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幌尻岳の登山コースガイド!渡渉ルートとは?最難関の百名山に挑む!

深く険しく、天気に左右され、登頂がきわめて困難な日高山脈を代表する山が幌尻岳です。この最難関の百名山である幌尻岳の登頂メインルートと4つのバリエーションルートおよびそれぞれもアクセスについて詳しく知り、「幌尻岳の登山コースガイド!」としましょう。
2020年8月27日
栗鼠の森人
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日高山脈

幌尻岳を主峰とする日高山脈は北海道の中部と南部を南北150kmに渡って分断している脊梁山脈です。この山脈は北米プレートとユーラシアプレートの境界にあって1,300万年前に上昇を開始しました。山脈の主稜は標高1,500m~2,000mですが、第四紀氷河時代(258万年前以降)になって形成された100を超す氷河地形のカールや氷河堆石堤(モレーン)に特徴があります(地理院地図を参照してください)。

日高山脈の主峰 幌尻岳

日高山脈の主峰

幌尻岳は北海道日高山脈の主峰であり、唯一標高2000mを超えている最高峰の山です。平取町と新冠町にまたがり、北海道の中心から少し南にずれています。ポロシリはもともとアイヌ語で「大きな山」を意味し、遠くからも目立つ道しるべでした。日高側にある二風谷地域を中心にアイヌ達は、カムイ(神)として祀ってきました。十勝側にある同名の山と区別する為に「日高幌尻岳」と呼ばれる事もあります(地理院地図)。

幌尻岳の動植物

幌尻岳の動物

幌尻岳で特筆する動物はナキウサギとヒグマです。また、キタキツネもカール地帯まで徘徊してきます。

ヒグマ

ヒグマは日本最大の動物で大きなものは体長3mで体重は300kgにも及びます。雑食性ですが普段は草食で、好物は柔らかい高山植物等です。サケ・マスを取る他、鹿、イノシシ、ネズミも捕食し、人食いクマの逸話もあります。

ナキウサギ

ナキウサギは15cm程の大きさで大陸から氷河期に渡ってきました。ウサギ目ですが、耳が丸く、四肢と尾が短いのが特徴です。コケ、草や小枝を食し、一旦は咀嚼して排泄した糞も栄養補給に食べます。

キタキツネ

北海道、千島列島、樺太等に生息するアカギツネの亜種です。雑食でネズミ、小鳥、昆虫、木の実等の他、人里で残飯をあさることもあります。北海道で生水が飲めないのは、キタキツネが寄生虫エキノコックスを媒介する為です。

幌尻岳の植物

同じく特筆する花はコエゾツガザクラの花、チングルマの花、ミヤマアズマギクの花、ヒダカキンバイソウの花、イワギキョウの花、イワツメグサの花、イワブクロの花、ウサギギクの花、ウメバチソウの花、エゾシオガワの花、エゾツツジの花、エゾリンドウの花があり、樹木としてはダケカンバ、ハエマツなどです。

日本百名山で日本地質百選

幌尻岳は標高2,052mで、日高山脈襟裳国定公園を代表する山です。深田久弥によってもその山容とその貫禄から日高山脈代表して日本百名山に命名されています。また、第四紀氷河時代(258万年前以降)になって幌尻岳には北カール、東カールおよび七ツ沼カールが形成されました。この中の山頂の南東に形成された「幌尻岳七つ沼カール」はその見事さから日本の地質百選にも挙げられています(地理院地図)。

最難関の百名山 幌尻岳

幌尻岳は国内でももっとも遠い山の1つで、アクセスに時間が掛かる上に長い林道歩きが不可欠です。一部登山道はあっても沢の渡渉を繰り返さなければ登頂できません。天気に左右され雨が降って雨量が多いと渡渉どころか入渓もできず、季節的制約があります。山小屋はあっても宿泊するのが大変です。生水はエキノコックスがいて飲めません。その上、ヒグマと遭遇する危険が特に多い山域です。このため最難関の百名山とされています(地理院地図)。

幌尻岳の登山ツアー


幌尻岳には全国からかなりの数の登山ツアーが毎年組まれています。登山ルートには幌尻山荘泊の額平川コースと新冠ポロシリ山荘泊の新冠川コースが採用され、多くの登山客が募集されています。幌尻岳登山では渡渉ヵ所が20ヵ所前後と多いにもかかわらず、額平川コースがメインコースとされています。これは新冠川コースが、車両通行禁止の北海道電力ダム管理道路を利用するために長い長い林道歩きが必要で、さらに急斜面の個所が多く、一般ではないためです(地理院地図)。

流れを徒歩でわたる渡渉ルートとは①

渡渉とは何か

渡渉とは「流れを徒歩で渡ること」で、「渡渉ルート」とは川や沢に橋がなく、歩いて渡らなくてはならないルートを指します。登山道が整備されていない山域では普通のことですが、多くは膝下程度の水深で、飛び石を伝って靴も殆ど濡らさずに渡れることもあります。しかし、いったん天気が悪化して雨が激しく降ると濁流となり、沢一杯に倒木や大きな石を巻き込んで流れ、入渓すら出来ない状況になるのでくれぐれも注意しましょう。

流れを徒歩でわたる渡渉ルートとは②

渡渉地点の選定と安全確保

渡渉には川幅が広がった個所で流れが穏やかな浅い場所を選びます。水深、流れの速さ、川床の安定さに加え、下流に滝、激流や深みないことも大切です。水深が膝より深いと転倒のリスクは急激に増えます。やむを得ず流れが強い個所を渡る場合は転倒に備えて両岸にロープを渡してセルフアンカーとりましょう。ロープは水流の力に抗わず渡渉方向を川下にして斜めに水面から離して強く張ります。

流れを徒歩でわたる渡渉ルートとは③

渡渉の注意事項

バランスを保つために川床の受け石には乗らずに上流側を摺り足で進むようしましょう。登山用杖を使うとバランスを保ちやすくなります。また、登山靴とは別に滑り難い「地下足袋と草鞋」や「沢靴」を携帯しましょう。沢や渓谷全体が切り立って淵になった函状態の場所では泳いで渡るのでキスリングの中身は個々にポリ袋等で包んで防水しておきます。また、体が冷えないように、濡れても保温力を保てるウール製品の衣類を着用しましょう。

流れを徒歩でわたる渡渉ルートとは④

幌尻岳登山メインルート額平川コーでの渡渉

このコースでは北海道電力の取水ダム(三ノ沢)より上流部で水量の多い函も少なくありません。渡渉を何度も繰り返しながら沢登りをしないと、幌尻岳メインルートのベースキャンプとなる幌尻山荘(五ノ沢)には辿りつきません。天気が悪化して川が増水すると逃げ場が無く、溺死者も出ています。引き返すことも勇気であることを念頭に入れながら、細心の注意を払いましょう(地理院地図)。

最難関の百名山に挑む!(コース紹介)①

幌尻岳登山ルート

周辺の主な山川

幌尻岳付近を源流とする5つの川沿いの林道を利用してアクセスします。その後は沢登りや渡渉を繰り返し、踏み跡を辿って登ります。川毎に額平川コース、新冠川コース、千呂露川二岐沢コース、美生川コースや戸蔦別川コースと名付けられています。メインルートの額平川コースでさえ沢登りの熟練が必要になりますが、それ以外のコースではさらに熟練が求められます。天気の悪化や林道や沢の荒廃に十分に気を付けましょう。

最難関の百名山に挑む!(コース紹介)②

額平川コース(振内コース、額平岳コース又は平取町側ルート)

アクセスにはJR石勝線占冠駅から日高町営バスで日高町まで行き、そこからタクシーで第二ゲートまで行きます。又は札幌から高速バス、新千歳から空港連絡バス、JR日高線富川駅から道南バス、JR日高線富川駅から道南バスあるいは日高町から道南バスでで振内案内所(平取町)に向かいます。振内案内所からとよぬか山荘まではバス便が無いのでタクシーを使います。第二ゲートまではとよぬか山荘(写真)駐車場発の町営シャトルバスを利用します。

幌尻岳 登山ルート

幌尻岳登山のメインルートです。

バス終点の第二ゲートから額平川沿いに五の沢上の幌尻山荘までは11.5キロ、4時間20分の遡上です。20回前後の渡渉ヵ所があります。渡渉する場所の水深は普段は膝下程度ですが、天気の悪化や増水した時には腰を越える深さで幅が5~10mにもなります。幌尻山荘から尾根伝いに「命の水」(1.5キロ、1時間50分)経由で、さらに幌尻岳まで2.5キロ(2時間20分)程登ります。第二ゲートから山頂までのコースタイムは8時間50分です。往復では16時間近いので天気に恵まれてよほどの健脚で無ければ、シャトルバス利用した日帰り登山はできません(地理院地図)。


幌尻山荘

このコースでのキャンプや野営の場所は限られいますが、7月から9月まで営業する木造2階建ての「幌尻山荘」に泊まれます。素泊まりだけで寝具や食事の提供はありません。収容人数に限りがあるので完全予約制で、管理は平取町山岳会が行っています。幌尻岳登山諸ツアーが早くから手配しているので予約を取るのは大変難しい状況です。そのため、一般の幌尻岳登山者は「幌尻山荘」の予約に合わせて山行しているのが実情です。

シャトルバス(とよぬか山荘と第二ゲート間)

額平(糠平)・幌尻林道については安全と環境保護を図る為に2011年から一般車両の通行を規制しています。平取町が「とよぬか山荘」から一般車両通行禁止となる第一ゲートを経由して第二ゲートまでの21.6kmにシャトルバスを運行しています(所有時間1時間)。バスの乗車に予約が必要です。

最難関の百名山に挑む!(コース紹介)③

長い長い林道歩きのコース

新冠川コース(幌尻岳新冠陽希コース又は新冠町側ルート)

新冠川新冠湖上流みやま大橋左岸にあるイドンナップ山荘までは自家用車やタクシーでアクセスできます。徒歩で1キロ先の右股にある奥新冠発電所から林道にはいり、新冠川に沿って奥新冠ダムまで東へ遡上します。幌尻ダム湖から左股に入りさらに左股の幌尻沢に入ったところに避難小屋新冠ポロシリ山荘があります。幌尻沢をさらに3キロほど遡上すると山稜にでます。山稜を200メートル程東に辿ると幌尻岳山頂です。奥新冠発電所から山頂までのコースタイムは9時間40分です(地理院地図)。

長い林道歩き

額平川コースとは違い渡渉する場所は少ないので山行が天気に左右されることはあまりありません。イドンナップ山荘から新冠ポロシリ山荘の林道は19キロ(東京駅と荻窪駅間の距離)あり、6時間近い林道歩きが必要です。林道は北海道電力の奥新冠ダム管理用道路で車両をアクセスに使うことは厳しく禁止されていますが、北電の好意で登山者の徒歩の通行のみ認められています。この為に自然は保護されていることに感銘した冒険レーサー田中陽希は、2017年に徒歩でのアクセスを呼び掛け、この長い林道に「幌尻岳新冠陽希コース」と自分の名を付けています。

最難関の百名山に挑む!(コース紹介)④

千呂露林道から二股沢林道

アクセスは国道274号線沿いの日高町で沙流川に架かる千呂露橋を渡って南へと千呂露林道に入ります。8.3キロ地点には林道ゲートと入林ポストがあります。18キロ遡上した二股から橋を渡って二股沢林道にはいりますが、出合いゲートをくぐるのでアクセスはここから徒歩になります。二股沢林道を2.5キロ入った二股まで車道終点となる取水ダム上の右股を南に下ります。1キロ強先から右股の二の沢に入り、沢沿いの踏み跡をトッタの泉を経由して2.5キロ程登ると稜線の額平岳(標高1807.8m)に到達します。

幌尻岳への稜線歩き

稜線上を1キロ東に向かうと北戸蔦別岳(標高1917m)で、多少東に回り込むように南下すると戸蔦別岳(標高1959m)です。戸蔦別岳から稜線の東下の七つ沼カールを覗き込むように1.5キロ南下して、稜線を南西に1キロ登ると幌尻岳に登頂します。幌尻岳登頂と下山のコースタイムはそれぞれ7時間50分と6時間で、往復13時間50分です。

千呂露林道

千呂露林道は平成28年の台風の影響で通行止めでした。通行止めは2030年6月7日に解除されていますが、10月1日からは狩猟解禁等々安全確保の為にアクセスの徒歩通行が規制されます。また、天気が悪化してもこのコースには利用できる避難小屋等はないので注意しましょう(地理院地図)。

最難関の百名山に挑む!(コース紹介)⑤

美生川コース(ピパイロ岳コース又は芽室町側ルート)

伏美岳避難小屋から伏美岳経由稜線伝いに幌尻山へ

アクセスは帯広駅から12キロ上流の芽室で南へと十勝川から美生川が分岐しています。美生川沿いの道路を約16キロ遡上し、美生ダム600メートル手前から南西へと分岐するニタナイ川林道に入ります。アクセスの車両使用はここでお終いです。ニタナイ川林道に入って1キロの渓流橋は無事ですが、橋を渡ると斜面が崩れで道路が塞がったり、枝沢で道路が分断されたりしています。渓流橋から1.7キロ上流のトヤマ川出合いでは右股の本流を進みます。出会いから0.5キロ上流で無事に残されている渓谷橋を渡ります。


渓谷橋から伏美岳

渓谷橋上流1.7キロで妙敷山(標高1731.0m)に直登する沢を左に分けます。流れが湾供した部分で道路が200メートルにわたって流されています。この出合いから伏美岳避難小屋までは道路の曲がり部分を含めて1.5キロ位です。道路はその先400メートルまで延びています。荒れ果てたニタナイ川林道歩きは渓流橋から5.8キロです。林道終点から道路は小沢を渡り、尾根の腹を回り込んでから伏美岳(標高1792m)までの尾根を直登する3キロの登山道に入ります。登山道は荒れてはいませんが、笹で踏み跡が被われています。

幌尻岳への稜線歩き

渓流橋から伏美岳避難小屋まで2時間30分、伏美岳避難小屋から伏美岳山頂まで3時間35分です。その先はピパイロ岳(標高1916.2m)、北戸蔦別岳、戸蔦別岳と稜線を辿り、幌尻岳に登頂します(11.5キロ)。伏美岳から北戸蔦別岳の稜線は歩かれて無いのでハイマツ漕ぎで時間がかかります(登り8時間20分、下り7時間50分)。幌尻岳登頂のコースタイムは登り14時間25分、下り13時間なので天気が良くても途中2泊程度必要になります(地理院地図)。

最難関の百名山に挑む!(コース紹介)⑥

戸蔦別川コース(帯広市側ルート)

戸蔦別川林道は2016年8月末の台風被害で車は通行できません。

アクセスの戸蔦別川林道は以前から荒れてい有ましたが、さらに2016年8月末の台風被害でアクセスに車両は使用出来ません。戸蔦別川橋の様に橋が流されたり、砂防ダムが破壊されたりしている上に、道路が土砂崩れで埋まったり、陥没したりしています。唯一、トッタベツヒュッテだけが無傷で残りました。

起点からびれい橋

ピリカペタヌ沢川との出合い下流側

アクセスの林道起点は帯広市拓生町で戸蔦別川に架かる拓生橋上流3.5キロのようです。さらにその上流4キロに幌後橋があり、その上流2キロがピリカペタヌ沢川との出合いです。その出合い下流側にトッタベツヒュッテがあります(2時間10分)。その上流2.7キロに戸蔦別川橋があり、3.5キロ上流が昭和の沢出合いです。0.8キロ上流にはびれい橋があります(3時間10分)。びれい橋上流3キロの出合いでエサオマントッタベツ川が南に分岐します(1時間20分)。さらに1キロ上流でカタルップ沢が南に分岐し(40分)、350メートル上流に止水ダムがあります。

八の沢から幌尻岳山頂

カタルップ沢出合いから3キロ上流が八の沢出合いです(1時間40分)。3キロ上流が十の沢出合いです(1時間10分)。さらに3キロ上流で標高995メートルの三股です(1時間40分)。三股からは比較的広い尾根を3キロ登ると、戸蔦別岳(標高1959m)に登頂します(3時間)。戸蔦別岳から幌尻岳(標高2052m)まではハエマツで被って居ますが踏み跡は明瞭で左手(東方向)に七つ沼カールを見下ろしながらの稜線歩きです(3キロ、1時間40分)。

幌尻岳登山のコースタイム等

林道起点から幌尻岳登頂までの歩行距離は32キロでコースタイムは16時間20分です。ただ、途中、キャンプが必要なので休憩時間や設営時間を考慮すると、このコースを使っての幌尻岳登頂には20時間程度を要します。同じコースをくだると、コースタイムは15時間ですが、やはり途中での休憩時間やキャンプ設営時間を考慮すると18時間位を見込む必要があります。天気が良ければ二泊三日での山行は可能です。戸蔦別川林道は荒廃しており、雪解けや台風などでの増水時で特に橋が流された跡の渡渉は危険なので十分に注意しましょう(地理院地図)。

まとめ

日高の山は昔から交通手段、長い林道歩き、登山道のないルート、ずぶぬれの岩登りも含む渡渉、雪解けや台風による増水、林道の崩壊、クマによる被害等、アクセス、歩行距離、ナビゲーション(地図と天気の読み方)、登山技術、不可抗力等、全ての面で難しく、奥深く険しい山でした。特に冬場では1日の行程に天気の悪化に備え5日分の行動食を夏場からデポする必要がありました。林道が整備されてはいても台風被害や狩猟等で通行禁止期間が長く、北海道電力の水力発電用の保守道路は車両通行が厳しく禁止されています。