そもそも「PEライン」とは?
ポリエチレン素材の糸を, 4の倍数本編み込んだ糸
「PEライン」の「PE」は、「ポリエチレン」のアルファベットの綴りである「Polyethylene」の略で、PEラインとは、ポリエチレン素材の糸を、4の倍数本 (多くは4本)編み込んで作られた「マルチフィラメントライン (複数本の糸を編み込んで作られた糸のこと)」のことを指します。ここ10年ほどで、一気に釣り人に普及し浸透した、比較的歴史の浅い糸です。
メリットも多いが, 反面重大な欠点も・・・・
詳しくはこれから取り上げていきますが、PEラインは、ナイロンラインやフロロカーボンラインなどの、従来のモノフィラメントライン (1本の糸で構成される糸)とは一線を画す、特筆すべき特徴を持っています。故に、メリットも多いのですが、反面重大なデメリットも存在しています。釣り方や状況によっては、釣りが成立しないほどの欠点となってしまう場合もあるのです。
PEラインの主な“特徴”4つとは?
PEラインの“特徴”は, メリットにもデメリットにもなりうる
これから、PEラインの主な特徴4つについて取り上げていきます。この見出しのタイトルの、「特徴」という言葉が強調されているのは、PEラインが持つ様々な特筆すべき特徴は、釣り方や状況など、釣り人の使い方次第で長所にも短所にもなりうるからです。ですから、一概に長短を判断することは難しいため、この見出しのタイトルには、「メリット4つ」や「デメリット4つ」という言葉ではなく、長所と短所を両方含む意味の「特徴」という言葉を用いました。
それぞれの特徴を, 「メリット」と「デメリット」とで紐解く
この記事では、まず特筆すべき特徴を簡単に解説し、どのような使い方で「メリット」になったり、「デメリット」になったりするのかを、なるべく分かりやすく、徹底的に紐解いていきたいと思います。PEラインを使用する際は、こうした特徴について十分に知っておく必要があります。
特徴1【引っ張り強度が高い】
PEラインの原料に使用されている、ダイニーマなどのポリエチレン製繊維は、引っ張られる力に対して非常に強く、改良されたものは、防弾チョッキなどでにも使われる程です。新品の状態であれば、同じ号数のナイロンラインの2.5 - 3倍、フロロカーボンラインの3 - 3.5倍もの引張強度を誇ります。
メリットとして
釣り糸は、号数が細くて強いことに越したことはありませんから、この特徴は、あらゆる釣りにおいて、大きなメリットと言えるでしょう。ナイロンラインやフロロカーボンラインと同じ強度を保ちながら、糸の号数をもっと細くできれば、キャスト時の飛距離の向上にも繋がり、より広範囲の魚を狙うことができるようになります。
デメリットとして
号数が細くても強いことは、一見メリットしかないように見えるのですが、隠れたデメリットが存在しています。それが、リールや竿などへの負担です。リールや竿には、設計時に耐えられる荷重や、適合する糸の号数が設定されており、多くは製品に表記されています。これらの表記がナイロンラインを基準としたものである場合、表記されている数値をPEラインに当てはめて釣りをすると、PEラインの頑丈さによって、設計時には意図していないような力がリールや竿に加わった状態で、気付かずに釣りをしてしまう可能性があり、道具の破損の原因にもなりかねません。
ナイロンラインを使っている時であれば、糸が切れることによって、リールや竿の限界を知ることができましたが、PEラインでは、リールや竿に限界の力が加わっていても気付くことができず、長期的にダメージが重なっていってしまいます。また、PEライン特徴である糸表面の繊維の硬さは、PEラインの使用を想定していない竿のガイドや、リールのローターを痛めます。PEラインを使用する際は、リールや竿も、PEラインに合った選び方をする必要があります。
特徴2【伸びが無い】
ポリエチレン繊維は、極めて伸張性が無く、今までナイロンラインやフロロカーボンラインを使っていた人が初めて触ると、違和感を感じてしまう程です。
メリットとして
まず、魚が糸を引っ張っても伸びないため、アタリが非常に分かりやすい点が挙げられます。また、ナイロンラインやフロロカーボンラインでは、キャスト時のパワーの多くが、糸の伸びによって失われてしまい、飛距離の低下を引き起こしますが、PEラインの場合は、キャスト時のパワーがダイレクトに仕掛けに伝わるため、細さも手伝って、飛距離が大幅に伸びるようになります。
デメリットとして
伸びが無いという特性は、悪い面もたくさんあります。例えば、ナイロンラインやフロロカーボンラインの場合は、魚の引きを伸縮性によって緩衝していますが、PEラインには、そのようなことはできないため、結局ナイロンラインやフロロカーボンラインを先端に接続して使わなければなりません。また、クッション性が無いということは、魚の引きもガツガツしたものになってしまい、竿や仕掛けへの負担増大にも繋がりますから、やはりPEラインの使用を想定したリールや竿が必要となります。
加えて、伸びが無いことによって、ナイロンラインやフロロカーボンライン以上に絡みやすいという短所もあります。特に釣り初心者の場合は、ただでさえ釣り糸の扱いに慣れていないわけですから、貴重な釣りの時間に、魚ではなく、ライントラブルと向き合わなければならなくなります。
特徴3【比重が軽い】
同じ号数の他の素材のラインで比べた時、PEラインの比重は0.8 - 0.9で、ナイロンラインの1 - 1.1や、フロロカーボンラインの1.2 - 1.3などと比べても、非常に軽いことが分かります (水の比重を1とした場合)。そのため、PEライン単体を水面に静かに置くと浮き、仕掛けやルアーが水中にある状態では、水中をゆっくりと漂う性質があります。
メリットとして
ナイロンラインやフロロカーボンラインの場合、キャスト時の仕掛けやルアーの飛翔中に、糸自体の重さで糸全体がたるみ、結果的に飛翔中の仕掛けやルアーを引っ張ってしまうことで、飛んで行こうとする慣性力が失われ、飛距離の低下を招いています。軽いPEラインの場合は、飛翔中の仕掛けやルアーを引っ張ってしまう力が弱いため、飛距離の低下を抑えることができます。また、水中をゆっくりと漂う性質は、中層の魚を中心に狙うウキフカセ釣りなどにも最適と言えるでしょう。
デメリットとして
横風が吹いている条件下での投げ釣りでは、常に道糸が風によって横に流され、魚のアタリも取りづらくなります。ナイロンラインやフロロカーボンラインの場合は、糸自体にある程度の重さがあるため、ある程度の横風が吹いている条件下でも、何とか釣りになるのですが、軽いPEラインは、糸を押す横風の力をもろに受け止めてしまい、アタリが取りづらくなってしまいます。特に強い横風の場合には、伸縮性がないのも相まって、仕掛けが不用意に動いてしまうこともあります。
また、潮流や波についても同様で、比重の軽いPEラインは、砂浜から魚を狙う投げ釣りの道糸に使用すると、仕掛けは遠くへ飛ぶものの、ナイロンライン使用時以上に、波の力で仕掛けがあっという間に波打ち際まで打ち上げられてしまいます。投げ釣りの道糸にPEラインを用いる場合は、こうしたデメリットについて理解しておくことも大切なのではないでしょうか。
特徴4【コシ (クセ)が無い】
PEラインはコシが無く、素材が持つ硬さやクセなどもほとんど無いため、非常に柔らかいことも大きな特徴の一つです。
メリットとして
ナイロンラインやフロロカーボンラインの道糸を交換する目安の一つに、糸の巻きグセがひどくなるというのがあります。ナイロンラインやフロロカーボンラインは、素材自体にある程度の硬さやクセがあるため、リールのスプールに長期間巻き取られていると、スプールの形の巻きグセが付いてしまいます。一方のPEラインは、硬さやクセがほとんどないため、巻きグセによる道糸の交換やライントラブルは、ほとんど発生しません。
デメリットとして
しなやかで柔らかいPEラインは、巻きグセによるライントラブルが少ない一方で、伸縮性の低さも相まって、特に竿のガイドに絡むライントラブルが発生しやすいことが、最大の難点です。特に、向かい風や横風が吹いていたり、ワインド釣法などの激しいルアーアクションを多用していたりするなど、釣りの最中に道糸がたるみやすい条件や釣り方においては、軽さによって道糸があおられることで、余計に竿のガイドに絡みやすくなります。この現象に悩まされている方は、少なくないはずです。軽さや伸びない性質との相乗効果で、大きなデメリットを生み出してしまっています。
PEラインのその他の特徴とは?
その他のメリットは1つ, デメリットは4つ
前述の主要な4つの特徴は、状況や釣り方によって長短が分かれるものでした。PEラインには、この他にもメリットのみの要素が1つ、デメリットのみの要素が4つありますので、簡単に紹介していきます。
メリット【塩分や紫外線で劣化しない】
PEラインの原料であるポリエチレンは、吸水性が無いので、海での使用時に、塩分を吸い込むことによる劣化の心配がありません。加えて、紫外線に対する耐性も極めて高いので、使い方次第では、ナイロンラインやフロロカーボンライン以上にコストパフォーマンスに優れているかもしれません。
デメリット1【高価である】
PEラインは、同品質で同じ号数のナイロンラインやフロロカーボンラインに比べて、1.5倍から2倍ほど高値で販売されています。筆者も、初めてPEラインを使った際に経験がありますが、買って間もない時期に、使い方を誤って悲惨なライントラブルが起きてしまい、大量に切らなくてはならない時の悔しさは、計り知れません。
デメリット2【耐摩耗性の低さ】
水中には、岩や海藻などの障害物が多数点在おり、知らないうちに、こうした障害物に糸が擦れて、ダメージを受けていることがあります。PEラインは、冒頭で述べたように、複数本のポリエチレン素材の意図を編み込んで作られている糸なので、そのうちの1本が摩擦によって切れたり傷んだりすると、残りの糸の強度しか出なくなってしまい、極端に引っ張り強度が落ちます。仮に、編み込まれた4本のポリエチレン製の糸のうちの1本が切れると、切れた部分より先端の部分の引っ張り強度は、単純計算で1/3になってしまいます。引っ張り強度最強というのは、あくまで新品で傷一つ無い状態であることが条件なのです。
デメリット3【複雑な使い方】
PEラインが持つ伸縮性の低さ、コシの無さ、耐摩耗性の低さなどのデメリットをカバーするために、PEラインを使用する場合は、先端に「ショックリーダー」などと呼ばれる、ナイロンラインやフロロカーボンラインを結びつけるラインシステムを構築する必要があります。ところが、PEラインの表面は滑りやすく、耐摩耗性の低さによって、通常の結束方法では、結束強度も落ちやすいため、手間が掛かる特殊な結束方法でショックリーダーを結びつける使い方をする必要があるのが、非常に面倒な点です。PEラインの表面は硬いので、号数によっては、強く締め込む際に、手にけがを負う恐れもあります。
またPEラインは、同じ強度でも使用する号数が細くなるため、ナイロンライン用に設計されたスプールに巻くと、スプールをいっぱいにするために、高価なPEラインを大量に用意せざるを得ません。そのため、PEライン用に設計された、深さの浅いシャロースプールが付いたリールや、スプールを底上げするための下糸を巻き、その上からPEラインを巻くという面倒な作業が必要です。
良質なPEラインの選び方とは?
選び方のポイントは2つある
様々な種類のPEラインが市販されており、それぞれ特徴が異なっています。使いやすく、高品質なPEラインの選び方において、非常に重要な2つのポイントがありますので、見ていきましょう。
選び方のポイント1【色落ちしにくいかどうか】
PEラインには、視認性を高めるための塗料が塗られています。しかし、ポリエチレン繊維は塗料の吸収性が悪く、釣りをしていると、少しずつ塗料が落ちてきてしまいます。これは素材故の宿命なので、ある程度は仕方ないのですが、インターラインロッド (中通し竿とも)を使用している場合などは、落ちた塗料で目詰まりを引き起こすこともあり、厄介です。
粗悪なPEラインだと、ほんの1日の釣りで、あっという間に色落ちすることもあります。こればかりは、使ってみないと分からないのですが、一流メーカー品や、ある程度の価格のものを選択すれば、塗料が剥がれ落ちるスピードも緩やかでしょう。なお、PEラインをリールに巻くときは、濡らした柔らかい布でPEラインを挟みながら、ゆっくりハンドルを回し、特に落ちやすい表面の塗料を落としながら巻き取っていく工夫も必要です。
選び方のポイント2【純粋なPEラインであるかどうか】
最近はラインメーカーも、従来のPEラインから派生した、今までの常識を覆すような性質を持ったPEラインを発売しています。例えば、ナイロンラインのように適度なコシを持つPEラインや、ナイロンラインと同じ比重のPEラインなども、既に販売されています。中には、ハイブリッドラインと呼ばれる、複合繊維のPEラインまで存在します。これらの商品は、確かにPEラインの弱点やデメリットをカバーしていることに変わりはありません。しかしながら、釣り初心者には扱いにくい商品もたくさんあります。
例えば、ナイロンラインのようなコシと硬さを備えている製品であっても、伸縮性の低さや表面の硬さは変わらないので、バサバサした触り心地になってしまい、リールに巻き取りづらいなど、純粋なPEライン以上に扱いづらいです。すべての派生PEラインの選び方について取り上げるのは不可能ですが、多くの革新的なPEラインの開発は、まだ発展途上で試験段階なので、もう少しこうしたPEラインが釣り人の間で浸透し、市民権を得ていくまでは、純粋な従来通りのPEラインを使用することを、筆者は強くおすすめします。
筆者おすすめのPEラインとは?
PEラインの使用は慎重に・・・・
PEラインが登場した当初は、「引っ張り強度が高い」、「よく飛ぶ」などのメリットばかりが強調され、必要以上にもてはやされましたが、特徴を一つ一つ注意深く見ていくと、悪い部分も決して少なくないことが、お分かり頂けたのではないでしょうか。とはいえ、使い方を間違えなければ、非常に優れた糸であると言えるでしょう。この世に、絶対的なものは存在しません。それは、PEラインであっても同じことです。大切なことは、釣り方や状況に合った適切な素材のラインを選択することなのです。