です。 ロープの中間部で作ることができるのが特徴です。
ザイルの結び方10 シート・ベント(はた結び)
太さの違う2本のロープを繋ぐ時に使う結び方です。 結ぶのも、解くのも簡単で強度もあります。
ザイルの結び方11 クラブヒッチ(巻き結び)
巻くだけの簡単な結び方です。 手軽に結べるので実用的で、しかも強度もあるので覚えると非常に便利な結び方です。
まとめ
いかがでしたか。 クライミングでは、ザイルは安全を確保するため非常に大切なものです。 ザイルの使い方や結び方が曖昧だと事故に直結することになります。 ですから使い方、結び方を熟知しなければならないんですね。 趣味の域でのアウトドアなどでは、ザイルの使い方や結び方を知っていれば何かと便利なものです。 また、山での突然のトラブルなどにも応急対応として活用することもできます。 日常生活では、災害時の防災用具として持っていれば危機管理対策にもなりますね。 ザイルの使い方や結び方を覚えて、アウトドアや日常生活に役立てて、ご自身の生活の幅を広げてみませんか。
ザイルは繊維が数個グループに分かれて編み込まれて作られており、よれ、巻き癖、擦れに強く、伸び率が大きいためロープに比べて耐荷重が格段に違いますので突然切れることがありません。