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トンプソン・サブマシンガンとは?
トンプソン・サブマシンガン通称はいろいろありますが、代表的なものが「トミーガン」と呼ばれるこの銃は第一次世界大戦の真っただ中である1917年に開発が始まりました。 完成したのは大戦が終結した1919年ですが、現在まで数多く生産され、第二次世界大戦や朝鮮戦争に加えてベトナム戦争でも使用されました。
世界初のサブマシンガン
トンプソン・サブマシンガンですが、実はサブマシンガンという名称を冠した銃の中では世界初の機種です。つまり、それまではサブマシンガンと呼ばれる機種は存在しなかったということになります。 なぜ、この新しい種別の銃が登場するようになったかの背景をご紹介します。
第一次世界大戦の戦場ー塹壕戦ー
トンプソン・サブマシンガンが開発された理由として第一次世界大戦の塹壕戦が一つの原因となっています。お互いに長大な塹壕(人が入れる大きな溝)を掘り、にらみ合っていました。この戦いの最後に決着をつけるのは歩兵による突撃と相手の塹壕の制圧です。 機関銃による掃射は多大な被害をもたらしましたし、運よく敵の塹壕にたどり着けたとしても銃は一回撃つごとに再装填が必要なボルトアクション式のものが主力だったので、最後は銃剣やスコップによる白兵戦が多発していました。
トンプソン・サブマシンガンのあだ名
トンプソン・サブマシンガンの中でも有名なあだ名はいくつかあります。そのうち最も有名なのは「トミーガン」ですが、これは開発されてから少し後に名付けられたものでした。それぞれのあだ名の由来をご紹介していきたいと思います。
塹壕箒ートレンチブルームー
開発者のトンプソン氏自らがつけた名称がこのトレンチブルームでした。この銃が本来狭い塹壕内でも掃射によって、敵兵を「箒で掃くように」倒していくことを期待したものでした。 ちなみに、サブ・マシンガンという名称はアメリカ側のもので、手で持ち運べる機関銃という意味合いでつけられました。ドイツ側ではマシーネ・ピストーレ(機関拳銃)つまり連射できる拳銃という意味合いでつけられたため両軍での運用しそうも少し変わっています。
トミーガン
トンプソン・サブマシンガンの別称として最も通りがよいのがこのトミーガンでしょう。第一次世界大戦が終わったあとに完成したこの銃を市場に売り出す際に名付けられたことが由来となります。 後に制式モデルとなったM1928がイギリスに輸出され、英兵のあだ名であったトミーと混ざり英兵の持つ銃「トミーガン」という意味合いでも呼ばれるようになった。という説もあります。
トミーガンを持つイギリス紳士の肉屋さんです。とってもかっこいいですね。
シカゴタイプライター
1920年代の禁酒法時代と呼ばた時代のシカゴはアル・カポネに代表されるマフィアの時代でもありました。そのマフィア達が好んで使ったのがこのトンプソン・サブマシンガンです。 「タイプライターのように早く撃てる」や発射時の音がタイプライターの音に似ているといった特徴があったため、マフィアやギャング達を中心にこのあだ名がつけられました。
トンプソン・サブマシンガンの威力
トンプソン・サブマシンガンが使う弾薬は.45ACPと呼ばれる非常に強力なもので、人間を殺傷する能力であるマンストッピングパワーに優れたものです。これを20から30発一気に発射することができ、ドラムマガジンを用いたときには一度に50発発射することが出来ます。
ただ、この.45ACP弾はあくまでも拳銃用の弾薬ですので機関銃やライフルに用いるようなより大口径の弾薬には威力は劣ります。とはいえ、300メートル先を1発で打ち抜くための銃ではないので、射程や威力がライフルや機関銃に劣っても問題はありませんでした。
トンプソン・サブマシンガンの構造
トミーガンの全長は軍の制式モデルとなったM1928では851mmと現代のライフルと同等か、やや長いぐらいになっています。 木製のストックやグリップ部分と、上下に分かれる切削加工で生産される金属のレシーバーで構成されていて、上部のレシーバーに銃身が固定され、下部にはマガジンを受け入れるための欠き切りがあります。
作動方式ーブリッシュ・ロック式ブローバックー
この銃の作動方式は初期生産されたモデルからM1928と呼ばれるモデルまではブリッシュ・ロック式と呼ばれる方法で動作しています。 H型の金具を用い、その摩擦を利用してボルトの後退を遅らせるものでこのブリッシュ・ロックを用いると部品にかなりの負担がかかってしまうため、オイルを常に垂らす装置をつけることも考案されました。ですが、砂やほこりが付着しやすくなるため見送られています。
トンプソン・サブマシンガンの欠点
世界初など魅力が数多くあるトンプソン・サブマシンガンですが、実は大きな弱点を抱えている銃でもあります。
命中精度が悪い
トミーガンの弱点は何といっても命中精度が悪いことでした。上述したブリッシュ・ロック方式はボルトが後退するときの反動が強くなりますし、屈曲した銃床がさらに銃口を跳ね上げました。 元々弾薬そのものも威力と反動が強いものですので、ブリッシュ・ロック式との相性も相まってマフィアに初めて襲撃に使用されたときには、わずか15mほどの距離だったにもかかわらず失敗に終わっています。
生産コストが高い
トミーガンを生産するときには切削加工を用い、木製のストックとグリップをつけるため生産コストは高めでした。完全に大量生産に向かないというわけではないのですが、そのため第二次世界大戦時にはより簡単に生産できるステンガンやグリースガンが数多く生産され戦場へと投入されました。
トンプソン・サブマシンガンの活躍―戦前編―
アメリカにおけるトミーガン
世界初の短機関銃として世に出たM1919から軍に制式採用されたモデルであるM1928に至るまで、1920年代のいわゆる禁酒法時代には多数のトミーガンがアメリカ国内で官民問わず流通していました。 その活躍をご紹介していきたいと思います。
マフィアが愛したトミーガン
マフィアと聞いて、映画「ゴッドファーザー」をイメージする方も多いと思いますが、時代はそれよりも20年ほど前のお話です。当時は禁酒法の制限により違法な酒場がはびこりマフィアの収入源となっていました。 多額の現金が動くビジネスではありますが、マフィアやギャングたちの抗争も当時は激化の一途をたどっておりメディア作品のイメージも大きいのですがマフィアのパスポートと呼ばれるぐらいトミーガンはメジャーな存在でした。
画像のように黒のスーツにコートを羽織り、帽子を被ってドラムマガジンを備えたトミーガンを持った姿は今でもステレオタイプのマフィアの姿としてイメージが広く浸透しています。
警察におけるトミーガン
マフィアやギャングたちがサブマシンガンや軽機関銃など強力なで武装していく中で警察も負けずに強力な武器を装備しました。特にFBI使用のトミーガンは100発装填可能なドラムマガジンに強装弾が発射可能な強化型でしたし、軽機関銃であるB.A.R.を装備し犯罪者に対抗しました。
民間ににおけるトミーガン
民間向けに販売されたトミーガンもありました。当時の銃規制は現在と比べるとかなり緩くはありましたが、セミオートオンリーモデルであったため、短機関銃を意味するサブマシンガンではなく短い銃を意味するカービンとして単発モデルが販売されました。ですが、ドラムマガジンがオプションとして設定されたり、かなりアンバランスな仕様となっています。 また、これらの民間製品のブリッシュ・ロック部品などを加工しセミオートからフルオート射撃が可能な改造が犯罪者の間で行われたものもあります。
トンプソン・サブマシンガンと拳銃
トミーガンは拳銃弾を使用する
トミーガンと拳銃というのは非常に関連性が高く、短機関銃という名称から大型の弾薬を発射するイメージですが実際には拳銃弾を使用します。また、マフィアが普段携帯するには長大な短機関銃よりも拳銃のほうが都合がよいといった側面もあります。 トミーガンが活躍した時代に主に用いられた拳銃は50種類ほど存在します。その一部をご紹介します。
トミーガンと同じ弾薬を使用する拳銃
トミーガンが使用する弾薬で最もメジャーなのが.45ACPです。拳銃で同じ弾薬を使用するものとして、最も有名なのはガバメントと呼ばれるM1911シリーズ(上の画像)ですが、自動拳銃用の弾薬を使える回転式拳銃(下の画像)であるM1917ファミリーもあります。
第一次世界大戦時に足りなくなった拳銃を補うために生産されたため、メーカーによって若干のデザインの違いがあるM1917ですが、インディージョーンズも使用している非常に有名な拳銃です。
米軍におけるトンプソン・サブマシンガン―前編―
トミーガンの制式採用モデルM1928
初めて軍に制式採用されたモデルはM1928という名称で、文字通り1928年に採用されました。ドラムマガジンとフォアグリップを備えているのが特徴で、ブリッシュ・ロック式による反動を抑えるためコンペンセイターと呼ばれる反動抑制装置が付きました。 ですが、ブリッシュ・ロック式による作動方式は整備性と、動作の安定性が悪いため改良モデルが後に採用されることになります。
トミーガンの改良型M1A1
第二次世界大戦が勃発したことにより、M1928の需要が増大したため生産性を上げたモデルがM1およびM1A1です。それまで装備されていたドラムマガジンが廃止となり、手間がかかり信頼性の低いブリッシュ・ロック機構をシンプルブローバックへと変更したモデルとなっています。 ですが、これでも数がそろわずに信頼性の低いブリッシュ・ロックを用いたM1928モデルを継続して使用した部隊も数多く存在しました。
トンプソン・サブマシンガンの活躍ーWW2編ー
イギリスに輸出されたトミーガン
第二次世界大戦の勃発とダンケルクの撤退により大量の銃器を失ったイギリスにアメリカからレンドリースという形で大量のM1928が有償貸与されました。イギリスの一般兵を表す言葉にトミーというものがありますので、名実ともにトミーガン(英国兵の銃)となったのです。 輸出されたモデルにはもちろんドラムマガジンを装備したものが数多くありましたので、兵士が持つドラムマガジン付きの銃としてのステレオタイプはこの時に出来上がりました。
実は日本でも活躍したトミーガン
太平洋戦争勃発前に短機関銃を持っていなかった日本は600丁ほどのM1928が空挺部隊用に輸入・配備されていた記録があります。また、開戦初期に鹵獲された銃器の中にもM1928が大量にありました。 戦争末期になると、鹵獲兵器を専門に扱う部隊もありましたので日本によるトミーガン使用率は思いのほか高かったのです。
トイガンとしてのトンプソン・サブマシンガン
サバイバルゲームで使用するためのトンプソン・サブマシンガンは東京マルイがM1A1モデルを販売しています。モデルの都合上ドラムマガジンが無いのが残念ですが、そんな方にはking armsがM1928モデルを販売していますのでドラムマガジン付きがどうしてもいいという方にはこちらがお勧めです。
東京マルイのトンプソン・サブマシンガンはWW2装備の入門に使える
東京マルイ製M1A1は品質が非常によく実射性能と耐久性に優れていますので、初心者の方が第二次世界大戦装備に踏み出す足掛かりになることがよくあります。 米英兵が使用しているモデルですので被服も比較的安くそろえることができます。
トンプソン・サブマシンガンの活躍ー戦後編ー
国共内戦での活躍
国民党と共産党の間で繰り広げられた中国内戦では第二次世界大戦終結後役目を終えた銃や、日本軍から鹵獲した銃器など数多くの種類が入り混じっており、その中にはトミーガンも数多く存在していました。
ベトナム戦争
開発から半世紀が経過したベトナム戦争時にもトンプソン・サブマシンガンが使用された記録が残っています。複葉機がジェット戦闘機に変わった時代でも活躍し続けていました。
警察予備隊と自衛隊
日本で1950年に設立された警察予備隊ではアメリカより供与されたトミーガンが11.4mm機関短銃M1として採用されました。 敗戦後の武装解除などで、装備が足りていなかった当時は数多くの米国製の武器が旧帝国軍の武器に交じり警察予備隊と後の自衛隊に配備されました。これは、銃などの小火器に限らず戦車や航空機はては艦船まで例外ではありません。
余談ですが、自衛隊基地の門衛が銃のマガジンを外した状態で警備をしているのはトミーガンと同時に供与されたM1ガーランドが一度装填を行うと弾薬を抜き出すのが困難だったため、装填を行っていなかったことが由来です。これがいまだに続いて今日まで続いています。
現代のトンプソン・サブマシンガン
弾をばらまく短機関銃は現在は役割を終えており、実用性という面ではトミーガンは他の銃にその役割を譲っている状態です。ですが、ヴィンテージ品としての価値は高く状態にもよりますが5000ドル以上で取引されているようです。
トミーガンはグアムで撃てる
グアムの観光射撃場ではトミーガンを用意している射撃場があるため、実際に射撃することが可能です。日本からおよそ3時間ほどの場所ですし、ほかにも多数の銃をそろえている射撃場がありますので是非興味がある方は一度グアムまで足を運んでみてはいかがでしょうか?
トンプソン・サブマシンガンが与えた影響
世界初のサブマシンガンであるトンプソン・サブマシンガンは現代の銃器にも非常に大きな影響を与えました。「個人が携帯できる連射ができる銃」は現代の軍用銃で数多く採用されています。 開発当時は弾をばら撒くといったニュアンスが強かった連射という要素と拳銃弾を打ち出す大型の銃器という特徴はその後の銃器開発に影響を与え特に、警察関係で活躍するようになりました。
ストックを持ち、連射が出来なおかつ拳銃弾という威力が比較的低い弾薬を使うサブマシンガンは貫通弾による二次被害を出しにくいため、警察組織やハイジャックなどの人質事件時に活躍するようになりました。ブリッシュ・ロックによって劣悪だった精度もMP5の登場により各段に向上し、世界各国の特殊部隊でトミーガンの末裔が活躍しています。
サブマシンガンの更なる発展ーPDW-
トンプソンサブマシンガンのように目的やコンセプトをもって開発された銃の中にPDWと呼ばれるものが存在します。これは後方部隊など、ライフルのように大きな銃を持つ必要がない隊員向けに開発された小型で携帯しやすい銃器ですが、これは軽機関銃を小型化して持ち運びをしやすくしたトンプソンサブマシンがのコンセプトによく似ています。
まとめ
ここまでご覧いただきありがとうございます。最後にトンプソン・サブマシンガンの特徴など簡単なまとめを記載したいと思います。
世界初のサブマシンガン
トンプソン・サブマシンガンは世界で初めてサブマシンガンの名を冠して製造された銃です。ブリッシュ・ロック式という命中精度と生産性が悪いといった弱点はありましたが、第一次世界大戦終戦直後から現在に至るまで名銃として今もなおその名をとどろかせています。
特徴的なドラムマガジン
特徴的なドラムマガジンを備えた銃で、他の銃にも多く影響を与えました。現代でもAK47系列の銃にドラムマガジンが存在したり、ドラムを二つ合わせたCマグと呼ばれるマガジンが設定されている銃があります。トンプソン・サブマシンガンがドラムマガジンをはじめて採用したわけではありませんが、この特徴的なフォルムは現代に至るまで多くの銃に影響を与えました。
2019年で1世紀を迎える
来年2019年はトンプソン・サブマシンガンが初めて販売されてからちょうど100年がたちます。歴史がある銃ですと、節目の年に記念のワッペンなどが出されたりすることもありますので、実銃を日本で手に入れることは難しいですが、記念グッズのリリース情報については是非一度調べてみてはいかがでしょうか?