名車バイクにはライバルの存在あり
昔から名車と呼ばれるバイクには、必ずと言っていいほど宿命のライバルともいうべきバイクが存在しました。お互いのメーカーが意地をかけて走りの性能やスタイリング、装備などのスペックを競い合うことが相乗効果をもたらし、それがさらにライダーにとって魅力的なモデルを生み出してきたのです。バイク界で競合してきた名車たちを、そのスペックや特徴を比較してご紹介していきます。
バイク宿命のライバル対決①
CB750FOUR VS 750RS
世界初の200キロオーバーのバイクとして1969年に登場したのがドリームCB750FOURです。本格的スポーツ走行を楽しめる重量車は瞬く間に人気となり、750ブームを巻き起こしました。それから遅れること4年、CBとは異なるスリムなボディと、DOHCの高性能エンジンを搭載したカワサキ750RS、通称Z2が登場します。2台はメーカー自主規制で上限が750ccとされた国内市場において、常にライバルとして人気を二分しました。2台ともに高価格で推移する中古車価格も、両車の人気の高さを物語ります。
ドリームCB750FOURの特徴
伝統的なダブルクレードルフレームに搭載されるエンジンは、SOHCながら当時としてはハイスペックなパワーとトルクを誇りました。大排気量車らしい大柄なボディの安定感が生み出す走りと、4本出しのマフラーが奏でる迫力の排気音も大きな人気を獲得しました。
スペック
メーカー:ホンダ
車名:ドリームCB750FOUR
エンジン:空冷4ストローク2バルブSOHC並列4気筒736cc
最高出力:67ps/8,000rpm
最大トルク:6.1kg-m/7,000rpm
750RSの特徴
先行して世に出たZ1のものをボア、ストロークともに変更して750ccとしたエンジンは、抜群のバランスの良さを誇りました。曲線的でスリムなボディや、火の玉をイメージしたタンクのカラーリングも人気でした。
スペック
メーカー:カワサキ
車名:750RS
エンジン:空冷4ストロークDOHC並列4気筒746cc
最高出力:69ps/9,000rpm
最大トルク:5.9kg-m/7,500rpm
バイク宿命のライバル対決②
GSX1100S VS GPZ900R
日本刀をモチーフとした斬新なデザインで”ケルンの衝撃”と呼ばれたGSX1100S、カワサキZの伝統を受け継ぎつつ水冷化されたエンジンでハイスペックを誇ったGPZ900R。2台は”カタナ”、”ニンジャ”と日本車のアイデンティティを彷彿とさせるペットネームを持つバイクとして何かとライバルとして比較されました。
GSX1100Sの特徴
ドイツのターゲットデザインの手によるスタイリングはイメージの日本刀そのものの先鋭的なフォルムと走りで、全世界に衝撃を与えました。その人気はいまだに衰えることなく、中古車市場でも高価格で取引されています。
スペック
メーカー:スズキ
車名:GSX1100S
エンジン:空冷4ストロークDOHC並列4気筒1074cc
最高出力:111ps/8,500rpm
最大トルク:9.8kg-m/6,500rpm
GPZ900Rの特徴
スリムでコンパクトな車体に、高性能な水冷インラインフォーエンジンを搭載し、その俊敏な走りはまさにペットネームのニンジャそのものです。当時は目新しかった空力特性に優れたフルフェアリングを装備したスタイリングも、ライダーの話題になりました。
スペック
メーカー:カワサキ
車名:GPZ900R
エンジン;水冷4ストロークDOHC並列4気筒908cc
最高出力:115ps/9,500 rpm
最大トルク:8.7kg-m/8,500 rpm
バイク宿命のライバル対決③
Z400FX VS CBX400F
中型二輪免許の創設により、国内には空前の400ccバイクブームが巻き起こりました。このブームを牽引したのがZ400FXとCBX400Fです。扱いやすいコンパクトなボディに、ハイスペックなエンジンがもたらす高性能な走りで、2台ともに多くのライダーに愛されました。
Z400FXの特徴
Z1以来続いた曲線イメージから脱却し、直線基調で作られたデザインの斬新さが注目を集めました。完全ノーマルの個体は、かなりの高価格で取引されるなどいまだに高い人気を誇ります。
スペック
メーカー:カワサキ
車名:Z400FX
エンジン:空冷4ストローク並列4気筒399cc
最高出力:43ps/9,500rpm
最大トルク:3.5kg-m/7,500rpm
CBX400Fの特徴
4気筒の400ccブームの中ではもっとも最後発ということもあり、48馬力の高出力やインボードディスクブレーキ、アンチダイブフォークなど、スペック面で他メーカーの優位に立ちました。その人気はいまだ高く、中古車市場でも高価格で取引されています。
スペック
メーカー:ホンダ
車名:CBX400F
エンジン:空冷4ストロークDOHC並列4気筒398cc
最高出力:48ps/11,000rpm
最大トルク:3.4kg-m/9,000rpm
バイク宿命のライバル対決④
RG250Γ VS NSR250R
2サイクルのハイパワーエンジンにフルカウルをまとい、サーキットからそのまま抜け出してきたようなマシンが一般道を駆け抜けたレーサーレプリカ。そんなレプリカブームを牽引した永遠のライバルと言えるのがRG250ΓとNSR250Rです。
RG250Γの特徴
狭いパワーバンドに3000回転以上ではじめて作動しはじめるレブカウンター、標準で装備されるミシュランタイヤなど、レーサーを思わせる数々の装備が当時のライダーのハートをくすぐり高い人気を獲得しました。
スペック
メーカー:スズキ
車名:RG250Γ
エンジン:水冷2ストローク並列2気筒247cc
最高出力:45PS/8,500rpm
最大トルク:3.8kg-m/8,000rpm
NSR250Rの特徴
レーサーをそのままスケールダウンしたようなスタイリングに、アルミフレーム、クランクリードバルブのV型2気筒エンジンを装備し、その走りはライダーを魅了しました。2ストバイクが絶滅した現在、程度の良い中古はかなりの高価格で取引されています。
スペック
メーカー:ホンダ
車名:NSR250R
エンジン:水冷2ストロークV型2気筒249cc
最高出力:45ps/9,000rpm
最大トルク:3.3kg-m/8,500rpm
バイク宿命のライバル対決⑤
ロードパル VS パッソル
ホンダとヤマハがメーカーの意地をかけて覇権を競ったHY戦争の引き金となったのが、ロードパルとパッソルです。ファミリーバイクという新たな主戦場の開拓は、バイク界のライバル対決の伝説として今も語り継がれています。
ロードパルの特徴
自転車のフレームに原動機を搭載したような取り回しの良いボディに、シフトチェンジ不要という手軽さが多くの人に受け入れられました。キックではなくゼンマイによるスターターの装備や低価格も人気を後押ししました。
スペック
メーカー:ホンダ
車名:ロードパル
エンジン:空冷2ストローク単気筒49cc
最高出力:2.2ps/5,500rpm
最大トルク:0.37kg-m/3,500rpm
パッソルの特徴
ホンダのロードパルに追随するようにヤマハが投入したのがパッソルです。部品のユニット化や樹脂パーツを多用することによって価格を低く抑え、ライバルのロードパルに対抗しました。
スペック
メーカー:ヤマハ
車名:パッソル
エンジン:空冷2ストローク単気筒49cc
最高出力:2.3ps/5,500rpm
最大トルク:0.37kg-m/3,500rpm
バイク宿命のライバル対決⑥
W1SA VS XS-1
4気筒エンジンを搭載した高性能マシンが登場する以前の、日本の大型バイクの黎明期に登場したのがW1SAとXS-1です。空冷バーチカルツインの独特の鼓動感を持つ2台は、何かと比較されつつともに高い人気を誇りました。
W1SA
大型車が得意だったメグロを吸収合併したカワサキが、オリジナルバイクとして開発したのがW1Sです。当時としては国内最大排気量のエンジンのパワフルな走りはライダーの高い支持を獲得、通常の左チェンジとなって乗りやすくなったSAで、さらに人気が爆発しました。
スペック
メーカー:カワサキ
車名:W1SA
エンジン:空冷4ストロークOHV並列2気筒624cc
最高出力:47ps/7,000rpm
最大トルク:5.7kg-m/5,500rpm
XS-1
ヤマハが初めての市販4ストバイクとして開発したのがXS-1です。どっしりとしたW1と比較して、そのスリムで流麗なフォルムや、ヤマハならではの軽快なハンドリングに加え、比較的低価格だったことでも人気でした。
スペック
メーカー:ヤマハ
車名:スポーツ650XS-1
エンジン:空冷4ストロークOHC並列2気筒
最高出力:53ps/7,000rpm
最大トルク:5.5kg-m/6,000rpm
バイク宿命のライバル対決⑦
セロー VS ジェベル
野山を自在に走破できる足回りを装備し、扱いやすい4ストロークエンジンを搭載したのがデュアルパーパスバイクです。そんなデュアルパーパスのロングセラーとして多くのライダーに愛されたのが、セローとジェベルです。
セローの特徴
軽量・コンパクトな車体は取り回しも容易で、初心者からベテランライダーまでオフロードでの走りを楽しめます。スクリーンやキャリアを装備したツーリングセローの設定もあり、旅バイクとしても高く支持されています。
スペック
メーカー:ヤマハ
車名:セロー250
エンジン:空冷4ストロークOHC単気筒249cc
最高出力:18ps/7,500rpm
最大トルク:1.9kg-m/6,500rpm
ジェベルの特徴
ヘッドライトガードや大型キャリアなど、ツーリング性能の高いオフロード車として高い人気を集めました。充実の装備にもかかわらず比較的低価格であったことも、高く評価されました。
スペック
メーカー:スズキ
車名:ジェベル250
エンジン:油冷4サイクルDOHC単気筒
最高出力:30ps/8,500rpm
最大トルク:2.8kg-m/7,000rpm
バイク宿命のライバル対決⑧
ドラッグスター VS エリミネーター
スポーツ車とは異なる独特なライディングフォームと走りを楽しむことができる、アメリカンクルーザータイプの車種として何かと比較されるライバルが、ドラッグスターとエリミネーターの2台です。お互いに複数の排気量の派生車種を持ち、長く愛されるロングセラーとなりました。
ドラッグスターの特徴
空冷のVツインエンジンがもたらすアメリカンらしい鼓動感や重厚な排気音もライダーに人気でした。ヤマハ車特有の軽快なハンドリングはいい意味でアメリカンっぽくなく、ワインディングなどの走りを楽しめました。
スペック
メーカー:ヤマハ
車名:ドラッグスター400
エンジン:空冷4サイクルOHC V型2気筒399cc
最高出力:33ps/7,500rpm
最大トルク:3.3kg-m/6,300rpm
エリミネーターの特徴
スポーツバイクであるGPZ系のエンジンを中低速重視のセッティングにリファインし、ライダーはトルクフルな加速を実感できました。他のアメリカンと比較して、ドラッグレーサーっぽいアグレッシブなスタイリングも人気を集めました。
スペック
メーカー:カワサキ
車名:エリミネーター400
エンジン:水冷4ストロークDOHC並列4気筒398cc
最高出力:53ps/12,000rpm
最大トルク:3.4kg-m/10,000rpm
バイク宿命のライバル対決⑨
ゼファー VS XJR400
1989年に発売されたゼファーは、走りのスペックのみを追いかけるレプリカブームに辟易したライダーたちから歓迎されました。追随するようにヤマハが投入したXJR400の登場によりネイキドブームが巻き起こり、2台はブームの牽引役として高い人気を獲得しました。
ゼファーの特徴
丸みを帯びた燃料タンクからサイドカバー、テールカウルにいたるラインは、かつての名車Z1を彷彿とさせ、同じような火の玉カラーに塗られたゼファーも数多く生まれました。その後ラインナップされた1100、750モデルも高い人気を博しました。
スペック
メーカー:カワサキ
車名:ゼファー
エンジン:空冷4ストロークDOHC並列4気筒399cc
最高出力:46ps/11,000rpm
最大トルク:3.1kg-m/10,500rpm
XJR400の特徴
空冷エンジンで最速のネイキッドを目指して開発されたこともあり、ハイスペックな走りの性能をネイキッドに求めるライダーからも支持されました。数度のモデルチェンジを繰り返しながらも高い人気を維持し、15年にわたって作られるロングセラーモデルとなりました。
スペック
メーカー:ヤマハ
車名:XJR400
エンジン:空冷4ストロークDOHC並列4気筒399cc
最高出力:53ps/11,000rpm
最大トルク:3.6kgf-m/9,500rpm
バイク宿命のライバル対決⑩
HAYABUSA VS 12R
圧倒的なエンジンパワーを搭載したメガスポーツの世界で、市販車最速バイクの座を争ったライバルが、HAYABUSAと12Rです。300キロを超える脅威のスピードで熾烈な争いを展開しました。
HAYABUSAの特徴
猛禽類であるハヤブサの飛行スピードをイメージして名付けられたスズキのメガスポーツがHAYABUSAです。312km/hを記録したその最高速は、リミッターが装備されるようになった今となっては破られることのない不滅の記録としてバイク界に君臨しています。
スペック
メーカー:スズキ
車名:GSX1300R HAYABUSA
エンジン:水冷4ストロークDOHC並列4気筒1298cc
最高出力:175ps/9,800rpm
最大トルク:14.1kg-m/7,000rpm
12Rの特徴
HAYABUSAのスピード記録を破ることを至上命題として開発されたのが12Rです。300キロを軽くオーバーするその実力は、あまりの過激さゆえに危険と判断され、その後のスピードリミッター装備のきっかけともなりました。
スペック
メーカー:カワサキ
車名:ニンジャZX-12R
エンジン:水冷4ストロークDOHC並列4気筒1199cc
最高出力:178ps/10,500rpm
最大トルク:13.9kg-m/7,500rpm
ライバルの存在がもたらすメリット
1つのメーカーが優れたバイクを生み出すと、それを凌駕する性能や装備を持ったバイクを他のメーカーが投入します。それに負けじと元のメーカーも対抗するという現象が生まれます。そんなメーカー同士の切磋琢磨がこれまで数々の名車を生み出してきました。またメーカー同士の販売競争によって価格競争も生まれ、優れた品質が低価格で手に入るというメリットも作り出します。
ライバルは1対1とは限らない
現在は国内に4つあるバイクメーカーが、常に熾烈な販売競争を展開しています。そのためライバルは必ずしも1対1とは限らず、レプリカブームやネイキッドブームなどのムーブメントが訪れた際は、三つ巴や四つ巴の戦いとなることもしばしばです。ライダーにとってはそれだけ魅力的なバイクを比較する選択肢が増えることになります。
時にはライバルが弊害となることも
ライバル競争が激化するあまり、かつてHY戦争と呼ばれたホンダとヤマハの争いのように、メーカー同士の意地の張り合いのような状況に発展し、ユーザーであるライダーを無視して競争が過熱してしまうこともあります。最終的にはお互いのメーカーが疲弊し、結果としてバイクの品質を下げてしまうという残念な結末を迎えることもあります。世界最速競争のように、メーカーが過熱に危険を感じ、スピードリミッター装備が促進されるような流れが理想と言えるでしょう。
ライバルがいるからバイク界が盛り上がる
バイク界の永遠のライバル対決についてご紹介してきました。バイクメーカーがお互いの技術を磨きあってライバル車種を作り出すことによって、次々と新たな名車が生まれてきました。バイクという乗り物が進化し続ける限りライバル対決は続き、ライダーがいろいろな車種を比較する楽しみも続いていくことでしょう。今後もバイク界のライバル対決から目が離せません。